上 下
472 / 503
第二十八章 王女殿下がXXXの丸焼きをお召し上がりなるまで

(19)

しおりを挟む
 が、しかし――
 ミュゼットの話には続きがあった。

「と、言いたいところだけどさ、それだとなんか半分無理やりみたいで野暮っていうか、初体験はもう少し自然な流れでロマンチックにしたいんだよね。だからそれは改めてってことにして――」

「じゃあ何だよ? お願いって」

「簡単な話だよ。あのさ、ユウトは今もあの王女に化けたリナって娘を助け出そうと思っているんだよね」

「え……」

「食料問題が解決してみんな助かる目途がついたら、お城を抜け出してリナをあの女剣士シャノンから取り戻すつもりなんでしょ?」

 もちろんリナのことは――魔女ヒルダと女剣士シャノンにさらわれて以来、彼女の身のことは片時も忘れたことはない。
 デュロワ城を守るのに忙殺しれていたが、リナを救い出さなければならないタイムリミットはごく間近に迫っているのだ。

「ミュゼット、その通りだよ。僕は必ずリナを助けに行く」

「だと思った。だったらさ前に言った通りその救出作戦に一緒に連れて行ってよ。メイド業もまあ悪くはないんだけど、ちょっと刺激が少ないっていうか飽きてきちゃったんだよね。女剣士にもリベンジしたいし」

「でも、それは――」

 城を何重にも囲む敵の包囲を突破したうえで、さらにヒルダとシャノンを敵にしなければならない限りなく危険な決死行だ。
 当然、命の保証などまったくない。
 しかしミュゼットは、僕の返答も聞かず強引に迫った。
 
「はい決まり! 約束だからね。――さてと、それじゃあボクは地上に戻ってメイド隊を呼んでくるよ。みんなで協力して、早くこのネズミの丸焼きをお腹を空かした兵隊さんの元に運んであげたいんだ。ユウトはその間残りの丸焼きにも魔法をかけちゃっておいてよ。ね!」

「あ、ああ……」

「でも地上に戻るその前に……」

 ミュゼットはそう言って目を閉じ、僕の顔に自分の小さな桜貝色の唇を近づけてキスを求めてきた。
 リナにもアリスにもない、危うい美しさと清廉な色香。
 ……たとえミュゼットが男の娘であっても、この状況でどうしてそれを拒めようか?
 
「チュツ」

 唇と唇が触れた瞬間、爽やかな香りと甘い味がした。
 いったん顔を離したのち、我慢しきれず、もう一度顔を近づけ今度はもっと深く強くキスをする。
 さすがに舌を入れたりはしなかったけれど、それが終わった後、僕の心の中は陶酔感と多幸感で一杯に満たされていた。
 アリスとはまた違う素晴らしいキスだ。

「口と口でやっちゃったね。じゃね! また後で!」

 ミュゼットは恥じらう表情を見せ、それを隠すように振り向き、地上へ続く階段をかけ上がっていった。
 
 ……ついにしてしまった。 
 男同士で本気のキスを。

 それにしても、いったい自分は本当は誰のことが好きなのか?
 リナか、アリスか、ミュゼットか――?

 そんなことを考えつつ悶々としながらも、僕は他のネズミの丸焼きにまとめて魔法をかけ終えた。
 これで、すべての肉が間違いなく美味しくなっただろう。

 そこへちょうど、ミュゼットが呼んだお城のメイドさんたちがやってきた。
 これ幸い。
 少々疲れを感じてきたので、僕は丸焼きを運ぶのは彼女たちに任せ、いったん地上に戻ることにした。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇


 地下から次々と運ばれてくる大きな化けネズミの丸焼き――

 それを見て、兵士たちが歓声を上げている。
 ネズミとはいえ、一応こんがりして美味しそうに見えたからだ。
 ところが貴族出身が多いプライドの高い竜騎士たちはそうはいかなかった。
 ネズミの丸焼きに喜ぶ兵士たちに、またしても侮蔑の目を向けている。
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

転生令嬢は現状を語る。

みなせ
ファンタジー
目が覚めたら悪役令嬢でした。 よくある話だけど、 私の話を聞いてほしい。

鑑定能力で恩を返す

KBT
ファンタジー
 どこにでもいる普通のサラリーマンの蔵田悟。 彼ははある日、上司の悪態を吐きながら深酒をし、目が覚めると見知らぬ世界にいた。 そこは剣と魔法、人間、獣人、亜人、魔物が跋扈する異世界フォートルードだった。  この世界には稀に異世界から《迷い人》が転移しており、悟もその1人だった。  帰る方法もなく、途方に暮れていた悟だったが、通りすがりの商人ロンメルに命を救われる。  そして稀少な能力である鑑定能力が自身にある事がわかり、ブロディア王国の公都ハメルンの裏通りにあるロンメルの店で働かせてもらう事になった。  そして、ロンメルから店の番頭を任された悟は《サト》と名前を変え、命の恩人であるロンメルへの恩返しのため、商店を大きくしようと鑑定能力を駆使して、海千山千の商人達や荒くれ者の冒険者達を相手に日夜奮闘するのだった。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

ユーヤのお気楽異世界転移

暇野無学
ファンタジー
 死因は神様の当て逃げです!  地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。

30年待たされた異世界転移

明之 想
ファンタジー
 気づけば異世界にいた10歳のぼく。 「こちらの手違いかぁ。申し訳ないけど、さっさと帰ってもらわないといけないね」  こうして、ぼくの最初の異世界転移はあっけなく終わってしまった。  右も左も分からず、何かを成し遂げるわけでもなく……。  でも、2度目があると確信していたぼくは、日本でひたすら努力を続けた。  あの日見た夢の続きを信じて。  ただ、ただ、異世界での冒険を夢見て!!  くじけそうになっても努力を続け。  そうして、30年が経過。  ついに2度目の異世界冒険の機会がやってきた。  しかも、20歳も若返った姿で。  異世界と日本の2つの世界で、  20年前に戻った俺の新たな冒険が始まる。

俺しか使えない『アイテムボックス』がバグってる

十本スイ
ファンタジー
俗にいう神様転生とやらを経験することになった主人公――札月沖長。ただしよくあるような最強でチートな能力をもらい、異世界ではしゃぐつもりなど到底なかった沖長は、丈夫な身体と便利なアイテムボックスだけを望んだ。しかしこの二つ、神がどういう解釈をしていたのか、特にアイテムボックスについてはバグっているのではと思うほどの能力を有していた。これはこれで便利に使えばいいかと思っていたが、どうも自分だけが転生者ではなく、一緒に同世界へ転生した者たちがいるようで……。しかもそいつらは自分が主人公で、沖長をイレギュラーだの踏み台だなどと言ってくる。これは異世界ではなく現代ファンタジーの世界に転生することになった男が、その世界の真実を知りながらもマイペースに生きる物語である。

人気MMOの最恐クランと一緒に異世界へ転移してしまったようなので、ひっそり冒険者生活をしています

テツみン
ファンタジー
 二〇八✕年、一世を風靡したフルダイブ型VRMMO『ユグドラシル』のサービス終了日。  七年ぶりにログインしたユウタは、ユグドラシルの面白さを改めて思い知る。  しかし、『時既に遅し』。サービス終了の二十四時となった。あとは強制ログアウトを待つだけ……  なのにログアウトされない! 視界も変化し、ユウタは狼狽えた。  当てもなく彷徨っていると、亜人の娘、ラミィとフィンに出会う。  そこは都市国家連合。異世界だったのだ!  彼女たちと一緒に冒険者として暮らし始めたユウタは、あるとき、ユグドラシル最恐のPKクラン、『オブト・ア・バウンズ』もこの世界に転移していたことを知る。  彼らに気づかれてはならないと、ユウタは「目立つような行動はせず、ひっそり生きていこう――」そう決意するのだが……  ゲームのアバターのまま異世界へダイブした冴えないサラリーマンが、チートPK野郎の陰に怯えながら『ひっそり』と冒険者生活を送っていた……はずなのに、いつの間にか救国の勇者として、『死ぬほど』苦労する――これは、そんな話。 *60話完結(10万文字以上)までは必ず公開します。  『お気に入り登録』、『いいね』、『感想』をお願いします!

父が再婚しました

Ruhuna
ファンタジー
母が亡くなって1ヶ月後に 父が再婚しました

処理中です...