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第3章 従魔研編

124.フェルズの裏事情

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 ※


「リュウさん、ラルクさん、ちょっと話があるんですが」

 とゼンは、二人をリュウの部屋に押し込んで、相談モードに入る。

「なんだ、ゼン。補佐役の子と一緒にハルアがこちらに住む事になった話か」

「いえ、それはもう、仕方ないと諦めてるんで……」

 多分、ハルアが自分で広めたか、自慢したかしたのであろう。

 ゼンとしては、エリンがハルアの味方をしてしまっている時点で、諦めていた。女子の友情は、時に男側の思惑を超える。アリシアとサリサの強い絆などを見ていると、特に自分などではどうにもしようがないと、しみじみ思うのだ。

「諦めるのか?」

 二人は意外だった。ゼンは、余りハルアの求婚(プロポーズ)を歓迎していない様に思えたからだ。

「ハルアには、彼女なりのちゃんとした理由がある事を聞いたので、とりあえず同居は受け入れる事にしました」

 ゼンは、ハルアから聞いた話を二人に説明した。

「へー。あの子が、そんなまともな理由から、ゼンを好きになっていたのか」

 旅立ち前の、ゼンが『超速便』をしていた頃の話と聞いて、素直に二人は驚いた。

 今までゼンにせまって来る子は、ゼンを『流水の弟子』として見る子がほとんどだったからだ。

「みたいです」

「でも、ゼン。理由に正当性があろうがなかろうが、自分に惚れて来る相手、全部を受け入れてたら、クランでなく、単なるハーレム城になるぞ」

 獣王国の二人の事が言いたいのだろう。ラルクの言いたい事は分かる。

「……全部が全部、受け入れるつもりはありません」

 ハルアは、エリンが自分と同じ部屋で同居するので、それを駄目だとは言いにくかった。

「でも、今のとこ、断った相手、いるか?」

「クランに有意義な人材のみを、受け入れてるつもりです」

 と言うか、そんな沢山はいない。ザラは、婚約してるし数に入れないで欲しい。

「そうなのかもしれんが、その内、身動き取れなくなるぞ」

 ラルクは、きつい事が言いたいのではなく、ゼンの優しさで流されて、後々困らないのか心配なのだ。

「サリサやザラさんは、何か言って来ないのか?」

 リュウとしては、もうこれは家庭内?問題になると思っている。伴侶が認めるなら、外野である自分達の出番はない。

「……俺にしか幸せに出来ない子もいるだろうから、独占するつもりはない。大勢の子を、幸福にしえあげて欲しい、と」

 サリサは言い、ザラはそれに同意している。

「随分サリサらしくない事言ってるな。それは、あくまで建前だろう」

 旦那を立てて、かしずくタイプには思えない。

「はい、俺も無理して、そう言ってると思ってます。

 だから、付き合うとか婚約とか、そういう意味での受け入れじゃないんです」

 その後どうなるのか、どしたいのか、自分でもよく分かっていない。

「ギルドとの兼ね合いもある。断り切れない子がいるのも分かるが、いつかそれで破綻する事のないようにな」

 リュウは、とりあえずそこで話を切り上げる。ゼンが幸せになるならそれでいいのだが、逆に負担になるようなら、自分達年上の者が止めるべきだろう。

「はい……。

 で、それとは別の話で、サリサから聞いた話なんですが、アリシアが『悪魔の壁デモンズ・ウォール』で、こういう話をしていた、と」

 ゼンは、やっと本題の話が持ち出せた。

「俺達5人揃えば無敵?」

「なんとも、意味深な言葉だな」

「後で、サリサがその話を聞き直したら、私、そんな事言った?と、覚えていないようなんです」

「あー、それは、“託宣”な可能性が高いな」

「“託宣”?」

「アリアが、巫女的な資質を持っている事は、ゼンも知ってるな?」

「一応は聞いてます」

 だから、レフライアも仲介役のような役目に利用したのだ。

「昔から、ちょいちょい予言めいた事を、アリシアが言う事があるんだが、大抵当たる。

 で、アリシア自身はその発言を覚えてないんだ」

「だから、“託宣”ですか……」

 神は、アリシアを介して、こちらに助言、あるいは忠告をしているのだろうか。

「しかし、5人いるだけで無敵なら、世話ないがな」

 ラルクは、言葉の意味通りには受け取れない、と否定的だ。

「その事で、二人に話が聞きたかったんです。

