転生したら死んだことにされました〜女神の使徒なんて聞いてないよ!〜

家具屋ふふみに

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第3章 王都 学園中等部生活編

第47話 食堂での出会い?後編

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「時代が違う?」

それは言葉通りの意味だとして、どっち?古いのか、新しいのか?

「うん。そう。僕は戦争で命を落としたんだ」
「戦争...」

それだけじゃ分からない。

「正確には空襲にあったんだよ。前にオーナーに聞いたら、東京大空襲と呼ばれているらしいね」

東京大空襲...つまり、第二次世界大戦の時に生きていたということ?

「その当時、僕はまだ10歳だったよ」

まだって...いや生きていたらもう何歳ですか?

「だから私はオグリさんって呼んでるの」

うん。納得。私もさん付けで呼ぼう。さっきからさん付けで呼んでるけどね。

「こっちに来たのは2人よりも前だよ。だから今は前世より生きてるかな」
「何歳なんです?」

思わず敬語になるのも致し方ない。背丈的にはもう大人にしか見えない。

「今年で確か...24かな?」

思ったよりいってた。この世界の1年は地球とさほど変わりない。成人の年齢は15歳なので、もう十分大人だ。

「ただ、色々と苦労してね...」

語る表情から、相当苦労してきたんだろうなっていうのがなんとなく分かる。

「まず苦労したのはこの世界について、かな」

確かに戦時中なら、私が生きていたときよりだいぶ前だ。異世界や魔法といった言葉が身近ではなかっただろう。

「でもそれは生活していく中で理解していったよ」

かなり大変だっただろう。そうやって理解するのにどれだけ時間がかかったのか...

「それより苦労したのは、この髪と瞳の色かな」
「髪、ですか?」

オグリさんの髪と瞳は同じ黒色だ。元日本人としては、とても安心する色。

「この世界で、瞳の色は魔力量を表すことは知っているよね?」
「それはもちろん」

そして私のようなオッドアイはとても珍しく、さらに金色の瞳は存在しないということも。

「1番魔力量が多いのは白色なんだけど、その反対である黒は...」
「ああ...」

その言い方でだいたい分かった。

「黒色は魔力が無いと言ってもおかしくないほど、魔力量が少ないんだ」

そういうことですよね。

「...そして、僕は魔鬼族まきぞくだ。魔鬼族まきぞくは魔力量が多いのが特徴の種族でね、その中で僕の存在は言わば忌むべき存在なんだよ」

魔鬼族まきぞくはとてもプライドが高い。自身の魔力量の多さを誇りに思っている。だからこそ、魔力量が自分より低いと分かると、容赦なく罵倒する。すべての魔鬼族まきぞくがそうだとは言わないが、大体の風潮がそうだ。

そしてオグリさんの魔力量が少ないのは、多分そういう言葉の存在そのものを知らなかったからという可能性が高い。エルザに聞いたのだが、この世界で転生した者たちは、自身の想像力の強さがそのまま強さとして反映されるそうだ。だからオグリさんの想像力が弱くて、それが魔力という形で反映された結果だと思う。

「僕は僕を産んだ親にさえも見捨てられたよ。最初は僕の事を守ろうとしてくれていたんだけど、僕の存在がバレた瞬間、手のひらを返したように態度を変えて、僕を捨てたんだ」

そう話すオグリさんの顔はどこか寂しげで、今にも泣き出してしまいそうだった。彼は恐らく葛藤しているのだろう。自分の両親は周りに言われたから仕方なく捨てたのだという期待と、本当は最初から消したかったんじゃないかという絶望と。

「僕が捨てられたのはちょうど君たちと同じ10歳のときだったよ」
「それは...」

酷いですね、という言葉を寸前で飲み込んだ。そんな言葉はただの客観的な感想でしかない。慰めでもない。ましてや彼が、オグリさんがそんな言葉を望んでいるとも思わない。

「それからどうしたんですか?」

聞かずにはいられなかった。10歳で捨てられたのならば、まだこの店はなかったはずだ。ならばどうやってここまで生きてこれたのか?

「まずはその日を生きるためのお金を稼ぐために、仕事を探したよ」

どんな所でも、お金がなくては生きて行けない。

「でもこんな僕に仕事なんて見つからなくてね」

ここでも髪と瞳の色の弊害がでるとは、ね...

「だから僕はハンターになったんだ」

冒険者ギルドはあらゆる大陸、国、街に存在している。全ては同じマニュアルで運営されており、ランクはどこでも共通。そして、来るものは拒まず、去る者は追わず。それが1番の掟。だから極悪人でもない限り、登録を拒否することは出来ない。無論、その逆も。

「とはいえハンターになったとしても僕は魔法をほぼ使えないからね。雑用ばかりだったよ」

一番下のGランクならばそんな依頼ばかりだ。簡単な代わり、報酬は少ない。

「ひとつの依頼ではあまり稼げないから、一度に3つほど掛け持ちしていたこともあったよ」

としみじみした顔をして話しているが、その行為は正直言って危険だ。なぜなら、依頼には違約金と呼ばれるものが発生する。これは依頼を期限までに終わらせなかったりすると発生する。つまり、報酬の少ない依頼を掛け持ちして、どれかひとつを忘れたり、出来なかったりしたらその日の稼ぎがパーになってしまう可能性があるのだ。最悪借金してしまう可能性もある。

「それってどれか依頼を忘れたりしなかったんですか?」

もし1回も違約金を払っていないのなら、逆に凄いと思う。

「あったよ。2度ほどかな?その日は食事が無くてとてもキツかったよ」

キツかったよって言葉で済ませられることではない。もしかしたら、そのせいで依頼を受けることすら困難な体になってしまうことだってあるのだから。そうなればまさしく『死』を待つのみだ。

「そうして過ごしているうちに、ひとつの依頼を見つけたんだ」

そう言いながらユーリの方を見る。

「それがこの店の店員募集だったんだよ」

ギルドにはたまにそういう依頼がある。前世の感覚で言うならパートみたいなものだ。

「で、僕は断られるのを覚悟して、その依頼を受けた」
「それがオグリさんの人生の転機だったんですね」

と相づちを打つと、オグリさんも頷いてくれた。

「ああ。この店の料理を見た時、まさかって思ったんだ」

世界って本当に狭いね。

「それで私も事情を聞いて、このまま店員としてここで働いて貰うことにしたんです」

とユーリが会話に参加してきた。

「ただ、接客業なので、髪と瞳の色は変えてるんですけどね」

と言われて初めて、今の髪と瞳の色が最初会った時と違うと気づいた。最初に会った時は髪も瞳も茶色だったのだ。これも魔力量が少ないが、黒色のように極端に忌まれることはない。

「あ、ほんとだ...でもどうやって?」
「私はこう見えても王族ですよ?お忍び用の変装の魔道具の一つや二つ、持ってますよ」

と得意げに話してくれた。確かに王族ならそんな物を持っていたとしても不思議ではない。

「...っともうそろそろ日も暮れてしまいそうですね」

そう言われて窓の外を見ると、空がオレンジ色に染まっていた。

「あ、本当だ!急いで帰らないと!」
「え、もう?もっとお話したかったのに...」

ユーリが残念そうに言葉を吹いた。

「また来るよ」
「ホント!?」
「うん」
「やったー!」

と飛び跳ねだした。そんなにうれしかったのだろうか?

「なんか必要なものとか、助けが必要ならいつでも言ってね?王女の力を使ってなんでも叶えてみせるから!」
「う、うん...そのときはよろしく」

なんかこの勢いだったら本当にしそうだから、なるべく他の人の迷惑にならないようなことだけ頼も...って、あったわ。

「...じゃあお米を炊くための道具くれない?」

実は以前鉄製の鍋で炊いてみたんだけど、ベチャッてしてて、理想には程遠かったんだよね。もちろん、半端なものをベルとかに食べさせたくないので、炊いたのは全部自分で食べた。捨てるのはさすがにね。

「え?そんなことでいいの?」
「うん。ここではどうやって炊いてるの?」
「ここでは土鍋で炊いてるの。それでもいいならあるけど」
「それで十分だよ!いつ用意できる?」
「うーん...多分明後日かな」

明後日か...ギリギリだけど、大丈夫かな。

「分かった。朝に来てもいい?」
「うん。6時には店にいるから」
「りょーかい」

土鍋が手に入ると分かって、すこし嬉しい気持ちになりながら、手を振って部屋を出て、下に降りる。するとお店は夜の営業の準備を始めていて、定員さんが慌ただしく動いていた。

そして2人はというと...

「うーん...もう食べられないよぉー...むにゃむにゃ」
「スー...スー...」

と2人してテーブルに突っ伏して眠っていた。ちなみに静かなのがキャサリンだ。

「ほら起きて、2人とも」

私は2人の体を揺らして起こそうとする。だが、まったく起きる様子がない。

「ふーん...そうか、なら」

私はかるーーい電気ショックを与えた。いわゆる静電気。

パチッ

「「ひゃぁあ!!」」

効果てきめんである。

「な、なんですの?!...ってフィリアさん?!」
「あ、おかえり」

キャサリンは気が動転してるけど、ベルはそうでもないみたい。
まぁ遅刻しそうになったとき、よくベルをこれで起こしてたからね。

「お待たせ。さ、帰ろ?」
「うん!」
「あ、ちょっと!待ってくださいまし!!」




私が2階で話していた間にベルやキャサリンは定員さんとだいぶ仲良くなったらしく、一緒に皿洗いなどをしていたそうな。同意書は書いていないそう。まぁ料理してるとこを盗み見ても、こっちの世界の人に理解は出来ないだろうね。

話しながら帰った結果、ギリギリの時間に宿に帰ってきた。








...その後、リーナにこっぴどくお叱りを受けたのは周知の事実である。





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