176 / 190
最終章EX 星の英雄
172.生還帰還(3)
しおりを挟む※
二日目に、二柱の神々と、報酬について話し合った以外は、ゼンは静養、としてムーザルの研究施設に留まる事になった。
【一つ目の報酬、虚無の神ヴォイドはその罪を免除、拘束結界から解放され、今は自由の身となった。お前との話し合いにも、いつでも応じる、との事だ】
赤い光を立方体(キューブ)に内包したテュールは、そう告げた。
「……それだけ、ですか?俺が感謝してる事とかは……」
【話したが、話合いに応じる、以外の事は言っていないようだな。感謝の言葉すらない】
「そうですか……」
別に恩着せがましく、礼の言葉を期待していた訳ではないが、何か一言あってもいいと、ゼンは思ってしまう。
【……余り気にするな。ヴォイドはいつでも、どの神を相手にしても、そのような感じだからな。だからこそ、虚無の神なのか、アレの胸中を窺い知れる者などおらぬよ】
テュールに気遣われてしまった。
そんなに、解りやすく落胆した様に見えたのだろうか。あるいは、神だから、ある程度こちらの考えんど透けて見えるのかもしれない。
「……解りました。俺の方もその……万全の状態に戻ってから、お会いしたいので、それは後日、という事で」
【うむ。了解した。それと、二番目の、そなたの正体、と言うべきなのか……ゼンが、何であるかの話なのだが……】
「はい……」
ゼンは思わず息を飲む。
ミーミルは、知ったら悲しむ事になる、知るべきでない事、とまで言ったのだ。余り良い話ではないのだろう、と当たりはつけている。最も、それが何であるかの予想は、まるで立てられないが。
異世界の人間だったり、何か化物的なものだったり?だとしても、余り驚きはない。調べてくれたパラケス翁も、それらの予想は並べていた。
【……ヴォイドとの話合いの時に、彼から聞いてくれ。彼が、禁を犯してまで、そなたに接触した事も、それに関係するだろうから、必然的にその話は出る筈だ】
ゼンの期待は、ものの見事に肩を空かされた。
「……随分と勿体ぶるんですね」
【すまぬ。単に、言いにくい事を、アレに押し付けているだけなのだ……】
「ゼンは、傍らで青い光を内包する立方体(キューブ)、ミーミルの方も見てみるのだが、
【何を求められているのかは分かるのじゃが、謹んで辞退させてもらおうかな】
とにべもない。そんなに言い辛い事なのか、余計に気になってしまう。ある程度以上の覚悟が必要な事のようだ。
「……解りました。俺にも心の準備がいる事だし、丁度いいと思う事にします」
【助かる】
【悪いのう。代わり、と言っては何だが、他に答えられる事であれば、いつでもわし等に聞いて欲しい。妙な事ではない限り、応じられる筈じゃでな】
【うむ】
「はい。では何かないか、考えておきます」
神に質問出来るなど、普通、滅多にない機会だ。大抵の事に答えてもらえるなら、今まで疑問に思っていた事を、メモにでも書いてまとめて質問してみよう。神でもなく、アルでも答えられる事もあるような気がするが、アルは気ままだ。真面目に答えてくれるか分からない。
※
それから、食事は自動料理機械、とやらの作ったおかゆになったりしたが、やはり栄養重視で美味くも何ともない。
3日目からは、自分で料理する事にした。
初日のみ、車椅子などに乗らされたが、2日目からは、普通に立って歩く事にする。
意外と身体が重い。無重力下での期間が長く、筋肉がなまっているかららしい。
考えてみれが、星に降り立ったのは、火星の衛星ディモスと火星、そして月だが、どこも重力は、母星よりも弱く、何よりジークから降りていないので、ただ座ったままの生活が続いていたのだ。筋肉が弱らない訳がない。
施設内の廊下を、重い身体でやっと歩き、アルに聞いてみる。
「俺達が、宇宙に行ってた期間って、どれぐらいになったんだ?」
「むう。お主が、眠っていた日にちも足すと、一カ月近くになるかのう」
思っていた以上に長い。というか、眠っていた期間、て何なのだろうか。
あの、闇に落ちて行くのと、女神ヘルと会い、話合った時間の全部を足しても、体感時間で半日も経っていないと思うのだが。
施設内のリハビリ室、とやらで、アルと一緒に軽い運動をしつつ、丁度いいので、付き添って来た二柱の神々に問う。
「女神ヘルと対話をしていた時間は、何故4日も経過したのでしょうか?冥府の領域、という話でしたが、よくある話で、そこと現実世界とでは、時間の流れが違うから、とかですか?」
【【………】】
嫌な無言の時間と間。
【冥府のある下層は管轄外なので、よく知らぬのだが、そうかもしれんな……】
【儂等とは、関係性の薄い場所じゃて、そういう事もあるかもしれんのう……】
二柱とも、何も断言してくれない。そもそも、謎の間が怖い。
(俺は、丸三日以上眠らされて、何かされた……?魂の状態で、何をされるって言うんだ。バカバカしい……。あれ?いや、魂に何かされる方が、もっと危ないんじゃ?)
ゼンは、散々頭を悩ませて、考えたが、答えが出る訳もなく。
「……アルは、何か分かるかい?」
「色ボケ女神がナニをしたか等、わしが知るか!」
不機嫌に口を尖らせて、プイと横を向く。
昔、女神との間で、いさかいでもあったのだろうか?ゼンには窺い知る事の出来ない事情だ。
ナニって、ナニですかねぇ。
それはともかく、真相は、ヘルがゼンの記憶を、魂から抜き出して、じっくり観賞し楽しみ、記録に残しただけであった。
世界の膨大な記録は、世界樹にログとして残され、上位の神であればそれを見る権利があるが、それはあくまで外側から見た風景。
ゼンの内面は、スキルという神の加護のない彼では、特殊な方法を取る以外に見る事は出来ない。例えば、無防備な魂の状態の時、等々……。
ゼンの、生涯の記憶、その全てが、少年自身の視点から見れて、その時々の感情、思い、考えを、赤裸々に、少しの洩れもなく見られてしまったのだ。結局は、ゼンが知らない方がいい話な事に、変わりはなかった。
それからもゼンは、時折この空白の三日間の事を思い出し、何があったのだろう、と悩み続ける事になるが、その答えは闇の中。決して、明確な答えを得られる事はなかった。
※
ゼンのリハビリは、順調に進んでいた。
三日目からは、自分で料理を始めた。
ムーザルの施設は、基本的にほとんど機械の全自動化がなされていたが、機械が壊れた緊急時用に、手動で出来るものも多少あり、料理の部署もその一つだった。
鍋やフライパン等はあった。
施設の全てをまかなっている電気を動力源とした、コンロ等の過熱機械もあった。
火がないのに過熱が出来るのは、ゼンには不可解で不気味だが、あるがままを受け入れて、料理をしてしまうのがゼンという少年だ。
食材系は、収納に余りたくさん入れていなかったが、調味料の系統は一通り揃っている。今回の仕事は、街中での魔族の過激派組織の殲滅であった為に、食材はほとんどフェルゼンで使う用に残していったのだ。
調味料と、干し肉やパン等の非常用は、常に常備していたので、いきなりの長期任務(と言うべきなのか?)でも、何とか間に合った。同行者もアル一人だったので、パーティー単位で考えるゼンにとっては、1カ月でも余裕があった。
ただ、ここで料理、となると、食材となる物がなかったが、それは簡単に解決した。
周囲は海、という事で、エーギルが、食材となる魚介類を、この海底施設まで誘導して提供してくれたのだ。
それがなくとも、ゼンとアルなら、自力で、転移で出かけ、適当な場所で狩りなり、釣りなり何でも出来たのだが、まだ本調子でないゼンには有り難かった。
内陸地であるローゼン王国の辺境都市フェルズでは、川の魚以外、魚介類は、干したり燻製にした物ぐらいしか入って来ない。
海ぞいを旅した事もあるゼンは、久しぶりに、海の新鮮な魚介類を料理し、食べられる機会となった。
米を持って来なかったので、リゾットやピラフの様な物は作れないが……あれ?おかゆが出て来るって事は、米が貯蔵されているんじゃ?
自動機械が繋がっている素材貯蔵庫まで行くと、当り前のように米があった。
「全部、合成食品かと思ったけど、違ったんだ……」
食料貯蔵庫の様な、腐る可能性がある物の場所には、神が時間凍結処理をなされていて、ゼン達が滞在する事になって、それらが限定的に解除されたのだと言う。
物の鮮度は保証出来ないが、腐ったりとかはしていない。食べられる状態の食材らしい。
自動機械は基本それらを、あの味も素っ気もない完全栄養食に加工するのが役目で、一応の調理機能は、一部の物好きの為に残されていた機能なのだそうだ。
別に、理由とかはどうでもいい。食べられる食材が手に入ったのだ。
鍋で米を炊き、魚は煮たり焼いたり、他の貝類や、海老、蟹なども、それに合った調理法で料理する。
「なんでこんなに美味いのじゃ?お主はやはり、冒険者など辞めて、料理人になった方がいいのではないかや?」
そんな風に言われたのは、何度目だろうか。褒められても、微妙に嬉しくない誉め言葉だ。冒険者の素質を、全否定されているのだから……。
「一家に一台、ゼンが必要じゃな」
目を輝かせて、魚を頬張り、海老を殻ごとかみ砕き、蟹の身を指先の力だけで簡単に割って身を取り出し喰らう、野獣のごときハイエルフ様がのたまう。
「一台って……」
これも褒められているのだが、物扱いされていて、今一つ嬉しくない。
そうして、食卓だけは、彩り豊かに、豪華になり、その日の食事は久しぶりに楽しいものとなったのであった。
*******
オマケ
ミ「もうすぐ、ご主人様が帰って来ますですの!」
リ「そうね。そして、サリサ様も帰って来られたら、正式に私達の事が……」
(二人とも、ニマニマだらしなく笑っている)
ミ「ああ、婚約ですの!月日が経てば、妻、奥様ですの!」
リ「感慨深いわね。主様が、私達の事を、あんなにちゃんとお考え下さっていたなんて……」
ミ「でも、他の仲魔達の話だと、かなり危ない戦いだったと言ってたですの!」
リ「やっぱり、ついて行きたかったわね。肉体的に怪我とかはなかったらしいから、私も活躍出来なかったかしら?」
ミ「むう。ミンシャにも、あの駄狼達みたいなスキルがあれば……」
リ「あっても、危険に晒したくない、と主様は連れて行ってくれないとは思うけど、それだけ想われていると考えると……」
ミ「もう夢見心地ですの……」
(二人の幸福反芻時間は続く……)
0
お気に入りに追加
25
あなたにおすすめの小説
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる
フルーツパフェ
大衆娯楽
転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。
一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。
そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!
寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。
――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです
そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。
大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。
相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。
婚約者は、今月もお茶会に来ないらしい。
白雪なこ
恋愛
婚約時に両家で決めた、毎月1回の婚約者同士の交流を深める為のお茶会。だけど、私の婚約者は「彼が認めるお茶会日和」にしかやってこない。そして、数ヶ月に一度、参加したかと思えば、無言。短時間で帰り、手紙を置いていく。そんな彼を……許せる?
*6/21続編公開。「幼馴染の王女殿下は私の元婚約者に激おこだったらしい。次期女王を舐めんなよ!ですって。」
*外部サイトにも掲載しています。(1日だけですが総合日間1位)
【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?
アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。
泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。
16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。
マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。
あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に…
もう…我慢しなくても良いですよね?
この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。
前作の登場人物達も多数登場する予定です。
マーテルリアのイラストを変更致しました。
魔境に捨てられたけどめげずに生きていきます
ツバキ
ファンタジー
貴族の子供として産まれた主人公、五歳の時の魔力属性検査で魔力属性が無属性だと判明したそれを知った父親は主人公を魔境へ捨ててしまう
どんどん更新していきます。
ちょっと、恨み描写などがあるので、R15にしました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる