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学園 高等部2年 校外実習編

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 クーは馬車の幌の上から、固定砲台としての役割を担ってもらっている。これは前から決めていた役割だ。
 クーの武器は、短弓。一応近、中距離とカバーできる武器ではあるものの、やはり接近戦は危険がある。よって、この役割。
 ……もう1つ理由があったりするけれど、まだそれは言わないでおこう。

「さて。…この距離はクーの短弓は届かないわね」

 とはいえ、わざと馬車に近づける訳にはいかない。だから、2人で叩く。

「じゃあ、決めていた通りに」
「はい」

 リーフィアが杖を構え、魔法を行使する。

「《ウィンドカッター》!」

 数本の不可視の刃が、襲いかかる。
 ウィンドカッターによってその太い幹が切断され、木々が倒れる。

「キキィ!?」

 それと同時に、驚きの声を上げながら魔獣も落下してくる。これを待っていたのだ。

「はぁぁっ!」

 一気に駆け寄り、その首を切り飛ばす。
 
「…そこっ!」

 後ろを振り向きつつ、投げナイフを投擲する。すると見事に魔獣の眉間へと突き刺さり、絶命したのか木から落下してくる。

「あとは…っ!リーフィア!」

 あともう一体というところで、その魔獣がリーフィアへと襲いかかろうとしていた。
 わたしは咄嗟に声を上げたが、遅かった。
 リーフィアへと魔獣の手が迫り………しかし、その手は届くことなく地面へと落下した。

「大丈夫?!」
「は、はい…お姉ちゃんのおかげです」

 見ると胴体部分に矢が突き刺さっている。クーの仕業だろう。

「…にしても、よくこの距離を」

 わたしだったら、確実に外していた。…ううん。外すだけならまだいい。すぐ近くのリーフィアに当たっていた可能性だってあるだろう。それを、クーはやってのけた。

「…ごめんなさい。足を引っ張ってしまって」
「謝ることじゃないわ。リーフィアが無事だっただけでもう安心よ。でも、次からはちゃんと周りの把握もね」
「は、はいっ!」

 とはいえ、わたしにも落ち度はある。少しリーフィアから離れすぎた。

「さぁ戻りましょう」
「そうですね」

 とりあえず魔獣の死体は穴を掘って地面へと埋める。解体は技術として持ち合わせてはいない。男子の選択授業には含まれているため、ヴィクター達は出来るだろうが、そもそも時間が無い。

「よし。行きましょう」
「はい」

 死体は燃やす。そうしないと他の魔獣が寄ってきてしまって、帰り道に待ち伏せされてしまう恐れがあるから。

 リーフィアと共に馬車へと戻る。先にヴィクター達も無事に倒せたようで、もう既に出発の準備が整っていた。


「待った?」
「いや、さっき準備が終わったとこだ。直ぐに出るぞ」
「ええ」

 早く進まないと、先程の戦闘の音で魔獣が寄ってきてしまうからね。

「あ、そうだ。クー、これ」
「ん?……あぁ、別にいいのに」

 クーに渡したのは、魔獣へと命中した矢。鏃は無事だったし、矢は消耗品なので回収してきた。もちろん投げナイフも。

「持っときなさい。いつ何があるか分からないんだから」
「……そうだね」

 クーが矢を受け取り、歪みがないか確認した後、腰に着けた矢筒へと仕舞った。血は拭いといたからね。

「あと何本?」
「えっと…14、かな」

 用意していたのは15。少し少なかったかしら……

「まぁ無駄撃ちはしないように気をつけるよ」
「…そうね。最悪村で買いましょう」

 一応その判断も視野に入れつつ、わたしたちの馬車はガタゴトと揺れながら、森を進んで行った。




 

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