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第10話 陣地構築

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 翌日。ルークスは兵士五千を率いてクレートの町に来ていた。

「ルークス様、本当に穴を掘るだけでいいので」

 ルークスは連れてきた兵の他にクレートの住人を雇っていた。

「ああ、穴というか溝《みぞ》を掘るだけで日当と今日の昼食は出すぞ。さすがにそんなに高額な日当は出せないが」

 さすがに付け焼き刃で塹壕までは掘る時間がないからな。ルビン商会から買い取ったスコップ、鋤《すき》、鍬《くわ》を貸しながら溝を作っていた。

「手の空いてる人は、柵と杭を作ってくれ。クロスボウ隊とロングボウ隊は空き地で練習を、斥候部隊は周辺の伏兵の確認を頼む」

 司令官になったばっかりで不安だったが、今のところ反発はされてないな。学園での悪評はローラント地方に来てからは一切聞いてないから、こっちにまで情報が来ていないのかもしれない。まぁ、最前線なんだから王都の噂より現実優先なのは当たり前か。

「明日いや、明後日か」

 ルークスは呟いた。

「何が?」

 シドルが聞き返してきた。

「多分だけど明後日戦闘になる可能性が高いと思って」

「その可能性は高いでしょうな。しかし、本当に良かったので?」

「何がです?」

「ルークス殿は今回弓兵と工作隊を大量に動員しましたけど、騎兵はほとんど動員していない。他には剣兵と槍兵ではないですか」

「……一応理由があってそうしている。少なくとも騎兵同士の正面衝突はさせるつもりはない」

 今回の作戦は敗北の可能性は低いはず、ただ痛み分けになる公算は結構高いかもしれない。

「シドル将軍は私が敗北した場合に備えて後方に騎兵中心で待機を頼みます」

「……それは構わんが、本来なら総司令のルークス殿が後方では?」

「普通ならその通りです。しかし、今回は任命された時から普通の状況ではありません。学園を追放された人物をそのまま最前線の総司令に王命をもって任命するのですから。実戦経験がないのにですよ?」

「しかし、これで失敗したらルークス殿は……」

「まぁゴルゴダルラ軍の捕虜になったら命は危ういでしょう。仮に逃げ切っても王都で責任追及されるでしょうね」

「失脚する可能性高いですな」

 ルークスは少し笑った。

「学園を追放されたので、ある意味ではとっくに失脚してますよ。学園では私を恨んでいる人が多いので、その方々は私が亡き者になることを望んでいるでしょう……ああ、そういう可能性もあったか」

「??……何の可能性です?」

「今、言った通り私を亡き者にするためにローラント地方に赴任させた可能性です。アトカーシャ家の身分を考えると一般兵にするのは難しい、総司令に任命すればさすがに拒否されない。少なくとも相応の理由がなければ」

「なるほど」

「後は一般兵ならある意味逃げ出すのは楽です。乱戦になりそうなら単身で逃げ出せばいいのですから。総司令なら逃げ出せない、仮に逃げ出せばそれを追及して処刑すればいい」

「私は学園でのことは噂でしか知らないのでなんとも、しかし学生がそんなこと考えますかね?」

「まぁ確かにそこまで考えている可能性は低いでしょう。ただ私が嫌われ者なのは本当なので、単に学園を追放を確実にするためにやった可能性もありますけど」

「最前線の現場としてはたまったものではないですな。今回ルークス殿は我々を頭ごなしに否定したり、総司令の立場をかさにきたりしなかった。なので我々としても受け入れられましたが本物の無能がきたら……冷や汗ものですよ」

「私は少々特殊な立場ですから、普通なら赴任させるにしても援軍の形をとるでしょう?」

「確かに普通なら援軍の形を採るはず……」

今までシドル将軍が指揮官で特に問題はなかったにもかかわらず、政治的な理由で私を強引に赴任させたのだから。
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