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最終章EX 星の英雄
176.従魔契約と帰還
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【では、従魔の契約をしよう。ゼンは、ジークの両手を、自分の両手で包み込む様に握るのじゃ】
早速の従魔契約。
ゼンは言われた様に、ジークの手をそっと握りしめる。冷たい、機械の手だ。
「……この手とか身体全般ですが、体温とすると変なので、上げられませんか?」
契約術を進めているミーミルではなく、テュールの方に聞いてみる。
【自動調整機能があった筈だが……そうか、AIを初期化した為だな。その機能の情報箇所のみ、ジークの記憶に移植して調整はこちらでしよう】
【オホン。では、従魔契約を。ジーク、目をつむるのじゃ。ゼンはそのままで】
ミーミルが、司教か何かの様に、厳(おごそ)かに告げる。
「は~い」
どこか楽しそうなジーク。
「……分かりました」
何か嫌な予感がするゼン。
【ゼン、ジークに顔を近づけて、誓いのキスを】
「……!これ、結婚か何かの儀式ですか!?」
【同じ様なものじゃろうが。神聖な誓約じゃ。邪(よこしま)な照れなどいらぬ。早くせい】
テュールは、別にそんな事をする必要がない事を、知ってはいるが、黙っている。
「何でそんな……」
ゼンはブツブツ言いながら、ジークの唇に軽く自分のそれを重ねた。
その瞬間、ジークとゼンの身体がほのかに光り、二人の下に魔法陣が現れた。どうやら、従魔契約が成されたようだ。
【……別に、額や頬でも良かったのじゃがな】
「終わってから、肝心な事を言う!!この老神は……」
ゼンが忌々し気に睨んでもどこ吹く風と、平気にふわふわ浮かんでいる。
ジークは、早速念話で中の従魔達と話をしている。仲魔が出来て嬉しそうな様子だ。
【仲間以外に、ジークの正体を明かす必要はないじゃろう。不必要に混乱させても、お主が困るだけじゃろうからな。それに、ジークの機械の科学技術(テクノロジー)は、今の文明では複製どころか、何が何の部品であるか、その意味すら分からんじゃろう。
バレても、何も起こらんと思うが、一応秘密にしておく方が良い】
ゼンは神妙そうにうなずいた。
「……それじゃ俺達は、フェルズに戻りますね」
【うむ。世話になったな。ゼン。余り言われたくない様だが、そなたは星を救った救世主だ。我等一同は、まだ継続して、この世界を見守れる事を喜んでいる。神々の感謝を……】
【お主との宇宙旅行は、実に興味深い体験じゃった。機会があれば、またいずれやりたいものじゃな。儂も感謝をしておるぞ】
全てが終わった後から、妙に礼節正しく、ゼンに対して丁寧な態度を取るテュールと、まるで変わらないミーミル。
“アレ”があってから、まだ日はそう過ぎていないのに、妙に懐かしく感じる。
「俺としては、神様に関わるような事は、もう御免こうむりたいですけど、まだ虚無の神ヴォイドとの対話も残ってますから、会う機会もあるんでしょうか」
「……ここはもう、制約の緩い世界となったからのう。何でもありかもしれんぞ」
アルが、悪戯っ子の様に、ニヤニヤ笑って嫌な事を言う。
ゼンは、それに顔をしかめる。
そして、少し迷っていた風だが、最後だからと口を開いた。
「あの……俺が言わなくても、対処してると思いますが、ヴォイドの―――」
【ゼン。皆まで言う必要はないぞ】
【うむ。ヴォイドが現れた宙域から、その進路は全て、神界の重要監視対象と指定されておる。ジークと戦った戦場も全てな。もし、一欠けらでも、奴等の分裂した個体が残っていても大丈夫じゃ】
【奴等が、次元を渡れる程にエネルギーを貯めるには、ネルギーを大量に吸収して大きくならねばいかんのだが、その前に必ずこちらの監視網にかかる。こちらは、次元封鎖をしなければ、力は振るい放題だ。星の脅威として成長する事などなく、幼体の段階で始末が出来る。心配はいらぬぞ】
【多少は隠蔽能力を持っておろうが、エネルギーの流れ、力の推移によって、その存在は隠し切れんものとなるのじゃ。お主は安心してフェルズに戻るがいい】
神々の態勢は万全の様だ。ゼンの心配など杞憂でしかなかった。
