上 下
9 / 159
第1章 幼少期編

第9話 祭り

しおりを挟む
「フィリア!今日は祭りだ!」

「ふぇ!?」


起きてきてすぐにそんなことを言われた。祭り?


「あなた!そんないきなり言っても分かるわけないでしょ!」

「あ、そうだな。すまんフィリア」

「ううん。それで?祭りって?」

「ああ。この前のスタンピードを撃破したお祝いみたいなもんだ」

「ほー」


なるほど。確かに勝つのが不可能に近い戦いに勝ったのだから、当然といえば当然?なのか?


「まぁ、普通はしないんだが、今回のスタンピードにはオークもかなりいたからな。それをただ燃やすのはもったいないってことで、祭りをすることにしたんだよ」


えっとー...それって祭りというより宴会じゃね?


「食べるだけ?」


もし食べてどんちゃん騒ぎするだけなら、正しく宴会だ。


「いや。もちろん、メインはそれなんだが、今日は王都から商隊がきているから午前は市が開催されるんだ」


へー。この村には商店なんてなくて、自給自足で生活しているようなもんだから、買い物するっていうのは初めてかな?

...ただ、私はこの村にあまり知り合いというか、友達がいない。

友達がいない祭りなんてねー楽しくないよねー。


「フィリアも友達と市に行ってきていいぞ?お金なら少しは渡してやるから」

「でも私、友達いない...」

「あら?何を言っているのかしら?もう家のまえにあなたと一緒に行きたいって人がきてるのよ?」

「え!?」


ありえない。だって全然話したことすらないのだから。


「ふふふっ。どうしてって顔してるわね?」

「うん。だって、話したことすらないんだよ?」

「話したことすらなくてもね?窓にいるあなたを見ていたのよ」


ストーカーだ!...いや、子供ってそんなもんか。


「初めてだっていいじゃない。これから友達になればいいんだから」


そぅだよね。友達になるってそういうこと...だよね?


「うん、分かった!」

「じゃあこれ持ってけ」


パパが渡してきたのは小さな首下げ袋だった。


「中には銅貨が15枚、銀貨が3枚はいってるから、無駄使いするんじゃないぞ?」


無駄使いするんじゃないぞっていったって、お金の価値知んないんだけど?

...まぁいっか。とりあえず、待ってるっていう子に会おう。


私はドアまで歩いていって、3歳児には少々でかいドアを開けた。


「あ!初めまして!」


そこにいたのは茶髪の可愛い女の子だった。


「私、"ベル"!あなたは?」

「私は、フィリア」

「フィリアかー。いい名前だね!じゃあいこ!」

「あ、待って!」


ベルに半ば強引に手を引かれながら、家を後にした。


「ねぇベル?」

「うん?なぁに?」

「どうして私と市に行きたかったの?」

「あー、それはねー...友達いなそうだったから!」

「グハァ!」


...ベルよ、もうちょっとオブラートに包んでくんないかなー。かなり痛い。まぁその通りなんだけどさぁ?


「あ、なんかごめんね?」

「う、ううん。大丈夫...」


3歳児って結構ズバズバ意見言うのね。そらそうか、それが3歳児ってもんだ。私が変なんだから。


「じゃあ、私と友達になってくれる?」


私は少し小さな声で頼んだ。落ち着いた顔をしているが、心臓はいまにも爆発しそうだ。


「もちろん!」


よかった...友達になってっていうのが、こんなに緊張するもんだとは思わなかった。


「あ、着いたよ!」


そこはいつも窓から見ても何もなかった場所だった。でも今はいろんなテントが立ち並び、前世で言うところのフリーマーケットみたいな感じだ。


「お!そこの嬢ちゃんたち、このアクセサリーはどうだい?」


気の良さそうなおじさんが話しかけてきた。どうやら自作のアクセサリーを売っているらしい。


「わぁ!綺麗!」

「そうだね」


確かに綺麗だ。おそらくただのガラス玉だろうけど、透き通っていて、様々な色がある。


「あ!フィリアちゃんにはこのネックレスが合いそう!」


そういってベルが見せてきたのは3つのガラス玉が付いたネックレスだ。真ん中のガラス玉が青色で、その両端がオレンジ色になっている。確かに、私の翡翠色の瞳や髪に合いそうだ。


「そうだね」

「うん!じゃあ私からプレゼントするね!」

「え!いいよ、そんな」

「いいの!友達になったんだし」


それなら、私からもなにかプレゼントしたい。どれがいいかな?せっかくだから、お揃いのネックレスにしようかな?


