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39話 モブは見た!

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 私の名前は森淵もりぶち 小百合さゆり。所謂モブキャラと呼ばれる存在である。……自分で言ってて悲しくなってきた。
 まぁ私の事はどうでもいい。本題は私が通う中学校に居る二人組に関してだ。

 その名も柊 瑠華ちゃんと柊 奏ちゃん。苗字が同じなのは姉妹という訳ではなく、同じ施設で育ったからだそうな。
 ……で、この二人の何がヤバいっていうと、無自覚なイチャつきにある。

 基本は奏ちゃんから瑠華ちゃんに突進する事が多いのだけれど、その時結構軽くあしらう瑠華ちゃんの顔がすっごい慈愛に満ちてるというか、もう…ね? やばいのよ。それで瑠華ちゃんに母性を感じちゃった人が多いのなんのって。

 今回はそんな二人の日常をモブ視点からお送りします。……誰に送るとか考えてはいけないのよ。


 朝の登校時間は、二人一緒に来るのが当たり前。手を繋いでくるのも当たり前。もう朝から二人の世界が広がってて幸せ。

「瑠華ちゃん、あの、ね…」

「……」

 登校してそれぞれ別の机に荷物を置いたと思えば、早速奏ちゃんが瑠華ちゃんの元へ近付く。でもその様子はどこかモジモジとしていて、何か言いたい事を口にするのを躊躇っているみたい。
 私はその先にある言葉は分からなかったけれど、瑠華ちゃんは違っていたらしい。そのまま無言で鞄から一冊のノートを手渡したら、その瞬間パァ…ッと奏ちゃんの顔が明るくなったから、多分正解の選択肢だったのだろう。え、なんで分かったん?

「ありがとっ!」

「…はぁ」

 溜息を吐く瑠華ちゃんは奏ちゃんを無視して朝の準備を始める。一見すれば仲が良いようには見えないけれど、そもそも仲が良くないとノート貸さないよね。

「あ、瑠華っち私もノート見ていい?」

 そう声を掛けて来たのは八車 雫ちゃん。二人に対して躊躇無く話し掛けられる人で、クラスの中心人物でもある。

「構わぬぞ」

「ありがとー」

 明るい性格だけど決して適当ではなくて、こうして見せてもらう時は必ず許可を取る。だから皆から信頼もされてる凄い人。そもそも瑠華ちゃんが信頼してる時点で凄い人。
 いやね、瑠華ちゃん人を基本信用していない節があるんだよね。まぁ無下にはしないけど壁があるーみたいな?
 その訳も奏ちゃんから聞いて凡そ理解出来たけどね。

 その後は普通に授業が進むのだけれど、奏ちゃんは結構授業で居眠りしちゃうタイプ。それを後ろの席からジトーっとした眼差しで見つめるのは、勿論瑠華ちゃん。その眼差しを向けられたいとかいう人がたまにいるのが、ね……私も例外では無いのだけれど。あっはっは。

「この問題はー…じゃあ瑠華さん、前に出て書いてくれる?」

「承知した」

 瑠華ちゃんは成績優秀者なので、授業でよく当てられたりする。その時先生に対しても口調が普段と一切変わらないのだけれど、いつもの事なので誰も気にしない。まぁ見下してる訳じゃなくて、ちゃんと敬っているのが言動から分かるっていうのもあるね。
 でも一人称が妾って凄いよね…奏ちゃん曰く知り合った時からそうらしい。

 普通の人がそんな口調だったら厨二病とか痛い人みたいに思われそうだけど、ところがどっこい。瑠華ちゃん自身に堂々とした威厳があって違和感が無さすぎるから、寧ろアリだと思う人が大半である。カッコイイよね……因みに非公認ファンクラブあります。三分の二が女子だからね、そのクラブ。

 次の授業は体育で、今日はサッカーらしい。
 早速女子と男子で更衣室に向かうのだけれど、そこでも奏ちゃんが瑠華ちゃんに突撃してそのまま自然と手を繋ぐというね…もう私その光景後ろからずっと眺めてたい。

 そして着替え。瑠華ちゃんはシミや日焼けなどとは無縁と思えるほど、肌が白くて綺麗。同性でも嫉妬どころか惚れちゃうくらい。
 そして……意外と、ある方だ。うん。何処とは言わないけど奏ちゃんよりあるよ。着痩せするタイプだからあんまり気付く人居ないけど。

「うー…」

「? どうしたのじゃ?」

 瑠華ちゃんのある一点を睨んで唸る奏ちゃんに、瑠華ちゃんが首を傾げる。分かる、羨ましいよね。こう、両手にすっぽりっていう丁度いい大きさって。

 着替えてグラウンドに向かって、いよいよ授業開始。最初は準備運動からで、その後は二人一組のボールパス。無論奏瑠華ペアである。

「るーかちゃん! 後ろ向いて?」

「む?」

 そんな時奏ちゃんが瑠華ちゃんに近付いたと思えば、瑠華ちゃんのストンと下ろした白髪を手早くポニーテールに纏めてしまう。

「これで邪魔にならないでしょ?」

「うむ。感謝する」

「えへへー…ポニテ瑠華ちゃんも可愛い!」

 嬉しげに頬を緩めると、そのまま瑠華ちゃんに抱き着いて頬をスリスリ。
 ……もうほんと、なんでこれで付き合ってないのこの二人。

「こらー。いちゃついてないでパス練しろー」

「はーい」

 先生の言葉でその甘い空間が霧散する。思わずクラスの数人…というか大半が殺気の籠った眼差しを先生に向けるのも仕方が無い。対する先生はやれやれと頭を振るだけだけど。

 その後の試合はねー……勝ち目無いというか、出番すら無いのよ。ほんとに。

 運動神経抜群な瑠華ちゃんと雫ちゃんは基本二分されるのだけれど、この二人について行ける人がそもそも居ないのが問題。特に雫ちゃんがヤバい。陸部のエースの本気に勝てる人なんて……いるわ。いたわ、目の前に。

「ほい」

「んなぁぁっ!?」

 全速力でゴールに向かっていた雫ちゃんから意図も容易くボールを奪うと、そのままパスを回して試合を一瞬で掌握してしまう。
 雫ちゃんと瑠華ちゃんの違いはそこかな。雫ちゃんは一人で突っ走っちゃうけど、瑠華ちゃんは皆を効率良く、そして平等に動かしてくれるんだよね。お陰で楽しいのなんのって。
 あ、勿論雫ちゃんが悪い訳じゃないよ? ちゃんと頼る時は頼るし、声掛けもする。ただ比較対象が規格外なだけなんだよ……。

 瑠華ちゃんは采配するけど、決して最後を自分の手でしようとはしない。だから試合自体は一方的にはならないんだよね。
 ……だって瑠華ちゃんが蹴ったらボール見えないんだもん。

「瑠華。お前やっぱりサッカー部に入らないか?」

「有難い申し出じゃが返答は変わらん」

「だよなぁ…」

 体育の先生は男子サッカー部の顧問だ。瑠華ちゃんは部活によくスカウトされるけれど、その全てを断っているのは有名な話。ていうか男子サッカー部の女子って基本マネージャーな気がするのだけれど…あぁそっか。確かに瑠華ちゃんからお世話されたら頑張る自信あるわ。

 給食の時間は今どきの中学校にしては珍しく、自由席。瑠華ちゃん周りは人気だけど、その隣は奏ちゃんと決まっている。

「瑠華ちゃんあーんしてあげようか?」

「したいのならば良いぞ」

「えっ…」

 奏ちゃん攻めるくせに受け入れられると戸惑うんだよね。それも可愛い。
 それで結局顔を真っ赤にしながらもあーんはやっちゃうんだからもう、ね……牛乳に砂糖入ってたかな。

 もうすぐ夏休みだし、それが過ぎれば受験シーズン。多分二人とは離れ離れになっちゃうだろうし、今のうちに目に焼き付けないと…

「そういえばかなっち。は順調?」

「うんっ。結構視聴者も増えてるよ」

 ―――――はい、しん? 配信!?

「え、奏ちゃん、その、配信って…?」

「あれ、言ってなかったっけ? 瑠華ちゃんと一緒にダンジョン配信してるんだー」

 ……なんですと?

 私と同じように、目を輝かせた人は多いはず。この机のグループに聞き耳立ててる人が大半だから。

「ちゃ、チャンネル名教えてっ」

「いいよ~。『柊ちゃんねる』だよ」

 二人のチャンネルだから『柊ちゃんねる』ね…よし、把握した。帰ったら早速見てみよう。










 ――――――そしてアーカイブを視聴して、無事感情が限界突破したのはまた別の話である。あっ、これが尊死……



―――――――――――――――――――

瑠華は同年代から好かれていないと思っていますが、実際は二人の関係を壊したくないから皆無理に近付こうとしていないだけです。つまり推しカプ。はよくっつけ。

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