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第2章 流水の弟子編

058.メモリー・キューブ(3)

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 ※


<こうして、ゼン坊の協力と、旅の途上の冒険者達の協力もあって、儂が提唱する“従魔再生契約技術”、略して従魔術の、色々な条件、そして制約等が分かって来たのじゃが……>

 パラケス翁は少し考える様に腕を組み、言葉を選ぶ。

<とりあえず、判明した事からつらつら並べてみて、抜けている事がないか確かめつつ補足していくとするかのう。

 まずこの、従魔術は、あくまで魔物使役術士(テイマー)の技術の亜流であり、まったく新しい、既存のものと違う新技術ではない、という事じゃ。これは言わば、魔石に最初から組み込まれていた、神による、人にまだ知れ渡っていなかっただけの、世界の法則(ルール)の一つにすぎん。

 だから、儂がこの第一発見者等と言うものでもなく、ゼン坊や、前述した少年少女達の様に知らず使っておった者も相当数おると思う。

 世界の何処かにこの従魔術を普通に使っておる村等があっても、儂は少しも驚かんね。

 ……まあ、それはそれとして、従魔術は、該当者が魔物を倒し、魔石を得る所で、その行使権を得る。これは必ず倒した本人でなければならず、その戦闘の同じ集団にいた、という曖昧な形では行使権は得られない。協力してもらった冒険者からの情報で分かった事の一つじゃ。

 行使権を得た該当者が、その魔石に、魔力、ないし“気”等の、自分の力の一部を注ぎ込む事で、再生がなされるが、それが成功し、従魔が生存出来るかは、該当者の、人としての成長の度合いによって決まる。

 冒険者を例に具体例を上げるとB級冒険者の成功例が9割。C級の成功例は1割以下。

 この事から、この知識を公開し、使用許可を冒険者ギルドが出すのなら、B級から、という制限が設けられそうじゃが、まあこれは儂の関知する事ではないのう。

 じゃが、この従魔獲得には、完全な例外が存在する。それが魔物使役術士(テイマー)の存在じゃ。思い出して欲しいのが、儂が自力で探し得た従魔を得ていた者達がほとんど魔物使役術士(テイマー)の素質を持つ者達ばかりであった事を。

 つまり魔物使役術士(テイマー)の素質保持者は、特例的に、その魔物と通じ合える魔力の特質上の問題なのか、該当者の成長は度外視で、この従魔術でも従魔が得られるのじゃな。

 他にも、魔物使役術士(テイマー)のみが、この従魔術でも優遇されておる条件や制約等があるのじゃが、それもその時その時に説明していこう。

 さて。再生した従魔は、該当者が注ぎ込んだ魔力や“気”の量、質によって変化する事が確認されておる。具体的に言ってしまうと、『進化』じゃ。

 通常、その魔石の魔物がそのまま再生するのじゃが、まれに、質や量によってその上の段階の上位種の魔物に進化したものになる事が確認されておる。

 そして驚くなかれ、その最終進化形態は、“人種(ひとしゅ)”なのじゃ。

 つまり、魔物もまた、行きつく進化の先には、神へと至る前段階と言われる人種(ひとしゅ)になれる、神の“候補”になり得る存在、という話になってしまう訳じゃが、ここら辺、今でも人以外を差別視する教会や団体が騒ぎそうな話で、頭が痛いのう。

 ま、儂には関係ないがの。それに、この従魔となった子達が、神になる、というのもあり得ん話じゃからな。

 少し話が前後するのじゃが、魔物使役術士(テイマー)が従魔を得たのとは、この従魔術で従魔を得た場合の決定的違いがある。

 従魔術で再生された従魔は、主人となる“該当者”以上に『強くなる事はない』。

 魔物使役術士(テイマー)の場合は、その魔物との相性の良さや、あるいは戦闘での幸運的な結果により、術士より遥かに上の魔物を従魔にする事もある。

 よく伝説やお話にある様な、上位の従魔を得て、大活躍する魔物使役術士(テイマー)の話、じゃな。儂としては、虎の威を狩る何とやら、な感じで好きではないのじゃが……>

<学者の癖に、自分の好みで語るなよ>

<わ、分かっておるわい!それはそれとして、迷宮や遺跡で剣士が突然魔剣や聖剣を見つけた様な物じゃな。

 魔物使役術士(テイマー)にはそれがあるが、従魔術に、それは起こり得ないのじゃ。それは、再生した従魔は、あくまで該当者である主人の“力”から創られており、それ以上のもの等生まれ得ない、という厳然たる事実じゃ。