 二人は、五人揃っている時って、『どう』ですか?」

「どう、ってのは……」

「俺は、フェルズに帰って来てから、正確には、『悪魔の壁デモンズ・ウォール』に潜る様になってから辺りから、妙に調子がいい、好不調の波って、あるじゃないですか。

 それが、ずっと絶好調で固定されている様な感じだったんです」

 だから、色々無理も出来た。同調(シンクロ)など、使った後、すぐ意識を失うのが普通だった。

「そういう意味でなら、俺もそうだな。ただ俺は、ゼンから指導受けた“気”の強化で、強くなった感じがしてるのかも、と思ってたんだが」

「ああ、俺もそうだな。“気”の強化で強くなったのと、武器、防具が良くなったのもあるだろ?だから、前より何割か強いのが当り前だと思ってたな」

「じゃあ、俺がいないで、ゾートやガエイ達、従魔と野外討伐任務とか行ったじゃないですか。その時は?」

 やはり、5人いなかった時と比べないと意味がないだろう。

「ああ、それがあったな。あの時は……少し身体が重い感じがした。迷宮(ダンジョン)での疲れは、とっくに抜けた筈だったんだが」

「……確かに、『悪魔の壁デモンズ・ウォール』の時程じゃ、なかったな

 でも、本当にそんな事ってあるのか?」

 5人いる時は調子がいい、そんな現象が、普通あるだろうか?

「『五人揃う事に、意味がある』か。確か、勇者のスキルに『全体強化』ってのがあったな。パーティー全員に、その強さを分ける、とかなんとか」

「なら、それはゼンの力なんじゃないのか?」

「……俺にはスキルはないし、修行の旅の間は、誰といても、そんな風になった事、ありませんよ」

 変な風に買いかぶられても困る。

「……考えてみると、俺達、ロックゲート岩の門でパーティー組んだ時から、そうなんじゃないか?」

「ああ、最初、潜ったばかりの迷宮(ダンジョン)で、それなりに苦労してたが、ゼンが入ってから、やたら進みがスムーズになったな。

 でもそれは、ゼンが魔石を拾って足場を確保して、敵の注意を逸らしたりしてくれたからじゃないのか?ルート選択とかもあったし」

「……それも勿論あるが、何となくだが、攻撃の調子が上り調子になっていったのは、確かな気がする。ゼンはどうだ?」

「……俺も、初めての迷宮(ダンジョン)で張り切ってたのはあると思うんですが、普段より調子良かった気はします。

 大蝙蝠(ジャイアントバット)だって、初めて戦った魔物なのに、思ってた以上に身体が動いて、たくさん倒せたし」

「あれは、色んな意味で驚きだったな」

 三人は、しばし昔の懐かしき頃の話に花を咲かせる。

「ああ、それならむしろ、ゼンがいなくなってからのがひどかったな。皆、気落ちしてたせいで、もう色々グダグダになって、アリアの落ち込みようも、見ていられないぐらいだったからな」

 リュウは、今なら笑って話せるが、当時はそれどころではなかった。

「だなぁ。結局、確かにゼンがいた頃の調子は、取り戻せなかった気がする」

 ラザンを本気で恨んだりもしていた。

「じゃあ、本当に、『五人』がいる事に、意味があるんだろうか?」

「強化、と言うよりも、その時の実力が十全に出せている感じですね」

 実力以上に強くなった感じは、ゼンにはない。

「ふむふむ。運命に選ばれた、“五人の冒険者達”ってか?悪くはないが」

 それこそまるで、物語の主人公達だ。

「俺は、同郷の四人に割り込むような感じで、お邪魔虫じゃないのかなぁ、って昔は思ってましたけど」

「またそういう事言う。俺達は、本当にお前を足手纏いでもお邪魔虫でない、正式なメンバーとして勧誘したんだからな。じゃなきゃ、ただでさえ若い俺等のパーティーに、年下誘うなんて、普通なら論外なんだからな」

「うんうん。俺達は、確かに今、クランやら、ゼンが強くなったくれた事やらで、最良に思えるが、いなかった時の辛い状況を考えると、ずっといてくれた方が良かったんじゃないかと、何度思った事か……」

 怪我する前も、かなりギリギリな感じだった。

「こら、ゼン。何ニヤニヤしてるんだ?」

「いえ、俺、時々、本当に帰って来て良かったか、再認識したくなるから、そう言う事言ってもらえるのが嬉しくて……」

 ゼンは相変わらず、どこか自分の評価が低く、心に不安を抱えているようだ。

「帰って来てなかったら、ここは空中分解で、もうなかったよ。第一、お前はサリサと婚約してるんだから、今は、お前が抜けるとかなったら、サリサまでついて行きそうで怖いわ」

