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急・異種獣人同士で子づくり!?ノァズァークのヒミツ編
21.おつかいイベント
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ゴズメルの心は迷いに迷っていた。
リリィのことは好きだ。これは間違いない。とても大切な存在で、ずっと一緒にいたい。
そんなリリィが、ゴズメルを想って初めて産卵をした。
種族が持つ生理的欲求の結果だとしても、ゴズメルは卵に触れた感触をおぼえている。まさしく愛の結晶だと思った。
祖母に先立たれ、翅というハンディを背負って生きてきたリリィは、ゴズメルへの愛を生まずにはいられないのだ。その思いを、果たして偽卵を使ってごまかしていいのだろうかとゴズメルは思う。
もちろん、当座をしのぐのに偽卵は有用である。気持ち的にも金銭的にも、ゴズメルは新しい命を迎える準備などできていないし、リリィの心身への影響も心配だ。
だがリリィは、今、ゴズメルの卵を生みたいと思ってくれているのだ。
その気持ちが将来変わらない保証はないし、変わらなかったとしても、その時アジリニ神が二人に子供を授けてくれるかはわからない。わからないことだらけなのに決断ばかりを迫られている。
「はぁ……未来のことが全部わかればいいのになあ」
ゴズメルはため息をついた。ミックはククッと愉快そうに笑った。
「確かなのは、何をするにせよカネがいるということだナ」
「ああ、そうなんだよ。あんたもわかってくれる? 何もかも不安すぎるし今めちゃくちゃ金がほしい……」
「俺はこの店はじめた時からそう思ってるよ。夜とかたまに不安で眠れない」
そんなふうに言いながら、ミックは妙に嬉しそうに斧の刃先を磨いているのだった。ゴズメルははてなと思った。嘘をついているようには見えないが、なぜ笑っているのだろう。
ミックは片眼鏡をキラッと光らせて言った。
「ゴズメル、こないだウチの店で『服従の首輪』を買っただろ」
「ん? うん」
「あれ、俺はオークションで仕入れたんだけどさ、いつ、いくらで競り落としたと思う?」
ゴズメルは口ごもった。仕入れ値より売値の方が高いことはゴズメルも知っているが、いくらかと言われるとわからないし、いつなんて見当もつかない。
ミックはパチパチとソロバンを弾いて「値段はこれくらいだった」と言った。
「あっ……なんだ、そこまで安くもなかったんだね」
「ま、素人の遺品オークションだったからな。管理がずさんでプログラムもところどころ壊れてるしで、業者が引き取りたがらない商品の典型って感じだった。なのに強気な値段から始めるんだから、まったくどうかしてるよ。でも、俺は見たとき確信したね。こんなマニアックなブツ、絶対に大枚はたいてでも欲しがるやつがいる! 間違いない!」
「う、うん。うん」
まさしくゴズメルのことである。
「で、競り落としてさ、手間かけてクリーニングしてメンテして値付けして」
「ふーん」
「それが、実に十五年前のことだ……」
ゴズメルは絶句した。
「えっ、マジで!?マジの話してる?」
「うん。ハタチの時だな。いや、俺も若かった……まあ骨董品扱ってるとザラにあることなんだけどさ、ははは」
ミックはヘラヘラ笑っているが、ゴズメルは自分がもし同じ立場だったらと思うと、背筋が震えてしまった。
高い値段で引き取った商品が十五年も売れなかったら、普通それはただのゴミだと思う。そんなことばっかりだとしたら、夜も眠れなくなるに決まっている。
「でもま、在庫処理みたいな形でもなんとか売れてゴズメルの役に立ったわけだ。何をするにせよ、それくらい経ってみないと結果はわからんってこった」
ミックは古ぼけた自分の店を、目を細めて見回した。
「だからさ、俺はこの店に自分が気に入ったモンしか置かないようにしてんだ。そのほうが客も嬉しそうだし、好きでもないモンがずっと売れ残ったらマジで地獄だからナ。責任がどうとかも大事だが、自分の好きなようにやった方が、失敗しても後悔は少なく済むんじゃない」
「……あれ。もしかして励ましてくれてんのかい?」
「いや、単なる世間話」
ミックは油に汚れた手をエプロンで拭きながら「ふむ」と首をかしげた。
「ゴズメル、思ったより査定に時間がかかりそうだ。おまえ、前にウチでバイトしたいとか言ってたよナ」
「そんなこと言ったっけ。言ってなくない??」
「あれっ、金が欲しいんじゃないのか」
「いや、それはまぁ……」
ミックはカウンターに背を向けて、後ろのラックをがさごそといじっていた。
「簡単なおつかいだよ。客先に修理済みの商品を届けてきてくれ。行ってくれたら買取にちょこっと色をつけてやろう」
「ええっ? そりゃ有難いけど……部外者のあたしが行ったら客先に気の毒だよ。説明とかできないし」
「向こうはおまえと話したいと思うよ」
そう言ってミックはゴズメルに請求書の入った封筒を渡した。裏返すと宛名に「ブランカ」と書いてある。
「えっ? ブランカがこの店に来たのかい」
「うん。厳しそうなお母さんと二人で来たよ。立派な馬車でこの狭い通りまで来るから道がごったがえして大変だった」
「ああ、あの子っていいとこのお嬢さんなんだっけ」
「らしいな。でもこのお母さんがタチ悪くてさ、俺がブランカと少し話すだけで嫌みな咳払いするんだ。ブランカも神経使ってるみたいでナ……ちょっと見てて気の毒だった」
「そうなんだ……」
「おまえは女だから変な心配されないだろうし、顔見せたらきっと喜ぶと思うよ。ついでにいろいろ話を聞いてきたらどうだ? 祈願のやり方とかは俺より詳しいだろ」
「ミック……!」
優しい心遣いにゴズメルは胸を打たれた。経験者を紹介してくれるうえバイト代も恵んでくれるらしいのだ。
「ありがとう、あたし行ってみるよ!」
「そーか。じゃ、こっちのラックにあるやつぜんぶ頼むナ」
「へっ」
七段ほどのラックに、みっちりと武器と防具、魔道具の類が詰まっている。
忘れていた。ブランカは槍使いのアーマーナイトで、いつもかさばる防具をまとっていたのだ。ゴズメルはちょうどアイテムボックスを空けたところだったが、それでも全部入りきるかわからない。
開いた口のふさがらないゴズメルに、商売人のミックはホクホク顔だった。
「いやあ力持ちのゴズメルが来てくれて俺は助かった! そのうえブランカも喜ぶし、ゴズメルも勉強になる。これぞ三方よしってやつだナ」
リリィのことは好きだ。これは間違いない。とても大切な存在で、ずっと一緒にいたい。
そんなリリィが、ゴズメルを想って初めて産卵をした。
種族が持つ生理的欲求の結果だとしても、ゴズメルは卵に触れた感触をおぼえている。まさしく愛の結晶だと思った。
祖母に先立たれ、翅というハンディを背負って生きてきたリリィは、ゴズメルへの愛を生まずにはいられないのだ。その思いを、果たして偽卵を使ってごまかしていいのだろうかとゴズメルは思う。
もちろん、当座をしのぐのに偽卵は有用である。気持ち的にも金銭的にも、ゴズメルは新しい命を迎える準備などできていないし、リリィの心身への影響も心配だ。
だがリリィは、今、ゴズメルの卵を生みたいと思ってくれているのだ。
その気持ちが将来変わらない保証はないし、変わらなかったとしても、その時アジリニ神が二人に子供を授けてくれるかはわからない。わからないことだらけなのに決断ばかりを迫られている。
「はぁ……未来のことが全部わかればいいのになあ」
ゴズメルはため息をついた。ミックはククッと愉快そうに笑った。
「確かなのは、何をするにせよカネがいるということだナ」
「ああ、そうなんだよ。あんたもわかってくれる? 何もかも不安すぎるし今めちゃくちゃ金がほしい……」
「俺はこの店はじめた時からそう思ってるよ。夜とかたまに不安で眠れない」
そんなふうに言いながら、ミックは妙に嬉しそうに斧の刃先を磨いているのだった。ゴズメルははてなと思った。嘘をついているようには見えないが、なぜ笑っているのだろう。
ミックは片眼鏡をキラッと光らせて言った。
「ゴズメル、こないだウチの店で『服従の首輪』を買っただろ」
「ん? うん」
「あれ、俺はオークションで仕入れたんだけどさ、いつ、いくらで競り落としたと思う?」
ゴズメルは口ごもった。仕入れ値より売値の方が高いことはゴズメルも知っているが、いくらかと言われるとわからないし、いつなんて見当もつかない。
ミックはパチパチとソロバンを弾いて「値段はこれくらいだった」と言った。
「あっ……なんだ、そこまで安くもなかったんだね」
「ま、素人の遺品オークションだったからな。管理がずさんでプログラムもところどころ壊れてるしで、業者が引き取りたがらない商品の典型って感じだった。なのに強気な値段から始めるんだから、まったくどうかしてるよ。でも、俺は見たとき確信したね。こんなマニアックなブツ、絶対に大枚はたいてでも欲しがるやつがいる! 間違いない!」
「う、うん。うん」
まさしくゴズメルのことである。
「で、競り落としてさ、手間かけてクリーニングしてメンテして値付けして」
「ふーん」
「それが、実に十五年前のことだ……」
ゴズメルは絶句した。
「えっ、マジで!?マジの話してる?」
「うん。ハタチの時だな。いや、俺も若かった……まあ骨董品扱ってるとザラにあることなんだけどさ、ははは」
ミックはヘラヘラ笑っているが、ゴズメルは自分がもし同じ立場だったらと思うと、背筋が震えてしまった。
高い値段で引き取った商品が十五年も売れなかったら、普通それはただのゴミだと思う。そんなことばっかりだとしたら、夜も眠れなくなるに決まっている。
「でもま、在庫処理みたいな形でもなんとか売れてゴズメルの役に立ったわけだ。何をするにせよ、それくらい経ってみないと結果はわからんってこった」
ミックは古ぼけた自分の店を、目を細めて見回した。
「だからさ、俺はこの店に自分が気に入ったモンしか置かないようにしてんだ。そのほうが客も嬉しそうだし、好きでもないモンがずっと売れ残ったらマジで地獄だからナ。責任がどうとかも大事だが、自分の好きなようにやった方が、失敗しても後悔は少なく済むんじゃない」
「……あれ。もしかして励ましてくれてんのかい?」
「いや、単なる世間話」
ミックは油に汚れた手をエプロンで拭きながら「ふむ」と首をかしげた。
「ゴズメル、思ったより査定に時間がかかりそうだ。おまえ、前にウチでバイトしたいとか言ってたよナ」
「そんなこと言ったっけ。言ってなくない??」
「あれっ、金が欲しいんじゃないのか」
「いや、それはまぁ……」
ミックはカウンターに背を向けて、後ろのラックをがさごそといじっていた。
「簡単なおつかいだよ。客先に修理済みの商品を届けてきてくれ。行ってくれたら買取にちょこっと色をつけてやろう」
「ええっ? そりゃ有難いけど……部外者のあたしが行ったら客先に気の毒だよ。説明とかできないし」
「向こうはおまえと話したいと思うよ」
そう言ってミックはゴズメルに請求書の入った封筒を渡した。裏返すと宛名に「ブランカ」と書いてある。
「えっ? ブランカがこの店に来たのかい」
「うん。厳しそうなお母さんと二人で来たよ。立派な馬車でこの狭い通りまで来るから道がごったがえして大変だった」
「ああ、あの子っていいとこのお嬢さんなんだっけ」
「らしいな。でもこのお母さんがタチ悪くてさ、俺がブランカと少し話すだけで嫌みな咳払いするんだ。ブランカも神経使ってるみたいでナ……ちょっと見てて気の毒だった」
「そうなんだ……」
「おまえは女だから変な心配されないだろうし、顔見せたらきっと喜ぶと思うよ。ついでにいろいろ話を聞いてきたらどうだ? 祈願のやり方とかは俺より詳しいだろ」
「ミック……!」
優しい心遣いにゴズメルは胸を打たれた。経験者を紹介してくれるうえバイト代も恵んでくれるらしいのだ。
「ありがとう、あたし行ってみるよ!」
「そーか。じゃ、こっちのラックにあるやつぜんぶ頼むナ」
「へっ」
七段ほどのラックに、みっちりと武器と防具、魔道具の類が詰まっている。
忘れていた。ブランカは槍使いのアーマーナイトで、いつもかさばる防具をまとっていたのだ。ゴズメルはちょうどアイテムボックスを空けたところだったが、それでも全部入りきるかわからない。
開いた口のふさがらないゴズメルに、商売人のミックはホクホク顔だった。
「いやあ力持ちのゴズメルが来てくれて俺は助かった! そのうえブランカも喜ぶし、ゴズメルも勉強になる。これぞ三方よしってやつだナ」
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