 主人が成長すれば、それに伴い一緒に成長する様ではあるがの。

 だから、これは、魔物の種族の強さにも言える話じゃ。従来ではH級の雑魚な魔物である犬鬼(コボルト)のミンファと、A級という大災害並の魔獣、剣狼のゾートが、ゼン坊の従魔の中では、強さが逆転していて、ややミンファの方が強い位じゃ。

 これから分かる事は、従魔術では、無理に強い魔獣の魔石を使って従魔を作っても、ほとんど意味がない、という事になってしまう。種族的に習得しているスキル等の事もあるので、そこら辺と、売れる魔石の価値との兼ね合いで従魔を選ぶ事になるじゃろうな。

 では、従魔術で従魔が再生した所まで話を戻す。

 再生した魔物は、最初その魔物の赤子の姿で再生する。この時はまだ従魔の前段階じゃな。

 それに食事を与え、世話をする事で主人との絆が生まれ、いや、元々あった絆が強く補強される、が妥当な表現かの。

 そして、従魔は大体1カ月で成体まで成長する。これは、従魔が主人に役立つ為の存在であるが故の成長促進補正が、従魔術の法則内(ルール)にあるのかもしれん。

 じゃが、その『成体』というのは、主人を基準で決められ、色々と例外的なものもある。

 主人が13歳である場合、すでに成体であった魔物、老体であった魔物でも、従魔術で従魔になり、1カ月の成長が終わると、種族としての個体差的な大きさの違いはあれど、大体主と同じに13歳で成長は止まり、以降は主に合わせ成長する。これが普通の標準的従魔の在り方らしいのう。

 しかし、例外もある。13の少年が、ある魔物の雛を、その命を助ける為に従魔にする、という事があったのじゃが、その従魔は、5~6歳で一カ月の成長が止まった。元の魔物の歳が反映されているのじゃな。この場合は。

 そして、ある中年が再生した、雌と言っては失礼になるか、女性体の従魔は、十代後半で、1カ月の成長が止まった。これは、主人の願望を従魔が反映したのか、従魔が主人に仕える最適の年齢を選択したのかは、分かっておらん>

<ぶっ殺されててぇーのか、爺!>

 何かラザンが後ろで喚いているが、パラケス翁は完全無視だ。

<さて、後は……。そうそう。“収納”の事を言ってなかったのう。

 従魔術で得た従魔は、魔物使役術士(テイマー)のそれとは違い、主人の力で創られた、言わば分身と言ってもいい存在じゃ。

 だからか、なのか、魔具の収納具に、大きい荷物が収納出来る様に、従魔を主人の中に収納出来る。従魔を魂の状態にして、主人の内的空間、それは精神の中なのか、魂の中なのかは、どうにも表現の難しい状態なのじゃが、ともかく“収納”出来てしまうのじゃな。

 その時、従魔の身体の方は、魔力源(マナ)となって空気中に拡散してしまう様じゃ。

 この“収納”には、従魔を主人の中にいれ、一緒に移動出来る、という利点があるが、難点もある。反対に出す時の話じゃな。従魔を出すと、その身体を主人は再構成、実体化する必要があるのじゃが、その時、主人は魔力、もしくは“気”をかなり多く消費する。

