上 下
19 / 47

第18話 付き合って

しおりを挟む
 次の日、いつものように一時限目の終わりに学校に着くと、クラスメイトが口々に何か話し合っていた。
 『部活』って言葉が聞こえて、手近な男子に訊く。

「何かあったのか?」

「ああ、四季。今朝アーヤが突然、『実績のない部活動の所属禁止』って言い出したんだよ」

 ははぁん。早速何とかしてくれたんだな。

「つまり、幽霊部員は禁止って事か?」

「うん。一ヶ月以上活動してない部活は、過去に遡(さかのぼ)って退部だって。再入部は、事情がない限り、原則として一ヶ月後」

 ナイス、綾人。これでハシユカに付きまとわれなくて済む。

「ふぅん。サンキュ」

 上がってしまいそうになる口角を、頬をかくフリをして隠しながら、俺は気のない素振りで席に向かった。

「四季、おはよ!」

 ハシユカが、八重歯を見せた後、拗ねたように唇を尖らせた。
 可愛いのは認めるけど、押しかけ女房は、迷惑でしかない。

「昨日、一緒に帰ろうと思ってたのに、何で先に帰っちゃったの?」

 人の話を聞かない奴には、直球、しかも剛速球に限る。

「迷惑だから」

 だけど、やっぱりハシユカには効かなかった。

「照れなくってもいいのに」

「照れてねぇよ。察しろよ。迷惑なんだよ」

「あん、冷たい、四季。でもそんなところも素敵」

 駄目だ……日本語が通じてない。
 俺はさっさと背を向けて、椅子に座った。
 二時限目のチャイムが鳴って、食パンメンが待ち構えていたように入ってくる。

「はい! 席に着いて! 始めるよ!」

 粛々と授業が始まる。食パンメンの正義漢に、助けられる形になった。

 ――ツン、ツン。

 だけど少しあって、背中をつつかれる感触に、俺は本当に頭を抱えた。
 無視してたら、背中が叩かれる。軽く音がして、黒板にチョークを走らせていた食パンメンが、ふっと振り返った。
 マズい。相手してやらねぇと、目立つ羽目になる。
 再び黒板に向かう食パンメンの目を盗んで振り返ると、昨日と同じハート型に折られたメモが渡された。

 無視したら、また叩かれるんだろうな。俺は溜め息をつきながら、苦労してその変形折りを開いた。
 内容を読んで、スッと血の気が引いた。

『四季、アーヤと付き合ってるの?』

 慌ててノートの端を破って、返事を書く。

『はあ? そんな訳ないだろ。よくそんな発想、思い浮かぶな』

 またメモが返ってきた。今度は、シンプルに四つ折り。

『だって、昨日の今日でいきなり、ゆうれい部員禁止になったから』

 これが、女の勘ってやつか。結論に達するのが速過ぎて、恐れおののく。

『たまたまだろ。ゆうれい部員が多すぎんだ』

『でも虫さされかと思ったけど、アーヤの部屋から出て来た四季、首にキスマークついてたし』

 それを読んだ俺は咄嗟に、首に手を当ててしまった。
 立て続けにメモがくる。

『へえ、そうなんだ。そう言えば、好きなタイプ、男子じゃなくて男って言ってたしね』

 しまった。カマかけられた……!

『現役の生徒と副理事なんて、バレたら事件だよね。黙ってるかわり、あたしとも付き合って』

 俺は口元を覆って青くなった。血の気が引いてくのが分かる。
 今バラされたら、俺は退学、綾人はクビだろう。
 嫌だけど、綾人以外を好きになることなんか出来ないけど、言うことをきくしかないのかもしれない。

『四季、返事は? 返事くれなきゃ、休み時間入ったらバラすよ』

 俺は震える手で、ノートの切れ端にシャーペンの先を当てた。

 ――パキッ。
 
 力みすぎて、芯が折れる。

『分かった』

 それだけ書くのが、精一杯だった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうやら俺は悪役令息らしい🤔

osero
BL
俺は第2王子のことが好きで、嫉妬から編入生をいじめている悪役令息らしい。 でもぶっちゃけ俺、第2王子のこと知らないんだよなー

初心者オメガは執着アルファの腕のなか

深嶋
BL
自分がベータであることを信じて疑わずに生きてきた圭人は、見知らぬアルファに声をかけられたことがきっかけとなり、二次性の再検査をすることに。その結果、自身が本当はオメガであったと知り、愕然とする。 オメガだと判明したことで否応なく変化していく日常に圭人は戸惑い、悩み、葛藤する日々。そんな圭人の前に、「運命の番」を自称するアルファの男が再び現れて……。 オメガとして未成熟な大学生の圭人と、圭人を番にしたい社会人アルファの男が、ゆっくりと愛を深めていきます。 穏やかさに滲む執着愛。望まぬ幸運に恵まれた主人公が、悩みながらも運命の出会いに向き合っていくお話です。本編、攻め編ともに完結済。

キサラギムツキ
BL
長い間アプローチし続け恋人同士になれたのはよかったが…………… 攻め視点から最後受け視点。 残酷な描写があります。気になる方はお気をつけください。

恋した貴方はαなロミオ

須藤慎弥
BL
Ω性の凛太が恋したのは、ロミオに扮したα性の結城先輩でした。 Ω性に引け目を感じている凛太。 凛太を運命の番だと信じているα性の結城。 すれ違う二人を引き寄せたヒート。 ほんわか現代BLオメガバース♡ ※二人それぞれの視点が交互に展開します ※R 18要素はほとんどありませんが、表現と受け取り方に個人差があるものと判断しレーティングマークを付けさせていただきますm(*_ _)m ※fujossy様にて行われました「コスプレ」をテーマにした短編コンテスト出品作です

【完結】ぎゅって抱っこして

かずえ
BL
幼児教育学科の短大に通う村瀬一太。訳あって普通の高校に通えなかったため、働いて貯めたお金で二年間だけでもと大学に入学してみたが、学費と生活費を稼ぎつつ学校に通うのは、考えていたよりも厳しい……。 でも、頼れる者は誰もいない。 自分で頑張らなきゃ。 本気なら何でもできるはず。 でも、ある日、金持ちの坊っちゃんと心の中で呼んでいた松島晃に苦手なピアノの課題で助けてもらってから、どうにも自分の心がコントロールできなくなって……。

君のことなんてもう知らない

ぽぽ
BL
早乙女琥珀は幼馴染の佐伯慶也に毎日のように告白しては振られてしまう。 告白をOKする素振りも見せず、軽く琥珀をあしらう慶也に憤りを覚えていた。 だがある日、琥珀は記憶喪失になってしまい、慶也の記憶を失ってしまう。 今まで自分のことをあしらってきた慶也のことを忘れて、他の人と恋を始めようとするが… 「お前なんて知らないから」

十七歳の心模様

須藤慎弥
BL
好きだからこそ、恋人の邪魔はしたくない… ほんわか読者モデル×影の薄い平凡くん 柊一とは不釣り合いだと自覚しながらも、 葵は初めての恋に溺れていた。 付き合って一年が経ったある日、柊一が告白されている現場を目撃してしまう。 告白を断られてしまった女の子は泣き崩れ、 その瞬間…葵の胸に卑屈な思いが広がった。 ※fujossy様にて行われた「梅雨のBLコンテスト」出品作です。

学院のモブ役だったはずの青年溺愛物語

紅林
BL
『桜田門学院高等学校』 日本中の超金持ちの子息子女が通うこの学校は東京都内に位置する野球ドーム五個分の土地が学院としてなる巨大学園だ しかし生徒数は300人程の少人数の学院だ そんな学院でモブとして役割を果たすはずだった青年の物語である

処理中です...