テュールとミーミルの、ゼンを見送る視線は、心なしか穏やかで暖かな感じがする。
神々には不遜かもしれないが、1カ月近くを、同じ目的で狭い機械の中で過ごした、同士のような風に、ゼンは感じていた。
だから、別れも少し寂しく切ない。
「じゃあ、アル、お願い。ジークも手を繋いで」
「うむ。フェルズまで、一っ飛びで転移じゃぞ」
「それでは、また……」
ジークの手を左右、アルとゼンとで分けているので、左手を振り、別れを告げた。
二柱の神々は、青と赤の光を明滅させ、一行を見送るのであった……。
※
「よっと」
アルティエールが転移したのは、ゼン達の住居、小城フェルゼンの屋上だった。
少し屋上から浮いた所で、軽く三人は降り立つ。
「……なんでまたここに」
「転移しやすいのでな。余り入り組んだ場所や、人通りのある場所で、重なったりしたら大事故になるのじゃ」
「その場合って、重なって固まる?壁とかだと、その中に、とか」
「そんな生易しい話ではない。分子結合して大爆発になる。まあ基本転移は、特定空間の入れ替えがお勧めじゃな。空気毎の入れ替えが普通で、その場合、物があっても元の場所にその分が入れ替わるだけとなる」
「……人とかだと大迷惑じゃ?」
「無論な。じゃが転移とは、移動する場所を透視で確かめ見れる。視覚を先に転移させる様な感覚でな」
「なるほど。それなら安全だ」
「絶対とは言えぬぞ。転移した瞬間、走って来た者がそこに来る可能性とてあるのじゃ。だから、人通りの少ない場所、見通しのいい場所に転移するのが無難じゃ」
「……転移って、もっと気楽なものかと思っていたけど、結構大変なんだな」
「うむ。空間系の術はデリケートなのじゃよ。わしの様に、熟練者でなければ危ないのじゃ」
「……はいはい」
とにもかくにも、フェルズにやっと戻って来たのだ。
フェルズの住宅街も街並みを見渡し、胸に来るものがある。
ある意味、悪夢の様な世界から、まともな現実に戻って来たような気すらするゼンだった。
風も、匂いも、フェルズ独特のものがある。
自然と涙が出そうになるのを、ゼンはなんとか我慢した。
無事に帰って来た。五体満足で。怪我や欠損などは、リャンカに治してもらえるが、自分の弱さや間抜けさを見せるみたいで嫌だった。何もないのが一番いい。
ゼンは、フェルズに戻って来た感慨に、しばしふけた後、ジークに話しかける。
「ジーク。これからここに住むんだよ」
「ここ、おうち?」
ジークがキョロキョロ見回しているが、ここはフェルゼンを見せるには不適当な場所だった。
「ここは屋上。足元の建物だよ」
「へー、ほー、ふーん」
ジークは、足元を見て、飛んだり跳ねたりしている。何もかもが珍しいみたいだ。
(……屋上、抜け落ちたりしないよな)
ゼンも、スラムから出て、配達の仕事をもらい、色々な場所に行ける様になった時、同じ様な感じだったな、と思いだし苦笑する。
しばらくすると、ドタドタと音がして、屋上にある、出入りの為の蓋のような木製のドアを開け、ミンシャとリャンカがやって来た。
「ご主人様ご主人様義主人様~~~~ですの!」
「主様、お帰りなさいませ」
ミンシャはゼンに飛びつき、リャンカはシズシズと上品に出迎える。
「ただいま、ミンシャ、リャンカ。長く留守にして、心配かけたね」
抱き着くミンシャを頭を撫でて落ち着かせ、ゼンはリャンカにも微笑みかける。
それは自然体で、意識してやっているものではない。
「……こやつ、天然じゃな」
「?何が??」
「分かっておらんならいい……」
「その、不思議な色合いと服装の子が、新しい従魔なのですか?」
リャンカが、遠慮がちに、ジークを見て質問して来た。
「うん、そう。ちょっと変わった経緯で従魔になったから、詳しくは俺の記憶の方を見て。この身体は機械で、元の身体から移したらしいんだけどね」
「……へぇ。なんだか、すっごく珍しい感じですの」
「……確かに。魔獣の魂を、機械の身体に移して、従魔にした感じ、でしょうか」
記憶を読んで、元は機神(デウス・マキナ)だと知っても、理解が追い付かないだろう。
「うん、そんな解釈で合ってはいると思う。
ミンシャ、リャンカ。ジークはしばらく二人が世話してもらえるかな?機械の身体で、重い事を抜かせば、力持ちなだけの、まだ精神年齢が幼い子なんだ。常識とか、言葉とか教えてあげて欲しい。一応仕事の方も。メイド見習い、でいいかな」