 儂の感覚から言うと、上位魔術1回ぐらいに匹敵するかのう。それは、その従魔の大きさとかにも関係する様じゃがね

 一度実体化した後は、普通に食事等でその身体は維持出来る。なので、儂は出しっぱなしにしておるの。いちいち仕舞うのは、魔力の浪費じゃ。

 それで、後は……、従魔を持てる数に言及しておこう。

 これは、魔物使役術士(テイマー)の場合とよく似ておる。同じ仕組み(システム)と言う事なのかもしれんな。

 持てる数は、最大で4体、同時使役可能なのは、2体という所じゃな。これは、魔物使役術士(テイマー)と同じ数になるが、意味合いは少し違うかもしれん。

 従魔術の従魔は、主人の分身であり、その魂を、存在を創り、支え、抱える事になる。これは、主人にとってなかなかの負担なのじゃ。

 従魔術を自分で使ってみれば、嫌でも分かり、実感する事になるじゃろう。限界を超えれば、主人の方がその負担に耐えかね、壊れる事もあるかもしれん>

 パラケス翁は、何か意味深な感じでこちらを見ている。

 ゴウセルはそこでまた一旦映像を止めた。

「従魔術の話の最初の方で、ゼンは出会った時にすでに5人抱えて、と言ってたなかったか?」

「……確かに。何か例外的要素なのかしら、まだ言ってないだけで」

「そうかな?そう、だな……」

 自分の言い聞かせる様に、ゴウセルはまた映像を再開させる。

<これを、魔物使役術士(テイマー)に当てはめると、本来の従魔と、この従魔術の従魔は、意味合いが違うせいなのか、重複しない、別枠に数えられるらしく、本来の方で4体、従魔術で4体の計8体が所持可能の様じゃ。

 使役も、余り細かく指示出せない様じゃったが、4体同時に使役もしておった。かなりきつい様子じゃったで、最大枠稼働、最大枠所持はしない方がいいのかもしれん。

 まあ、そちらの話はいいじゃろう。元々数少ない魔物使役術士(テイマー)が、補強手段を得た、と言う事で―――>

 念願の研究が進んだ割に、パラケス翁は渋い顔をしている。

<で、ゼン坊がフェルズに旅立つ前の、今の状態で、坊には7人の従魔がおる。全員、人種(ひとしゅ)じゃ>

 二人は、今さっき映像を止めた時以上に驚愕する。パラケスの今話していた限界数は何だったのか、と。では、ゼンには魔物使役術士(テイマー)の素質が?いや、ゼンにはスキルがない。魔物使役術士(テイマー)である筈がないのだ。

<従魔術の研究、調査が進み、分かってくればくる程、ゼン坊とその“従魔”達は、かなり特殊、特異な部類になる事が判明して来た。その数も、在り方も。これは、あるいは、坊がスキルのない事や、共感能力等が関係しているのかもとみておる。

 従魔は基本的に再生してくれた主に対して、本能的忠誠心を持つものなのじゃが、坊の従魔達はそれが異常に強い。彼等は坊の為なら何でもやるじゃろうて。

 ゼン坊と従魔達の絆はとても強く、彼等は家族同然に仲良くしておる。そして、念話でいつでも好きな時に話し合えるそうなんじゃが、これは従魔が人種(ひとしゅ)まで進化しているせいかもしれんし、坊の共感能力故なのかもしれん。

 魔物使役術士(テイマー)にも、そういったスキルや魔具で従魔と念話が出来る者もおるし、あるいは、特殊では、ないのかもしれんが……>

 パラケス翁はそこで言葉を切り、気持ちを切り替える様に薄く笑った。

<余り悲観的に考えても意味はない。ゼン坊に、余り従魔を増やすな、と注意してはあるが、あの子にとって、従魔達はそれ程負担にはならないらしい。本当に特殊な例外ケースじゃな。

 スキルがないからこそ、従魔を多数所持し得る、それが坊のスキルなのか、あるいは特典とでもいう様な『ギフト』みたいな物か>

 『ギフト』とは、異世界から召喚された魔王を倒す勇者のみに与えられた特殊スキルだが、それは鑑定等で確認出来るものなので、パラケスは希望的観測の様な事を言っているようだ。

<現状はもう、『そう』であると受け入れるしかないじゃろう。「分からん」「かもしれん」ばかりで、不甲斐ないと自分でも思うのじゃがな>

 そこでパラケス翁はこちらに向け、頭を下げる。

 ゴウセルとレフライアは思わずそれを遮ろうと声をかけかけて、これが過去の映像で、何を言っても無駄なのを思い出す。

<後は補足事項じゃな。

 従魔術で生まれた従魔は、主人が死にでもしない限り、死なぬのじゃが……。

 従魔術で生まれた従魔には魔石の様な核は存在しない。あるとすれば、それは主人の中なのじゃろう。

 怪我を負っても、主の中に戻れば、次に出した時は無傷じゃ。代わりに主がダメージを負う。傷ではなく、体力の衰弱や生命力、“気”の減少、といった形で代償を支払う事になる。

