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第2章 流水の弟子編

076.改変

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 ※


(違う。何を思い違いしてるの。あの神は答えられない、人には伝えられない、と言ったのだ。

 つまり、ゼン君が何者かは、あの神は分かったのだ。知っているのだ。

 それでも人……被造物には言えない、神の事情とは何だろうか。

 ……分かる訳がない。私はそっち系の専門家じゃないんだから。

 ゴウセルには知らせておこう。彼には商人としての幅広い知識があるし、彼はゼン君が何であれ受け入れるに決まっているのだから……)

 レフライアは、持って来た認識阻害のマントをアリシアに着せて肩を貸す。あれからすぐにアリシアは気が付いたが、多少ふらついているようだ。

 あの物凄い光では、アリシアが何かをしでかしたのは、隠し様がない。この子には悪い事をしたかもしれない、とレフライアは思う。

 当たりの神を引けるのでは、と思ってはいたけれど、予想を超える大物だった。

 また聖女候補として、執拗に勧誘されるか、もしかしたら教会の過激な派閥の暗部にさらわれてしまうかもしれない。そうしたら、自分の責任だ。ギルドとしては保護対象として、本部にかくまいたい所だが、それも彼女の望む話ではないだろう。

 この少女が望むのは、好きな人の隣りにいる事。大好きな仲間達と一緒に、冒険者をする事なのだから。

 迷宮の異常を神に訴えるのは、出来るだけ急ぐべき話だったとは言え、それでも彼女を利用したのは、安易過ぎただろうか?

 こう、すぐ簡単明快で速攻に片付く方法を取ってしまうのが、レフライアの悪い所で、ゴウセルがパーティーにいた頃は、よくいさめられたものだった。

 いなくなったら、行け行けな脳筋馬鹿の集まりになってしまって、それはそれで上手く行く場合もあったけれど、歯止め役のいないパーティーというのは危険だ。何でもかんでも受けてしまって、最後があの事件だった。

(ゴウセルがいなくなって何年も経っていたのに、彼がいてくれたなら、あの悲劇は起こらなかったんじゃないかって、あーーっ!)

 また失敗するとすぐ落ち込みモードに入る。

 ともかく、教会関係には出来るだけ手をまわして、余計な干渉して来ないようにする。それにも限度があり、何かしてこようとする者もいるかもしれないが、もうすぐアリシアは“あの”ゼンと共同生活する事になるのだ。

 彼なら、教会の暗部だろうが貴族だろうが王族だろうが、自分の仲間に手出しするものは、全て全力で撃退してしまうだろう。

 奴隷商を追い出した話を、旅団のメンバーから聞き出したレフライアは本気で思う。

 さあ、ともかく、ここで教会関係者に捕まるとマズい。早く戻ろう。

 そう思って教会を出た矢先、先程の司祭と鉢合わせしてしまう。

 アリシアにはマントを着せているが、レフライアの分はない。片方の正体が分かっているなら、二人連れのもう一方は芋づる式に分かってしまう。

「おや、レフライア様。教会になにか御用ですかな?」

「……え?」

 その態度に、どこも不自然なところはなく、本気でレフライアがここに、何故いるのか分からないようであった。

「……近くまでの来たので、顔を出してみただけよ。それより、教会に誰もいないみたいだけれど、どうかしたのかしら?」

 レフライアはとっさに話を合わせつつ、探りを入れてみる。

「ええっ!教会を無人にするなど、ある訳がないのですが、おかしいな。いったいどうしてしまったのやら……」

 司祭は冷や汗をかきながら教会に入り、事実を確かめると、神官やシスターを探しに奥の方へと行ってしまった。

 レフライアとしては、この上なく助かったのだが、これはどういう事なのか、自分も誰かに説明してもらいたいのだが、そんな当てはない。

 ともかくギルドに向かう。

 その途中の街の様子に、まったく普段と変わらない日常の風景が見られたが為に、レフライアは段々と、何が起きたかの予想が出来るようになった。

 あの“神”が改変したのだ。でなければ、今頃、フェルズ中が大騒ぎになっていてもおかしくない筈だから。

 では、何を改変したのかだが、まさか、自分が来た事実を?いや、その改変は大き過ぎる。

 神は人間界に直接関与は出来ない筈なのだから、不可能だろう。ならば、やはり記憶の改ざんだろうか?あの光を見た者にのみ、その事実を忘れさせる、もしくはなかった事にする様な記憶の書き換え。

 どちらも、その規模とかかる力を考えれば、とんでもない“神力”が使われたと考えられるが、神にとっては造作もない事だろう。

 そして、レフライアの考えた予想の確認は、程なくして果たされた。

 別方向からギルドを目指していた背の小さな影、ゼンの姿をレフライアが見つけたのだ。

「ゼ―――」

 大声で呼びかけようとして、途中でやめる。彼が相変わらず、気配を制限していたからだ。

 実はレフライアも同じようなもの。

 認識阻害のマントはアリシアに貸しているので、有名人なギルマスは、同じく有名人な『流水』の弟子、“超速”のゼンと同じく気配を薄くしていた。

 完全に消すと、認識阻害でも美人なのが誤魔化せないアリシア一人にする事になるので、連れがいるのが分かる程度に薄くしている。

 近くに寄ると、それだけで鋭いゼンは気づき、合流して歩くようになる。

 何故かその表情は、余り良くない。曇っている。

<ギルマスは、何か用事があって、アリシアと教会へ行ったんですよね?>

<……ええ、そうね>

 “気”で声に指向性を持たせる。そうすると、伝えようと思う相手とのみ会話が出来る。

 ある程度の使い手同士なら可能になる、便利な秘匿会話だ。

<……えっと、その―――ギルマスは教会の方に降りた光の記憶は……>

<え、ゼン君、まさか記憶が……>

 何か歯切れ悪く、切り出しづらそうにしているから何かと思えば、ゼンにはあの時の記憶があるのだ。ついこちらも普通にそれに応じてしまった。

<……ギルマスはどうやら、ちゃんと記憶が継続している、というか、もしかして、あの“光”が何なのか、騒いでいた人達がいきなり、それまで通りの日常に戻った。誰にも“光”の記憶がない、その原因に心当たりがあったり、するんですか?>

 ゼンの目が座っている。微妙に怒りの“気”を発して凄んでいる。

<えーと、あははは……。息子がグレて、反抗期になった気分……>

<茶化さないで下さい!ギルドでじっくり説明してもらいますからね、義母さん!>


 ※


 ギルド本部のギルマスの執務室。

 そこに、レフライアとゼンと、また気を失う様に静かに寝息を立てているアリシアがいた。

 レフライアは自分の机の椅子に。ゼンは簡略的な小さめの臨時椅子。アリシアは奥にある長椅子に寝かせてある。

「―――で、迷宮の異常改善の為に、“神”に直接、いや、巫女を通してだから、間接、になるのか。直訴、ですか。ギルマスっていつもそんなぶっ飛んだ行動するんですか?」

 ゼンの呆れを含んだ責めている視線。

「失礼ね。いつもじゃないし、それ程ぶっ飛んでもいないでしょ。理にかなってるわよ。迷宮の管理なんて、“神”の管轄なんだから、そちらに訴えるしかないのよ。人がそれ以外に、何が出来るって言うの?」

「……それは、そうかもしれませんが、ギルマスが直接やりますか?」

「一応、名ばかりでも領主なの。何の権限もない人間にはやらせられないわ。正直、もっと穏便に、他にはバレない様に出来るかと思ったいたのだけど、思っていた以上の大物が釣れてしまったみたい……」

「……その為の、アリシア、ですか」

 ゼンは考え考え言う。

「ええ、そう。そこらの木っ端神に来られたら困るから。迷宮管理の神まで話が通せるぐらいに上位の神でもないと、召喚する意味がないと思って」

 大体の事情を話してしまった。強制的に話させられてしまった、と言った方がいいか。仲間の事になると、義母にすら容赦がないのだ、この子は。

「それで、何の神が来たんですか?アリシアなら、光とか、聖属性の高い神?」

「え?何の神って、それは……。あれ?聞いてない?向こうも名乗ってない、と思う……。私は名乗ったのに……。

 あら?私、なんで聞かなかったのかしら?おかしいわね。むしろ神様の方が、そういう事にはうるさいのに……。自己顕示欲の強い神の方が多いし……」

 レフライアは不思議がってやたらと頭をひねっている。

「……その神様、男ですか?女ですか?」

「えーと、男性っぽい口ぶりだったと思うけど?」

「なら、女神ですね。なんでか知りませんが、自分の正体を明かしたくなかったんでしょ、多分。だから、ギルマスに名前が聞かれない様に、精神誘導していたんだと思いますよ。内容から察するに」