「……アリアもついていきそうだな」

「はあ?!なんでだよ!」

「いや、アリアって、恋愛より、友情至上主義みたいなところが……」

「さすがにそれはないだろう。少なくとも、どっちか選べないと思うぞ」

「アリシアは、リュウさんベッタリじゃないですか。あの二人の仲の良さは、親友なんだし、確かなんでしょうけど。……そう言えば、中々来ませんね」

「呼んでたのか?」

「はい。パーティーに来てる、ギルドの要請の事で話があったので。

 あの『五人揃って』て話は3人でしたかったから、少し遅れて来るようには言ったんですが」

 ゼンがドアの方を見ていると、そのドアが前触れもなく開く。

「あ、来た」

 サリサとアリシアは、ノックもなしにリュウの部屋に入って来た。

「そろそろいい?」

「うん、大丈夫だよ」

 二人が何故か嬉しそうに入って来る。

「食事以外で、五人揃うの久しぶりだね~~」

「結論は、出たの?」

 サリサは当然のようにゼンの隣りに座る。

「よく分からないね。確かに、昔からそういう傾向はあった感じだけど、確証がないから」

「まあ、そうよね。色々な要素が、相互に作用している感じだし、だからそれで絶対、って言えない気がするわよね」

「なになになんの話~~?」

 アリシアもリュウの隣りに座る。

「私達が、五人揃うと調子いいって話。シアも、補助術(デバフ)の調子がいい感じがするって言ってたでしょ」

「あー、うんうん。そうなんだよね」

(そうか、アリシアの補助術(デバフ)が良くなっているのなら、その作用は全員に及んでてもおかしくないんだ)

 アリシア以外の四人が、目配せでさりげなくその事を確認する。

 このパーティーの調子は、本当に個々の調子が有機的に絡み合って、一つの生物の様に、パーティー全体の調子にも作用する。一概に、何がこれ、どれがそれ、と単純に言える話ではないのだ。

「まあ、結局は、私達が五人が、ベストメンバーのパーティーって事で、いいんじゃないの?」

「そう、だね」

 この事は、いくら突き詰めても結論は出ない気がする。

 それに、放置していても、悪い方向での話ではないのだ。結論は出なくても構わない。

「じゃあ、俺の方からの、ギルドの特別依頼の話」

 ゼンは、テーブルに盗聴防止の魔具を置き、それを起動する。

 この小城は、部屋はそれぞれ防音だし、魔術的な防御建築にもなっているので、盗聴は不可能なのだが、これは、これからそれだけ秘密の大事な話をする、前触れとして起動した。

「もうすぐ従魔の実験が終わる。そうしたら、上級の冒険者に、従魔の情報が公開される事になっていた。でも、それが延期になった事は話したよね」

「ああ。何か、不測の事態があったから、とか聞いたな」

「実際は、不測じゃなく、話せない、危ない話だったんだ。フェルズ以外からスカウトを集めて、捜査、内偵を進めている事があって、もうほぼ間違いないと分かったんだけど」

「何故、フェルズ以外からスカウトを集めたんだ?ここだって、優秀なスカウトはいるだろ?ギルド専属の人だって」

「それだと、情報漏洩がありそうだって、ギルマスは判断したんだ。事は、ここフェルズの上級冒険者、全体の問題だから。かろうじて、二つのクランは対象外だと思われているけど、そこにも、もしかしたらスパイが入り込んでいるかもしれないから」

「……随分物騒な話だな。上級全部って、内乱とか反乱とかの話なのか?」

「そういう、政治的な話じゃないよ。冒険者の上級者のみに的が絞られた、陰湿なやり口で、一体いつからそれが始められたかも、分かってないんだ」

 それからゼンは、上級冒険者専用の高級店によって行われていたと思しき、精神操作(マインドコントロール)の事を説明する。

「なんだ、そりゃ?前々から、ゼンがおかしいって言ってた、上級冒険者の異常って、人為的なものだったのかよ!」

「ギルドの定期的な精神検査(マインドチェック)にもかからない位に、少しづつ、着実に行われてたみたいだね。

 フェルズの冒険者は、昔から強くて、自尊心(プライド)が高いのは有名だったらしいけど、一体どちらが先なんだか。

 自尊心(プライド)が高いところを付け込まれて、この工作活動に上手くはまってしまったのか、この工作活動があったから、自尊心(プライド)が高くなったのか」

「……それ本当なら、凄い事件じゃない」

 サリサも目を丸くして驚いている。

「本当だから、腕の経つ冒険者を外から集めて、殲滅作戦をやろうって話なんだ。

 じゃないと、従魔の技術なんて、とても公開出来ない。

 従魔術は魔物を従える技術だから、恐らく魔族の方が、技術的な相性は向こうの方が上なんです」

「ああ、魔物使役術士(テイマー)も、魔族の方が大抵強く、従える魔物のランクも高いって言うからな」

「はい。こちらが先に技術を知ったアドバンテージを、みすみす捨てる事になりかねません。

 魔族との友和だ対立だ、以前の問題ですね。

 幸い、アルのお陰で、フェルズ内の敵勢力がほとんど把握出来たも同然なんです」

「ハイエルフ様が?」

「彼女は、特殊な感覚を持っているようなんです。最初、伏兵だらけの場所で、とか言ってたでしょ?」

「ああ、そう言えば」

「そのお陰で、店にいる者だけでなく、市民に紛れている者、冒険者に成りすましている者、全部丸裸なので、一網打尽に出来る筈です」

「その、魔族の組織って、例の『神の信望者』なのか?」

「いえ、違うようですね。狙いは似ていますが、やり口が、慎重で悠長で気の長い、『神の信望者』が直接戦力を、最初から戦うつもりで送って来るのとはまるで違いますから。

 多分、過激派の、別組織じゃないかって、ギルマスは言ってました」

「向こうさんも色々あるんだな」

「で、ゼンはその襲撃作戦に参加すると」

「はい。で、出来れば、旅団全員で参加して欲しいんです。急な話なので、どうしても戦力不足なんです」

「クランは?」

「クランは、まだ駄目ですね。多分相手にはA級の実力者もいると思われるので。こちらでは、後ロナッファぐらいかな」

「俺達も、A級じゃないぞ」

「はい。でも、冒険者は、武器防具全ての総合力が問題ですから。つまり、みんなに渡した武器は、神話級とまでは行かないけど、伝説級は軽く超えているので、それ込みで、A級とも渡り合えると思います」

「やっぱりか!そういうとんでもない物じゃないかなぁ、とは思ってたよ!」

「遺跡や迷宮(ダンジョン)で見つけた中で、一番いいのを渡しましたから」

 ゼンはニッコリいい笑顔で自慢する。

「4人は、対人戦は大丈夫ですか?相手は魔族や魔物になる筈ですが」

「ああ。フェルズに来るまでに、何度か野盗とやり合ったからな。余り気分のいい話じゃないが、相手のえり好みはしない」

「俺も、あの邪教集団の話とか、結構世界中、悪党ってどこかしらいるから、そういうの、頼まれて退治もしてましたし、巻き込まれる事もよくありました」

 『流水の剣士の旅路』に出ている話なら、4人も知っていた。

 何故か大抵女の子が逃げて追われていて、それをゼンやラザンが助けるのがきっかけだった。

「とりあえず、従魔の実験が終わってから、1カ月以内のどこかで、襲撃作戦を決行したい、と言ってました。

 だから、うちはまだ2番目の中級迷宮(ミドル・ダンジョン)の攻略、始められませんね」

 『悪魔の壁デモンズ・ウォール』以外の中級迷宮(ミドル・ダンジョン)は遠方にある。中途まで攻略、というのも難しい。

 旅団には、何かしら邪魔が入る運命なのか。




*******
オマケ

A「研究棟で、新部署が作られたらしい?随分と曖昧な情報だな」
B「情報管制が、いつもより厳しい。何か、大きな金額が動く程の物らしいんだが……」
C「その根拠は?」
B「空間拡張の魔具が、購入されている。新部署にはそれが使用されている」
C「それは、研究棟の一部署に使われるような金額ではないぞ」
B「だから、余程の事だと、予測できる。強行偵察を行うべきでは?」
A「それは、我々の計画と関係しているのか?」
B「……分からない。店の方には、何ら異常は起きていないので、まったく関係のない、だが何か余程の大発見、新発明等を、ギルドの研究者がしたのかもしれん」
C「それは、どんな方面の物なのかすら分からんのか?それによって、動くべきか、動かざるべきかが変わるだろう」
A「いや、変わらんよ。我々は、深く静かに、この場所に溶け込んでいる。何の為だと思っている。計画は順調。それを、自ら危うくしてどうする」
B「だ、だが、それが、これからの戦いを左右するような、強大な新兵器、あるいは、神へと近づく、何らかの要素であった場合は?」
A「自分の勝手な憶測だけで、計画が漏洩する様な行動を、しろと?」
C「……3年前の、迂闊な馬鹿どもの失敗を思い出せ。我々は、今まさに、成功し続けている。これは、計画だけでなく、この場所に潜んでいる大勢の同胞をも、危険な天秤の皿に乗せる行為となる」
B「そう、だな。我々には膨大な時間がある。その、隠された何かが表に出る時間も、ただ待てばいいだけだな……」
A「うむ。我々はもう、ただ時が過ぎ去るのを待つだけでいい。大人しく、目立たずに。無理に危険を冒す必要は、何もない……」
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