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ご主人は動物看護師 ①
しおりを挟む「お大事に~」
「ありがとうございました。」
若い女が抱えたキャリーバッグから漏れる「にゃああん!にゃああん!」という声が遠ざかっていく。
「よっしゃ終わり!」
車のドアが閉まる音を確認して動物看護師の堂島さくらは玄関ドアのロールカーテンをおろした。
院長があとは自分でするから女の子は早く帰りなさいと言うのを半ば無視し、手際よく掃除機をかけ床に消毒薬の噴霧を終えると20時になっていた。
「院長お先にあがります!おつかれさまでしたー」
「さくらさん、今日はお休みなのにありがとう。ほんとに助かりました。」
テーブルに積みあがった未処理のカルテの隙間から聞こえる院長の佐伯美樹の声を後ろに聞きながら、さくらは自宅へと急いだ。
遅くなっちゃったな。また脱走してなければいいんだけど。
さくらが飼っている二匹の姉弟猫は1か月に2~3度脱走するのだ。不思議なことに窓もドアの鍵も閉まっているというのに、だ。
一体どこから逃げ出すのか・・・おおかたパッと見にはわからない換気口などから出るのだろうとみんなは言う。
少々心配をしてガチャリと自室であるマンションのカギを開ける。
「ただいま~いちご~!ざくろ~!」
「にゃあ!にゃあ!にゃーにゃー」
玄関にはいつもどおり大柄な黒猫が尾を上げて出迎えにきてくれた。
「いちご、ただいま」
少しホッとして靴を脱ぎ部屋へと歩き出すと、いちごがさくらのひざ下にスリスリからみつくので少しよろめきながらリビングに目を走らせるとダイニングテーブルにある炊飯器の上で背伸びをしながらあくびをする小さな白猫を見つけさくらはあきれたようなふりをして安堵の深い息をついたのだった。
「ざくろ~君はマイペースだねえええ!!二匹ともだいすきすぎるぞおおおお」
右手に黒猫をだらんと抱きかかえ、左手で白猫の頭をごしごし撫でながらほおずりする。
「んにゃ」すこし迷惑そうに目を細めながら白い塊は小さく鳴いた。
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