103 / 129
103話
しおりを挟む
「えっと…説明を続けてもいい?」
「あっ、どうぞ!」
おずおずとサナが問い掛けると、慌てた様子で奏が答える。…そんな中で一連の流れの中心である瑠華と、無関係の凪沙はただ首を傾げていた。凪沙は兎も角、瑠華は自覚して欲しいと常々思う奏である。
:これぞ何時もの。
:サナの胃へのダメージが…
:大丈夫だ、多分。
奏からの返答を受け、コホンと咳払いをしつつ説明を再開する。
「今回の榛名ダンジョンは、数多くあるダンジョンの中でも特殊なものになるわ」
「特殊?」
「ええ。一般的にダンジョンというのは、出現するモンスターの強さやダンジョンそのものの構造によってランク付けがされているわ。そして榛名ダンジョンに付けられたランクは、EからBとされているの」
「ランクが複数…?」
奏達が今まで潜ったダンジョンに付けられたランクは一つだけ。複数のランク付けがされたダンジョンというのは初めてだった。
「榛名ダンジョンはその階層ごとに、環境が大きく変化するの。その影響で出現するモンスターの強さにバラつきがあって、深くなるほどランクが上がっていくという特殊な特徴を持っているのよ」
(…成程。ケルベロスが出現したのはそういう理由じゃったか)
現在【柊】の愛犬状態となっている弥生達ケルベロスが出現した訳を今更ながらに知り、一人納得する。ダンジョンブレイクの時はモンスターの出現範囲がバラバラになってしまっていたので、階層ごとにランクが異なるという事実に気付く事が出来なかったのだ。
「他にもそんなダンジョンはあるの?」
疑問に思った凪沙が質問する。これは元々の台本には無いものだが、サナは先輩として不甲斐ない所を見せられないと思い予め勉強していたので、受け答えもスムーズだった。……内心の焦りを表情に出さないのは、流石プロと言うべきか。
「今の所確認されているのは五つあるわ。どれもよく言えば自然豊か。悪く言えば…まぁ田舎にあるわね」
「へぇ…」
「今の所【柊】から離れた場所に行くのは難しいけど、将来的にそういう所にも行ってみたいね」
「そうじゃのぅ…紫乃が大分仕事を任せられるようになっておるでな。近い内にそれも叶うやもしれんな」
:お。地方進出?
:うちの地元来ないかな…
:まぁ無理はしないでもろて。
オープニングもそこそこに、いよいよダンジョンの中へと入る。瑠華からすれば少し懐かしい場所だ。
「さて。いよいよ攻略なんだけれど…前衛は奏ちゃん。中衛は瑠華ちゃんでいきましょう」
二人とも近距離職ではあるものの、瑠華は魔法による遠距離援護が出来るので中衛を担当する事に。
「出現するモンスターは…まぁ、見れば分かるわ」
奏がその言葉に首を傾げるも、先輩であるサナがそう言うならと素直に納得して先陣を切る。
……そしてその後すぐに、その言葉の意味を知る事となった。
「無理無理無理っ! 瑠華ちゃん助けてぇ!」
「………」
泣きついてきた奏を瑠華が無慈悲に引き剥がすと、焔の矢を放ち襲い掛かって来たモンスターを焼き尽くす。その後には塵一つ残らない。それを見て、漸く奏が落ち着きを取り戻した。
「大丈…ふふっ…」
心配した風に近付いて来たサナであったが、耐えきれず笑い声を零してしまう。それに対し、奏は不服げに頬を膨らませて抗議した。
「サナさん! 知ってたなら言ってくださいよ!」
「いやだって言ったら面白くないじゃない」
奏が悲鳴をあげた理由。それはこのダンジョンの上層に出現するモンスターにあった。そしてそれこそ、このダンジョンが不人気である理由の大元である。
「―――でっかい虫型なんて誰だって嫌ですよ!」
……そう。この榛名ダンジョンには、現実に存在する虫を巨大化させたようなモンスターが出現するのだ。今回奏が最初に出会ったのは、例えるならばコガネムシのような見た目をしたモンスターだった。
:これはキツイ。
:せめてデフォルメしてくれ…
:ていうかしれっと瑠華ちゃんに抱き着いてて草。いいぞもっとやれ。
:唐突に提供されるてぇてぇはいずれ癌に効くようになる。
「むぅ…」
しれっと瑠華に抱き着いた奏に、凪沙が嫉妬の眼差しを向ける。立ち位置の関係上、どうしても凪沙はそうした機会に恵まれない。
「瑠華ちゃんは平気なの…?」
「【柊】で虫が出た時に呼ばれるのは誰だと思っておるのじゃ?」
:あーwww
:成程www
「私無理。瑠華ちゃん…」
「嫌というならば代わるのも吝かではないが…今のうちに慣れておかねば後が辛いのではないかえ?」
「うっ……」
実際のところ、虫型のモンスターが出現するダンジョンはそこそこある。今でこそ脅威度が低いのでこうしてわちゃわちゃ出来るが、ランクが上がればそうも言っていられないだろう。
瑠華の言葉でそこに思い至った奏が、渋々といった様子で元の立ち位置へと戻る。すると突然、後ろから凪沙が抱き着いて来た。
「どうかしたのかえ?」
「……私は虫大丈夫だよ?」
「ん…? それは既に妾も知っておるが…」
それが強がりではなく、本当に虫が大丈夫な方の人間である事はちゃんと理解している。なのでいきなりそのような事をわざわざ口にした理由が分からず、瑠華は首を傾げた。
:これはあれだな?
