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16.すっごいすっごいラブ(R18性表現)
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その翅の美しさに、ゴズメルは圧倒された。翅は無音の花火のようにきらめいて、暗闇に大輪の花を咲かせる。煙となって消えることもなく、艶やかに光り続けるのだ。
「ゴズメル、私ね……あなたと過ごすうちに、いつの間にかレベルが上がっていたの」
背中の開いた肌着一枚になったリリィは困ったようにほほえんでいた。
光の翅は、羽ばたくことなく静止している。
「昔は上手く制御できなかったけれど、今は思い通りに動かせるのよ。……自力でしまうのはできないから、魔道具に頼るほかないのだけど」
ゴズメルが手に持っている『魔封じのアミュレット』のことらしい。固まっているゴズメルに、リリィは「またレベルが上がったら自分で出し入れできるようになると思うわ!」と、細い腕に握りこぶしを作ってみせた。
翅の荘厳な美しさと、挙動の愛らしさのギャップに、ゴズメルは「は、はぁー……!」と、変な声が止まらなかった。なんだか神々しすぎて目が潰れてしまいそうだ。
「た、たまげた……ありがたや、ありがたや……」
「ゴズメル、どうしたの。顔をあげてちょうだい」
思わず拝もうとするゴズメルを、リリィは押しとどめた。「ぜんぶ、あなたのおかげなのよ!」と言う。
「あなたが私にたくさんの経験を積ませてくれたから、こんなに翅を育てることができたの。……今のあなたには身に覚えのないことかもしれないけど……」
リリィの表情に不安そうな影が差す。
「もしかして、こんな翅は好きじゃない……?」
「はぇっ?」
「ねえ、はっきり仰って。制御できると言ったでしょう。……わかったわ、どうにか小さくできないか工夫してみるから……」
ゴズメルは仰天した。リリィはゴズメルの態度ひとつで翅のありようを変えてしまうらしいのだ。恋人の好みでファッションを変える女の子みたいに!
「やめてくれ、リリィ! とっても素敵だよ! どうかそのままでいておくれ」
「でも……」
「本当だよ。あんまりにも綺麗すぎてビックリしただけなんだ」
「そう……?」
「そう、そう」
ゴズメルの力強い首肯に、リリィはやっと納得したようだ。ゴズメルはハラハラしどおしだった。本当に芸術品のような翅なのだ。自分のせいで小さくなったり色が薄くなったりするのかと思うといたたまれない。
リリィは恥ずかしそうに咳払いして仕切り直した。
「……鱗粉を使うと言ったけれど、今の弱った状態のあなたに、いきなり多量の鱗粉を浴びせるのはとても危険なの。病んだひとがお粥を食べて回復するように、少しずつ試していきましょう」
「う、うん……」
そう、これはれっきとした治療行為なのだった。ゴズメルはワクワクした。不思議な翅の生えた美少女に、地下の寝床で治療してもらうなんて、なんだかとても効き目がありそうな気がする。
「ん……」
リリィはゆっくりと翅を動かした。ふわ、と薄紅色の燐光が空気中に散る。
(綺麗だ……蛍、いや、花びらみたいに舞い散って……)
ひとつの光を、リリィは指にまとわせた。そっとゴズメルの口元に運ぶ。
「口に入れてみて」
「……!?」
指ごと舐めることになる。(そんなことしていいのか)とゴズメルは思った。ちらっとリリィを見ると、彼女はぜえぜえと肩で息をしていた。その様子にゴズメルはハッとした。
(翅の制御って、きっと集中力が必要なんだ。あたしが指の力を制御するのが大変なのと同じように)
ゴズメルの目には、リリィが大きすぎる翅に押し潰されそうに見えた。辛いのだろうに、彼女はゴズメルを急かすこともしない。むしろこちらを安心させようと微笑さえ浮かべて、指を差し出し続けているのだった。
(どんだけあたしのこと好きなんだよ、もうっ!)
