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足早に施設へと帰れば、瑠華よりも歳が下の子達が出迎えた。
「るーねぇおかえり!」
「ただいま。奏は何処におる?」
「かーねぇはおへやにいったよー」
「そうか。ありがとの」
瑠華に頭を撫でられてえへへと笑みをこぼす少女に微笑みつつ、瑠華は歩みを進める。その先は、奏の部屋……では無く、瑠華の部屋。
「……奏。妾のベッドに勝手に寝転ぶでないわ」
「ふーんだ」
随分と不貞腐れているらしい。瑠華はこれはテコでも動きそうにないと判断すると、鞄を置いてベッドへと腰掛けた。
「……のう、奏よ。お主はそうまでして…命を失う危険を犯してまで、探索者になりたいのかえ?」
「…だって、私にはそれくらいしかこの【柊】に恩返し出来ない」
奏の苗字でもある柊。それはこの施設の名前から取られたものであり、新たな家族に迎えられるまでは皆【柊】という苗字が与えられている。
───瑠華と奏のやり取りが夫婦漫才だと言われるのはこれが所以だったりするが、当の本人は知る由もない。
ダンジョンが現れたことによって、身寄りのない子供というものは大分増えてしまった。それは探索者として金を稼ぐ親が死ぬ事が増えたからだ。
その結果瑠華達が居る“柊”のような施設が増えた。だがその経営は厳しい物があるのが現実だ。
奏は自らが育ったこの場所を守りたいという想いがあり、それが探索者になりたいという願望と結び付いた。
「成程のぅ…じゃがそれだけではないな?」
「う…」
「雫に少しばかり説教されてのう。もう少し奏と話をせよとな。奏よ…其方は何を思っているのじゃ?」
「瑠華ちゃんってすっごいド直球に聞くよね」
「回りくどいのは好かんでの」
古めかしい口調とは裏腹に、瑠華がクスクスと可愛らしく笑う。その姿に一瞬だけ目線を上げた奏は、暫し惚けてしまった。
「奏?」
「あ、うん…ねぇ瑠華ちゃん。瑠華ちゃんってさ…多分“強い”よね?」
「……強いの定義は人それぞれ。その点で言えば、確かに強いのかもしれんの」
「…私はさ。弱いんだ」
瑠華へと向けていた目線を切り、まるで独白するかのように告げる。
「頭も良くないし、別に顔が整ってる訳でも無い。体育の成績もまぁまぁってところだし……何も、瑠華ちゃんに誇れる物が無い」
「妾に誇っても仕方が無いじゃろう」
「だって…! …瑠華ちゃんは昔から何でも出来たじゃない」
人としては産まれたてで初心者であろうと、積み重ねた経験は文字通り年月が違うのだ。それと比べる事こそ間違いではあるが、瑠華はそれを告げる事が出来ない。
「置いていかれると、思ったのじゃな?」
「……うん」
瑠華はここまで雫が奏の事を理解していたという事に驚くも、同時に苦しくなった。
人を理解したいと願った筈なのに、最も身近に居た人ですらまともに理解出来ていなかった。それは瑠華にとって悔しく恥ずべきもので…そんな自分に対して怒りが湧いた。
「…すまんの。そこまで思い詰めていたとは思わなかったのじゃ」
「瑠華ちゃんのせいじゃない!」
「じゃが妾がもっと奏に寄り添って居れば、奏はその様な見当違いの不安を抱えなくて済んだじゃろう」
「………」
「妾は、どうやらもっと奏を見ておくべきだったのじゃろうな。護らねばと思い、妾は外しか見ておらんかった。謝罪しよう。ほんに済まなかった」
「うぇっ!? ちょっ、そこまでじゃないったら!」
ベッドから降りたと思えば、綺麗な土下座を奏へと向けたのだ。これをもし瑠華の正体を知る物が見たならば、間違い無く失神していたであろう。
「と、取り敢えず立って! ほら早く!」
「しかし」
「そんな事してくれなくても私自身区切りは付いたの! だから止める!」
「むぅ…」
それでも正座は崩さない瑠華に何処まで真面目なんだと思い…同時に、酷く心が軽くなった。
「瑠華ちゃんは私の憧れでもあるの。だから今後はそんなに簡単に頭を下げないでね?」
「奏の為ならばこの身を犠牲にする事も吝かではないのじゃが」
「重い重い重い」
ちょっと、いやかなりドン引きである。
「ま、まぁこの話は一旦ここまでで…瑠華ちゃんは私に申し訳なく思ってるんだね?」
「そうじゃの。今迄奏を十分理解出来ておるものと勘違いをし、驕っておった。それが妾の罪であり、願わくば贖罪をしたいと思っておる」
「わぁお。じゃあ…私のお願い聞いてくれるよね?」
「妾に出来ることなれば」
───奏は知っている。瑠華は確かに頭が良く回転も早いが、こと自分の言葉に関しては、その思考が若干停止気味になるということを……
「んふふ……言質は取ったよ?」
「ん? ……あっ」
とても楽しげな笑みを浮かべる奏に思わず小首を傾げるも、ここまでくれば流石に瑠華も事の顛末に気付く。
「しずちゃんには今度パフェ奢らないとねぇ~♪」
「……やられた」
つまりはまぁ……そういう事である。
「るーねぇおかえり!」
「ただいま。奏は何処におる?」
「かーねぇはおへやにいったよー」
「そうか。ありがとの」
瑠華に頭を撫でられてえへへと笑みをこぼす少女に微笑みつつ、瑠華は歩みを進める。その先は、奏の部屋……では無く、瑠華の部屋。
「……奏。妾のベッドに勝手に寝転ぶでないわ」
「ふーんだ」
随分と不貞腐れているらしい。瑠華はこれはテコでも動きそうにないと判断すると、鞄を置いてベッドへと腰掛けた。
「……のう、奏よ。お主はそうまでして…命を失う危険を犯してまで、探索者になりたいのかえ?」
「…だって、私にはそれくらいしかこの【柊】に恩返し出来ない」
奏の苗字でもある柊。それはこの施設の名前から取られたものであり、新たな家族に迎えられるまでは皆【柊】という苗字が与えられている。
───瑠華と奏のやり取りが夫婦漫才だと言われるのはこれが所以だったりするが、当の本人は知る由もない。
ダンジョンが現れたことによって、身寄りのない子供というものは大分増えてしまった。それは探索者として金を稼ぐ親が死ぬ事が増えたからだ。
その結果瑠華達が居る“柊”のような施設が増えた。だがその経営は厳しい物があるのが現実だ。
奏は自らが育ったこの場所を守りたいという想いがあり、それが探索者になりたいという願望と結び付いた。
「成程のぅ…じゃがそれだけではないな?」
「う…」
「雫に少しばかり説教されてのう。もう少し奏と話をせよとな。奏よ…其方は何を思っているのじゃ?」
「瑠華ちゃんってすっごいド直球に聞くよね」
「回りくどいのは好かんでの」
古めかしい口調とは裏腹に、瑠華がクスクスと可愛らしく笑う。その姿に一瞬だけ目線を上げた奏は、暫し惚けてしまった。
「奏?」
「あ、うん…ねぇ瑠華ちゃん。瑠華ちゃんってさ…多分“強い”よね?」
「……強いの定義は人それぞれ。その点で言えば、確かに強いのかもしれんの」
「…私はさ。弱いんだ」
瑠華へと向けていた目線を切り、まるで独白するかのように告げる。
「頭も良くないし、別に顔が整ってる訳でも無い。体育の成績もまぁまぁってところだし……何も、瑠華ちゃんに誇れる物が無い」
「妾に誇っても仕方が無いじゃろう」
「だって…! …瑠華ちゃんは昔から何でも出来たじゃない」
人としては産まれたてで初心者であろうと、積み重ねた経験は文字通り年月が違うのだ。それと比べる事こそ間違いではあるが、瑠華はそれを告げる事が出来ない。
「置いていかれると、思ったのじゃな?」
「……うん」
瑠華はここまで雫が奏の事を理解していたという事に驚くも、同時に苦しくなった。
人を理解したいと願った筈なのに、最も身近に居た人ですらまともに理解出来ていなかった。それは瑠華にとって悔しく恥ずべきもので…そんな自分に対して怒りが湧いた。
「…すまんの。そこまで思い詰めていたとは思わなかったのじゃ」
「瑠華ちゃんのせいじゃない!」
「じゃが妾がもっと奏に寄り添って居れば、奏はその様な見当違いの不安を抱えなくて済んだじゃろう」
「………」
「妾は、どうやらもっと奏を見ておくべきだったのじゃろうな。護らねばと思い、妾は外しか見ておらんかった。謝罪しよう。ほんに済まなかった」
「うぇっ!? ちょっ、そこまでじゃないったら!」
ベッドから降りたと思えば、綺麗な土下座を奏へと向けたのだ。これをもし瑠華の正体を知る物が見たならば、間違い無く失神していたであろう。
「と、取り敢えず立って! ほら早く!」
「しかし」
「そんな事してくれなくても私自身区切りは付いたの! だから止める!」
「むぅ…」
それでも正座は崩さない瑠華に何処まで真面目なんだと思い…同時に、酷く心が軽くなった。
「瑠華ちゃんは私の憧れでもあるの。だから今後はそんなに簡単に頭を下げないでね?」
「奏の為ならばこの身を犠牲にする事も吝かではないのじゃが」
「重い重い重い」
ちょっと、いやかなりドン引きである。
「ま、まぁこの話は一旦ここまでで…瑠華ちゃんは私に申し訳なく思ってるんだね?」
「そうじゃの。今迄奏を十分理解出来ておるものと勘違いをし、驕っておった。それが妾の罪であり、願わくば贖罪をしたいと思っておる」
「わぁお。じゃあ…私のお願い聞いてくれるよね?」
「妾に出来ることなれば」
───奏は知っている。瑠華は確かに頭が良く回転も早いが、こと自分の言葉に関しては、その思考が若干停止気味になるということを……
「んふふ……言質は取ったよ?」
「ん? ……あっ」
とても楽しげな笑みを浮かべる奏に思わず小首を傾げるも、ここまでくれば流石に瑠華も事の顛末に気付く。
「しずちゃんには今度パフェ奢らないとねぇ~♪」
「……やられた」
つまりはまぁ……そういう事である。
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