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18話

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 週末の休み。瑠華と奏の姿は実地試験を行った東京第三ダンジョンにあった。

「じゃあ配信するね?」

「そこまで人が来るかのう?」

 ダンジョン配信は母数が多い。その為日の目を見ないチャンネルなど五万とあるという事くらいの常識ならば、普段配信を見ない瑠華も知っている。

「それがねぇ…今登録者何人いると思う?」

「この前配信しただけじゃろう? …百人程度かの?」

 奏は身内である瑠華から見ても容姿が整っており、人を集め易い。だがそれでも百人程度集まれば御の字だろうと思う。

「ブッブーっ! 正解は…なんと三千人でした!」

「ほう…酔狂な者も居るものじゃな」

 :どうも酔狂な者です。

「あ、瑠華ちゃんが変な事言うからぁ」

 奏がスマホの画面に映ったコメントを瑠華へと向ける。

「…すまぬ」

 :素直に謝れて偉い!
 :今日はダンジョン配信?

「そうです。まぁ初心者なのでFランクダンジョンですけど」

 :段階踏むのは大事よ。
 :俺もFランクで経験積んだからな。最初は大事。
 :ワイ、ダンジョン適性無い組。悲しい。

「ダンジョン適性がなくて潜れない人も楽しめるよう、頑張りますね!」

 :健気。
 :なんか瑠華ちゃんが変な顔してるwww

「ん?」

 妙なコメントが流れ奏が瑠華へと目線を向けると、確かに何やら引いた様子の瑠華が居た。

「どうしたの?」

「……敬語の奏が珍し過ぎての」

 :成程www
 :確かに奏ちゃん元気っ子な感じするから、敬語違和感なのは分かるかも。

「敬語止めた方がいい…?」

「いや、奏の好きな様にすれば良いじゃろう。これは本人の意識次第じゃからのう」

「うぅん……なら止める! なんか私も距離があってヤだったし!」

 :草。
 :まぁ親しみ易くはなるよね。

 コメントも概ね好印象である事を確認すると、いよいよダンジョンの中へと潜る。

「一週間ぶりだね」

「感は衰えてないかのう?」

「そう簡単に衰えないよっと」

 曲がり角から現れたスライムを一刀で切り捨てる。以前ダンジョンに潜った際は全て全力で刀を振っていたが、今では緊張が無くなったのか無駄な力が抜けていた。

 :奏ちゃんが刀で瑠華ちゃんが薙刀…和風コンビ?
 :着物着たら似合いそう。
 :それな! 得に瑠華ちゃんに着て欲しい! 口調からして似合いそう!

「あ、それ分かるかも。瑠華ちゃん何時もワンピばっかだけど、綺麗な服似合いそう」

「着んぞ」

「えぇ~! じゃあじゃあ私がプレゼントしたらどう?」

「……まぁ、無下にはせんが」

 :ツンデレだ!
 :∑(°∀°)コレハァ!! (・∀・)イイ!!
 :あらー。

 瑠華から言質を取った奏の脳裏に浮かんだのは、以前瑠華と買い物に行った時にみた着物の装備。

(五百万…頑張ってみようかな)
  
 ただでさえ普段から瑠華のお世話になっている自覚がある奏は、恩を返すには良い機会だと思った。

「取り敢えず今の目標は二十万稼ぐ事だっけ?」

「奏が言った【白亜の庵】に泊まるのであれば、追加で五万程は欲しいのう」

 :旅行費用そんな掛かるんだ?

「まぁ【柊】は十一人居るからね」

 雑談もそこそこに歩みを進める。今の所スライム程度ならばスマホ片手にコメントを確認しながらでも問題は無いが、これからはそうもいかない敵ばかりだろう。現に奏が普段見ている配信者は、スマホを逐一確認したりなどはしていない。

「他の配信者の人ってスマホ見てない気がするけど、どうやってるのかな?」

 :あれは専用のコンタクトレンズしてるらしいよ。
 :結構高い。でも普段使いもできて便利。

「へぇ、そんなのあるんだ」

「視界に直接的映し出すという事じゃろうな。確かに手は塞がらんし、便利ではあるじゃろうが……邪魔にもならんかの?」

 :切り替えは出来るらしい。

 視界にちらちらコメントが映っていると集中出来なくなるのでは無いかと思ったが、どうやらそこはしっかりとケアされているらしい。

「……ねぇ瑠華ちゃん」

「なんじゃ?」

「…スマホ見てないよね?」

「……まぁ、頑張れば見えるからの」

「普通頑張っても見えないからね!?」

 :なんだなんだ?
 :あっ、確かに瑠華ちゃんスマホ見てないのにコメントに反応してる!
 :一人だけコンタクトしてるんじゃ?

「コンタクトは…してないね?」

「そも配信に興味など無かったのじゃから、買っている訳がなかろう」

「だよねぇ…」

 :え、つまり裸眼でコメント見えてるの?
 :いやいや有り得んだろwww

「浮遊カメラの通信には魔力が用いられておるからの。そこに干渉して情報を抜き取る程度ならば造作もない」

「自分の言ってる事の非常識さ自覚してね?」

 :ほんそれ。
 :魔力情報に干渉…出来るん?
 :出来なくは無いらしい。ただし情報量で脳が死ぬからほぼ無理だとか何とか。
 :つまり瑠華ちゃんの脳がスパコン並ってコト!?

「…まぁいいや。瑠華ちゃんに関しては諦めも大事だし」

「非常に不本意なのじゃが」

 :幼馴染も匙を投げる不思議ちゃんwww
 :見た目的に不思議ちゃん感はある。
 :現世うつしよの存在じゃないと言われても納得出来る。
 :人間じゃなかったりして。

「瑠華ちゃんは正真正銘人間の女の子だよ。それは間違えないで」

 コメントの流れから奏が真剣な声色で忠告する。瑠華が人間でないと言われる事は、奏にとって最も嫌悪する事だ。

 :ゾワッてした…
 :奏ちゃんの逆鱗かこれ。
 :分かったな。これ以上言うな。
 :把握。

「瑠華ちゃんごめん」

「奏が謝る事ではなかろう。妾もそう呼ばれる事は慣れている」

「慣れの問題じゃない。瑠華ちゃんにそんな言葉を聞いて欲しくも見て欲しくもないの」

 かつて奏の見えない所で、瑠華が化け物と呼ばれ虐めを受けていた事があった。無論瑠華にとってはそんな事気に病む程の物でもないが、奏は違った。

(私のせい。私が、瑠華ちゃんを傷付けたようなものだから)

 瑠華が人の輪に入れるようにと奏は動いた。だがその結果、瑠華の異常性が露わになってしまったのだ。

 人の感情で最も御し難いのは、恐怖だ。

「……奏」

「瑠華ちゃん…」

「奏は阿呆じゃの」

「瑠華ちゃんっ!?」

「その程度の事で妾が折れると? 少々見くびりすぎではないかのう?」

「だって…っ」

「配信をした事が原因だと思っておるのならばそれは間違いじゃ。妾は妾の意思でここにおる。それを忘れるでない」

 俯いてしまった奏の頭をポンポンと叩き、カメラに向き直る。

「放置して済まぬのう」

 :いえ全然っ!
 :寧ろ俺たちは空気なので気にしないで下さい!
 :俺たちはただ見守るだけなんで…
 :もっと下さい!

「う、うむ? よく分からぬが…ほれ奏。時間は有限なのじゃ。先を急ぐぞい」

「あ…うんっ!」

 :てぇてぇ
 :てぇてぇなんだよ…
 :あぁ…瑠華ちゃんが無知っぽいのもいい…
 :お互い無自覚。だがそれがいい!

 コメントの空気感を瑠華は理解出来なかったが……まぁ楽しそうなのは良い事だと思うのだった。

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