この気持ちに応えないわけにはいかない。ゴズメルはリリィの手首を掴んだ。
目を閉じて人差し指を口に咥える。
その瞬間、ゴズメルの心臓が爆発した。そうとしか思えない。
「あ……わ……」
動悸が激しくなり、肌からブワッと汗が噴き出してくる。
(あれ、あたし、何してんだ……)
ゴズメルの意思に反し、口が勝手にリリィの指を舐めしゃぶっている。
指は指だ。かすかに甘いような気がするが、それ以外に味はない。だというのにゴズメルは両手でリリィの手首を掴んでいた。人差し指どころか中指も親指もまとめて口に含み、ジュプジュプと唾液を絡ませている。
「ひゅごい、これ……なにぃ……あぁ、んぁああ」
「ゴズメル、ゆっくりね。少しずつでいいから……」
鱗粉の効果でビリビリと痺れるゴズメルに、リリィは優しく言った。
「あなたの血肉が魔力を求めているのよ。喉の乾いたひとが水を欲しがるのと同じ……でも、一度にたくさん飲んだら、溺れてしまうわ……」
「んっ、んふうっ、ウッ!」
餌をもらう犬のように手の平を舐めていたゴズメルの角に衝撃が走る。
リリィが優しく角を撫でていた。
「うぁあ、ああ、ううう……」
口が足りない。リリィの右手も左手も唇も顔も、ぜんぶ舐めたい。こんなに綺麗な女の子を唾液で汚すなんて、そんなことしちゃいけないのに。パニックに陥るゴズメルに、リリィは甘く囁いた。
「いいのよ、ゴズメル……私のからだにも鱗粉は浸み込んでいるから、微量の魔力を摂取できると思うわ」
「んぉ、おっ、おううっ」
「ためらわないで。あなたは私に何をしてもいいの……」
その言い回しは聞き覚えがあるような気がした。好きにしろ、と彼女に求められたゴズメルは、好きにする以外の選択肢がない。ゴズメルは発情期の獣のようにリリィにむしゃぶりついた。
いつもは穏やかな尻尾が、針金が通ったように立ちあがっては、ビタンビタンと寝床を叩く。脳のリミッターを外されたような異常な興奮だった。
「あ……!」
ゴズメルの舌はリリィの腕を上り、腋にまで至っていた。
口触りの悪い肌着をむしりとり、腕を上げさせる。さらけ出された白い乳房は、ゴズメルに腋を舐められるたびにぷるぷると震えた。
「んっ、ゴズメル、そこは……アッ」
うっすらと和毛の生えた腋に、ゴズメルは鼻を押し付けていた。舐めても舐めても自分以外の匂いがするのが気に食わない。
(ここはあたしの縄張りなのに。あたしだけの特別な場所なのに!)
リリィの肉体を、我が物顔で侵し尽くす。
「あぁ……っ! いやぁあっ!」
リリィの悲鳴じみた嬌声も耳に入らない。むしろ邪魔くさい二の腕を頭突きしながら、ベロベロと腋を舐め、薄荷色の薄い体毛を噛みしめる。・・・長さが足りなくて噛めなかったけれど。
「もう、ゴズメル、そこはっ」
静止のために伸びてきた手を、獣と化したゴズメルは(こっちにもある!)と口に咥えてしまう。
大気中に漂う鱗粉とともに、左手もパクパクと口に含む。指の又まで根気よく舐めながら、しゃぶり終えた右手は寝床に押さえつけていた。そうしないと逃げだそうとするのだ!
白い蝶のような手を口で捕まえながら、ゴズメルは自分の股がビショビショに濡れていることに気づいていた。征服する喜びに気分が高揚して、腰が勝手に振れてしまう。都合よくこすりつける場所があればスッキリできるのに。
同時に複数のタスクが浮上して、ゴズメルはイライラする。早くこの白い縄張りを征服したいのに、逃げようとするし、やけにムラムラして、トイレに行きたい気もする。
「ん……っ、ん……っ」
気を散らそうと、腰をゆっくりと前後させる。大きすぎるバストとヒップが重い。ばるんっと揺らすたびに、濡れた下着がビチャッビチャッと音を立てて肌に張り付いてくる。
「ゴズメル……」
「や、だっ。逃、げ、ん、にゃっ」
喋ると口に咥えた手が離れそうになる。ゴズメルは噛んで自分のもとに引き戻した。この手はゴズメルのものなので、よくよく噛んで逃げないようにしなくてはいけない。そうやって言うことを聞くように躾けておけば、欲しい時に角を撫でてくれるようになるはずだ。
(ちっちゃい手、細い指。かわいい。そのうち角以外のところも撫でさせてやるんだからな!)
ゴズメルは鼻を鳴らして、ひとの指をチュパチュパと舐めた。リリィは困ったようにため息をつく。
それもそのはず、今のゴズメルは自分を百獣の王かなんかだと思っているようだが、実際には欲張りな牛が広い牧場の草をたいらげようとしているのと変わりない。リリィは優しく言った。
「ゴズメル、大丈夫よ。私はそんなふうに噛んだり押さえつけたりしなくても逃げないわ……」
「!」
手も口もふさがっているのに顔を寄せてこられて、ゴズメルは万事休すに陥った。勢いあまって、猫のようにシャーッと威嚇してみたが、かえって口が開いてしまう。
リリィの逃げた手は、しかしゴズメルの顔の近くに帰ってきた。角の折れたところを撫でてくれる。
ゴズメルは気持ちよくて目がかすんでしまった。
「あう……あぁうう……」
「かわいそうに……ずっとひとりで寂しかったのね。目を覚ましたら何もわからなくて、そのうえひどい扱いを受けたんだもの。あなたは強いひとだけれど、心の中ではどれほど傷ついていたか……」
リリィは「もう大丈夫よ」と言って、ゴズメルの背中を抱いてくれた。涙腺がゆるんで、どんどん前が見えなくなる。ゴズメルは「やだ、やだやだ、もう寝たくない」と泣きじゃくって、リリィに抱きついた。
目を閉じたら最後、腕の中の柔らかいものが、夢の中に消えてしまうような気がする。
「寝たくない。もう、忘れたくないよぉ……」
近頃のゴズメルは、目を覚ますたびに自分がとんでもないバカになった気がする。何も思い出せないのに、大切なものを忘れていることだけは憶えている。
ひととの約束を破り続けていると思うのだ。そのひととはずっと前から会う約束をしていて、着ていく服、楽しい予定も前もって決めてある。でも待ち合わせ時間と場所が思い出せない。そのひとの顔も名前もわからない。ただ、心優しい彼女に自分が待ちぼうけを食わせていることだけはハッキリしている。
「ゴズメル、ああゴズメル……!」
リリィは、力強くゴズメルを抱き返した。
「あなたがすべてを忘れてしまったとしても、私はずっと一緒にいるわ。あなたがそう望んでくれるなら、二度とあなたから離れたりしない」
「リリィ、リリィ……」
「大丈夫よ。私たちは、やっとまた会えたのだから」
リリィはゴズメルの顔を手で拭ってくれた。それから額に額をつけて「ねえ、キスしてくださる?」と尋ねた。
「きす……?」
「あなたとキスがしたいの……ずっと口づけあいたかったのよ……」
その言葉を聞いて、ゴズメルは(この子だ)と思った。(あたし、ずっとこの子を探してたんだ!)とわかる。
「うん、ああ、うん」
記憶を失ったゴズメルのキスの仕方は、まるで海を飲もうとするかのようだった。口が開いてしまって、どっちを向いたらいいかもよくわからない。「ふふっ」とリリィが笑って、頬にキスしてくれる。
それがお手本になって、ゴズメルもリリィにキスした。頬だと物足りなくて、口に口をくっつけると、鼻のほうが先にぶつかる。リリィが角度を調整してくれて、なんとか格好がついた。
(あたし、これ知ってる。とってもいいものだ)
なぜそんなことがわかったかというと、リリィの息の仕方が変化したからだ。それまで笑うようだったのが、胸が大きく上下するほど深い呼吸になって、それも吸う息と吐く息の間に緊張したような間が空く。
「あぁ……ゴズメル、だめ、私……気持ちよくて、制御が……」
「ゴズメル、私ね……あなたと過ごすうちに、いつの間にかレベルが上がっていたの」
背中の開いた肌着一枚になったリリィは困ったようにほほえんでいた。
光の翅は、羽ばたくことなく静止している。
「昔は上手く制御できなかったけれど、今は思い通りに動かせるのよ。……自力でしまうのはできないから、魔道具に頼るほかないのだけど」
ゴズメルが手に持っている『魔封じのアミュレット』のことらしい。固まっているゴズメルに、リリィは「またレベルが上がったら自分で出し入れできるようになると思うわ!」と、細い腕に握りこぶしを作ってみせた。
翅の荘厳な美しさと、挙動の愛らしさのギャップに、ゴズメルは「は、はぁー……!」と、変な声が止まらなかった。なんだか神々しすぎて目が潰れてしまいそうだ。
「た、たまげた……ありがたや、ありがたや……」
「ゴズメル、どうしたの。顔をあげてちょうだい」
思わず拝もうとするゴズメルを、リリィは押しとどめた。「ぜんぶ、あなたのおかげなのよ!」と言う。
「あなたが私にたくさんの経験を積ませてくれたから、こんなに翅を育てることができたの。……今のあなたには身に覚えのないことかもしれないけど……」
リリィの表情に不安そうな影が差す。
「もしかして、こんな翅は好きじゃない……?」
「はぇっ?」
「ねえ、はっきり仰って。制御できると言ったでしょう。……わかったわ、どうにか小さくできないか工夫してみるから……」
ゴズメルは仰天した。リリィはゴズメルの態度ひとつで翅のありようを変えてしまうらしいのだ。恋人の好みでファッションを変える女の子みたいに!
「やめてくれ、リリィ! とっても素敵だよ! どうかそのままでいておくれ」
「でも……」
「本当だよ。あんまりにも綺麗すぎてビックリしただけなんだ」
「そう……?」
「そう、そう」
ゴズメルの力強い首肯に、リリィはやっと納得したようだ。ゴズメルはハラハラしどおしだった。本当に芸術品のような翅なのだ。自分のせいで小さくなったり色が薄くなったりするのかと思うといたたまれない。
リリィは恥ずかしそうに咳払いして仕切り直した。
「……鱗粉を使うと言ったけれど、今の弱った状態のあなたに、いきなり多量の鱗粉を浴びせるのはとても危険なの。病んだひとがお粥を食べて回復するように、少しずつ試していきましょう」
「う、うん……」
そう、これはれっきとした治療行為なのだった。ゴズメルはワクワクした。不思議な翅の生えた美少女に、地下の寝床で治療してもらうなんて、なんだかとても効き目がありそうな気がする。
「ん……」
リリィはゆっくりと翅を動かした。ふわ、と薄紅色の燐光が空気中に散る。
(綺麗だ……蛍、いや、花びらみたいに舞い散って……)
ひとつの光を、リリィは指にまとわせた。そっとゴズメルの口元に運ぶ。
「口に入れてみて」
「……!?」
指ごと舐めることになる。(そんなことしていいのか)とゴズメルは思った。ちらっとリリィを見ると、彼女はぜえぜえと肩で息をしていた。その様子にゴズメルはハッとした。
(翅の制御って、きっと集中力が必要なんだ。あたしが指の力を制御するのが大変なのと同じように)
ゴズメルの目には、リリィが大きすぎる翅に押し潰されそうに見えた。辛いのだろうに、彼女はゴズメルを急かすこともしない。むしろこちらを安心させようと微笑さえ浮かべて、指を差し出し続けているのだった。
(どんだけあたしのこと好きなんだよ、もうっ!)
