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破・隷属の首輪+5でダンジョンクリア編
9.セーフワード
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ゴズメルはリリィを抱き上げてトロバスを降りた。
荒涼とした大地にぽつんとある停留所では降りたばかりの客たちがぐったりと休んでいる。
もう数刻すれば戻りの便が出る。
死屍累々といった有様を、アルティカ市街に向かう乗客たちも不安げに眺めていた。
「……ご主人様、下ろしてくださいますか?」
リリィに尋ねられ、ゴズメルは無言で従った。
リリィはロッドを取り出すと、ハンカチで顔を扇がれている乗客へ歩み寄った。
うんうん唸って寝込んでいるのは、先ほど昏倒した乗客らしい。
何をするのかと思えば、リリィは彼に気つけの魔法をかけてやっている。
ロッドから放たれた温かな緑の光を浴びたとたん、彼は嘘のように元気に起き上がった。
「わあ、すごい」
「状態異常解除に、肉体強化まで! ありがたいわねえ」
ヒーラーは戦闘時に役立つ回復に特化しがちだが、リリィは回復量の少なさを補うため、補助魔法を各種習得している。危機管理能力が高いと自分で言っていた通り、不測の事態に強いヒーラーなのだった。
「すみません。ありがとうございます、ありがとうございます」
「いいえ、お気になさらないで。困った時はお互い様ですもの」
拝まれたリリィは謙遜したが、どうぞどうぞとお礼代わりの回復アイテムを貢がれている。
はたで見ていたゴズメルは、赤面してしまった。
見ず知らずのひとに尽くす思いやりにあふれたヒーラーか、トロバスでゴズメルにいじめられて下着を濡らしていたマゾヒストか。いったいどちらが本当のリリィなのだろう?
「ねえねえ、お姉さんカワイイね」
「鐵刑の塔まで行くの? ソロ? 俺らで良ければ途中までご一緒しません??」
ナンパ目的の輩まで寄って来ている。ゴズメルはムッとしてリリィに声をかけた。
「さっさと行くよ、リリィ」
「あっ」
ゴズメルが肩を引っ張ったせいでローブの襟が攣れて、隷属の首輪が丸見えになる。
あからさまなハートマークの鍵穴に、その場に居合わせた者たちは目を点にした。
そのうえ、リリィが恥ずかしそうにゴズメルを呼ぶ。
「ご、ご主人様ぁ……」
人前で、自業自得の羞恥責めにあったゴズメルは、一言も発さないままリリィを担ぎ上げた。
逃げるように停留所を後にするゴズメルの頭の中ではドカンドカンと恥の花火が打ちあがっている。
(く、くそおおお! 絶対、変態バカップルだと思われたっ! だってあたしが逆の立場だったら絶対そう思うもん! いや、そう思うもなにも、実際にやってることがもう……)
トロバス内でサカった時点で、変態バカップルそのものだ。
鐵刑の塔の周辺には、けっこう魔物が出る。
曜日と時間にもよるが、今日は四つ足の獣タイプの魔物だ。
ゴズメルはリリィを担いだまま、照れ隠しのように斧を振り回し、バッタバッタと敵を薙ぎ倒した。
「キャアすごい、すごいわ! ご主人様! 後ろからまた一体来ます!」
リリィがゴズメルの肩にしがみついたままバックアップしてくれる。
この無邪気さもリリィの一面なのだ。
無心に斧を振るいたいのに、抱きついてくる体や甘い匂いを感じると、ゴズメルの脳内はリリィのことでいっぱいになってしまう。
(んもおおおお、いったい、なんなんだよこの気持ちは!)
ゴズメルは襲い掛かってくる魔物という魔物をすべてなますにした。
魔物は討伐すると死骸の代わりにキラキラ光る素材をドロップする。
ゴズメルは斧を大地に叩きつけて、リリィを肩から下ろした。
「お疲れ様です。素材を回収しますね!」
そこら中に散らばったたくさんの『荒野の毛皮』を、リリィはぱたぱたと採取して回る。
レベルアップの甲斐あっていつもよりずっと早く退治できたが、ゴズメルの心は千々に乱れていた。
リリィが走って、かがんで、素材を拾い上げる。その一連の動作を眺めているだけで気が変になりそうなのだ。
(満月は明けた。翅も首輪の力で制御されてる。なのにムラムラして痴漢しちまうなんて、最低なことを……)
今だって、無いはずの男性器が無性にイライラして仕方ない。後ろから抱き着いて、抵抗できないリリィをめちゃくちゃに犯してしまいたいと思っている。
「ご主人様……?」
いつの間にか素材の回収は済んでいたようだ。
リリィは心配そうにゴズメルの顔を覗き込んでいる。
(今この子が濡れた下着をはいてるのは、あたしのせいなんだ)
ローブの下の服も下着も、ゴズメルが昨日、市場で見繕ってきたものだ。サイズは平気だろうか似合うだろうか、果たして喜んでくれるだろうかと、あれこれ思い悩んで買い込んだ。
それは、純粋な好意のあらわれであって、こんな気分になるためでは絶対になかったはずだ。
深呼吸したゴズメルは、自分で自分の鼻面を思いっきり殴った。
「ゴズメル!?」
驚いたリリィが、はっと素に戻る。ゴズメルはボタボタと鼻血を垂らしながら言った。
「リリィ。あたし、あんたのことを絶対に守る。もう絶対にあんなバカな真似はしない」
「えっ……」
「だから、あたしがまたおかしくなりそうになったら、あんたはちゃんと抵抗するんだ。セーフワードを使って」
セーフワードは、隷属の首輪が定める機能のひとつだ。着用者と管理者の間に結ばれたのは、一方的な契約ではない。
着用者がセーフワードを口にすると首輪の呪いが逆転して、両者の立場が入れ替わるのだ。
荒涼とした大地にぽつんとある停留所では降りたばかりの客たちがぐったりと休んでいる。
もう数刻すれば戻りの便が出る。
死屍累々といった有様を、アルティカ市街に向かう乗客たちも不安げに眺めていた。
「……ご主人様、下ろしてくださいますか?」
リリィに尋ねられ、ゴズメルは無言で従った。
リリィはロッドを取り出すと、ハンカチで顔を扇がれている乗客へ歩み寄った。
うんうん唸って寝込んでいるのは、先ほど昏倒した乗客らしい。
何をするのかと思えば、リリィは彼に気つけの魔法をかけてやっている。
ロッドから放たれた温かな緑の光を浴びたとたん、彼は嘘のように元気に起き上がった。
「わあ、すごい」
「状態異常解除に、肉体強化まで! ありがたいわねえ」
ヒーラーは戦闘時に役立つ回復に特化しがちだが、リリィは回復量の少なさを補うため、補助魔法を各種習得している。危機管理能力が高いと自分で言っていた通り、不測の事態に強いヒーラーなのだった。
「すみません。ありがとうございます、ありがとうございます」
「いいえ、お気になさらないで。困った時はお互い様ですもの」
拝まれたリリィは謙遜したが、どうぞどうぞとお礼代わりの回復アイテムを貢がれている。
はたで見ていたゴズメルは、赤面してしまった。
見ず知らずのひとに尽くす思いやりにあふれたヒーラーか、トロバスでゴズメルにいじめられて下着を濡らしていたマゾヒストか。いったいどちらが本当のリリィなのだろう?
「ねえねえ、お姉さんカワイイね」
「鐵刑の塔まで行くの? ソロ? 俺らで良ければ途中までご一緒しません??」
ナンパ目的の輩まで寄って来ている。ゴズメルはムッとしてリリィに声をかけた。
「さっさと行くよ、リリィ」
「あっ」
ゴズメルが肩を引っ張ったせいでローブの襟が攣れて、隷属の首輪が丸見えになる。
あからさまなハートマークの鍵穴に、その場に居合わせた者たちは目を点にした。
そのうえ、リリィが恥ずかしそうにゴズメルを呼ぶ。
「ご、ご主人様ぁ……」
人前で、自業自得の羞恥責めにあったゴズメルは、一言も発さないままリリィを担ぎ上げた。
逃げるように停留所を後にするゴズメルの頭の中ではドカンドカンと恥の花火が打ちあがっている。
(く、くそおおお! 絶対、変態バカップルだと思われたっ! だってあたしが逆の立場だったら絶対そう思うもん! いや、そう思うもなにも、実際にやってることがもう……)
トロバス内でサカった時点で、変態バカップルそのものだ。
鐵刑の塔の周辺には、けっこう魔物が出る。
曜日と時間にもよるが、今日は四つ足の獣タイプの魔物だ。
ゴズメルはリリィを担いだまま、照れ隠しのように斧を振り回し、バッタバッタと敵を薙ぎ倒した。
「キャアすごい、すごいわ! ご主人様! 後ろからまた一体来ます!」
リリィがゴズメルの肩にしがみついたままバックアップしてくれる。
この無邪気さもリリィの一面なのだ。
無心に斧を振るいたいのに、抱きついてくる体や甘い匂いを感じると、ゴズメルの脳内はリリィのことでいっぱいになってしまう。
(んもおおおお、いったい、なんなんだよこの気持ちは!)
ゴズメルは襲い掛かってくる魔物という魔物をすべてなますにした。
魔物は討伐すると死骸の代わりにキラキラ光る素材をドロップする。
ゴズメルは斧を大地に叩きつけて、リリィを肩から下ろした。
「お疲れ様です。素材を回収しますね!」
そこら中に散らばったたくさんの『荒野の毛皮』を、リリィはぱたぱたと採取して回る。
レベルアップの甲斐あっていつもよりずっと早く退治できたが、ゴズメルの心は千々に乱れていた。
リリィが走って、かがんで、素材を拾い上げる。その一連の動作を眺めているだけで気が変になりそうなのだ。
(満月は明けた。翅も首輪の力で制御されてる。なのにムラムラして痴漢しちまうなんて、最低なことを……)
今だって、無いはずの男性器が無性にイライラして仕方ない。後ろから抱き着いて、抵抗できないリリィをめちゃくちゃに犯してしまいたいと思っている。
「ご主人様……?」
いつの間にか素材の回収は済んでいたようだ。
リリィは心配そうにゴズメルの顔を覗き込んでいる。
(今この子が濡れた下着をはいてるのは、あたしのせいなんだ)
ローブの下の服も下着も、ゴズメルが昨日、市場で見繕ってきたものだ。サイズは平気だろうか似合うだろうか、果たして喜んでくれるだろうかと、あれこれ思い悩んで買い込んだ。
それは、純粋な好意のあらわれであって、こんな気分になるためでは絶対になかったはずだ。
深呼吸したゴズメルは、自分で自分の鼻面を思いっきり殴った。
「ゴズメル!?」
驚いたリリィが、はっと素に戻る。ゴズメルはボタボタと鼻血を垂らしながら言った。
「リリィ。あたし、あんたのことを絶対に守る。もう絶対にあんなバカな真似はしない」
「えっ……」
「だから、あたしがまたおかしくなりそうになったら、あんたはちゃんと抵抗するんだ。セーフワードを使って」
セーフワードは、隷属の首輪が定める機能のひとつだ。着用者と管理者の間に結ばれたのは、一方的な契約ではない。
着用者がセーフワードを口にすると首輪の呪いが逆転して、両者の立場が入れ替わるのだ。
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