:明らかな嫉妬。
:何とかして奏ちゃんにマウント取りたいんだろうなぁ…
「あっ、どうぞ!」
おずおずとサナが問い掛けると、慌てた様子で奏が答える。…そんな中で一連の流れの中心である瑠華と、無関係の凪沙はただ首を傾げていた。凪沙は兎も角、瑠華は自覚して欲しいと常々思う奏である。
:これぞ何時もの。
:サナの胃へのダメージが…
:大丈夫だ、多分。
奏からの返答を受け、コホンと咳払いをしつつ説明を再開する。
「今回の榛名ダンジョンは、数多くあるダンジョンの中でも特殊なものになるわ」
「特殊?」
「ええ。一般的にダンジョンというのは、出現するモンスターの強さやダンジョンそのものの構造によってランク付けがされているわ。そして榛名ダンジョンに付けられたランクは、EからBとされているの」
「ランクが複数…?」
奏達が今まで潜ったダンジョンに付けられたランクは一つだけ。複数のランク付けがされたダンジョンというのは初めてだった。
「榛名ダンジョンはその階層ごとに、環境が大きく変化するの。その影響で出現するモンスターの強さにバラつきがあって、深くなるほどランクが上がっていくという特殊な特徴を持っているのよ」
(…成程。ケルベロスが出現したのはそういう理由じゃったか)
現在【柊】の愛犬状態となっている弥生達ケルベロスが出現した訳を今更ながらに知り、一人納得する。ダンジョンブレイクの時はモンスターの出現範囲がバラバラになってしまっていたので、階層ごとにランクが異なるという事実に気付く事が出来なかったのだ。
「他にもそんなダンジョンはあるの?」
疑問に思った凪沙が質問する。これは元々の台本には無いものだが、サナは先輩として不甲斐ない所を見せられないと思い予め勉強していたので、受け答えもスムーズだった。……内心の焦りを表情に出さないのは、流石プロと言うべきか。
「今の所確認されているのは五つあるわ。どれもよく言えば自然豊か。悪く言えば…まぁ田舎にあるわね」
「へぇ…」
「今の所【柊】から離れた場所に行くのは難しいけど、将来的にそういう所にも行ってみたいね」
「そうじゃのぅ…紫乃が大分仕事を任せられるようになっておるでな。近い内にそれも叶うやもしれんな」
:お。地方進出?
:うちの地元来ないかな…
:まぁ無理はしないでもろて。
オープニングもそこそこに、いよいよダンジョンの中へと入る。瑠華からすれば少し懐かしい場所だ。
「さて。いよいよ攻略なんだけれど…前衛は奏ちゃん。中衛は瑠華ちゃんでいきましょう」
二人とも近距離職ではあるものの、瑠華は魔法による遠距離援護が出来るので中衛を担当する事に。
「出現するモンスターは…まぁ、見れば分かるわ」
奏がその言葉に首を傾げるも、先輩であるサナがそう言うならと素直に納得して先陣を切る。
……そしてその後すぐに、その言葉の意味を知る事となった。
「無理無理無理っ! 瑠華ちゃん助けてぇ!」
「………」
泣きついてきた奏を瑠華が無慈悲に引き剥がすと、焔の矢を放ち襲い掛かって来たモンスターを焼き尽くす。その後には塵一つ残らない。それを見て、漸く奏が落ち着きを取り戻した。
「大丈…ふふっ…」
心配した風に近付いて来たサナであったが、耐えきれず笑い声を零してしまう。それに対し、奏は不服げに頬を膨らませて抗議した。
「サナさん! 知ってたなら言ってくださいよ!」
「いやだって言ったら面白くないじゃない」
奏が悲鳴をあげた理由。それはこのダンジョンの上層に出現するモンスターにあった。そしてそれこそ、このダンジョンが不人気である理由の大元である。
「―――でっかい虫型なんて誰だって嫌ですよ!」
……そう。この榛名ダンジョンには、現実に存在する虫を巨大化させたようなモンスターが出現するのだ。今回奏が最初に出会ったのは、例えるならばコガネムシのような見た目をしたモンスターだった。
:これはキツイ。
:せめてデフォルメしてくれ…
:ていうかしれっと瑠華ちゃんに抱き着いてて草。いいぞもっとやれ。
:唐突に提供されるてぇてぇはいずれ癌に効くようになる。
「むぅ…」
しれっと瑠華に抱き着いた奏に、凪沙が嫉妬の眼差しを向ける。立ち位置の関係上、どうしても凪沙はそうした機会に恵まれない。
「瑠華ちゃんは平気なの…?」
「【柊】で虫が出た時に呼ばれるのは誰だと思っておるのじゃ?」
:あーwww
:成程www
「私無理。瑠華ちゃん…」
「嫌というならば代わるのも吝かではないが…今のうちに慣れておかねば後が辛いのではないかえ?」
「うっ……」
実際のところ、虫型のモンスターが出現するダンジョンはそこそこある。今でこそ脅威度が低いのでこうしてわちゃわちゃ出来るが、ランクが上がればそうも言っていられないだろう。
瑠華の言葉でそこに思い至った奏が、渋々といった様子で元の立ち位置へと戻る。すると突然、後ろから凪沙が抱き着いて来た。
「どうかしたのかえ?」
「……私は虫大丈夫だよ?」
「ん…? それは既に妾も知っておるが…」
それが強がりではなく、本当に虫が大丈夫な方の人間である事はちゃんと理解している。なのでいきなりそのような事をわざわざ口にした理由が分からず、瑠華は首を傾げた。
:これはあれだな?