この気持ちに応えないわけにはいかない。ゴズメルはリリィの手首を掴んだ。
目を閉じて人差し指を口に咥える。
その瞬間、ゴズメルの心臓が爆発した。そうとしか思えない。
「あ……わ……」
動悸が激しくなり、肌からブワッと汗が噴き出してくる。
(あれ、あたし、何してんだ……)
ゴズメルの意思に反し、口が勝手にリリィの指を舐めしゃぶっている。
指は指だ。かすかに甘いような気がするが、それ以外に味はない。だというのにゴズメルは両手でリリィの手首を掴んでいた。人差し指どころか中指も親指もまとめて口に含み、ジュプジュプと唾液を絡ませている。
「ひゅごい、これ……なにぃ……あぁ、んぁああ」
「ゴズメル、ゆっくりね。少しずつでいいから……」
鱗粉の効果でビリビリと痺れるゴズメルに、リリィは優しく言った。
「あなたの血肉が魔力を求めているのよ。喉の乾いたひとが水を欲しがるのと同じ……でも、一度にたくさん飲んだら、溺れてしまうわ……」
「んっ、んふうっ、ウッ!」
餌をもらう犬のように手の平を舐めていたゴズメルの角に衝撃が走る。
リリィが優しく角を撫でていた。
「うぁあ、ああ、ううう……」
口が足りない。リリィの右手も左手も唇も顔も、ぜんぶ舐めたい。こんなに綺麗な女の子を唾液で汚すなんて、そんなことしちゃいけないのに。パニックに陥るゴズメルに、リリィは甘く囁いた。
「いいのよ、ゴズメル……私のからだにも鱗粉は浸み込んでいるから、微量の魔力を摂取できると思うわ」
「んぉ、おっ、おううっ」
「ためらわないで。あなたは私に何をしてもいいの……」
その言い回しは聞き覚えがあるような気がした。好きにしろ、と彼女に求められたゴズメルは、好きにする以外の選択肢がない。ゴズメルは発情期の獣のようにリリィにむしゃぶりついた。
いつもは穏やかな尻尾が、針金が通ったように立ちあがっては、ビタンビタンと寝床を叩く。脳のリミッターを外されたような異常な興奮だった。
「あ……!」
ゴズメルの舌はリリィの腕を上り、腋にまで至っていた。
口触りの悪い肌着をむしりとり、腕を上げさせる。さらけ出された白い乳房は、ゴズメルに腋を舐められるたびにぷるぷると震えた。
「んっ、ゴズメル、そこは……アッ」
うっすらと和毛の生えた腋に、ゴズメルは鼻を押し付けていた。舐めても舐めても自分以外の匂いがするのが気に食わない。
(ここはあたしの縄張りなのに。あたしだけの特別な場所なのに!)
リリィの肉体を、我が物顔で侵し尽くす。
「あぁ……っ! いやぁあっ!」
リリィの悲鳴じみた嬌声も耳に入らない。むしろ邪魔くさい二の腕を頭突きしながら、ベロベロと腋を舐め、薄荷色の薄い体毛を噛みしめる。・・・長さが足りなくて噛めなかったけれど。
「もう、ゴズメル、そこはっ」
静止のために伸びてきた手を、獣と化したゴズメルは(こっちにもある!)と口に咥えてしまう。
大気中に漂う鱗粉とともに、左手もパクパクと口に含む。指の又まで根気よく舐めながら、しゃぶり終えた右手は寝床に押さえつけていた。そうしないと逃げだそうとするのだ!
白い蝶のような手を口で捕まえながら、ゴズメルは自分の股がビショビショに濡れていることに気づいていた。征服する喜びに気分が高揚して、腰が勝手に振れてしまう。都合よくこすりつける場所があればスッキリできるのに。
同時に複数のタスクが浮上して、ゴズメルはイライラする。早くこの白い縄張りを征服したいのに、逃げようとするし、やけにムラムラして、トイレに行きたい気もする。
「ん……っ、ん……っ」
気を散らそうと、腰をゆっくりと前後させる。大きすぎるバストとヒップが重い。ばるんっと揺らすたびに、濡れた下着がビチャッビチャッと音を立てて肌に張り付いてくる。
「ゴズメル……」
「や、だっ。逃、げ、ん、にゃっ」
喋ると口に咥えた手が離れそうになる。ゴズメルは噛んで自分のもとに引き戻した。この手はゴズメルのものなので、よくよく噛んで逃げないようにしなくてはいけない。そうやって言うことを聞くように躾けておけば、欲しい時に角を撫でてくれるようになるはずだ。
(ちっちゃい手、細い指。かわいい。そのうち角以外のところも撫でさせてやるんだからな!)
ゴズメルは鼻を鳴らして、ひとの指をチュパチュパと舐めた。リリィは困ったようにため息をつく。
それもそのはず、今のゴズメルは自分を百獣の王かなんかだと思っているようだが、実際には欲張りな牛が広い牧場の草をたいらげようとしているのと変わりない。リリィは優しく言った。
「ゴズメル、大丈夫よ。私はそんなふうに噛んだり押さえつけたりしなくても逃げないわ……」
「!」
手も口もふさがっているのに顔を寄せてこられて、ゴズメルは万事休すに陥った。勢いあまって、猫のようにシャーッと威嚇してみたが、かえって口が開いてしまう。
リリィの逃げた手は、しかしゴズメルの顔の近くに帰ってきた。角の折れたところを撫でてくれる。
ゴズメルは気持ちよくて目がかすんでしまった。
「あう……あぁうう……」
「かわいそうに……ずっとひとりで寂しかったのね。目を覚ましたら何もわからなくて、そのうえひどい扱いを受けたんだもの。あなたは強いひとだけれど、心の中ではどれほど傷ついていたか……」
リリィは「もう大丈夫よ」と言って、ゴズメルの背中を抱いてくれた。涙腺がゆるんで、どんどん前が見えなくなる。ゴズメルは「やだ、やだやだ、もう寝たくない」と泣きじゃくって、リリィに抱きついた。
目を閉じたら最後、腕の中の柔らかいものが、夢の中に消えてしまうような気がする。
「寝たくない。もう、忘れたくないよぉ……」
近頃のゴズメルは、目を覚ますたびに自分がとんでもないバカになった気がする。何も思い出せないのに、大切なものを忘れていることだけは憶えている。
ひととの約束を破り続けていると思うのだ。そのひととはずっと前から会う約束をしていて、着ていく服、楽しい予定も前もって決めてある。でも待ち合わせ時間と場所が思い出せない。そのひとの顔も名前もわからない。ただ、心優しい彼女に自分が待ちぼうけを食わせていることだけはハッキリしている。
「ゴズメル、ああゴズメル……!」
リリィは、力強くゴズメルを抱き返した。
「あなたがすべてを忘れてしまったとしても、私はずっと一緒にいるわ。あなたがそう望んでくれるなら、二度とあなたから離れたりしない」
「リリィ、リリィ……」
「大丈夫よ。私たちは、やっとまた会えたのだから」
リリィはゴズメルの顔を手で拭ってくれた。それから額に額をつけて「ねえ、キスしてくださる?」と尋ねた。
「きす……?」
「あなたとキスがしたいの……ずっと口づけあいたかったのよ……」
その言葉を聞いて、ゴズメルは(この子だ)と思った。(あたし、ずっとこの子を探してたんだ!)とわかる。
「うん、ああ、うん」
記憶を失ったゴズメルのキスの仕方は、まるで海を飲もうとするかのようだった。口が開いてしまって、どっちを向いたらいいかもよくわからない。「ふふっ」とリリィが笑って、頬にキスしてくれる。
それがお手本になって、ゴズメルもリリィにキスした。頬だと物足りなくて、口に口をくっつけると、鼻のほうが先にぶつかる。リリィが角度を調整してくれて、なんとか格好がついた。
(あたし、これ知ってる。とってもいいものだ)
なぜそんなことがわかったかというと、リリィの息の仕方が変化したからだ。それまで笑うようだったのが、胸が大きく上下するほど深い呼吸になって、それも吸う息と吐く息の間に緊張したような間が空く。
「あぁ……ゴズメル、だめ、私……気持ちよくて、制御が……」
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