「うーん...あ!じゃあ私はベルにこれをプレゼントする!」


そういって私が選んだのは、同じようにガラス玉が3つ付いているネックレスだ。真ん中は私の瞳のような翡翠色で、両端が青色になっている。


「本当!嬉しい!」

「はは!仲良しだな...よし!本当は銅貨3枚なんだが、1枚でいいぞ!」

「いいの!?」


ほんとに気のいい人だな。銅貨1枚の価値はよくわからないけど、多分原価くらいしかないんじゃないかな?


そして、銅貨1枚を店主に払い、交換した。


「えへへーどう?似合う?」

「うん。よく似合ってるよ」

「やったー!ふふふっ。フィリアちゃんもよく似合ってるよ!」

「あ、ありがとう...」


そんな満面の笑みで言われたら照れるよ...


「あ!次はあっち!」

「え!あ、ちょっと!」


...ベルと付き合うのはなかなか大変かもしれない。

私たちはそのまま日が暮れるまで遊び続けた。


「ただいまー!」

「あら?ふふふっ。ずいぶん楽しんだのね」

「うん!」


...なんか精神年齢が体に引っ張られている気がする。実際ここまで気持ちを声で表すことなんてなかったのだから。


「さぁ、もう疲れたでしょ?お風呂に入ってもう寝なさい」

「はーい」


ちなみに今更だが、この家には浴槽がある。こんな風に精神的にも肉体的にも疲労しているときは、とてもありがたい。


私は自分が思うよりかなり疲れていたらしく、すぐに意識を手放した。


ーーーーーーー

「寝たか?」

「ええ」

「どうだった?」

「前までとは比べ物にならないほど、楽しそうな顔でねていたわ」

「そうか...」


実はこの祭りというのは1番はフィリアのためでもあった。いつもなにを考えているのかわからなくて、年の割にとても落ち着いているフィリアが少しでも楽しんで欲しいということで、ロビンが考えたのだ。


「あなたにしては、よく考えたわね」

「俺だって、フィリアに楽しんで欲しいからな」


いつもそんな調子ならフィリアだって見直すと思うのに...。

まぁ口にはださないけどね。


「さぁ、私たちももう寝ましょうか」

「ああ、そうだな」


私たちはいつもより心が軽くなったような気がしながら、眠りについた。



しおりを挟む
感想 166

あなたにおすすめの小説

転生したおばあちゃんはチートが欲しい ~この世界が乙女ゲームなのは誰も知らない~

ピエール
ファンタジー
おばあちゃん。 異世界転生しちゃいました。 そういえば、孫が「転生するとチートが貰えるんだよ!」と言ってたけど チート無いみたいだけど? おばあちゃんよく分かんないわぁ。 頭は老人 体は子供 乙女ゲームの世界に紛れ込んだ おばあちゃん。 当然、おばあちゃんはここが乙女ゲームの世界だなんて知りません。 訳が分からないながら、一生懸命歩んで行きます。 おばあちゃん奮闘記です。 果たして、おばあちゃんは断罪イベントを回避できるか? [第1章おばあちゃん編]は文章が拙い為読みづらいかもしれません。 第二章 学園編 始まりました。 いよいよゲームスタートです! [1章]はおばあちゃんの語りと生い立ちが多く、あまり話に動きがありません。 話が動き出す[2章]から読んでも意味が分かると思います。 おばあちゃんの転生後の生活に興味が出てきたら一章を読んでみて下さい。(伏線がありますので) 初投稿です 不慣れですが宜しくお願いします。 最初の頃、不慣れで長文が書けませんでした。 申し訳ございません。 少しづつ修正して纏めていこうと思います。

転生先ではゆっくりと生きたい

ひつじ
ファンタジー
勉強を頑張っても、仕事を頑張っても誰からも愛されなかったし必要とされなかった藤田明彦。 事故で死んだ明彦が出会ったのは…… 転生先では愛されたいし必要とされたい。明彦改めソラはこの広い空を見ながらゆっくりと生きることを決めた 小説家になろうでも連載中です。 なろうの方が話数が多いです。 https://ncode.syosetu.com/n8964gh/

最難関ダンジョンをクリアした成功報酬は勇者パーティーの裏切りでした

新緑あらた
ファンタジー
最難関であるS級ダンジョン最深部の隠し部屋。金銀財宝を前に告げられた言葉は労いでも喜びでもなく、解雇通告だった。 「もうオマエはいらん」 勇者アレクサンダー、癒し手エリーゼ、赤魔道士フェルノに、自身の黒髪黒目を忌避しないことから期待していた俺は大きなショックを受ける。 ヤツらは俺の外見を受け入れていたわけじゃない。ただ仲間と思っていなかっただけ、眼中になかっただけなのだ。 転生者は曾祖父だけどチートは隔世遺伝した「俺」にも受け継がれています。 勇者達は大富豪スタートで貧民窟の住人がゴールです(笑)

異世界リナトリオン〜平凡な田舎娘だと思った私、実は転生者でした?!〜

青山喜太
ファンタジー
ある日、母が死んだ 孤独に暮らす少女、エイダは今日も1人分の食器を片付ける、1人で食べる朝食も慣れたものだ。 そしてそれは母が死んでからいつもと変わらない日常だった、ドアがノックされるその時までは。 これは1人の少女が世界を巻き込む巨大な秘密に立ち向かうお話。 小説家になろう様からの転載です!

最底辺の転生者──2匹の捨て子を育む赤ん坊!?の異世界修行の旅

散歩道 猫ノ子
ファンタジー
捨てられてしまった2匹の神獣と育む異世界育成ファンタジー 2匹のねこのこを育む、ほのぼの育成異世界生活です。 人間の汚さを知る主人公が、動物のように純粋で無垢な女の子2人に振り回されつつ、振り回すそんな物語です。 主人公は最強ですが、基本的に最強しませんのでご了承くださいm(*_ _)m

出来損ないと呼ばれた伯爵令嬢は出来損ないを望む

家具屋ふふみに
ファンタジー
 この世界には魔法が存在する。  そして生まれ持つ適性がある属性しか使えない。  その属性は主に6つ。  火・水・風・土・雷・そして……無。    クーリアは伯爵令嬢として生まれた。  貴族は生まれながらに魔力、そして属性の適性が多いとされている。  そんな中で、クーリアは無属性の適性しかなかった。    無属性しか扱えない者は『白』と呼ばれる。  その呼び名は貴族にとって屈辱でしかない。      だからクーリアは出来損ないと呼ばれた。    そして彼女はその通りの出来損ない……ではなかった。    これは彼女の本気を引き出したい彼女の周りの人達と、絶対に本気を出したくない彼女との攻防を描いた、そんな物語。  そしてクーリアは、自身に隠された秘密を知る……そんなお話。 設定揺らぎまくりで安定しないかもしれませんが、そういうものだと納得してくださいm(_ _)m ※←このマークがある話は大体一人称。

【完結】前世の不幸は神様のミスでした?異世界転生、条件通りなうえチート能力で幸せです

yun.
ファンタジー
~タイトル変更しました~ 旧タイトルに、もどしました。 日本に生まれ、直後に捨てられた。養護施設に暮らし、中学卒業後働く。 まともな職もなく、日雇いでしのぐ毎日。 劣悪な環境。上司にののしられ、仲のいい友人はいない。 日々の衣食住にも困る。 幸せ?生まれてこのかた一度もない。 ついに、死んだ。現場で鉄パイプの下敷きに・・・ 目覚めると、真っ白な世界。 目の前には神々しい人。 地球の神がサボった?だから幸せが1度もなかったと・・・ 短編→長編に変更しました。 R4.6.20 完結しました。 長らくお読みいただき、ありがとうございました。

めんどくさがり屋の異世界転生〜自由に生きる〜

ゆずゆ
ファンタジー
※ 話の前半を間違えて消してしまいました 誠に申し訳ございません。 —————————————————   前世100歳にして幸せに生涯を遂げた女性がいた。 名前は山梨 花。 他人に話したことはなかったが、もし亡くなったら剣と魔法の世界に転生したいなと夢見ていた。もちろん前世の記憶持ちのままで。 動くがめんどくさい時は、魔法で移動したいなとか、 転移魔法とか使えたらもっと寝れるのに、 休みの前の日に時間止めたいなと考えていた。 それは物心ついた時から生涯を終えるまで。 このお話はめんどくさがり屋で夢見がちな女性が夢の異世界転生をして生きていくお話。 ————————————————— 最後まで読んでくださりありがとうございました!!  

処理中です...