475 / 503
第二十八章 王女殿下がXXXの丸焼きをお召し上がりなるまで
(22)
しおりを挟む
「なんだ、その不満げな顔は。この肉がいかに貴重な食料かということは、お前たちも当然理解しているであろう? なのにまったく手を付けようともしないのはどういうわけだ。何か特別な理由でもあるのか?」
アリスが少々意地悪く問いただす。
ところが竜騎士たちも、アリス相手に珍しくはっきり言い返した。
「僭越ながらアリス様、いくら魔法で処理したとはいえこれらはしょせん化けネズミの肉。下賤で不潔で得体の知れぬものです。いくら兵糧に事欠いているとはいえども、騎士でありまた貴族でもある我々がどうして口に出来ましょうか?」
「何を申すか。時と状況を考えれば今はそんなことを言っている場合ではないだろう。腹が減っては戦はできぬという格言はさもあらん。これから先に必ず来る敵の最後の総攻撃に空腹で立ち向かえるとは私は到底思えんぞ」
「いいえ、我々はどんなに刀折れ矢尽きそして飢えようともアリス様のため最後の一兵まで戦って御覧にいれます」
「だから私はそういうことを言っているのではない。おまえたちが本来の力を発揮できずそのせいで城が落ちたらどうするのか、今までの努力と忍耐がすべて水泡に帰すのではないかと危惧しているのだ」
「……申し訳ありませんが、どうと言われましても我々はこの汚らわしいものを食べるわけにはまいりません。さらにはアリス様! アリス様もロードラント王国の王女として、ネズミの肉など決して召し上がってはなりませんぞ」
武士は食わねど高楊枝? というやつか。
しかし竜騎士たちは相変わらず無駄にプライドが高い。
「まったく世話の焼ける連中だ」
アリスも飽きれ顔でつぶやき、王座に座ったまま横を向いて、そばにいたロゼットに声をかけた。
「メイド長――ロゼットと言ったな。ロゼット、すまないが私のところに化けネズミの丸焼きを持ってきてくれるか? そうだな、よく焼けていて特大の大きさのがいい」
ロゼットは「かしこまりました」と、すぐさま大きな皿の上に乗せたネズミの丸焼きをもってきた。
それからそれを、あらかじめ用意してあったテーブルの上にでんと置いた。
うーん、しかし……。
アリスに出す手前一応綺麗に盛り付けてはあるが、よく見るとやっぱりネズミはネズミだ。
「ではお取り分けいたします」
ロゼットがナイフを取ったが、アリスはそれを静止して言った。
「いや、その必要はない。自分でやる」
「ではこの肉切りナイフとフォークをお使い下さい」
「それもいらん」
「よろしいのですか?」
「ああ。――おいお前たち、よーく見ておけよ!」
アリスはそう宣言すると、丸々太ったネズミの丸焼きをグワシとつかんだ。
竜騎士たちが慌てて止めようとするが、アリスは一切無視してガブリとネズミにかぶりつき、しばらくムシャムシャして叫んだ。
「野趣あふれるとはまさにこのこと。思ったよりずいぶんいい味ではないか! さすがユウトの魔法だな。これならいくらでも食べられるぞ」
豪快と言おうか下品と言おうか――
アリスは口の周りが汚れるのもかまわず、ワシワシガツガツとネズミの肉に食らいつくては飲み込んでいく。
容姿が人並み外れて美しいだけに、めったにお目にかかれないその食事風景は、やたらインパクトがある。
そして不思議なことに、決して食欲をそそる造形をしていなかったネズミの肉が、次第に美味そうな極上のごちそうに見えてくるのだった。
竜騎士たちも最初はあっけに取られていたが、アリスを見ているうちに腹が減ってきたのか、ゴクリとツバを飲み込む者さえいた。
なるほど、驚いたけどこれで納得。
アリスはなんとか竜騎士に食事を取らせようとして、普段なら絶対にやらないような、いわばピエロの役をみんなの前で演じているのだ。
アリスが少々意地悪く問いただす。
ところが竜騎士たちも、アリス相手に珍しくはっきり言い返した。
「僭越ながらアリス様、いくら魔法で処理したとはいえこれらはしょせん化けネズミの肉。下賤で不潔で得体の知れぬものです。いくら兵糧に事欠いているとはいえども、騎士でありまた貴族でもある我々がどうして口に出来ましょうか?」
「何を申すか。時と状況を考えれば今はそんなことを言っている場合ではないだろう。腹が減っては戦はできぬという格言はさもあらん。これから先に必ず来る敵の最後の総攻撃に空腹で立ち向かえるとは私は到底思えんぞ」
「いいえ、我々はどんなに刀折れ矢尽きそして飢えようともアリス様のため最後の一兵まで戦って御覧にいれます」
「だから私はそういうことを言っているのではない。おまえたちが本来の力を発揮できずそのせいで城が落ちたらどうするのか、今までの努力と忍耐がすべて水泡に帰すのではないかと危惧しているのだ」
「……申し訳ありませんが、どうと言われましても我々はこの汚らわしいものを食べるわけにはまいりません。さらにはアリス様! アリス様もロードラント王国の王女として、ネズミの肉など決して召し上がってはなりませんぞ」
武士は食わねど高楊枝? というやつか。
しかし竜騎士たちは相変わらず無駄にプライドが高い。
「まったく世話の焼ける連中だ」
アリスも飽きれ顔でつぶやき、王座に座ったまま横を向いて、そばにいたロゼットに声をかけた。
「メイド長――ロゼットと言ったな。ロゼット、すまないが私のところに化けネズミの丸焼きを持ってきてくれるか? そうだな、よく焼けていて特大の大きさのがいい」
ロゼットは「かしこまりました」と、すぐさま大きな皿の上に乗せたネズミの丸焼きをもってきた。
それからそれを、あらかじめ用意してあったテーブルの上にでんと置いた。
うーん、しかし……。
アリスに出す手前一応綺麗に盛り付けてはあるが、よく見るとやっぱりネズミはネズミだ。
「ではお取り分けいたします」
ロゼットがナイフを取ったが、アリスはそれを静止して言った。
「いや、その必要はない。自分でやる」
「ではこの肉切りナイフとフォークをお使い下さい」
「それもいらん」
「よろしいのですか?」
「ああ。――おいお前たち、よーく見ておけよ!」
アリスはそう宣言すると、丸々太ったネズミの丸焼きをグワシとつかんだ。
竜騎士たちが慌てて止めようとするが、アリスは一切無視してガブリとネズミにかぶりつき、しばらくムシャムシャして叫んだ。
「野趣あふれるとはまさにこのこと。思ったよりずいぶんいい味ではないか! さすがユウトの魔法だな。これならいくらでも食べられるぞ」
豪快と言おうか下品と言おうか――
アリスは口の周りが汚れるのもかまわず、ワシワシガツガツとネズミの肉に食らいつくては飲み込んでいく。
容姿が人並み外れて美しいだけに、めったにお目にかかれないその食事風景は、やたらインパクトがある。
そして不思議なことに、決して食欲をそそる造形をしていなかったネズミの肉が、次第に美味そうな極上のごちそうに見えてくるのだった。
竜騎士たちも最初はあっけに取られていたが、アリスを見ているうちに腹が減ってきたのか、ゴクリとツバを飲み込む者さえいた。
なるほど、驚いたけどこれで納得。
アリスはなんとか竜騎士に食事を取らせようとして、普段なら絶対にやらないような、いわばピエロの役をみんなの前で演じているのだ。
0
お気に入りに追加
218
あなたにおすすめの小説
鑑定能力で恩を返す
KBT
ファンタジー
どこにでもいる普通のサラリーマンの蔵田悟。
彼ははある日、上司の悪態を吐きながら深酒をし、目が覚めると見知らぬ世界にいた。
そこは剣と魔法、人間、獣人、亜人、魔物が跋扈する異世界フォートルードだった。
この世界には稀に異世界から《迷い人》が転移しており、悟もその1人だった。
帰る方法もなく、途方に暮れていた悟だったが、通りすがりの商人ロンメルに命を救われる。
そして稀少な能力である鑑定能力が自身にある事がわかり、ブロディア王国の公都ハメルンの裏通りにあるロンメルの店で働かせてもらう事になった。
そして、ロンメルから店の番頭を任された悟は《サト》と名前を変え、命の恩人であるロンメルへの恩返しのため、商店を大きくしようと鑑定能力を駆使して、海千山千の商人達や荒くれ者の冒険者達を相手に日夜奮闘するのだった。
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
ユーヤのお気楽異世界転移
暇野無学
ファンタジー
死因は神様の当て逃げです! 地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。
30年待たされた異世界転移
明之 想
ファンタジー
気づけば異世界にいた10歳のぼく。
「こちらの手違いかぁ。申し訳ないけど、さっさと帰ってもらわないといけないね」
こうして、ぼくの最初の異世界転移はあっけなく終わってしまった。
右も左も分からず、何かを成し遂げるわけでもなく……。
でも、2度目があると確信していたぼくは、日本でひたすら努力を続けた。
あの日見た夢の続きを信じて。
ただ、ただ、異世界での冒険を夢見て!!
くじけそうになっても努力を続け。
そうして、30年が経過。
ついに2度目の異世界冒険の機会がやってきた。
しかも、20歳も若返った姿で。
異世界と日本の2つの世界で、
20年前に戻った俺の新たな冒険が始まる。
俺しか使えない『アイテムボックス』がバグってる
十本スイ
ファンタジー
俗にいう神様転生とやらを経験することになった主人公――札月沖長。ただしよくあるような最強でチートな能力をもらい、異世界ではしゃぐつもりなど到底なかった沖長は、丈夫な身体と便利なアイテムボックスだけを望んだ。しかしこの二つ、神がどういう解釈をしていたのか、特にアイテムボックスについてはバグっているのではと思うほどの能力を有していた。これはこれで便利に使えばいいかと思っていたが、どうも自分だけが転生者ではなく、一緒に同世界へ転生した者たちがいるようで……。しかもそいつらは自分が主人公で、沖長をイレギュラーだの踏み台だなどと言ってくる。これは異世界ではなく現代ファンタジーの世界に転生することになった男が、その世界の真実を知りながらもマイペースに生きる物語である。
人気MMOの最恐クランと一緒に異世界へ転移してしまったようなので、ひっそり冒険者生活をしています
テツみン
ファンタジー
二〇八✕年、一世を風靡したフルダイブ型VRMMO『ユグドラシル』のサービス終了日。
七年ぶりにログインしたユウタは、ユグドラシルの面白さを改めて思い知る。
しかし、『時既に遅し』。サービス終了の二十四時となった。あとは強制ログアウトを待つだけ……
なのにログアウトされない! 視界も変化し、ユウタは狼狽えた。
当てもなく彷徨っていると、亜人の娘、ラミィとフィンに出会う。
そこは都市国家連合。異世界だったのだ!
彼女たちと一緒に冒険者として暮らし始めたユウタは、あるとき、ユグドラシル最恐のPKクラン、『オブト・ア・バウンズ』もこの世界に転移していたことを知る。
彼らに気づかれてはならないと、ユウタは「目立つような行動はせず、ひっそり生きていこう――」そう決意するのだが……
ゲームのアバターのまま異世界へダイブした冴えないサラリーマンが、チートPK野郎の陰に怯えながら『ひっそり』と冒険者生活を送っていた……はずなのに、いつの間にか救国の勇者として、『死ぬほど』苦労する――これは、そんな話。
*60話完結(10万文字以上)までは必ず公開します。
『お気に入り登録』、『いいね』、『感想』をお願いします!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる