12 / 15
オスの三毛猫しらぬいの診療カルテ ⑧ 手術は成功したけれど
しおりを挟む
「無事に終わったね、おねえちゃん」
「そうね。ずっと外で待っている瀬戸さまにお伝えして、私たちはマンションへ戻りましょう」
「分かったー」
美樹の自宅となっている2階の床には手術室が見えるように隠し窓が切られている。
そこから中をうかがっていた2匹は、美樹がこちらを見て親指を一本立てたのを見て帰ることにした。
日中、ざくろは天の意思を聴くことはない。だからざくろには不知火の悪い霧が晴れたのかそうでないのかはわからない。でも、美樹のあの顔つきからしたら不知火は大丈夫だろう。
あとは青島と不知火の問題だ。この世の理の中で生を全うするのかそれとも違うのか、二人が決めることだ。
※※※
「終わったよ~頑張ったね、イケメン君」
さくらは小さな三毛猫に話しかけた。身体には点滴など何本ものチューブがつながれていた。
「あとは腎機能がどれだけ回復するかだな。尿も出てきたし、顔つきを見るといけそうな気がするよ。」
獣医師の松本はさくらの頭越しにのぞき込みながら言った。
横たわっているが鎮痛剤が効き目を閉じて静かに呼吸している。大丈夫そうだ。飼い主への連絡は不要、と院長は言っていたけれど。
「お前、飼い主のこと好きか?」
松本が指の背で優しく首から背中にかけてそっと撫でると猫は少し顔を上げた。今朝のように怒っていない。
目を細めて顎をあげ、松本の指に甘えるように額を押し付けてきた。
楔形に切り込みを入れた右の耳が痛々しい。
「お前、可愛いなあ。」
ヨシヨシ、と言う松本を横目で見ていた美樹はオペ室を片付ける手を止め何かを考えていた。
「そうね。ずっと外で待っている瀬戸さまにお伝えして、私たちはマンションへ戻りましょう」
「分かったー」
美樹の自宅となっている2階の床には手術室が見えるように隠し窓が切られている。
そこから中をうかがっていた2匹は、美樹がこちらを見て親指を一本立てたのを見て帰ることにした。
日中、ざくろは天の意思を聴くことはない。だからざくろには不知火の悪い霧が晴れたのかそうでないのかはわからない。でも、美樹のあの顔つきからしたら不知火は大丈夫だろう。
あとは青島と不知火の問題だ。この世の理の中で生を全うするのかそれとも違うのか、二人が決めることだ。
※※※
「終わったよ~頑張ったね、イケメン君」
さくらは小さな三毛猫に話しかけた。身体には点滴など何本ものチューブがつながれていた。
「あとは腎機能がどれだけ回復するかだな。尿も出てきたし、顔つきを見るといけそうな気がするよ。」
獣医師の松本はさくらの頭越しにのぞき込みながら言った。
横たわっているが鎮痛剤が効き目を閉じて静かに呼吸している。大丈夫そうだ。飼い主への連絡は不要、と院長は言っていたけれど。
「お前、飼い主のこと好きか?」
松本が指の背で優しく首から背中にかけてそっと撫でると猫は少し顔を上げた。今朝のように怒っていない。
目を細めて顎をあげ、松本の指に甘えるように額を押し付けてきた。
楔形に切り込みを入れた右の耳が痛々しい。
「お前、可愛いなあ。」
ヨシヨシ、と言う松本を横目で見ていた美樹はオペ室を片付ける手を止め何かを考えていた。
0
お気に入りに追加
1
あなたにおすすめの小説
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
【完結】20年後の真実
ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
公爵令息のマリウスがが婚約者タチアナに婚約破棄を言い渡した。
マリウスは子爵令嬢のゾフィーとの恋に溺れ、婚約者を蔑ろにしていた。
それから20年。
マリウスはゾフィーと結婚し、タチアナは伯爵夫人となっていた。
そして、娘の恋愛を機にマリウスは婚約破棄騒動の真実を知る。
おじさんが昔を思い出しながらもだもだするだけのお話です。
全4話書き上げ済み。
皇太子の子を妊娠した悪役令嬢は逃げることにした
葉柚
恋愛
皇太子の子を妊娠した悪役令嬢のレイチェルは幸せいっぱいに暮らしていました。
でも、妊娠を切っ掛けに前世の記憶がよみがえり、悪役令嬢だということに気づいたレイチェルは皇太子の前から逃げ出すことにしました。
本編完結済みです。時々番外編を追加します。
寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい
白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。
私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。
「あの人、私が
貧乏男爵家の末っ子が眠り姫になるまでとその後
空月
恋愛
貧乏男爵家の末っ子・アルティアの婚約者は、何故か公爵家嫡男で非の打ち所のない男・キースである。
魔術学院の二年生に進学して少し経った頃、「君と俺とでは釣り合わないと思わないか」と言われる。
そのときは曖昧な笑みで流したアルティアだったが、その数日後、倒れて眠ったままの状態になってしまう。
すると、キースの態度が豹変して……?
【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?
みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。
ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる
色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く
《勘違い》で婚約破棄された令嬢は失意のうちに自殺しました。
友坂 悠
ファンタジー
「婚約を考え直そう」
貴族院の卒業パーティーの会場で、婚約者フリードよりそう告げられたエルザ。
「それは、婚約を破棄されるとそういうことなのでしょうか?」
耳を疑いそう聞き返すも、
「君も、その方が良いのだろう?」
苦虫を噛み潰すように、そう吐き出すフリードに。
全てに絶望し、失意のうちに自死を選ぶエルザ。
絶景と評判の観光地でありながら、自殺の名所としても知られる断崖絶壁から飛び降りた彼女。
だったのですが。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる