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75話
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無事弓やその他必要な物を買い揃え、その後向かったのは瑠華達もお世話になった東京第三ダンジョン。
今回は既に探索者である瑠華達が同行するという事で、実地試験は協会から貸し出されたカメラを回すだけで済むそうだ。ただし初回で潜っていいのは三階まで、という制限は付いている。
「まずは凪沙だけで戦ってもらおうかの」
「分かった」
二階層までは動きの遅いスライムしか出ない。であれば遠距離職である凪沙が全面に出てもさして問題はないだろう。
「っ! きた」
曲がり角から姿を現したスライムを見据え、凪沙が落ち着いて弓に矢を番える。キリキリと弦が引き絞られ、一拍置いて風切り音と共に矢がスライムへと吸い込まれた。
「うむ。狙いは正確じゃな」
「あとはどれだけ速く狙いを定められるか、かな?」
「ん。頑張る」
スライム相手に八面六臂の活躍を見せるのは難しいだろうが、それでも期待をしてくれる二人には何とか良いところを見せたいと凪沙は思う。
「瑠華お姉ちゃん、アレは?」
「今は無しじゃな。コレがあるしのぅ」
瑠華がそう言って指し示したのは、借り受けた浮遊カメラだ。
実は凪沙が瑠華からお願いされたスキルはある特定の動きをする事で獲得へのきっかけを掴む事が出来るのだが、瑠華はそれをこのカメラに写すのはあまり良くないと考えていた。
「何の話?」
「む…今は無理じゃ。後で詳しく話そうかの」
「? 分かった」
疑問に思いつつも、瑠華がそう言うならと納得する。……瑠華から言葉巧みに聞き出す自信が無いからというのもあった。
スライムは動きが遅く攻撃範囲も極めて狭い為、落ち着いてじっくり弓の狙いを定めて正確に撃ち抜く時間はある。しかし凪沙はある程度の緊張感と、出来る限り速く狙いを定める意識を持って行うようにしていた。何時までもこのレベルの敵と戦えるとは限らず、今のうちに経験を積んでおくべきだと判断したからだ。
結果として二階層の終盤頃には、接敵して一秒足らずで狙いを定め撃ち抜けるようになっていた。
「中々筋が良いのぅ」
「だね。これはうかうかしてられないかも」
凪沙の成長速度に驚きつつも、次の階層からはどうなるかと少しの心配が襲う。
「凪沙、次の階層からモンスターの種類が異なるぞ」
「ん。リトルゴブリンだよね? まだ前でもいい?」
「構わん。じゃが危険と判断したら直ぐに下がるのじゃぞ」
瑠華の忠告にこくりと頷き、少し肩に力を入れながら階段を降りて三階層へ。ここが今日到達可能な最後の階層だ。
「……来た」
何時でも撃てるように矢を番えて進む事数分。まだこちらに気付かず歩いてくるリトルゴブリンの足音を、凪沙の耳が捉えた。
キリキリと落ち着いて弓を引き絞り、矢を放つ。狙うはリトルゴブリンの頭。
「ギャッ!?」
「……逸れた」
攻撃された事でリトルゴブリンが鳴き声を上げる。それで分かるのは、狙いが外れたという事で。
「まぁまぁの距離じゃからの。減衰率や抵抗を考えて撃たねば、狙った場所に当てるのは厳しいぞ」
「むぅ…」
先程まで相手をしていたスライムと異なる点。それは敵との距離だ。スライムよりもリトルゴブリンの方が動きが速く攻撃力が高い為、凪沙は出来る限り離れた位置から矢を放った。
その判断自体は遠距離職としては正しい選択だが、問題は弓というものが距離が離れるほど着弾地点の誤差が大きくなる武器だという事だ。
「ギャギャッ!」
凪沙の姿を認識したリトルゴブリンが、攻撃された怒りを露わにして走って来た。
それに対して瑠華が何時でも援護できるように魔法を用意し、凪沙はもう一度攻撃を試みる。
ヒュッ!
「――ッ!?」
放たれた矢がリトルゴブリンの喉元へと突き刺さり、声にならない悲鳴をあげながら前のめりに倒れ込む。まだ息絶えていない様子を確認すると、手早くもう一本矢を番え、リトルゴブリンの脳天へと撃ち込んだ。
それで絶命に至ったのか、リトルゴブリンの形が崩れてその場にドロップ品だけが残った。
「……ふぅぅ……」
消えていく様子を最後まで見届け、凪沙が深く息を吐いて身体を弛緩させる。中々に緊張していたようだ。
「よぅ頑張ったのぅ」
「! えへへ…」
ポンポンと頭を撫でられ、凪沙が緩んだ笑みを零す。普段ならば奏が嫉妬しそうな光景だが、流石に状況を理解しているので仕方無いなぁと言いたげな様子でただ眺めるだけに留まった。
「スキルも得たようじゃしのぅ」
「えっ!?」
「スキル…?」
その言葉に驚く奏とは対照的に、凪沙は何処かピンと来ていない様子で小首を傾げた。
「最後の矢継の速さ。あれはスキルの類いによるものじゃ」
「んー? ……あっ、[速射]? っていうスキルが手に入ったみたい」
あまり理解出来なかった凪沙が取り敢えず探索者のカードを取り出すと、どうやら本当にスキルを獲得していたようだ。
「[速射]は使う程に速さが上がるスキルじゃ。弓使いであれば必須と言えるスキルじゃの」
「ふぅん…どう使うの?」
「『速くしたい』等と意識するだけで良い。ただしスキルは発動に魔力を消耗するのでな。乱発は厳禁じゃ」
「ん。分かった」
「今の凪沙じゃと……後五回が限度じゃな」
「それだけ?」
折角スキルを獲得出来たのに、使える回数が少ないと知り不服そうな声を上げる。
「魔力は消費する程に増えていくでの。毎日の特訓が重要じゃな」
「……ん。頑張る」
今多く使えない事は不満だが、将来的により多く使えるようになると分かれば自ずと気持ちも持ち直す。
「……私も頑張ろ」
それを見て、魔力量で凪沙に追い抜かれないよう、これまで以上に頑張ろうと人知れず決意する奏なのであった。
今回は既に探索者である瑠華達が同行するという事で、実地試験は協会から貸し出されたカメラを回すだけで済むそうだ。ただし初回で潜っていいのは三階まで、という制限は付いている。
「まずは凪沙だけで戦ってもらおうかの」
「分かった」
二階層までは動きの遅いスライムしか出ない。であれば遠距離職である凪沙が全面に出てもさして問題はないだろう。
「っ! きた」
曲がり角から姿を現したスライムを見据え、凪沙が落ち着いて弓に矢を番える。キリキリと弦が引き絞られ、一拍置いて風切り音と共に矢がスライムへと吸い込まれた。
「うむ。狙いは正確じゃな」
「あとはどれだけ速く狙いを定められるか、かな?」
「ん。頑張る」
スライム相手に八面六臂の活躍を見せるのは難しいだろうが、それでも期待をしてくれる二人には何とか良いところを見せたいと凪沙は思う。
「瑠華お姉ちゃん、アレは?」
「今は無しじゃな。コレがあるしのぅ」
瑠華がそう言って指し示したのは、借り受けた浮遊カメラだ。
実は凪沙が瑠華からお願いされたスキルはある特定の動きをする事で獲得へのきっかけを掴む事が出来るのだが、瑠華はそれをこのカメラに写すのはあまり良くないと考えていた。
「何の話?」
「む…今は無理じゃ。後で詳しく話そうかの」
「? 分かった」
疑問に思いつつも、瑠華がそう言うならと納得する。……瑠華から言葉巧みに聞き出す自信が無いからというのもあった。
スライムは動きが遅く攻撃範囲も極めて狭い為、落ち着いてじっくり弓の狙いを定めて正確に撃ち抜く時間はある。しかし凪沙はある程度の緊張感と、出来る限り速く狙いを定める意識を持って行うようにしていた。何時までもこのレベルの敵と戦えるとは限らず、今のうちに経験を積んでおくべきだと判断したからだ。
結果として二階層の終盤頃には、接敵して一秒足らずで狙いを定め撃ち抜けるようになっていた。
「中々筋が良いのぅ」
「だね。これはうかうかしてられないかも」
凪沙の成長速度に驚きつつも、次の階層からはどうなるかと少しの心配が襲う。
「凪沙、次の階層からモンスターの種類が異なるぞ」
「ん。リトルゴブリンだよね? まだ前でもいい?」
「構わん。じゃが危険と判断したら直ぐに下がるのじゃぞ」
瑠華の忠告にこくりと頷き、少し肩に力を入れながら階段を降りて三階層へ。ここが今日到達可能な最後の階層だ。
「……来た」
何時でも撃てるように矢を番えて進む事数分。まだこちらに気付かず歩いてくるリトルゴブリンの足音を、凪沙の耳が捉えた。
キリキリと落ち着いて弓を引き絞り、矢を放つ。狙うはリトルゴブリンの頭。
「ギャッ!?」
「……逸れた」
攻撃された事でリトルゴブリンが鳴き声を上げる。それで分かるのは、狙いが外れたという事で。
「まぁまぁの距離じゃからの。減衰率や抵抗を考えて撃たねば、狙った場所に当てるのは厳しいぞ」
「むぅ…」
先程まで相手をしていたスライムと異なる点。それは敵との距離だ。スライムよりもリトルゴブリンの方が動きが速く攻撃力が高い為、凪沙は出来る限り離れた位置から矢を放った。
その判断自体は遠距離職としては正しい選択だが、問題は弓というものが距離が離れるほど着弾地点の誤差が大きくなる武器だという事だ。
「ギャギャッ!」
凪沙の姿を認識したリトルゴブリンが、攻撃された怒りを露わにして走って来た。
それに対して瑠華が何時でも援護できるように魔法を用意し、凪沙はもう一度攻撃を試みる。
ヒュッ!
「――ッ!?」
放たれた矢がリトルゴブリンの喉元へと突き刺さり、声にならない悲鳴をあげながら前のめりに倒れ込む。まだ息絶えていない様子を確認すると、手早くもう一本矢を番え、リトルゴブリンの脳天へと撃ち込んだ。
それで絶命に至ったのか、リトルゴブリンの形が崩れてその場にドロップ品だけが残った。
「……ふぅぅ……」
消えていく様子を最後まで見届け、凪沙が深く息を吐いて身体を弛緩させる。中々に緊張していたようだ。
「よぅ頑張ったのぅ」
「! えへへ…」
ポンポンと頭を撫でられ、凪沙が緩んだ笑みを零す。普段ならば奏が嫉妬しそうな光景だが、流石に状況を理解しているので仕方無いなぁと言いたげな様子でただ眺めるだけに留まった。
「スキルも得たようじゃしのぅ」
「えっ!?」
「スキル…?」
その言葉に驚く奏とは対照的に、凪沙は何処かピンと来ていない様子で小首を傾げた。
「最後の矢継の速さ。あれはスキルの類いによるものじゃ」
「んー? ……あっ、[速射]? っていうスキルが手に入ったみたい」
あまり理解出来なかった凪沙が取り敢えず探索者のカードを取り出すと、どうやら本当にスキルを獲得していたようだ。
「[速射]は使う程に速さが上がるスキルじゃ。弓使いであれば必須と言えるスキルじゃの」
「ふぅん…どう使うの?」
「『速くしたい』等と意識するだけで良い。ただしスキルは発動に魔力を消耗するのでな。乱発は厳禁じゃ」
「ん。分かった」
「今の凪沙じゃと……後五回が限度じゃな」
「それだけ?」
折角スキルを獲得出来たのに、使える回数が少ないと知り不服そうな声を上げる。
「魔力は消費する程に増えていくでの。毎日の特訓が重要じゃな」
「……ん。頑張る」
今多く使えない事は不満だが、将来的により多く使えるようになると分かれば自ずと気持ちも持ち直す。
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