「はいですの!」
「お任せください」
「じーく、おしごとするの?」
「色々慣れて、出来るようになったらね。急がなくていいよ」
と言っても、ジークの頭脳は、機械のCPUだ。AIの成長機能もままあるので、計算とかすぐ覚えられる様な事を、神々が言っていた。
「先輩として、お願いするね。ところで、今は冒険者PT、どこかいるのかな?」
「あ、はい。十日ほど前に、爆炎隊の皆さんが帰って来られました。無事に、攻略(クリア)されたそうです。それと、15分程前に、西風旅団の皆さんも帰って来られました」
「え、みんなも?『悪魔の壁』の1階からだよね。随分早いな」
(タイミングが良過ぎる。神々の方で、時間調整をしていた?ジークの調整は、むしろいい訳として使われただけかも……)
ゼンがアルを見ると、アルも、そうじゃろ、的に頷いている。
「皆さん、主様がいた時よりも、時間がかかったと、こぼしておられましたが」
リャンカは笑って、さっき聞いたばかりの話をする。
「あれは、事情があって、急いだからだよ。義母さん(ギルマス)を待たせてたから」
「ゼン、ともかく中に入ろうではないか。積もる話は茶でも飲み、ゆくっくりしながらでいいじゃろう」
アルがもっともな事を言った。
「そうだね。皆はそれぞれの部屋に?」
ゼンは、城の中に入る出入口に向かいながら聞いた。
「いえ。食堂で皆さん、話されてます。大勢で一緒に話せるのはそこしかないですから」
「成程。なら、帰った挨拶の手間も省けるか」
ゼンは、中に入りかけて止まる。
いかにも非常用の、木のはしごを斜めに立てかけただけの物だったからだ。
これでは、ジークの重さで折れそうだ。
「ジーク、ちょっと気を付けて……も意味ないか」
「ああ、わしが重力魔術で、ジークを普通の重さにしておこう」
「……なんか、アル、気が効くね」
「わしは、最初から有能じゃ!」
リャンカは、ジークが降りるのに手貸しつつ、その様子を見て、少し不審そうに言う。
「なんだか、主様とアルティエール様、阿吽の呼吸、みたいになってますね……」
「……まあ、今回、ずっと一緒に戦ってたからね」
「わしもすでに三番目じゃからな」
アルは自慢げに、はしごを降りた後、またない胸を張る。
「……そういう約束だったからね」
「付き合いの長さでは、他に負けてしまうのじゃが、密度が―――」
ゼンは無理矢理、アルの口を塞ぐ。
「アル、俺は、そういう差別とか区別とか嫌だって言っただろう?」
「それはそうじゃが、自慢ぐらい……」
物凄く不満げなアル。色々と、前途多難っぽい。
リャンカに続いて、ミンシャまで不審そうに見ている。何故かジークも真似して見ている。
「ほら、1階の食堂に行くよ」
ゼンは四人をせかして、正規の階段の方に行く。
(ジークに、重力魔術を付与したアクセサリーか何かの魔具を造れないか、ハルアに相談してみよう。建物とかもそうだけど、他にも影響しそうだしな……)
ゼンの悩みは尽きない……。
*******
オマケ
ミ「と、言う訳で、ミンシャのラブラブ生活の始まりですの!」
リ「いや、それないから」
ミ「なんでですの!」
リ「婚約者になった、はともかく、奥様方も、日替わり交代なのよ。それに、アルティエール様も加わったみたいだし、犬先輩の想像通りにはならないと思うわ」
ミ「ミンシャの夢が~~」
リ「まあ、五日おきとかで、独占出来る日を設けてもらえると思いますから、前よりよっぽどいいですよ」
ミ「ううぅぅ。そうかも、ですの……」
リ「私はもう割り切って、その日が来るのを楽しみに待ってますけどね」
ミ「み、ミンシャだって、そうですの!」
と、言い合いになる二人。
ゾ「あれ見ると、帰って来たって思えるな」
セ「分からないでもないですけど、変でしょ、それ……」
ガ「混沌日常……」
ボ「本当、仲いいよね」
ル「あれが、ここのいつもふーけー、だお」
ジ「はーい、るーせんぱい」
ル「でへへへ。るーもせんぱい、なったお~」
ジ(ニコニコ)
ゾ「こっちはこっちで微笑ましいな…」
セ「心、温まりますね」
ガ「陽だまり日常…」
ボ「仲良しさんになったね」
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