上 下
55 / 60
独立国家郡ペラルゴン

第12話 受付嬢は逞しい

しおりを挟む
先日のドランブイ事件はサイラスさんから恐る恐る聞いた
曰く
「すごい、ぺかー!って感じの笑顔で話してたわね
あとシズキくん、あなたあんな可愛いくて明るい声出るのね
挨拶されたみんなが戸惑ってたわ
普段のアルトボイスもいいけどあの声も素敵よ
あ!それと赤い顔でトローんとしてたのがめっちゃエロk」


「もういいです」
謎の悪寒を感じた気がした
パッチテストで大丈夫だと思ってたけどさすがに40度を一気飲みはダメだったか……
次飲むときは流石にちゃんと考えなきゃ……


実はシズキ、期間の長い護衛依頼の評価がなかなかに高い
もちろん圧倒的戦闘力のおかげもあるが、護衛という性質上一緒に過ごす上でむさ苦しい男より可愛い子がいた方がいいらしい
その上教養があるため商人が連れる丁稚に軽く授業をしたり魔法で暇を潰してくれるのがかなりの評価になっている
Aランク相当、つまりAランクよりは料金が安い
安い、強い、可愛いのお得三点セットである


もちろん高ランクになるとソロ活動する人はたまにいるがそれでも極わずかだ
特に期日の長い護衛は基本複数人で商隊を囲む必要があるが魔法、しかもシズキはかなりの広範囲を知覚できる魔法を持っているためその必要がない
その気になれば寝なくても大丈夫な身体のため夜間の見張りも一人でおこなえる
しかも人間水タンク
旅の中で最も重要と言ってもいい水の心配が無いのだ
その分積める積荷の量も変わる
やはり魔法使いというのは存在だけで便利すぎる


所変わって討伐ギルド


「おはようございます
おや、シズキくん珍しくちゃんとしてますね」
と、受付に行った途端こんなことを言われた


「えぇ…
僕普段そんなちゃんとしてない格好ですかね?」


「そりゃ皆さん鎧などで身を守る格好してる中で一人普通の半袖シャツとパンツなんて、市民みたいな格好じゃないですか」


「あー、ですね」


「今もコート着てるだけでとても冒険者とは思えませんが」


今日の格好はいつもとは違いかなり真面目な正装なのだ
灰色のトレンチコートの中は黒のシャツとベージュのパンツだ
そして前閉めるのが嫌いだからコートの前は開いたまま
さらに今日は珍しく腰に剣も掛けている
コートの帯が帯刀ベルトになっており、前を閉めないと音も鳴るしぶっちゃけ邪魔だ
だがこのコートは内側に多数のフラップポケットがありナイフや火打石、薬草などからできる簡易な傷薬などを入れられる
でも基本みんなは胸当てやら手甲やら身体を守るものを着ているため僕がいくら便利さを謳っても聞く耳も持ってくれない


「んなリスク背負わないで背負い袋に入れりゃいいだろ……」
としか返ってこない
結局斬られたら面倒だよね…ということらしい


そもそもそのような身体を守る武具がいらないのは魔物の攻撃を受けないことを前提とした人間離れした身体能力、または技を持った者だけだからだ
それかただのアホ


ちなみに今日はちゃんとしたブーツも履いている
周りは基本ブーツインだが単純に足が締まる感覚が嫌いなのでしない
汚れるけど僕は自分ですぐに洗えるしね


「今日は指名依頼なのでねー
担当のハイツさん呼んで貰えますか」
基本指名依頼はギルドが仲介となり窓口となる
依頼料や日数、それにかかる費用などの見積もりなどをやってくれる
そしてそれが指名された側に提示され受けるか否かを決めるのだ


「シズキ様、今回は指名依頼を受けていただき誠にありがとうございます
ネイラー商会のペラルゴン、ロマイン国間、計5日間の護衛任務を受理します、よろしいですか」


「はい、お願いします」


「では、これをお持ちになって下さい」
とカードを渡される


「こちらが今回の帰還の費用、並びにロマイン国での護衛任務完了のためのものでございます」


「いつも説明ご苦労様です」
この手の説明は毎回規則でしなければならないらしく正直内容はだいたい覚えてしまった


「いえ、規則ですので」


「ネイラーさん帰りのお金いらないって言ってるのに毎回律儀にくれるんですよねー」


「いいことじゃないですか、渋る人も多いんですよ?
そういえばシズキさん普段帯剣なんてしてました?」


「いや、ちゃんとするのは久しぶりです
改めて歩くのに邪魔だなぁって
この前市歩いてたら面白いの見つけまして」


「その剣…ですか?」


「なんか魔剣の失敗作らしいです
どっかの軍から卸されたもので面白そうなので買っちゃいました」


「失敗作?失敗作は重いだけのガラクタのはずでは?」


普通はそうなのだ
特殊な合金を使った剣には魔法を込められるのだがそのチャンスが一度しかない
魔法を封じ込めるという性質のため一度失敗すると中身が空洞の細胞のような状態となり二度と魔法を込める事ができない


「だったんですけどよくよく見たら魔力の隙間?みたいなのがあったので買って試してみたらいけちゃいました」


「ちなみにどんな魔法を込めたとかいうのは……」


「さすがに秘密ですよ」
さすがに骸喰いを見せるわけにはいかない
剣から人を喰いちぎる何かが出てくるものなんてそうそう見せられるものじゃない


「んじゃま行ってきますね」


「はい、くれぐれもお気をつけて
シズキさんなら安心ですね」
金のポーズをするな金のポーズを……


指名以来の仕事を受ける受付嬢は依頼料などの一部をマージンとして受け取れるのだ
依頼が失敗、あるいはクレームなどが入るとその料が減ってしまうためこんなことを言っている
この世界、しかも討伐ギルドの職員なんていう超絶エリート職に、何倍もの倍率を勝ち抜いてきた嬢達だ
面構えが違う
好待遇で基本終身雇用
命の心配も無い
そりゃあ倍率も跳ね上がる訳だ


さて、とりあえず指定の時間まではあと少しあるから大陸随一の商いの場、ペラルゴンマニュエル地区上位層の市にでも行きますか


「やっべ、今現金持ってねぇわ」
と言いすぐさまギルドに引き返すシズキであった
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?

みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。 ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる 色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く

うちの娘が悪役令嬢って、どういうことですか?

プラネットプラント
ファンタジー
全寮制の高等教育機関で行われている卒業式で、ある令嬢が糾弾されていた。そこに令嬢の父親が割り込んできて・・・。乙女ゲームの強制力に抗う令嬢の父親(前世、彼女いない歴=年齢のフリーター)と従者(身内には優しい鬼畜)と異母兄(当て馬/噛ませ犬な攻略対象)。2016.09.08 07:00に完結します。 小説家になろうでも公開している短編集です。

全校転移!異能で異世界を巡る!?

小説愛好家
ファンタジー
全校集会中に地震に襲われ、魔法陣が出現し、眩い光が体育館全体を呑み込み俺は気絶した。 目覚めるとそこは大聖堂みたいな場所。 周りを見渡すとほとんどの人がまだ気絶をしていてる。 取り敢えず異世界転移だと仮定してステータスを開こうと試みる。 「ステータスオープン」と唱えるとステータスが表示された。「『異能』?なにこれ?まぁいいか」 取り敢えず異世界に転移したってことで間違いなさそうだな、テンプレ通り行くなら魔王討伐やらなんやらでめんどくさそうだし早々にここを出たいけどまぁ成り行きでなんとかなるだろ。 そんな感じで異世界転移を果たした主人公が圧倒的力『異能』を使いながら世界を旅する物語。

お前じゃないと、追い出されたが最強に成りました。ざまぁ~見ろ(笑)

いくみ
ファンタジー
お前じゃないと、追い出されたので楽しく復讐させて貰いますね。実は転生者で今世紀では貴族出身、前世の記憶が在る、今まで能力を隠して居たがもう我慢しなくて良いな、開き直った男が楽しくパーティーメンバーに復讐していく物語。 --------- 掲載は不定期になります。 追記 「ざまぁ」までがかなり時間が掛かります。 お知らせ カクヨム様でも掲載中です。

神の使いでのんびり異世界旅行〜チート能力は、あくまで自由に生きる為に〜

和玄
ファンタジー
連日遅くまで働いていた男は、転倒事故によりあっけなくその一生を終えた。しかし死後、ある女神からの誘いで使徒として異世界で旅をすることになる。 与えられたのは並外れた身体能力を備えた体と、卓越した魔法の才能。 だが骨の髄まで小市民である彼は思った。とにかく自由を第一に異世界を楽しもうと。 地道に進む予定です。

ぽっちゃり令嬢の異世界カフェ巡り~太っているからと婚約破棄されましたが番のモフモフ獣人がいるので貴方のことはどうでもいいです~

碓氷唯
ファンタジー
幼い頃から王太子殿下の婚約者であることが決められ、厳しい教育を施されていたアイリス。王太子のアルヴィーンに初めて会ったとき、この世界が自分の読んでいた恋愛小説の中で、自分は主人公をいじめる悪役令嬢だということに気づく。自分が追放されないようにアルヴィーンと愛を育もうとするが、殿下のことを好きになれず、さらに自宅の料理長が作る料理が大量で、残さず食べろと両親に言われているうちにぶくぶくと太ってしまう。その上、両親はアルヴィーン以外の情報をアイリスに入れてほしくないがために、アイリスが学園以外の外を歩くことを禁止していた。そして十八歳の冬、小説と同じ時期に婚約破棄される。婚約破棄の理由は、アルヴィーンの『運命の番』である兎獣人、ミリアと出会ったから、そして……豚のように太っているから。「豚のような女と婚約するつもりはない」そう言われ学園を追い出され家も追い出されたが、アイリスは内心大喜びだった。これで……一人で外に出ることができて、異世界のカフェを巡ることができる!?しかも、泣きながらやっていた王太子妃教育もない!?カフェ巡りを繰り返しているうちに、『運命の番』である狼獣人の騎士団副団長に出会って……

憧れのスローライフを異世界で?

さくらもち
ファンタジー
アラフォー独身女子 雪菜は最近ではネット小説しか楽しみが無い寂しく会社と自宅を往復するだけの生活をしていたが、仕事中に突然目眩がして気がつくと転生したようで幼女だった。 日々成長しつつネット小説テンプレキターと転生先でのんびりスローライフをするための地盤堅めに邁進する。

蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる

フルーツパフェ
大衆娯楽
 転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。  一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。  そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!  寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。 ――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです  そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。  大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。  相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。      

処理中です...