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第3章 従魔研編

115.クラン勧誘会(3)

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 いつもだと、風呂を見せに行くのだが、どうも『爆炎隊』の留守番組や、ロナッファ達が中庭で訓練しているようだ。

 子供達やミンシャ、リャンカ達には持ち場に戻るように言い、中央ホールを抜け、すぐ中庭へと抜けるドアを開ける。

 城の中庭では、予想通りに、爆炎隊のザックとディンと、ロナッファ、リーランが、軽く模擬戦形式の鍛錬をしていて、それぞれに中々激しいやり取りをしている者もいた。

 治癒術士のモルジバが、怪我人用にか近くで待機している。

「爆炎隊のメンバーと、獣王国から来ている、貴族の方です。

 丁度訓練中のようでしたので、少し見学しますか」

 冒険者だから、当然、訓練の練度、そしてそれをする者の実力が気になる所だ。

 爆炎隊のメンバーは、見知っている者も多かったのだろう。

 ダルケンやギリに負けず及ばずの、同等の“気”を有しているのは、見ただけで分かった筈だ。

 だが、特に目についたのが、ロナッファなのは、致し方ない。

「あの、虎の獣人の女性は?」

 『蒼き雷鳴』のリーダー・シグマは、同じ獣人族として特に気になったのかもしれない。

「A級冒険者で、獣牙流師範代の、ロナッファ・ボルグ嬢です」

 A級で師範代、と聞き、全員が納得の表情を浮かべる。

 全員がC級の中で、彼女だけが異彩を放っていたのだから、目立つのも当然だ。

 途中、ゼンに気づき、リーランと一緒にロナッファが、嬉しそうに手を振ってくるので、仕方なく振り返した。

 少し奇異な目で見られたが、今は無視だ。

 ある程度訓練風景を見た後で、建物の中に戻り、すぐ近くに、ゴウセルとレフライアを泊めた客室があるので、そこを、部屋の見本として、開けて見せた。当然二人はもういない。

「ここは、臨時に用意した客室ですが、これと同じ広さの部屋が、塔を区切りとして、2階から上に1区画5部屋、1つの階に、正面に2区画、左右に1区画ずつあり、全部で20部屋あります。

 3階も同様なので、全部で40部屋ですね。2階の正面区画を今、西風旅団と爆炎隊が使用しています。

 4階は、一応予備です。後から合流する予定の方もいますので。(ギルマスの事だ)

 後、中庭の向こうに、こちらより小さいですが、部屋が同等の広さの、2階建ての建物もあります。

 こちらで何か不都合がある時や、あるいは従者、使用人等が、こちらの建物で間に合わない場合に使えたら、と思っています」

 それぞれが、部屋の中に入り、その広さや、余裕のある造りを実感している。

 皆が充分見た後、今度は風呂へと移動する。すぐ近くだ。

「こちらが、赤の扉で女湯です。サリサ、アリシア、中を見せてあげて」

 二人が手を上げ、女性陣を女湯の脱衣所へと案内する。

 そろそろ私物も多くなって来たので、男性、女性、分けて見せる事にする。

 男達はそこを通り抜け、青の扉まで来る。

「こちらが男湯です。炎の結晶石と、水の結晶石を常設しているので、いつでも入れます。

 掃除時間は、例外ですが」

 風呂は、大抵が好意的に受け止められる。あって邪魔だ、と言う偏屈もいないだろう。

「多分、男性陣は時間で分けないと、一杯になってしまうかもしれませんね」

 10人は余裕、と言っても、男性だけで、30人近くになるだろう。

 軽く、風呂場を見せた後、脱衣所での、脱いだ物を名札を付け、個人で分けるシステム等を話す。

「これだけ増えると、面倒じゃないか?パーティー毎で、大雑把に分けてもいいんじゃないかな」

「……そうですね。男子、女子は分かれてますし、パーティーの男子分、とか持って来てもらえれば、それぞれが取っていくだけで済むので、いいかもしれません」

 すでに住む気での、実用的な案を出してもらえるのは嬉しかった。

 一体どれだけが、今日の集まりで、参加してくれるだろうか?

 すでに、風呂に入りたそうな顔をしている者もいる。

 男達が風呂を出て、食堂に向かって歩いて行っても、女性陣はまだ風呂の脱衣所で、なにか楽しく話して、はしゃいでいるようだ。

「女子の風呂は長い、というが、見学までも長いのですね」

 『清浄なる泉』のリーダー・ザカートが、苦笑混じりの感想を言う。

 皆、まったくだ、と同意して笑う。

 なんだかくつろいでいて、全員とてもいい雰囲気だ。

 そうだ、やはりこういう風に、同じ場所で生活する事は、凄く大事だ。

 自分に考えの正しさを、改めて認識し、もし今回が駄目でも、なんとか同居してくれる仲間を探そう、とゼンは、決意を新たにする。

 男達は、食堂に入り、それぞれ適当な席についてもらう。

 ミンシャとリャンカが、すぐにお茶とお菓子を、持って来てくれた。

「会議室で食った菓子も美味かったが、これも美味いです」

 破邪剣皇の副(サブ)リーダー・ロータスが、しみじみとつぶやく。

「ありがとうございます」

 ゼンは、思わず礼を言ってしまう。

 知らない者が、奇妙な顔しているので、仕方なく説明する。

「それ、俺が作ったんです。お菓子とか料理は、従者と分担してまして……」

 何故か、一部が茫然としている。

「強くて料理上手いとか、反則だろう……」

 何のルールに抵触するのだろうか。

 その頃になって、やっと女性陣が、風呂の案内から戻って来た。

 なにか、柑橘系のいい匂いがするのだが……。

「まさか、お風呂に入ってたんですか?」

「ち、違うの!ちょっと顔洗ったっり、髪の先洗ってみたりしただけよ!」

「うんうん。湯舟には入ってないよ~~」

 なにやら苦しい言い訳をしている二人。

「別に、ちゃんと入れる時に、やればいいじゃないですか」

 と、ゼンは思うのだが、ここに住まないチームは、これが最後のチャンスにでもなる、と思ったのだろうか。

 ファナは、住む予定がないので、今日以降、機会がないかもしれないが。実際、なんだが羨ましそうな顔をしている。

 ファナは、他に知り合いがいる訳でもないので、旅団の女性陣の傍の席についた。

「もうすぐ昼食ですが、何か質問があれば、受け付けます。

 答えられる事であれば、答えますので」

「あの、従者や家族等は、何人まで連れて来れるのでしょうか?」

 『清浄なる泉』の副(サブ)リーダー・セイラだ。

「制限を設けるつもりはありませんが20人、30人とかは、流石に無理だと思います。

 一応、一部屋3人、無理すれば4人いけるかな、でチーム内の区画内で調整して、無理なら、中庭向こうの建物を使ってもらうか、4階を使うか、なんですが、4階は、後から来るかもしれない人がいるので、なるべくは空けたいんです」

 他にも、空いている部屋はあるが。

「ちなみに、自分の従者は、あのチーフ・メイド、副(サブ)チーフ・メイドで、それ以外が、今は20人の子供達が使用人としていますが、皆さんが越して来て下さるなら、後10名補充する予定です。

 子供達の世話役に、ギルド専属治癒術士の見習いの女性がいます。今日はギルドに出勤で、今はいませんが。

 でも、それは地下の使用人部屋、1階にある使用人部屋で収まる範囲内です。

 何名を予定しているのか、お聞かせ願えませんか?メンバー数が少ない所もいるようですから、そちらの区画の部屋を融通してもらったら……」

 ゼンが、ついでにこちらの構成を説明し、他に取れる手段を考える。

「いや、従者がいたり、家族がいたりす者がいるが、それぞれそう多い訳ではない。

 制限がない、というなら、それで大丈夫だと思う。

 連れて来て、問題があるようなら、改めてまた頼むとしよう」

 質問をしたのがセイラで、答えたのがザカートなので、『清浄なる泉』では、里から出たエルフを養っていたりするのだろうか。

「了解しました。問題があれば、遠慮なく、どうぞ言って下さい」

 ザカートがしっかり頷いているので、本当に大丈夫なのだろう。

「あ、ジョンソンさん」

 ゼンが、『蒼き雷鳴』の副(サブ)リーダー、小人族のジョンソンに呼びかける。

「なんでしょうか」

「料理なんですが、自分は小人族の料理というのは、食べた事がないので、料理の種類に入っていないのですが、何か特徴的な料理とかありますか?あるいは好みの傾向とか」

「料理、ですか……。強いて言えば、豆を煮込んだような物ですが、余り美味しい物でもなかったので、特に気にしなくてもいいですよ。

 私は、外の世界に出てから、美味い物を食べられる様になって喜んだぐらいですから。

 好み的には、甘いものが好まれていたように思います」

「ふむふむ。

 魔族は辛い系。エルフは草食系、ドワーフは味がどっしり塩が効いた系、獣人族は、肉食系、人間は、結構なんでも、というのが、自分の感じなんですが、間違ってませんか?」

「間違ってはいないが、獣人族は、草食系な獣人もいるぞ。

 冒険者では、そんなにいないと思うが、な」

 『蒼き雷鳴』のシグマが、含み笑いをしながら言った。

「成程、そうですね。自分も兎や、牛の獣人族の方と会った事があります」

 ゼンは大事な事はメモを取り、次に生かす準備をしていた。

 そこに、訓練を終え、風呂にも入ったのだろう。

 サッパリとした顔の『爆炎隊』の面々と、ロナッファ、リーランが食堂に入って来た。

「これで、今この小城にいるのは全員だと思うので、昼食にしますが、その前に、今、フェルズに所用で来られている、ロナッファ・ボルグ嬢、リーラン・レグナード嬢です。こちらには、一時的な宿代わりで泊っておられます」

 ロナッファとリーランは、今更客扱いか、と思ったのか、少々傷ついた様な顔をしていたが、他にどう紹介しろと言うのか。

 ゼンは、ロナッファ達を簡単に紹介すると、厨房に入って、料理の最後の味の調整に入った。

 ほとんどの作業は、従魔の二人が済ませてくれている。

 仕上げと味付けの調整。肉の焼き加減等を見る。

 隅でこっそり肉の味見をしていたミンシャのおでこを、かるく拳で小突くと、出来たものからワゴンに載せ、子供達に配ってもらう。

 昼だが、多少豪華だ。

 ここの料理も、クランに参加したくなるような“餌”の一つなのだから。

 最初は、カボチャの冷製ポタージュスープ。

 それと、二種類のドレッシングを添えた、多めのサラダ(エルフが多いのを考慮して)。

 次に主となる、ビッグ・バッファローの厚切り肉。

 程々に生焼けなのを、肉汁に各種香辛料で味を調整した特製タレをかける。

 付け合わせに野菜と、鳥皮をバターで炒めたものを、これも多めに盛る。

 これはライスとパンの選択式だ。選択式は、これが最後かもしれない。クランが決まれば…。

 そして最後に、食後のデザート。

 見た目涼やかな緑のゼリー。中に、各種果物も入っている。甘いシロップをかけて完成。

 全員が食べ終わった後に出す。

 食事風景は、結構凄い事になっていた……。

 それはそれとして、ゼンが意外だったのは、サラダのドレッシング、柑橘系の酸っぱい物と、甘辛い肉ダレ系のにして、サラダが余り好きそうでない者にはそちらで、と思って出したのだが、むしろ、男性と女性で別れていた。

 エルフでも、ザカートは甘辛系を使っていた。

 リーランやロナッファは、獣人でも柑橘系を使っていた。

 両方を試している者もいた。

 そうそうこちらの思惑通りにはいかない、という事のようだ。

 食事が終わり、何故か放心している者が多い中、ゼンは、『古(いにしえ)の竜玉』の3人を呼び出し、頼まれていたメモリー・クリスタルを渡す。

 それを、今は空いている、1階の客室で見てから、戻って来るように頼んだ。

 そういえば、あの二人は、あの恰好でも食事を完食していた。

 あの兜は、幻影かなにかだったのだろうか?

 ゼンが食堂に戻り、席に着くと、何か妙に真剣な顔をした、今回勧誘した人達が、

「こ、ここの食事って、毎回あんな感じなんですか?!」

 と切羽詰まった感じに聞いてくる。

「え~と。今回は、見本のような物なので、昼でも少し豪華目でしたが、大体あんな感じですよ。『爆炎隊』の人に聞いてもらえば分かると思いますが」

「う~ん。でも、ゼンの料理は、毎回美味くて、新鮮な喜びで溢れてるんだがな。

 いやあ、食ってて全然、飽きとか来ない。一生ここに住みたくなるな」

 ダルケンがやたら満足げに言う。

 それを聞いて、『蒼き雷鳴』と『清浄なる泉』のリーダー達が、声をあげて怒る。

「お前、分かってて、どうしてもっとちゃんと、誘ってくれなかったんだよ!」

「ズルい!絶対ズルい!マイア、これは抜け駆けよ!」

「私は、ちゃんと言ったわよ。リーダーを説得出来なかったのが悪いんでしょ?」

「も~~う!」

「ダルケンは、そういうちゃっかりした所が、前からあるよなぁ……」

 これは、ダルケン達『爆炎隊』と、他の2チームが仲がいいから起きた、軽いいさかいのようだ。気にする事はないだろう。

 やはり、2つは確定と見ていいだろう。

 食事自体は、『剛腕豪打』も『破邪剣皇』も満足している様に見えた。

 後は、客室でメモリー・クリスタルの伝言を見ている『古(いにしえ)の竜玉』が、どういう結論を出すか、にかかっているが……


 

*******
オマケ

ミ「ご主人様に、小突かれちゃったですの(ウットリ)…」
リ「あー、羨ましい……、わ、私も、味見を」

ゼ「こら!それじゃあ、怒った意味がないだろう?」
リ「でもでも、真面目にやっている私は、何もなしで……」
ゼ「はいはい。リャンカはよくやってるよ」(撫で撫で)
 ミンシャは、反省しないと、チーフ交代だからね」
ミ「そ、それは嫌ですの!う~~…」
リ「先輩、サブに交代しますか~~?」
ミ「絶対、譲らないですの!」

ル「ぶーぶー。あっち楽しそう。るーも料理、覚えたいお?」
セ「追いつくまで、かなりかかるよ?」
ゾ「実際問題、成長を待つ方が先だろ」
ボ「育ち盛りだから、大丈夫」
ガ「寝る子は育つ…」
ル「るー、いっぱい寝てるお……」
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