ドラゴンさんの現代転生

家具屋ふふみに

文字の大きさ
上 下
89 / 129

89話

しおりを挟む
「凪沙、矢の数は足りるかの?」

「んと…後十本くらい」

 腰に下げた矢筒を確認すると、カラカラと寂しい音が響く。一応撃った矢は回収していたのだが、大半は歪んでしまい使い物にならなくなっていた。

 :弓はそういう事あるからなぁ。
 :消耗品使う武器は連戦キツイ。

「一旦帰ることも考慮するが…ふむ。ちょうど良い機会かもしれんの」

「瑠華ちゃん?」

「前々より凪沙にはあるスキルの獲得を目指してもらっておったのじゃ。それを少し見せてやろうと思うての」

「ん。見本欲しい」

 :久しぶりの瑠華先生。
 :やっぱり知識量凄いよね。

 凪沙から弓を借りることも考えたが、万が一壊してはいけないので別の物を用意することにした。
 瑠華が手を前に突き出せばそこに光が集まり、やがて弓の形が浮かび上がった。

「……また見た事ない能力を…」

「いや? これは奏も見た事があるスキルじゃぞ?」

「え?」

 しかしいくら頭を捻ろうと、何も無いところから武器を生み出すスキルに関して思い当たる節はなかった。

 :それって俺たちも見た事ある?

「あるな」

 :んー…となると〖魔法板〗か?

「おぉ、正解じゃよ」

 視聴者が見た事のある瑠華のスキルは少ないので、奏よりも簡単に正解へと辿り着いた。そう、あの空中に文字を浮かび上がらせる事が出来るスキルである。

「えっ!? あれなの!?」

「〖魔法板〗は妾が持つスキルの中でも、比較的汎用性が高いものじゃからの」

 生み出す板の大きさや形は自由自在であり、その材質もある程度変質させられる。それらを組み合わせる事で、様々な物を擬似的に生み出す事が可能なのだ。

 :何そのチートスキル。
 :今更だな。
 :それってつまり銃とかも…?

「形は作れるが弾丸の中身は無理じゃな。作れたとしても魔銃じゃろう」

 :あー、そっか。火薬とかは流石にか。
 :それでも作れるだけヤベェけど。
 :まぁ瑠華ちゃんに魔銃が必要かと問われると……うん。

「要らんな」

「デスヨネー」

 魔銃を使う事にも確かに利点はあるが、そんなものを使うくらいならば自前で魔法を使った方が楽だ。

「さて…アレを狙うか。見えるかの?」

「ん? ……あー、ウルフかな?」

「見える」

 標的に定めたのは、少し離れた場所にいる小さなウルフ。東京第三ダンジョン最下層に居るウルフとは違う種類であり、その名はリトルウルフである。

「……安直な名前って多いね」

「難解な名前をつける意味もなかろう。報告する時に分かりやすいかどうかが最優先であろうからな」

 :それはそう。
 :名前の通りの見た目してたら分かりやすいよね。

 狙いを定めた瑠華が、静かに弓を引き絞る。しかしその弦には矢が番えられていない。

「あ…」

 だが奏だけは、その手に魔力が集まっているのが分かった。魔法が使えるようになった事による恩恵だろう。

「…〖魔弓・一ノ矢〗」

 静かな瑠華の声に伴って、光り輝く矢が現れる。そして引き絞る手が離されると、凛とした鈴の音のような音を響かせながらその矢が放たれた。
 一筋の軌跡を描きながら飛翔する一本の矢は、まるで吸い込まれるようにしてリトルウルフの頭を

「……えっぐ」

 :綺麗だなぁとか思ってたんだけどなぁ…
 :綺麗なだけな訳ないのよな……
 :威力えぐ…

「少し加減を見誤ったのう」

「これ少し…?」

「私これ習得するの…?」

「凪沙ならば出来るじゃろ。まぁここまでの威力は出んじゃろうがな」

「何が威力を決めるの?」

「他のスキルと同じく込める魔力じゃな。故に属性を込める事も出来るぞ」

「…だから撃つ時は、矢に魔力を流すように言ったの?」

「そうじゃな。スキルの獲得には普段の行動が密接に関わっておる。魔力の矢を撃つ、という事と、魔力を込めた矢を撃つ、というのは根底としては同じと言えるからの」

 :確かにスキルは反復思考が大事だけど…
 :弓って人気ないから判明してるスキルも少ないんだよなぁ。
 :瑠華先生! 他には無いんですか!

「弓に関するスキルは…〖竜擊〗というものもあるぞ。獲得は不可能じゃが」

 :何故に不可能?

「竜人の素材を用いて作られた弓矢が必要だからじゃよ」

 そして〖竜撃〗は竜人の種族固有スキルの一つだ。元々人間には獲得する事が出来ないものである。

「他には[拡散]や[必中]、変わり種で言うと[爆散]などもあるのぅ」

 :なんか最後凄い不穏なやつ出てきたんですけど。
 :てか獲得不能スキル知ってるって事は……

「瑠華ちゃん全部使えるの?」

「使えなければ教える事は出来んじゃろうて」

 :やばぁい。
 :あれ? という事は、瑠華ちゃんは竜人の素材の弓矢を持っているという事では……

「……それに関しては黙秘しておくとしよう。知らぬ方が良い事もある」

「……まぁ深くは聞かないでおく。それ以外は凪沙でも獲得出来る?」

「出来る、と言いたいところじゃが…スキルには上限数があるでな。あまり使う用途のないスキルは覚えさせたくはないな」

 :なんかとんでもない爆弾発言出てきたんですけど!?
 :スキルに獲得上限あるの!?
 :いやそんな膨大な量のスキル持ってる人がそもそも居ないから分からん。
 :そんな上限を瑠華ちゃんは突破してそうな気がするんですがそれは。

「妾はスキルをそこまで持っとらんぞ」

「え、でも…」

「妾が持っているスキルは全部で三つだけじゃ。その内の一つのスキルの効果で、他のスキルを使えるというだけじゃよ」

 瑠華が持っているスキルは〖認識阻害〗、〖魔法板〗、そして〖原初〗の三つだけである。その他多くのスキルが扱えるのは、〖原初〗の効果によるものである。

 :だけとは。
 :ちょいちょい感覚ズレてんだよな……
 :仕方が無い。瑠華ちゃんだもの。
 :それって諦めにも使えるのか……


しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

動物に好かれまくる体質の少年、ダンジョンを探索する 配信中にレッドドラゴンを手懐けたら大バズりしました!

海夏世もみじ
ファンタジー
 旧題:動物に好かれまくる体質の少年、ダンジョン配信中にレッドドラゴン手懐けたら大バズりしました  動物に好かれまくる体質を持つ主人公、藍堂咲太《あいどう・さくた》は、友人にダンジョンカメラというものをもらった。  そのカメラで暇つぶしにダンジョン配信をしようということでダンジョンに向かったのだが、イレギュラーのレッドドラゴンが現れてしまう。  しかし主人公に攻撃は一切せず、喉を鳴らして好意的な様子。その様子が全て配信されており、拡散され、大バズりしてしまった!  戦闘力ミジンコ主人公が魔物や幻獣を手懐けながらダンジョンを進む配信のスタート!

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

勇者一行から追放された二刀流使い~仲間から捜索願いを出されるが、もう遅い!~新たな仲間と共に魔王を討伐ス

R666
ファンタジー
アマチュアニートの【二龍隆史】こと36歳のおっさんは、ある日を境に実の両親達の手によって包丁で腹部を何度も刺されて地獄のような痛みを味わい死亡。 そして彼の魂はそのまま天界へ向かう筈であったが女神を自称する危ない女に呼び止められると、ギフトと呼ばれる最強の特典を一つだけ選んで、異世界で勇者達が魔王を討伐できるように手助けをして欲しいと頼み込まれた。 最初こそ余り乗り気ではない隆史ではあったが第二の人生を始めるのも悪くないとして、ギフトを一つ選び女神に言われた通りに勇者一行の手助けをするべく異世界へと乗り込む。 そして異世界にて真面目に勇者達の手助けをしていたらチキン野郎の役立たずという烙印を押されてしまい隆史は勇者一行から追放されてしまう。 ※これは勇者一行から追放された最凶の二刀流使いの隆史が新たな仲間を自ら探して、自分達が新たな勇者一行となり魔王を討伐するまでの物語である※

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

俺だけ毎日チュートリアルで報酬無双だけどもしかしたら世界の敵になったかもしれない

亮亮
ファンタジー
朝起きたら『チュートリアル 起床』という謎の画面が出現。怪訝に思いながらもチュートリアルをクリアしていき、報酬を貰う。そして近い未来、世界が一新する出来事が起こり、主人公・花房 萌(はなぶさ はじめ)の人生の歯車が狂いだす。 不意に開かれるダンジョンへのゲート。その奥には常人では決して踏破できない存在が待ち受け、萌の体は凶刃によって裂かれた。 そしてチュートリアルが発動し、復活。殺される。復活。殺される。気が狂いそうになる輪廻の果て、萌は光明を見出し、存在を継承する事になった。 帰還した後、急速に馴染んでいく新世界。新しい学園への編入。試験。新たなダンジョン。 そして邂逅する謎の組織。 萌の物語が始まる。

底辺ダンチューバーさん、お嬢様系アイドル配信者を助けたら大バズりしてしまう ~人類未踏の最難関ダンジョンも楽々攻略しちゃいます〜

サイダーボウイ
ファンタジー
日常にダンジョンが溶け込んで15年。 冥層を目指すガチ勢は消え去り、浅層階を周回しながらスパチャで小銭を稼ぐダンチューバーがトレンドとなった現在。 ひとりの新人配信者が注目されつつあった。

削除予定です

伊藤ほほほ
ファンタジー
削除します

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

処理中です...