102 / 138
学園 高等部2年 校外実習編
96
しおりを挟む
ナターシャが森の中へと消えた後、クーリアは腰に着けた矢筒から2本の矢を取り出した。
「…これ…かな…」
クーリアはそう呟きながら、腰の横に着けたポーチから小瓶を取り出す。その中は青い液体で満たされていた。
「あー……うん、まぁいっか」
小瓶に付いたラベルを見て、クーリアがそう呟く。その反応からして取り出したい物とは違ったようだが、どうやら大丈夫らしい。
小瓶の蓋を捻って開け、2本の矢の鏃をその中へと入れ込む。
「…付いたかな」
クーリアが鏃を引き抜き、確認する。
小瓶を満たしていた青色の液体は少しトロっとした粘着性がある液体だったので、しっかりと付着したようだ。
「よしっと」
小瓶の蓋を固く閉めてポーチへと戻し、クーリアはその2本の矢を弓に番えた。
「……《リブート》」
強化の呪文を呟くと、ヒュンッという風切り音を鳴らしながら2本の矢が同時に放たれた。
「…《リモート・ロック》」
続けて追尾の魔法を発動。真っ直ぐ並んで飛んでいた2本の矢は、それぞれ別々の方向へと軌道を変え、森の暗闇へと吸い込まれて行った。
「……ちっ」
少しして、クーリアが舌打ちをする。
「1人躱された…」
クーリアの放った矢を躱されたようだ。
《リモート・ロック》は遠隔操作の魔法の一種だが、止めることは出来ない。そのため、木々が密集する場所で木の影に隠れられると当てられないのだ。
(暗闇で見えないと思ったのに…)
実際1人には当たっているので、クーリアのその考えは合っていたと分かる。が、そんな暗闇で見えにくい矢を躱すことが出来た敵。間違いなく手練だろう。
「…《リ・ゾーン》」
…だが、それをクーリアが予想しなかった訳が無い。
クーリアが呟いた呪文。それにより行使される魔法。それは、再強化の魔法。
再強化された矢は突き刺さっていた木すら貫通し、その影に隠れていた敵へと命中した。
「…よし。捕獲っと」
残っていたもう1人にも矢が命中し、クーリアがそう呟いた。
(…これは、わたしだけの秘密)
強化に強化を重ねる魔法は存在しない。後から掛けられた強化が打ち消してしまうからだ。しかし、クーリアはそれを可能にしてしまった。だが、それは使い方を誤れば強力な兵器となる。それ故の秘匿。
(…単純な話なんだよね。付け加えればいいだけなんだから)
考え方の違いだ。重ねるか、付け加えるか。
クーリアが最初に強化した効果は、『速さ』
次に付け加えた強化は、『力』
それぞれが異なるからこそ、付け加えるという強化が可能になるのだ。
「…なるほどね。確かに見られたくはない、か」
「っ!?」
ばっ!とクーリアが振り向く。後ろにはいつの間にかナターシャが立っていた。どうやら一連の行為を見られていたようだ。
「あぁ、ごめんなさいね。でも誰にも言わないから安心して」
「……まぁ、いいです。信用はしてますからね」
「あら嬉しい」
クーリアから信用していると言われ、ナターシャが本当に嬉しそうに微笑む。
……だが、次のクーリアの一言でその笑顔は消え去った。
「もし話したら、死ぬだけなので」
「…これ…かな…」
クーリアはそう呟きながら、腰の横に着けたポーチから小瓶を取り出す。その中は青い液体で満たされていた。
「あー……うん、まぁいっか」
小瓶に付いたラベルを見て、クーリアがそう呟く。その反応からして取り出したい物とは違ったようだが、どうやら大丈夫らしい。
小瓶の蓋を捻って開け、2本の矢の鏃をその中へと入れ込む。
「…付いたかな」
クーリアが鏃を引き抜き、確認する。
小瓶を満たしていた青色の液体は少しトロっとした粘着性がある液体だったので、しっかりと付着したようだ。
「よしっと」
小瓶の蓋を固く閉めてポーチへと戻し、クーリアはその2本の矢を弓に番えた。
「……《リブート》」
強化の呪文を呟くと、ヒュンッという風切り音を鳴らしながら2本の矢が同時に放たれた。
「…《リモート・ロック》」
続けて追尾の魔法を発動。真っ直ぐ並んで飛んでいた2本の矢は、それぞれ別々の方向へと軌道を変え、森の暗闇へと吸い込まれて行った。
「……ちっ」
少しして、クーリアが舌打ちをする。
「1人躱された…」
クーリアの放った矢を躱されたようだ。
《リモート・ロック》は遠隔操作の魔法の一種だが、止めることは出来ない。そのため、木々が密集する場所で木の影に隠れられると当てられないのだ。
(暗闇で見えないと思ったのに…)
実際1人には当たっているので、クーリアのその考えは合っていたと分かる。が、そんな暗闇で見えにくい矢を躱すことが出来た敵。間違いなく手練だろう。
「…《リ・ゾーン》」
…だが、それをクーリアが予想しなかった訳が無い。
クーリアが呟いた呪文。それにより行使される魔法。それは、再強化の魔法。
再強化された矢は突き刺さっていた木すら貫通し、その影に隠れていた敵へと命中した。
「…よし。捕獲っと」
残っていたもう1人にも矢が命中し、クーリアがそう呟いた。
(…これは、わたしだけの秘密)
強化に強化を重ねる魔法は存在しない。後から掛けられた強化が打ち消してしまうからだ。しかし、クーリアはそれを可能にしてしまった。だが、それは使い方を誤れば強力な兵器となる。それ故の秘匿。
(…単純な話なんだよね。付け加えればいいだけなんだから)
考え方の違いだ。重ねるか、付け加えるか。
クーリアが最初に強化した効果は、『速さ』
次に付け加えた強化は、『力』
それぞれが異なるからこそ、付け加えるという強化が可能になるのだ。
「…なるほどね。確かに見られたくはない、か」
「っ!?」
ばっ!とクーリアが振り向く。後ろにはいつの間にかナターシャが立っていた。どうやら一連の行為を見られていたようだ。
「あぁ、ごめんなさいね。でも誰にも言わないから安心して」
「……まぁ、いいです。信用はしてますからね」
「あら嬉しい」
クーリアから信用していると言われ、ナターシャが本当に嬉しそうに微笑む。
……だが、次のクーリアの一言でその笑顔は消え去った。
「もし話したら、死ぬだけなので」
0
お気に入りに追加
212
あなたにおすすめの小説
帝王の侍女として生まれ変わった私 ~私の恋は実らなくていいので幸せになって下さい~
かのん
恋愛
この世界は小説「愛しのリリィ」の世界だ。リリィは王子レクスと皇子セオと愛と友情を育みながら、この世界を闇に落とそうとする組織と戦う。そして物語の中盤にてリリィはレクスを選び、セオはそんな二人を祝福し、自身の国へと帰る。しかしセオは実は呪われており、呪いによって闇の力に飲み込まれていき、リリィとレクスの敵となる。そして最後、「リリィ・・・最後に君の顔を見れて良かった。」そう言って死んでしまう。
小説を読んだときは絶望した。やめて!何で振られた上に殺されなくちゃいけないの!?酷くない?!と泣き叫んだ。そしてその願いが通じたのか何なのか、私は、愛しのリリィの世界に生まれ変わったのだが…
何ですでに振られた時点!しかも私は侍女!?
これは自分の幸せよりも、不幸になってしまうセオの為に奮闘する侍女アリシアの物語。
趣味を極めて自由に生きろ! ただし、神々は愛し子に異世界改革をお望みです
紫南
ファンタジー
魔法が衰退し、魔導具の補助なしに扱うことが出来なくなった世界。
公爵家の第二子として生まれたフィルズは、幼い頃から断片的に前世の記憶を夢で見ていた。
そのため、精神的にも早熟で、正妻とフィルズの母である第二夫人との折り合いの悪さに辟易する毎日。
ストレス解消のため、趣味だったパズル、プラモなどなど、細かい工作がしたいと、密かな不満が募っていく。
そこで、変身セットで身分を隠して活動開始。
自立心が高く、早々に冒険者の身分を手に入れ、コソコソと独自の魔導具を開発して、日々の暮らしに便利さを追加していく。
そんな中、この世界の神々から使命を与えられてーーー?
口は悪いが、見た目は母親似の美少女!?
ハイスペックな少年が世界を変えていく!
異世界改革ファンタジー!
息抜きに始めた作品です。
みなさんも息抜きにどうぞ◎
肩肘張らずに気楽に楽しんでほしい作品です!
異世界転生令嬢、出奔する
猫野美羽
ファンタジー
※書籍化しました(2巻発売中です)
アリア・エランダル辺境伯令嬢(十才)は家族に疎まれ、使用人以下の暮らしに追いやられていた。
高熱を出して粗末な部屋で寝込んでいた時、唐突に思い出す。
自分が異世界に転生した、元日本人OLであったことを。
魂の管理人から授かったスキルを使い、思い入れも全くない、むしろ憎しみしか覚えない実家を出奔することを固く心に誓った。
この最強の『無限収納EX』スキルを使って、元々は私のものだった財産を根こそぎ奪ってやる!
外見だけは可憐な少女は逞しく異世界をサバイバルする。
私が死んで満足ですか?
マチバリ
恋愛
王太子に婚約破棄を告げられた伯爵令嬢ロロナが死んだ。
ある者は面倒な婚約破棄の手続きをせずに済んだと安堵し、ある者はずっと欲しかった物が手に入ると喜んだ。
全てが上手くおさまると思っていた彼らだったが、ロロナの死が与えた影響はあまりに大きかった。
書籍化にともない本編を引き下げいたしました
天醒閃姫【天魔を滅する転生者】
月乃杜
ファンタジー
巫女装束の女の子を事故から救おうとして諸共に轢かれた緒方優斗だったが、星神を名乗るアーシエルと出会って異世界であるヴィオーラへと転生する事になった。然し要らないと言ったにも拘わらず無理矢理に特典を持たされてしまったからそれを使って愉しむ事にした。冒険者になって魔導具造りも愉しもう!
彼女の母は蜜の味
緋山悠希
恋愛
ある日、彼女の深雪からお母さんを買い物に連れて行ってあげて欲しいと頼まれる。密かに綺麗なお母さんとの2人の時間に期待を抱きながら「別にいいよ」と優しい彼氏を演じる健二。そんな健二に待っていたのは大人の女性の洗礼だった…
二人の公爵令嬢 どうやら愛されるのはひとりだけのようです
矢野りと
恋愛
ある日、マーコック公爵家の屋敷から一歳になったばかりの娘の姿が忽然と消えた。
それから十六年後、リディアは自分が公爵令嬢だと知る。
本当の家族と感動の再会を果たし、温かく迎え入れられたリディア。
しかし、公爵家には自分と同じ年齢、同じ髪の色、同じ瞳の子がすでにいた。その子はリディアの身代わりとして縁戚から引き取られた養女だった。
『シャロンと申します、お姉様』
彼女が口にしたのは、両親が生まれたばかりのリディアに贈ったはずの名だった。
家族の愛情も本当の名前も婚約者も、すでにその子のものだと気づくのに時間は掛からなかった。
自分の居場所を見つけられず、葛藤するリディア。
『……今更見つかるなんて……』
ある晩、母である公爵夫人の本音を聞いてしまい、リディアは家族と距離を置こうと決意する。
これ以上、傷つくのは嫌だから……。
けれども、公爵家を出たリディアを家族はそっとしておいてはくれず……。
――どうして誘拐されたのか、誰にひとりだけ愛されるのか。それぞれの事情が絡み合っていく。
◇家族との関係に悩みながらも、自分らしく生きようと奮闘するリディア。そんな彼女が自分の居場所を見つけるお話です。
※この作品の設定は架空のものです。
※作品の内容が合わない時は、そっと閉じていただければ幸いです。
※執筆中は余裕がないため、感想への返信はお礼のみになっております。……本当に申し訳ございませんm(_ _;)m
逆襲妻~二股夫を追い出し若き社長を食らう
青の雀
恋愛
人形作家で主婦の美和子は、ある早朝奇妙な夢で目が覚める
顔はよくわからないが、体つきから明らかに若い男からの愛撫に身を蕩けさせられている夢
近頃、旦那とご無沙汰だからか、変な夢を見てしまったのだと思っていた
旦那の和男とは、いわゆる職場結婚で子供ができたことをきっかけとして、美和子は、人形作家としてデビューする
人形作りは、娘時代に趣味でやっていただけだったが、いわゆるプロはだしで当時から大勢のファンがいた
専業主婦にならず、家で仕事をする美和子は、子供を育てながら、和男の帰りを待っている
ある時、和男のワイシャツに口紅が付いていることに気づく
問い詰めると喧嘩に発展し、髪の毛を掴んでひっ張られる暴行を受ける
売り言葉に買い言葉で、和男はそのまま家を出ていってしまう
言いすぎたことを反省した美和子は、和男を迎えに行くべき、探しに行くが…和男が美和子の同期入社の女子社員と浮気している現場を目撃してしまう
悲しくて、つらくて、つい自分を慰める行為に夢中になる
そんなとき、偶然出会った若い男性に和男の不満をついこぼしてしまったことから急接近
その男性に手マンでイカされ、女としての自信を取り戻す
夫に復讐すべくある行動を起こす…
よくある話です
初夢にこんなストーリー性のある夢を見たことから書きます
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる