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第3章 従魔研編

084.小城見学

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 ※


「これはまた、なんとも……」

 旅団一行は、例の“小城”の中に見学に早朝から来ていた。ゼンがすでに鍵を預かっていたので、彼が行く従魔研の為に、早めから、というのは建前で、誰もが早く中を見たかったのだ。

 異様に広い廊下、切り出した岩の組まれたままの壁は小城の外観のままだ。

「丁度外側が出来上がった辺りで、その王族は国に呼び戻されたらしくて、内装がまるで手付かずの部分があるんです。魔術処理されてますから、隙間風とか入ったりはしないらしいんですけど……」

「お?、凄い、おー?」

「漆喰とか塗って、普通に壁にしましょうか。でも全部だと、結構かかりそうですね」

「いやいや、これはこれで、風情があっていいんじゃないか?」

 触ると、普通に平面の壁だ。魔術処理のコーティングなのだろう。

「うん、悪くないと思う」

「面白いね~~」

 アリシアは、ゼンの肩の上にニコニコ話かける。

「おもしろいお~~」

 ゼンの肩の上ではしゃぐ、透明感のある黄色の髪の幼女。目は真紅のルビーの様に紅く、何故かカナリヤを思わせる容姿をしている。

「……なあ、ゼン、そのちっちゃい子、なんなんだ……?」

「あ、すいません、紹介してませんでした。この子はロック鳥のルフ。俺の従魔の一人、例外的な、子供の従魔です」

「ああ、あの!なんでそんな幼女を肩車して来てるかと思えば……」

「ごめんなさい。昨晩辺りからグズっちゃって。この子だけ、ずっと外に出していなかったから……」

 さすがのゼンも困り顔だ。『流水』も泣く子には勝てないか。

「そしてメイド二人、と」

 ゼンの左右の腕をガッチリ掴んで離さない、とばかりに腕を組むメイド少女が二人。

「ミンシャとリャンカも、自分の職場になる所は是非自分の目で確かめたい、とか言って……。炊事場なんかの改装の意見も聞きたかったので」

「お義父様、お義母様達の朝食の指示は、もう出してありますから、心配はご無用です」

 もはやゴウセルの料理人を取り仕切ってしまっている。

「ですの!今日は新しい職場の方をどうするかが、あたし達の最優先事項ですの!」

「……なら二人とも、俺から離れてくれないか。歩きにくくて仕方がない」

 世にも情けない顔をして無言の抗議をする二人の腕を、無造作に振り払う。

「邪魔するなら帰ってもらう、と言った筈だ。それとも俺の“中”から見るか?」

 二人はシュウとうなだれてゼンの後ろにつく。

「その……。そんなに冷たくしないでもいいんじゃないの?ちょっと可哀想よ」

 サリサがなんとなく同情する。明日は我が身的な?

「……あれ、芝居なんで、気にしないで下さい。俺も何度か騙されているので……」

「……え?」

 ゼンから小さな手鏡を渡され、それで前を向いたまま二人を見て見ろ、と指示され、それでこっそり後ろを観察すると、ツバを目じりにつけて一生懸命涙目を演出する二人がいた。

「意外にたくましいのね……」

 サリサはため息をつき、ゼンに手鏡を戻して言う。

「付き合いが長いと、何故か色々図々しくなるんです。

 それよりも、今日は中の見学が主目的なので、どんどんまわりましょう」

 部屋の中を見る。異様に広い部屋は、家具が入っている所もあれば、何もない所もある。

「家具も寝具も買い直した方がいいでしょうね。さすがにそこまでコーティングはしてないみたいです」

 見た目普通でも、中を開けて見ようとすると、ちょうつがいが腐っていて、開かなかったり、崩れたりと、中々凄い有様だ。

 これでは、折角の広いベッドも、寝たら重みで崩れるのかもしれない。

「あら?ベッドには、何故か土台にコーティングあるわ。布団とかシーツ変えるだけでいいかも」

「家具のある部屋、ない部屋と、使える家具、使えない家具、手分けして印つけえましょうか。結構広いし。リュウさんもラルクさんも、家具のコーティング、見えますよね」

「バッチリだな」

「ああ」

「じゃあ、最初に、そのチェックだけ手早くやりましょう。見学はその後で」

 ゼンは従魔にも指示する。

「リャンカとミンシャは、上から頼めるか」

「はいですの」

「4階は犬先輩、3階は私が手早く見て回りますから」

 ゼンは人数分、業者に複製術が使える術士がいたので、中の図の複製紙(コピー)を持たされている。

「向こうも、この状態が分かってたみたいですね。自分で調べてどうにかしろ、と」

「サービス悪いな。見回りついででいいけどさ」

「俺が1階と地下を見てみますから、女性陣が2階の左側、男性陣が右側を見て来て下さい。

 3、4階のミンシャ達が終わってなければ、上にあがってその手伝い、かな?多分、必要ないと思うので、それぞれゆっくり周ってください」

 という訳で、手分けして城内の家具チェックとなった。

 1階は作業階で色々不規則だが、2階から上は塔を境に1区画5部屋が4つあり、20の部屋が一つの階にある。4階も城の主人の部屋は2部屋分以上あり、色々不規則だ。

 異様に広い廊下に、異様に広い一つ一つの部屋。


 リュウとラルクは二人で内部の造りを堪能しながら進む。

「二人どころか3人でも余裕だな。皆同じ作りだから、一人用の個室みたいなのはないな」

「あの、中からしか入れない小さな個室は?」

「あれは多分、従者や従僕用なんだろう。さすがお貴族様仕様だ」

 荷物起きとかに使えるか、もしくは自分達が従魔を持った時、その部屋を使ってもらうか、かなと二人は話す。

「なるほどな。家具、半分ぐらい使えそうだな」

「ああ。本当は全部コーティングやるつもりが、急いで帰らなきゃならなくなって、そのせいで中途なんだろう」

「家具のない部屋も多いし、全部にはいらないかもしれないが、家具屋に色々頼まなきゃいけないな」

「まあ、自分好みを入れたいのもいるかもしれん。そこら辺は、選択してもらえばいいだろう」

「そうだな」

 リュウとラルクは、部屋や家具の状態を確認しつつ、そうした話をしていた。



 サリサとアリシアはというと。

「ルフちゃん可愛かったね~。なんだか子供欲しくなっちゃうな~」

「……リュウと一緒の部屋にして、ラルクみたいに結婚したら?」

「ふふふ。それも考えなくはないけれど~、まだみんなと一緒に冒険者していたいから~~」

 とクルクル回るアリシアは楽しそうだ。

「……コの字の表側が、家具があったりなかったりね。側面は手付かずな部屋が多いわ」

「家具どうするんだろう。ゼン君自分で負担するつもりかな~」

「どうかしら?ただ、住む場所提供、で家具から何から何まで、ってやり過ぎな気もするけどね」

 サリサは難しい顔で考え込む。

「そうだね。でも、愛着ある場所から移るなら、それくらいしないと駄目かも~?あ、自分の家具ある人は、持ち込みでいいんじゃないかな?」

 アリシアも、軽い態度とは裏腹に色々考えているようだ。

「中々難しいわね。クランの結束とかあるのは分かるけど、全員一緒に住む必要ってあるのかしら?」

「あ~、なんかゼン君、食事で栄養管理とか、健康管理したいみたいだよ。そんな事言ってたし」

「それをクラン全員に?可能なのかしら。偏食する人がいないといいけど……」

 サリサは、ゼンなんでもやりたがり過ぎる気がする、と心配する。



 4階を受け持っていたミンシャは、城の主人らしき部屋の悪趣味さに辟易していた。

「金箔とか宝石とか、馬鹿ですの。それにこの、異様に広いベッド。ご主人様からハーレムがどうの、と聞いてはいたけれど、ゾっとするですの……」

 面積の広すぎるベッドを睨む目はとても冷たい。

「趣味悪い家具は、使えはするけれど、ご主人様なら多分全部売るですの」

 こちらは話し相手がいないので、独り言を言いながら、事務的に手早く済ませて行った。



「3階は、貴賓用の客間、と言うことでしょうか。ちゃんとコーティーングした家具も多いですね。それ程趣味も悪くなく、他に運んだ方がいいんじゃないかしら?

 ご主人様の話だと、3階までは人が来そうだし、そのままでも構わない?

 ともかく、サッサとチェックし終えて、主様の所に行かなきゃ。犬より先に……」

 こちらも、恐ろしく早く作業を済ませていった。



 ゼンは、1階の使用人部屋を見たが、これはまるで後回しにされたらしく、使えるような物は少なかった。

 地下の奴隷部屋は、さすがに牢屋ではなかったが、屋敷の作業ですで使われていたのか、腐臭や、不潔さがすでに部屋にこびりついている感じだった。

「ここらは、アリシアに一度浄化してもらうかな。家具は全部入れ替えに、壁とかも塗り直しだ。」

 そして、厨房近くの大広間を調べる。恐らくは、ここで大勢客を呼んでパーティーをしたりするのだろうが、ここは食堂にするつもりだ。よくある長いテーブルを並べ、椅子を並べ、何人分まで行けるかな?