 だから、自分より強いものと相対した時、すぐ主人の中に戻る本能も従魔にはある。自分の致命的な怪我で主人が重い代償を支払う事を忌避するのじゃな。

 なので、ただ出して戦わせればいい、というものでもない。基本的には、主人よりも強くないのが、従魔術の従魔じゃ。負担も考えると、単純な戦力としては微妙になる事もある。

 種族毎の特殊なスキルや術等、主人にない能力を持つ者もおるので、そちらの有効利用を考えた方がいい。坊も、自分の作業の補佐以外では余り外に出しておらんかった。

 そういえば、主人が、その従魔との絆を自分で自覚的に切って放置すれば、従魔は死ぬらしい、と坊は言っておったな。心優しい坊にはそんな事は出来んじゃろうがね……。

 後は、従魔との“共鳴現象”があるのう。

 従魔と自分が、同じ様な武器を使う者であった場合、坊なら剣士じゃな。その力が、共鳴して些少の割合で強くなるらしい。これは、中にいても外に出ても一緒じゃな。

 だから、ゼン坊の剣士としての力は、従魔達、剣を使うのは、ミンシャとゾートくらいかの。との共鳴で底上げされておる。そのせいか、坊は自分の強さは、真の強さではない、偽物の強さだ、みたいな事を言っておったのう。

 自己評価の低い、自分に厳しい子じゃて、そう従魔による増強要素を捉えておる様じゃ。生真面目過ぎて困った子じゃて、な>

 と言って笑うパラケス翁は、どうみても孫可愛がりなお爺ちゃんだ。

「こういう爺さん、俺の生まれた村にもいて、時々飴くれたなぁ……」

 ゴウセルは、かすかにしか思い出せない生まれ育った村の事を思い出す。

 レフライアは隣りでクスクス笑っていた。

<あいつのそういう欠点は、どうしても治せなかったな。それなのに、困った奴見ると、すぐ見境なく助けるし。俺がそれでどれだけ苦労した事か……>

 ラザンが後ろでしみじみとつぶやいている。

<何を言っておるのかのう。お主は非情過ぎじゃ。目の前で人が斬られても平然と素通り出来る人間なぞ、普通におらんわ!

 お主と坊は、それで調度つり合いが取れておったと、儂は思うがのう>

<やめてくれ>

<お主達が人助けした美談のほとんどが、ゼン坊がきっかけであったからのう。とんだ正義の『流水』剣士様じゃな>

<俺は人助けの旅がしたい訳じゃないからな……。ゼンも、それ程お人好しでもないと思うんだが……>

 ラザンはぶす~っと渋い顔でただ酒をあおっている。

 二人は話を聞いていて、やたらと大陸中で、『流水』の剣士一行の正義の味方ぶりが喧伝されているのかが分かるのだった。

 ただ大量に魔物や魔獣を討伐しまくっているだけでも充分に人助けになっているのだが、それでも各地の『流水』の剣士の正義っぷりは、ラザンのその人となりを知る二人には、違和感しか感じないものだったのだが、なるほど、真相は簡単なものだった。

「少し、ゼンらしくない気がしないでもないが、強くなって余裕が出来たのかな……」

「そうね。あの子って、好きな対象以外は無頓着な感じがしたけど……」

 二人は知らない。役に立ちたがりぃな従魔達が煽る為に、ゼンがそれをあやす意味合いで、時々に人を作業的に助けていた事等は……。


*******
オマケ

今現在の『流水』一行

ラ「………」
ビ「がっはっは、歯ごたえがない!」
シ「卿に同意だ。もう少し強い敵のいる地に行こうではないか」
パ「うう、なんじゃ、この筋肉ばかりのむさくるしい集まりは……」
ラ「どうしてこうなった……。いや、ゼンが帰ったのは仕方ねーよ。だが、入れ替わりみたいに何でこいつらがここに……」
パ「ゼン坊が恋しい…。儂もフェルズ行こうかのう……」
ラ「いや、爺さん勝手に抜け出すな。俺だって何処かに逃げ出したい位だってのに……」
ア「あの、皆さまのお食事、出来ましたけど…?」
ラ「アヤメ、こいつらの分なぞいらん!勝手にまとめるな!」
ア「え、でも、お食事は、まとめてたくさん調理する方がいいと、ゼン様に……」
ラ「だとしてもいらん!こいつらは仲間でもなんでもねぇーんだからな!」

パーティー崩壊の日は近い……
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