:明らかな嫉妬。
:何とかして奏ちゃんにマウント取りたいんだろうなぁ…
12
お気に入りに追加
76
あなたにおすすめの小説
動物に好かれまくる体質の少年、ダンジョンを探索する 配信中にレッドドラゴンを手懐けたら大バズりしました!
海夏世もみじ
ファンタジー
旧題:動物に好かれまくる体質の少年、ダンジョン配信中にレッドドラゴン手懐けたら大バズりしました
動物に好かれまくる体質を持つ主人公、藍堂咲太《あいどう・さくた》は、友人にダンジョンカメラというものをもらった。
そのカメラで暇つぶしにダンジョン配信をしようということでダンジョンに向かったのだが、イレギュラーのレッドドラゴンが現れてしまう。
しかし主人公に攻撃は一切せず、喉を鳴らして好意的な様子。その様子が全て配信されており、拡散され、大バズりしてしまった!
戦闘力ミジンコ主人公が魔物や幻獣を手懐けながらダンジョンを進む配信のスタート!
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
勇者一行から追放された二刀流使い~仲間から捜索願いを出されるが、もう遅い!~新たな仲間と共に魔王を討伐ス
R666
ファンタジー
アマチュアニートの【二龍隆史】こと36歳のおっさんは、ある日を境に実の両親達の手によって包丁で腹部を何度も刺されて地獄のような痛みを味わい死亡。
そして彼の魂はそのまま天界へ向かう筈であったが女神を自称する危ない女に呼び止められると、ギフトと呼ばれる最強の特典を一つだけ選んで、異世界で勇者達が魔王を討伐できるように手助けをして欲しいと頼み込まれた。
最初こそ余り乗り気ではない隆史ではあったが第二の人生を始めるのも悪くないとして、ギフトを一つ選び女神に言われた通りに勇者一行の手助けをするべく異世界へと乗り込む。
そして異世界にて真面目に勇者達の手助けをしていたらチキン野郎の役立たずという烙印を押されてしまい隆史は勇者一行から追放されてしまう。
※これは勇者一行から追放された最凶の二刀流使いの隆史が新たな仲間を自ら探して、自分達が新たな勇者一行となり魔王を討伐するまでの物語である※
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
俺だけ毎日チュートリアルで報酬無双だけどもしかしたら世界の敵になったかもしれない
亮亮
ファンタジー
朝起きたら『チュートリアル 起床』という謎の画面が出現。怪訝に思いながらもチュートリアルをクリアしていき、報酬を貰う。そして近い未来、世界が一新する出来事が起こり、主人公・花房 萌(はなぶさ はじめ)の人生の歯車が狂いだす。
不意に開かれるダンジョンへのゲート。その奥には常人では決して踏破できない存在が待ち受け、萌の体は凶刃によって裂かれた。
そしてチュートリアルが発動し、復活。殺される。復活。殺される。気が狂いそうになる輪廻の果て、萌は光明を見出し、存在を継承する事になった。
帰還した後、急速に馴染んでいく新世界。新しい学園への編入。試験。新たなダンジョン。
そして邂逅する謎の組織。
萌の物語が始まる。

底辺ダンチューバーさん、お嬢様系アイドル配信者を助けたら大バズりしてしまう ~人類未踏の最難関ダンジョンも楽々攻略しちゃいます〜
サイダーボウイ
ファンタジー
日常にダンジョンが溶け込んで15年。
冥層を目指すガチ勢は消え去り、浅層階を周回しながらスパチャで小銭を稼ぐダンチューバーがトレンドとなった現在。
ひとりの新人配信者が注目されつつあった。

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活
昼寝部
ファンタジー
この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。
しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。
そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。
しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。
そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。
これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる