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第5章 村編
第121話 策士策に溺れる
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簡単な昼食を済ませた後、俺はまた階段を探すために歩き続けた。
………だが、どこからか見られている気がする。しかし、その方向をみても何も無い。あるのはただただ木だ。ほんとになんなんだ……?
敵対するような視線ではないが、かと言って味方の視線とも感じない。例えるなら……そう、傍観者だ。ただの興味で見ているだけ。関わるつもりは毛頭ないという意志を感じる。
……まぁ、なにもしてこないなら、別に気にしないが。
「全然ないな……」
ずっと歩き続けているが、一向に階段を見つけることが出来ない。もともとここが何階層か分からないが、予想通りならそこまで広くないはずだ。なのに見つからない。もしかしたらダンジョンが変異して広がったか……?
ダンジョンが変異することは稀だ。ない訳じゃない。だが、それこそ100年や500年といった単位だ。俺も今まで見たことない。……いや、学園のダンジョンはそうだったな。だが、あれは人為的な可能性が高いから、話は別だろう。
もしダンジョンが広がったのなら、冒険者ギルドに報告する必要がある。義務だからな。しかし、出発前に調べたが、そんな話は聞いていない。ならちょうど変異した……?そんな偶然があるのだろうか。
「…っ!考える暇はねぇかよ」
足になにかが引っかかった。見るとそれは糸だった。よく目を凝らさないと見えないほど細い糸。スパイダー系の魔物の糸だ。
俺は手早く足に引っ付いた糸を切る。そのままにしておくと足に絡まって身動きが取れなくなるからな。
カサカサカサ。
そこかしこから足音が聞こえる。こいつは多いな……しかも気配隠蔽まで持っているようだ。察知しにくい。道理で反応がなかった訳だ……。
「おっと!」
目の前から糸が飛んでくるのをかわす。だが、その糸はまるで俺をつけてくるかのように曲がって迫ってきた!
「繰糸持ちかよっ!」
糸に引っ付かれる訳にはいかない。引っ付かれたら最後。引っ張りこまれて毒牙で刺される。状態異常耐性を持っていても、長い間毒を流し込まれたら無理だ。
俺は転がってなんとかかわす。どうやら方向転換は1回が限界らしく、そのまま糸は俺の後ろにあった木へとへばりつく。
「くっ!」
次から次へと迫り来る糸をかわしていく。途中逃げ道を塞がれないよう何本か糸を切ったが、何分数が多い!
「っ!しまっ!?」
気付かぬうちに辺りは糸で埋め尽くされてしまっていた。まるで、檻のように。どうやら策に誘い込まれたようだ。
獲物を確実に捕らえられたと思ったのか、今まで姿を見せなかった魔物が姿を現し始めた。その数……20以上。さらにその中に一際目立つ巨大な蜘蛛。
「マザーデススパイダー……」
俺は思わずその魔物の名前を呟く。黒曜石のように輝く体。そこから伸びた八本のルビーのような足。その風貌は、あらゆる相手を怯えさせる。
マザーデススパイダーの周りにいたのは、おそらくマザーの子供、スモールデススパイダーだろう。
「くそっ!よりもよって…」
魔法を使うことは出来ないが、その分強力な神経毒を持つ。その強さは、例えLv.9の状態異常耐性でも防げない。
……状態異常耐性がLv.10だったら、耐性ではなく無効に変わるから、それなら防げただろうがな。生憎俺は状態異常耐性しか持っていない。さて、どうするか……。
「……賭け、だな」
俺は周りを見渡す。スモールデススパイダーは全方位を取り囲んでいる。逃げ道はない。そして、その全てに糸が繋がっている。
俺は狙いに気づかれないよう、慎重に準備を進めていく。ジリジリと周りからスモールデススパイダーが詰め寄ってくるが、慌てずその時を待つ。
「…今だっ!」
俺は準備していた魔法を糸に向かって放った。超高電圧の電撃。
糸に当たった電撃は糸を伝っていき、繋がったままだったスモールデススパイダーへと通電する。こいつらの糸が丈夫だったからこそできたことだ。
超高電圧の電撃を食らったスモールデススパイダー達は、その場で痙攣を起こす。一部気づいて糸を切り離したやつもいたみたいだが、俺に詰め寄っていたせいでやつらは密集状態だった。切り離したとしても、周りのヤツらから感電する。これぞまさに、策士策に溺れる、だな。
しばらくして糸が限界を迎えたのか、真っ黒な塵となり、消え去る。俺の周りには、ひっくり返りもう動く気配のないスモールデススパイダー達。無事全員倒せたようだ。
「さぁ、残るはお前だ」
ガチガチと顎を鳴らし、その真っ赤な8個の瞳で睨みつけてくる。それは我が子を失った悲しみ……いや、道具を失ったことへの怒りか。こいつに我が子なんて考えは存在しない。
ギィィィィィ!!
耳障りな鳴き声をあげ、2本の前足を振り下ろしてくる。俺はそれを後ろ飛びでかわす。あれにも毒ついてるからな……当たったらやべぇよ。
「おらよっ!」
前足が地面に刺さったタイミングで、1本だけ残っていた投げナイフを投げつける。
マザーデススパイダーの甲羅は硬い。だから狙ったのは目。見事にひとつの目へと突き刺さった。
ギャァァァォァ!!
目はまだあるが、失った痛みというのももちろんある。悶え苦しんでいる間に横へと入り込む。そしてそこから頭の甲羅の間を縫うようにして剣を入れる。
ギャァァァ!!
今まで痛みというものを感じたことがないのか、予想以上に暴れる。だが、これでいい。
切り込みが入った箇所は、徐々に大きくなっていく。暴れたことによるものと、頭の重さで自然とな。
ギャア……
最後に弱々しく泣いたと思えば、ブチブチッ!という音とともに頭が転がり落ちた。そして、その巨体はドロップアイテムへと変化する。
ふぅ……とりあえずドロップアイテムを回収したら、今日はここまでにするか。
………だが、どこからか見られている気がする。しかし、その方向をみても何も無い。あるのはただただ木だ。ほんとになんなんだ……?
敵対するような視線ではないが、かと言って味方の視線とも感じない。例えるなら……そう、傍観者だ。ただの興味で見ているだけ。関わるつもりは毛頭ないという意志を感じる。
……まぁ、なにもしてこないなら、別に気にしないが。
「全然ないな……」
ずっと歩き続けているが、一向に階段を見つけることが出来ない。もともとここが何階層か分からないが、予想通りならそこまで広くないはずだ。なのに見つからない。もしかしたらダンジョンが変異して広がったか……?
ダンジョンが変異することは稀だ。ない訳じゃない。だが、それこそ100年や500年といった単位だ。俺も今まで見たことない。……いや、学園のダンジョンはそうだったな。だが、あれは人為的な可能性が高いから、話は別だろう。
もしダンジョンが広がったのなら、冒険者ギルドに報告する必要がある。義務だからな。しかし、出発前に調べたが、そんな話は聞いていない。ならちょうど変異した……?そんな偶然があるのだろうか。
「…っ!考える暇はねぇかよ」
足になにかが引っかかった。見るとそれは糸だった。よく目を凝らさないと見えないほど細い糸。スパイダー系の魔物の糸だ。
俺は手早く足に引っ付いた糸を切る。そのままにしておくと足に絡まって身動きが取れなくなるからな。
カサカサカサ。
そこかしこから足音が聞こえる。こいつは多いな……しかも気配隠蔽まで持っているようだ。察知しにくい。道理で反応がなかった訳だ……。
「おっと!」
目の前から糸が飛んでくるのをかわす。だが、その糸はまるで俺をつけてくるかのように曲がって迫ってきた!
「繰糸持ちかよっ!」
糸に引っ付かれる訳にはいかない。引っ付かれたら最後。引っ張りこまれて毒牙で刺される。状態異常耐性を持っていても、長い間毒を流し込まれたら無理だ。
俺は転がってなんとかかわす。どうやら方向転換は1回が限界らしく、そのまま糸は俺の後ろにあった木へとへばりつく。
「くっ!」
次から次へと迫り来る糸をかわしていく。途中逃げ道を塞がれないよう何本か糸を切ったが、何分数が多い!
「っ!しまっ!?」
気付かぬうちに辺りは糸で埋め尽くされてしまっていた。まるで、檻のように。どうやら策に誘い込まれたようだ。
獲物を確実に捕らえられたと思ったのか、今まで姿を見せなかった魔物が姿を現し始めた。その数……20以上。さらにその中に一際目立つ巨大な蜘蛛。
「マザーデススパイダー……」
俺は思わずその魔物の名前を呟く。黒曜石のように輝く体。そこから伸びた八本のルビーのような足。その風貌は、あらゆる相手を怯えさせる。
マザーデススパイダーの周りにいたのは、おそらくマザーの子供、スモールデススパイダーだろう。
「くそっ!よりもよって…」
魔法を使うことは出来ないが、その分強力な神経毒を持つ。その強さは、例えLv.9の状態異常耐性でも防げない。
……状態異常耐性がLv.10だったら、耐性ではなく無効に変わるから、それなら防げただろうがな。生憎俺は状態異常耐性しか持っていない。さて、どうするか……。
「……賭け、だな」
俺は周りを見渡す。スモールデススパイダーは全方位を取り囲んでいる。逃げ道はない。そして、その全てに糸が繋がっている。
俺は狙いに気づかれないよう、慎重に準備を進めていく。ジリジリと周りからスモールデススパイダーが詰め寄ってくるが、慌てずその時を待つ。
「…今だっ!」
俺は準備していた魔法を糸に向かって放った。超高電圧の電撃。
糸に当たった電撃は糸を伝っていき、繋がったままだったスモールデススパイダーへと通電する。こいつらの糸が丈夫だったからこそできたことだ。
超高電圧の電撃を食らったスモールデススパイダー達は、その場で痙攣を起こす。一部気づいて糸を切り離したやつもいたみたいだが、俺に詰め寄っていたせいでやつらは密集状態だった。切り離したとしても、周りのヤツらから感電する。これぞまさに、策士策に溺れる、だな。
しばらくして糸が限界を迎えたのか、真っ黒な塵となり、消え去る。俺の周りには、ひっくり返りもう動く気配のないスモールデススパイダー達。無事全員倒せたようだ。
「さぁ、残るはお前だ」
ガチガチと顎を鳴らし、その真っ赤な8個の瞳で睨みつけてくる。それは我が子を失った悲しみ……いや、道具を失ったことへの怒りか。こいつに我が子なんて考えは存在しない。
ギィィィィィ!!
耳障りな鳴き声をあげ、2本の前足を振り下ろしてくる。俺はそれを後ろ飛びでかわす。あれにも毒ついてるからな……当たったらやべぇよ。
「おらよっ!」
前足が地面に刺さったタイミングで、1本だけ残っていた投げナイフを投げつける。
マザーデススパイダーの甲羅は硬い。だから狙ったのは目。見事にひとつの目へと突き刺さった。
ギャァァァォァ!!
目はまだあるが、失った痛みというのももちろんある。悶え苦しんでいる間に横へと入り込む。そしてそこから頭の甲羅の間を縫うようにして剣を入れる。
ギャァァァ!!
今まで痛みというものを感じたことがないのか、予想以上に暴れる。だが、これでいい。
切り込みが入った箇所は、徐々に大きくなっていく。暴れたことによるものと、頭の重さで自然とな。
ギャア……
最後に弱々しく泣いたと思えば、ブチブチッ!という音とともに頭が転がり落ちた。そして、その巨体はドロップアイテムへと変化する。
ふぅ……とりあえずドロップアイテムを回収したら、今日はここまでにするか。
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