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序・童貞喪失精子ゲット編
1.冒険者協会の牛女
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ゴズメルは進退窮まった。
冒険者協会の会長に「来月の昇格審査は絶対に受けろ。いいな」と念を押されてしまったのだ。
「ヤなこった」
言われてすぐ、ゴズメルは正直に返した。
長年世話になっている会長の前でとりつくろっても仕方ない。
執務机にいるシラヌイ会長は、赤くて長い鼻が特徴的なテング族だ。
対してミノタウロス族のゴズメルは、とにかく色々とでかい。
よく日に焼けた肌は浅黒く、魔物との戦闘の際には大斧を振り回す腕は丸太のように太い。
こげ茶色の髪から突き出した立派な角、それを含めずとも、背丈がちょっとした納屋ひとつぶんほどある。
だが、特筆すべきは鍛え上げられた胸筋と一体化した、ボリューミーなバストであろう。
協会の二つボタン制服で押さえつけているが、男の同僚たちでさえ色欲より畏怖のこもった眼差しを送る代物である。
「会長、あたしは別に出世なんて興味ないんだ。慣れてるこのアルティカの町で、下っぱ連中とバタバタやってんのが性に合ってる」
本心だ。だが、シラヌイ会長は彼女が言わなかった理由についても気づいていた。
「ゴズメル、おまえいくつになる?」
「はぁ? なんでそんなこと聞くのさ」
「…………」
「……26だけど」
やれやれと答えたゴズメルの顔の前で、シラヌイは立てた人差し指を大きく振った。
「たしかにミノタウロス族の種族値は、他種族の8掛けだ。おまえの実力もそんじょそこらの男には引けをとらん。だがな……」
来る。身構えたゴズメルに、シラヌイは予想していた通りのことを言った。
「26にもなってまだレベル3だなんて、自分で恥ずかしいと思わんのか。雑種のガキじゃねーんだぞ」
正論すぎて、ぐうの音も出ない。
異種族のカップルから生まれる子を雑種という。
両親の持つ種族値を互いに打ち消しあうため、血統の持つ特性が弱まっていることが多い。
能力的にも、雑種よりも純粋な血統を保った純種のほうが高いといわれている。
雑種のほうが多い今の時代、純種の希少性はますます高まっていた。
ゴズメルは珍しいことに純種だが、血統などを気にして種族そのものが絶滅するより、自由に恋愛して交雑したほうがよっぽど健全だろうと思っている。
シラヌイは吊り上がった眉をますます立ててゴズメルを叱った。
「なにが出世に興味ないだ。審査を受けてもレベルが低すぎて跳ねられるから逃げまくっとるだけだろうが」
「そこまでわかってんならいいだろ。受けても無意味なんだから受けないよ」
ゴズメルは口をとがらせたが、シラヌイは聞く耳を持たなかった。
「だめだ。レベルを上げて昇格審査を受けろ。これは会長命令だ」
「はぁ? なんで!」
「これは我がアルティカ支部の沽券に関わる問題なんだ」
シラヌイは前にせり出した赤ら顔を、組んだ手に乗せて言った。
「純種のおまえは目立つ。いつまでも下っ端連中と仲良しこよししているところをヨソの連中が見れば、この支部は人材を遊ばせとるのかと思うだろうが」
「そりゃそうかもしれないけど……」
「だいたい戦闘狂のくせに、なぜレベルを上げようとしない。いったいおまえのレベルアップ素材はなんなんだ」
ゴズメルは黙秘した。
『レベルアップ素材』とは文字通り、レベルを一定以上上げるために必要な素材のことだ。
この世界を治める神・アジリニは、対価と引き換えに力を与える。
レベルは日々の修練や戦闘によっても上がるが、それには限度がある。
種族ごとに定められた対価、レベルアップ素材をアジリニに捧げることで、ひとはさらなる力を手にすることができるのだ。
アジリニの求めるレベルアップ素材は、ひとによって様々だ。
同じ狼族でも、レベル10で『外傷なしに仕留めた獲物』を求められる者がいれば、トントン拍子で来たのにレベル30になっていきなり『満月の夜の悪夢』とかいう意味不明な素材を求められる者もいる。
聞いたところによると、今は昔話にしか登場しない妖精族が滅んだのも、困難なレベルアップ素材採取に種族総出で挑んだためらしい。
いわゆる『レア素材』と呼ばれるレベルアップ素材は、今なお冒険者たちの頭を悩ませているのだ。
協会では、冒険者の素材採取協力任務も行っている。
だが、ゴズメルは自分のレベルアップ素材採取を人に手伝ってもらうつもりは毛頭なかった。
むっつりと押し黙った彼女に、シラヌイは「強情者め」と吐き捨てた。
「そんなにクビになりたいのなら俺はもう知らん」
「はあ!? こんなことでクビって、冗談だろう!」
「話はこれで終わりだ。あとは自分の頭で考えろ。さっさと行け」
シラヌイはしっしっ、と手を払う。
仕方なく行こうとすると、人使いの荒い会長は思い出したように「ああ、そうだ」付け加えた。
「医務室に行って、キースに声をかけてきてくれ。あいつにも話をせにゃならん」
冒険者協会の会長に「来月の昇格審査は絶対に受けろ。いいな」と念を押されてしまったのだ。
「ヤなこった」
言われてすぐ、ゴズメルは正直に返した。
長年世話になっている会長の前でとりつくろっても仕方ない。
執務机にいるシラヌイ会長は、赤くて長い鼻が特徴的なテング族だ。
対してミノタウロス族のゴズメルは、とにかく色々とでかい。
よく日に焼けた肌は浅黒く、魔物との戦闘の際には大斧を振り回す腕は丸太のように太い。
こげ茶色の髪から突き出した立派な角、それを含めずとも、背丈がちょっとした納屋ひとつぶんほどある。
だが、特筆すべきは鍛え上げられた胸筋と一体化した、ボリューミーなバストであろう。
協会の二つボタン制服で押さえつけているが、男の同僚たちでさえ色欲より畏怖のこもった眼差しを送る代物である。
「会長、あたしは別に出世なんて興味ないんだ。慣れてるこのアルティカの町で、下っぱ連中とバタバタやってんのが性に合ってる」
本心だ。だが、シラヌイ会長は彼女が言わなかった理由についても気づいていた。
「ゴズメル、おまえいくつになる?」
「はぁ? なんでそんなこと聞くのさ」
「…………」
「……26だけど」
やれやれと答えたゴズメルの顔の前で、シラヌイは立てた人差し指を大きく振った。
「たしかにミノタウロス族の種族値は、他種族の8掛けだ。おまえの実力もそんじょそこらの男には引けをとらん。だがな……」
来る。身構えたゴズメルに、シラヌイは予想していた通りのことを言った。
「26にもなってまだレベル3だなんて、自分で恥ずかしいと思わんのか。雑種のガキじゃねーんだぞ」
正論すぎて、ぐうの音も出ない。
異種族のカップルから生まれる子を雑種という。
両親の持つ種族値を互いに打ち消しあうため、血統の持つ特性が弱まっていることが多い。
能力的にも、雑種よりも純粋な血統を保った純種のほうが高いといわれている。
雑種のほうが多い今の時代、純種の希少性はますます高まっていた。
ゴズメルは珍しいことに純種だが、血統などを気にして種族そのものが絶滅するより、自由に恋愛して交雑したほうがよっぽど健全だろうと思っている。
シラヌイは吊り上がった眉をますます立ててゴズメルを叱った。
「なにが出世に興味ないだ。審査を受けてもレベルが低すぎて跳ねられるから逃げまくっとるだけだろうが」
「そこまでわかってんならいいだろ。受けても無意味なんだから受けないよ」
ゴズメルは口をとがらせたが、シラヌイは聞く耳を持たなかった。
「だめだ。レベルを上げて昇格審査を受けろ。これは会長命令だ」
「はぁ? なんで!」
「これは我がアルティカ支部の沽券に関わる問題なんだ」
シラヌイは前にせり出した赤ら顔を、組んだ手に乗せて言った。
「純種のおまえは目立つ。いつまでも下っ端連中と仲良しこよししているところをヨソの連中が見れば、この支部は人材を遊ばせとるのかと思うだろうが」
「そりゃそうかもしれないけど……」
「だいたい戦闘狂のくせに、なぜレベルを上げようとしない。いったいおまえのレベルアップ素材はなんなんだ」
ゴズメルは黙秘した。
『レベルアップ素材』とは文字通り、レベルを一定以上上げるために必要な素材のことだ。
この世界を治める神・アジリニは、対価と引き換えに力を与える。
レベルは日々の修練や戦闘によっても上がるが、それには限度がある。
種族ごとに定められた対価、レベルアップ素材をアジリニに捧げることで、ひとはさらなる力を手にすることができるのだ。
アジリニの求めるレベルアップ素材は、ひとによって様々だ。
同じ狼族でも、レベル10で『外傷なしに仕留めた獲物』を求められる者がいれば、トントン拍子で来たのにレベル30になっていきなり『満月の夜の悪夢』とかいう意味不明な素材を求められる者もいる。
聞いたところによると、今は昔話にしか登場しない妖精族が滅んだのも、困難なレベルアップ素材採取に種族総出で挑んだためらしい。
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だが、ゴズメルは自分のレベルアップ素材採取を人に手伝ってもらうつもりは毛頭なかった。
むっつりと押し黙った彼女に、シラヌイは「強情者め」と吐き捨てた。
「そんなにクビになりたいのなら俺はもう知らん」
「はあ!? こんなことでクビって、冗談だろう!」
「話はこれで終わりだ。あとは自分の頭で考えろ。さっさと行け」
シラヌイはしっしっ、と手を払う。
仕方なく行こうとすると、人使いの荒い会長は思い出したように「ああ、そうだ」付け加えた。
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