「……神様の心情まで察するの?」

「適当に言っただけです。ギルマスが不思議がっていたので、そういう事もあるんじゃないかと、思っただけで、気にしないで下さい」

 色々と話しているが、常に彼は不機嫌だ。

「……そんなに神様が嫌い?」

「嫌いです。それ以上に、興味がないです。上で見下ろしていて、こちらで遊んでるとしか思えない存在に、好意を抱きようもないですし、ね」

 にべもない。徹頭徹尾、神、という絶対的な存在に対して嫌悪感しか見せない。

 その度胸は怖い位だ。

「別に神にだって、人みたいに、いい存在もいれば、悪い存在もいるんじゃないの?」

「かもしれません。でも、次元の違う存在の事を思い煩う程、俺は暇じゃないんです」

 身も蓋もない。

 神に、彼の事をたずね、、教えられない、伝えられないと言われた事は話していない。何となく、彼に話すのがためらわれる内容だったからだ。

「……もしも、神様が、貴方の事情……記憶の事やスキルの事を知っていたとしたら、どうするの?」

 不用意な、核心に近い質問。つい口がすべった。それがギルマス・レフライア。

「どうもしません。神様なら、何でも知ってるのは当り前でしょ。パラケスの爺さんともそういう話は何度かしましたが、だから、それがどうなる?としか思いません」

 レフライアは当惑する。意外な反応。思ってもいなかった答え。

「なんかこの事知ってるみんな、俺がその事で思い悩んでるみたいに思ってるのも、不思議なんですよね。

 記憶は、爺さんが言ってた様に、最初から何もなかった気がするんです。そこに大事な事があって、家族の記憶とか、育ててくれた人の記憶とかあったりするとは思えないんですよ。

 別に何か失くした感じがない。そんな大事な記憶があったとは思えない。喪失感っていうのかな?がないんです。だから気になりません。

 スキルの事も、師匠に鍛えてもらったお陰で大抵の事は出来ますし、今は従魔がいて、代わりみたいにスキル使ってくれますから。何も不自由してないです」

 パラケスの予想は、案外正解に近いのかもしれない。

 ゼンにはスキルのないハンデがある。

 代わりの様に多数の従魔がいて、スキルを使ってくれる。補ってくれる。それで完全に公平になったかどうかは分からないが、完全にないよりも是正されている感がある。

 実際に彼は今、普通の冒険者以上に有能な人材だ。

 それが自分の力だとか思ったりしない様にしてます、と慌てて付け加えた様子が少し変だった。

「だから、神様が知ってたとしても、ふーん、あ、そう。で終り。嫌いな存在に頭下げてわざわざ聞きに行くつもりもありません」

「……物凄い、割り切ってるのね」

「そうですか?

 ただ、その、スキルがないとか変なところが、迷宮(ダンジョン)の追加要素を起動させる鍵になってしまわないか、それがみんなの迷惑にならないか、は気になっていたんですけど、今回の事で、だとしても一緒に乗り越えて行けばいいのかなぁ、ってそう言ってくれた人もいるし、叱ってもくれたし……」

 テレテレ。

「へー。そう。なにか、甘い香りがするわね」

 レフライアは、無駄に鋭い。

「しません。なんで女の人って、すぐそういう話に結び付けるかなぁ……」

 ゼンはウンザリしている。

「察しのいい子と話すのって面白いわね。へー、そっか。女の子二人しかいないから、もう誰か分かってるけど、あの娘がねぇ。なんか意外ね」

「だからそういう話じゃないって言ってるのに、どうしてこっちの話聞いてくれないんですか?大体向こうは年上の凄い美人で、年下の子供なんか相手にしてませんよ。むしろ失礼だと思いますよ」

 ゼンは自分も気を悪くした、とプイと横を向く。

「プププ。君はどうしてそう、変に自分を下にして、まるで相手にしてもらえません、なんて断定するの?それは一種の逃げなの?貴方は今や大陸の英雄の一人、『流水の弟子』なのよ。

 普通に憧れて好きになってくれた娘も、何人かいたでしょうに。その考え方の方が失礼。可哀想。自分の想いをちゃんと分かってもらえないなんて、ただ単にふるのよりも余程残酷。

 もっと自分の魅力を理解して真剣に考えなさい、『流水の弟子』さん」

 年上ぶって恋愛を語る彼女の初恋はゴウセルで、それ以外の経験はない。

「なんでこの頃こういう話題をふってくる人が多いんだろう……。真剣には考えてはみますが、男女の機微なんて、俺にはまだ難しくて分かりませんよ」

「いつまでも子供のままじゃいられないでしょ。それも逃げよ。すぐに14になって、そうしたら、成人1年前。14で成人の国だってあるわ。結婚だって出来るのよ。まあ、あんまり追い詰めても可哀想か。この話はこれくらいにしておきましょう」

 あくまで恋愛経験豊富に振る舞うレフライアの面の皮はぶ厚い。


*******
オマケ

ミ「ネタがないですの!」
リ「ぶっちゃけるな!」
ミ「そりゃあ、あたしにご主人様への愛を語ったら、それだけで大作ロマン小説が十冊は軽く出来ると思うですの!でもそれだと、蛇以外の仲魔に悪いですの!
リ「なんで私を除け者にするのよ!
ミ「蛇が、恋敵(ライバル)だからですの!」
リ「上等。受けて立つわよ!」

セ「なんでこの人達、番外の舞台裏でこんな盛り上がるの?」
ゾ「外にいるのに出番ないからだろ」
ガ「隠忍自重、臥薪嘗胆……」
ル「おー、るーも、らいばる宣言するお?」
ボ「ま、まだ早いんじゃないかな?」
ル「おー、るー、残念……」
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