 余りきつきつにしても仕方がない。もし人数以上の場合は時間を少しずらして交代制にすればいいだろう。……ほとんどが迷宮行ったり、なにかの討伐や採取に行ったりで、全員で食事をする事があるかどうか分からないが。

 厨房の方の道具は、コーティング等されていない物が多いし、かなり古い型のものばかりだ。総入れ替えだろう。

 家具屋と建築系か、ここら辺は、ここを貸し出してくれる不動産の業者が紹介してくれるだろう。余りいい加減な所だと困るので、少し脅かして……(物騒)。

 色々まとめて注文する事になるし、かなり安くしてもらわないと割りに合わない。

 木材は提供出来るものがあるし、壁とかは、ボンガのスキルでやってもらってもいいんだよな……。まとめて業者に来てもらうんだし、それは出来た後でいいかな。

 いや、待てよ。まさか、あの安い貸し出しは、他の業者に仕事を割り振る事の、仲介料を高く取って回収するつもりじゃ?それだと、多分、大して安く仕事をしてくれないだろう。

 もしもそういう、あくどいやり方で来るのなら、それは全部ゴウセル関連で業者を紹介してもらおう。ゴウセルはフェルズの中で顔が広く、本当に何でもやっている。そちらの紹介で全部済ませられるのだ。

 屋敷の年間契約も、5年としておこう。別にそれぐらい普通に払えるし。

 契約が終わった後に、とにかく、向こうに見積もりを出させよう。それで向こうが何を考えているかは分かる……。


 水場と下水のチェック。ずっと使われていないから、汚水浄化のスライムがいないな。下水道に行って捕まえてくるか。それは、使う直前でいいだろう。

 水場は、さすがに、水の精霊石は外してあるか。これはポーチにある。

 そして、風呂。

 恐ろしくどでかい、いや、広い風呂がある。もしかして、これもハーレム的な考えなのだろうか?妻達と一緒に入る?

 本当は、上の階に作りたかったのかもしれないが、排水を考えると、1階が無難だろう。

 あるいは、暑い国の人だから、水遊びの場も兼ねた?もしかしたら、そうかもしれない。結構深い作りだ。縁の方に、腰かけるところまで作ってある。

 風呂兼、水遊びの場か、贅沢な事だ。

 でもこれは、完全に一つだ。使用人用とかは、作らないか。王族だしな。

 しかし、客もこれだと、男女混浴を強制するのか?そんな風習の国?

 結構前に滅んだらしいし、多分資料見ても分からないだろうな。ま、どうでもいいか。

 上の作業が終わって、段々と人が下りて来る。

 凄い勢いで、前面塔部分の螺旋階段を競って降りて来たのは、ミンシャとリャンカだった。

「こら、そんな事で競争しない。危ないだろ?」

「でもでも、あたしが1番に終わったんですの!」

「いえ、主様、私ですわ!」

「いや、偉いけど、1番に何かするとか、俺約束してないからね」

「えー、ひどいですの!頑張った従魔にご褒美は必須ですの!」

「わ、私も、控えめに要求しますわ。この所、食事時にしか会えませんし……」

 はいはい、偉い偉い、とゼンは仕方なく二人の頭を心を込めて撫でてやる。

 それだけで満足してくれるので、安上がりではあるのだが。

 そして旅団の4人も降りて来る。

「ちょっと不思議な造りだよね。普通、中央部には吹き抜けがあって、2階の踊り場から1階が見えたりとか、大きいお屋敷だとそうだよね~~」

「確かに。そういのない分、部屋数は増えるけど、大型の宿屋じゃないんだから、もう少し遊びがあってもいいのに、随分カッチリした造りよね」

 アリシアとサリサが話しながら降りて来た。

 リュウとラルクも続いて来る。

「何か、予想外なところとかありましたか?」

 ゼンが聞くと、

「客間の続き部屋が、従者用の控えの間になっているみたいだな。小さな個室がある」

 リュウが言うと、

「あー、あれってそういう意味だったんだ。私は間男の控え室かと」

「なんでよ!そんな堂々とした浮気なんてないわよ!」

 冗談か本気か分からない発言に、サリサがつっこんでいる。

「従者のいる冒険者なら、そこに入れるか、あるいは、従魔持ちになったら、従魔の待機部屋に使うか、かな?」

 リュウが考え言うが、多分そうはならないだろう。

「そんなに広くないなら、従者にしろ従魔にしろ、同室にするんじゃないですか?部屋が異様に広いですし」

「あー、そうだな。冒険者ならそっちのが普通か」

「貴族の考えた造りですから、無理に使おうとする必要もないですよ。入った人が、なにかに利用するでしょ。大型の従魔なら、厩舎の方になるでしょうし」

「ふむふむ」

「あ、ご主人様、4階、端っこに、屋上に行ける階段がありましたですの」

「へえ、屋上。屋根裏部屋とかはないんだ」

「それはなかったですの。ただ屋上、ショボイ手すりで、簡単に乗り越え出来そうで、危なそうですの」

「ふむ。立ち入り禁止に……、いや、いっそ塞ぐかな」

「もったいなくないか?」

 ラルクはなんとなく言う。

「現状、持て余す広さですよ?屋根の上に出たってなにもないでしょ」

「……まあ、正論かな」

「じゃあ、軽く板打ち付けて、危険と書いておきましょう。多分、4階使いませんし、それで充分でしょう」

「そうだな」

「あ、私も報告あります。3階、塔部分に、小さな個室がありました。他の塔もみんなありました。全部で5部屋です」

「塔の所に?」

 ゼンは少し考えてから、予想を言ってみる。

「……多分それは、見張りの宿直室みたいなもんじゃないかな」

「昇り降り出来るところに見張りか。でも何故3階のみ?」

「4階が、主人の部屋だから、それ以外はどうでも良かったのかもしれません」

「おいおい。ひどい王族だな」

「まあ、屋敷周りに警備を配置するでしょうし、本来内部はいらない所を、用心で造ったのでは?真相は分かりませんが」

「そう、だな。時代も違うし国も違う。どういう考えか、なんて完全にはわからないか」

「じゃあ、こっちはお風呂の相談です」

「え、なに、ここお風呂あるの?」

 普通、個人宅や宿に風呂はない。あるのは公衆浴場(テルマエ)だ。

 温泉の湧く、火山近くでもなければ、風呂に気軽に入れない。沸かす火力に、それなりの量の水。どちらも精霊石や魔術等で代用出来るが、それでも割高になる。

 女子としては、それなりに歩く場所の公衆浴場(テルマエ)に行くのは辛い。同性でも他人に裸を見られたくない、でも清潔にしたい、と二律背反なジレンマを抱える。

 男の方が、髪が短い者が多い事や、裸うんぬんに余り拘りがないので気軽に公衆浴場(テルマエ)に行く。

「あるんですが、無意味にバカでかいんです」

 1階のコの字入る直前の角、2部屋分にそれはあった。

「……なに、このバカでかいのは」

 サリサは呆れている。

「俺もそう言ったじゃないですか」

「うひょー、無意味に広い!なんだ、こりゃ」

「凄いな……」

 リュウが感嘆とした呟きをもらす。

「あれ、ゼン君、ルフちゃんは?」

 アリシアはまるで関係ない事に気づく。

「あ、はしゃぎ疲れたみたいで、中央のソファに寝かせてあります」

 そう。ゼンが見回っている途中からすでにルフは寝てしまって、だから静かだったのだ。

 1階の中央部には広間風のスペーズがあり、まともな家具も置かれていた。

「これって、外、というか、斜め向かいの部屋から見えちゃわない?」

 サリサは風呂の大きな窓から外に出て見て確認する。

「微妙だけど、見えない事もないですね。でもそれより問題は、お風呂、これ一つで、男女別れてないんですよ」

「「「「あーー!」」」」

 旅団メンバーは大きな声を上げたが、従魔ズは、だから?みたいな顔をしている。

 主なら平気だと思っているのだろう。ここには他にも人が住むというのに。

「アホみたいに2部屋分使ってますし、真ん中に壁作って、女湯造りましょう。そっちの端ぶち抜いて扉作って」

「……あー、そうだな。なんか、勿体ない気もするが……」

 ボヤくラルクをサリサが睨む。

「これから新婚予定の人が、一体何を残念がってるのかしら?」

「あ!いやいや、スーリアと二人で、広い風呂入りたかった、って意味だよ。勘違いするな」

「本当かしら~?」

 サリサの目が怖い。

「なんか、深さもあるね~、ここ」

 その騒ぎをよそに、アリシアは風呂の中の深さを確認している。

「多分、砂漠の人だから、夏場の水遊びとか考えていたのかも。水が命な民族だからこそ、こっちでは普通に使える、贅沢な遊びだと思ったんじゃないかな」

「ふむふむ~」

「ともかく、女湯の方は、外に不可視の結界でもなんでも作ればいいと思うよ」

 そういう事を気にするサリサに向かって言う。

「あ、そっか、そうよね。ついでに、近づいたら電流が流れて死にかけるぐらいの仕掛けをしておこうかしら」

「おまえの法律だと、覗きは死刑かよ!どんな極刑大国だ!」

 ラルクが独裁者め、と反応する。

「死にかけ、って言ってるでしょ!当然その後牢屋行きよ!」

 サリサは嬉しそうに、私は行儀のいい、法治国家の住人です、とすまし顔だ。

「あんまり馬鹿言って遊ぶなよ」

 リュウが割って入って止める。

「結婚前に阿保な事ばっかり言ってると、後で弱みになっても知らんぞ」

「それは……確かに。少なくとも、求婚(プロポーズ)成功させなきゃ、だな」

「ああ」

 その後、洗濯場だの、炊事や料理の窯場など、大事なのだが男二人には関係のない場所が続く。

 厨房に近い大広間的な場所を食堂に、とゼンが言うのには驚いたが、2~30人からの集団ともなると、それぐらいに広さは必要だろう。ゼン達だけでまかなえるのだろうか?

「もしかして、スラムの子供に料理も覚えさせるのか?」

「いえ、手伝いだけのつもりですが、もし才能がありそうなら、それもいいかもしれませんね」

 もしかして、他にも雇うつもりなのだろうか。それもありだろう。

 ラルクが背中をつつくので、リュウは仕方なく、何だ?と振り向くと、何故か端の方に引っ張られる。

「なんだ、いったい?」

「さっきにの風呂うんぬんで、ちょっと気になったんだが……」

 ラルクは深刻な顔をしている。

「ゼンって、性欲あるのかな?」

 それを聞いてリュウはコケそうになる。

「何を馬鹿な事を、真剣な顔して……」

「いや、大事な事だって。あいつ、ずっと恋愛わからないとか言ってるじゃないか」

「ああ、まあな」

「だから、そういうのが未発達なのかな、と」

「えー?普通に、あの年頃ならあるんじゃないのか?」

「でも、妙に恋愛事のみに鈍感でうといし」

「ああ」

「さっきの風呂の事だって、全然自分に関係ないって澄ました顔してたじゃないか」

「それ、お前のひがみが入ってないか?」

「いやいやいや。……どうだろう。多少はあるかもだが、気になるんだよ!」

「下世話な好奇心とは思わないのか?」

「思うが!そういう衝動から始まる恋だって、あるんじゃないのか?」

「……否定はせんが……」

「もしもまだなら。あいつの変な恋愛音痴に納得も行くぞ」

「……そう、かなぁ…」

「で、だな」

「なんだよ」

「聞いてみてくれよ」

「俺がか?お前が自分で聞けばいいだろうが!恋人の事だって、俺よりゼンに先に相談してたんだろ?」

「まあ、成り行き上な」

「悪いが、俺はごめんだな。やりたくない。気まずくなる」

「なら、アリシアに聞いてもらえばいいじゃないか!」

「なんでだよ!」

「平気でそういう事聞けそうだからだよ!」

「アリアを侮辱するのか!」

「いやいやいや。お前だって、そう思ってる筈だ!ちゃんと考えろ!」

 リュウは考える。よくよく考える。すっごく考える。

「………聞けそう、ではあるな……」

「なら!」

「……しばらく、考えさせてくれ……」


*******
オマケ

ル「おそと、おそと、らんらんらん♪おー!」

ミ「はしゃぎ過ぎると転ぶですの」
リ「仕方ないですわ。本当に久しぶりですもの」

セ「外は危険がいっぱい。外出嫌い……」
ガ「同意、同感。肯定」
ゾ「がっはっはっは。お前等、主の中が居心地のいい巣みたいになっちまってるな」
ボ「でも、外でゼン様の作られた料理食べたり、撫でられたりは、今でも嬉しくなるよ」
セ「それは、いわば育ての親ですから。主様は」
ガ「主で親で、友愛の対象……」
ゾ「まーな。こういう“心”も人種(ひとしゅ)になれたが故の、ものだからな……」
(ほっこりなごやか空間)
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