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第八章 風の少女

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 そしてついに、アリスがセフィーゼの前に立った。
 ロードラント王の名代とイーザの族長――
 大きな格の違いがあるとはいえ、リーダー同士の直接対決というわけだ。

 だが、最初に口を開いたのはヘクターだった。

「アリス王女、初めてお目にかかります。私はイーザの将ヘクターと申します。そちらがセフィーゼ。私たちのおさ――団長です」

「自分から出て来るなんて、なかなか感心ね」
 セフィーゼが腕を組み、アリスを見下すように言った。
「にしても、ほーんと噂通りの美しさね。まるでお人形さんみたい」 

 怒り、嫉妬、憎悪に羨望せんぼう――
 セフィーゼの声の中には、さまざまな感情が入り混じっているように聞こえた。

 しかし、それも理解できる部分もある。
 巨大王国ロードラントの第一王女としてすべてを約束されたアリスと、吹けば飛ぶような貧しい地方部族の族長の娘にすぎないセフィーゼ――
 二人は生まれながらして、輝く太陽と青白い月のような対極の位置にいるからだ。

「さて、どうしようかしら、王女様」
 セフィーゼは楽しそうに笑って言った。
「『エアブレード』で苦しまないよう一瞬で首を切り落としてほしい? それともその綺麗な顔を少しずつ切り刻むのも悪くないかな?」

「なんだ、いきなりの処刑宣告か。ずいぶん無礼な奴だな」

 アリスは顔色一つ変えずにそう答えたが――
 見ているこっちは仰天ものだった。
 
 ありえない。
 ありえないだろう、それは!

 なにしろアリスは、イーザ族にとって今後交渉の切り札となる貴重な人質。
 そのアリスをこの場でいきなり殺してしまうなんて――

 もし仮にセフィーゼが後先考えずそのような残酷な振る舞いをすれば、この先ロードラント王国が黙っているはずがない。
 レーモンが言った通り、総力を挙げイーザ族を根絶やしにかかるに違いない。
 その時点で彼らは一巻の終わり、民族滅亡の道をたどることになる。
 
 セフィーゼはそんな悲劇的な結末を迎えても平気なのか?

 いや、それとも……。
 そんな簡単な予想もできなくなるくらい、セフィーゼのアリスに対する恨みは深いということなのか?

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