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第7章 カトレアの花

愛している

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「愛しています……ラドラム」

 気付くと、顔をぐしゃぐしゃにして泣いているラドラムを、プラチナが上から抱き締めているのだった。
 『愛している』。その音は、何て哀しく、愛しく、そして美しい響きだろう。

「ああ、愛してる……プラチナ……」

 水際から引っ張り上げられて、ラドラムはブレイン・ダイヴから帰還した。
 
「嬉しいです、ラドラム……また私を、『愛している』と言ってくれましたね」

 ダイヴ・シートの上に横になっているラドラムの背中に腕を回し、端末を外してプラチナが薄い唇を寄せてくる。
 そこは以前よりも、しっとりと潤ってラドラムの唇に押し当てられた。

「んっ……」

 前よりも心地良いと思ったのは、ラドラムの心持ちのせいばかりではなく、人工皮膚の粘膜がバージョンアップして、より人間により近いものになった事もあった。
 柔らかいものを食べるように、角度を変えて唇を食まれ、ラドラムも応えてプラチナの唇を不器用に食む。

「あっ」

 タンクトップの薄布越しに、両の親指の腹を尖りにかけて掌で捏ねるように揉まれた。感度の良いそこは、軽くこすっただけで勃ち上がる。

「あっ、んぁ」

 喘いで唇が開くと、そこに舌が差し入れられて、上顎の奥を舐められる。味わった事のない感覚が、ラドラムの理性を溶かしていった。
 自慰くらいはした事があったが、ディープキスは相手が居ないと出来ない。
 何よりその切ないような愛しさは、プラチナだからこそ感じる衝動だった。

「んっ、んン……」

 自分でも聞いた事のない調子に、語尾が掠れ上がる。
 舌が引き出され、吸われ、舐められ、甘噛みされ、その優しさにラドラムの魂が震えた。

「ふ……っ」

 いつしかまたラドラムの頬は、しとどに濡れていて、プラチナが飴玉でも転がすように瞼の上から眼球を舐める。
 その感覚も、性行為にはほど遠い刺激の筈なのに、ラドラムを酷く感じさせていた。

「ラドラム。何故、泣いているのですか?」

 タンクトップが捲り上げられ、身体の中心線を辿るように徐々に口付けを下へと下へと下げていきながら、プラチナが訊く。

「俺にもっ……分かんな、アんっ」

 訊いておきながら、やや意地悪くぬめる舌が胸の尖りをペロリと舐めて、ラドラムの身体が小さく跳ねる。
 左胸を口に含まれ、強く吸いながら歯を立てられた。手加減のない強さに、痛みを感じてラドラムは低く呻く。

「ああ……痕がつきました。ラドラムは私のものだという、証です」
 
 そして臍に舌をねじ込みながら、プラチナはラドラムのベルトを素早く外す。
 『その為』に作られたセクソイドほどではなかったが、プラチナのA.I.には人間の性感帯も書き込まれていて、ラドラムは為す術もなく嬌声を漏らす。
 形を確かめるまでもなく、下肢はすでに硬く育ってジーンズの前を押し上げていた。

 ジッパーを器用に糸切り歯に引っ掛けて下ろしながら、首を振って鼻先で刺激すると、しゃくり上げるような声が大きく上がる。
 プラチナは、その声に深い満足を覚えながら、下着ごと一気にジーンズを脱がせてしまった。
 弾みで靴が脱げ落ちるが、名残に靴下が残る。
 ラドラムは、捲り上げられた黒いタンクトップと靴下だけの姿になっていた。

「や、見る、なっ」

 ラドラムは羞恥に、太ももを摺り合わせるようにして隠そうとする。
 だがそそり勃った花芯は隠しようもなく、プラチナは縮こまってふるふると震える双玉の中心から裏筋をぬるりと舐め上げた。
 
「あァン……っ」

「ラドラム、恥ずかしがる事はありません。全て見せてください」

 そのまま口に含んで、獣がミルクを飲むように舌を使ってチュクチュクとしゃぶると、ラドラムの身体に力が入って弓なりに突っ張った。

「あっ・駄目、だっ・イく……!」

 ここ一ヶ月はろくに自分で抜く暇もなく、その過ぎる快感に顔が歪む。
 言うなれば、ラドラムは処女だ。快感を知ったばかりのその表情は、あどけなくも酷くセクシーなものだった。

「イってください、ラドラム。私は貴方の全てが欲しい」

 人工声帯は口を動かさなくても声を発する事が出来、プラチナはキツく吸い上げながら言う。
 溜まっていた愛液は、呆気なく暴発した。

「あ・ァ、ん・んン――ッ!!」

 押し殺した叫びを上げて溢れさせたのは、ただの精液ではなく、プラチナの大きな愛に包まれた、まさしく愛液なのだった。
 喉仏を上下させて、プラチナが飲み下す。

「ひゃっ」

 かと思ったら、半分ほど口内に溜めていた愛液を、膝裏に手をかけてラドラムの身を折り、後孔に垂らす。
 勿論これも初めての感覚で、ラドラムはイったあとの快感の波をはーっはーっと肩で息をして逃がしていたが、身を硬くして竦んだ。

「ラドラム、力を抜いてください」

 プラチナが、A.I.とは思えない慈愛に満ちた声で言う。
 だが一度イった事で、ラドラムは僅かに頭が冷えていた。
 プラチナの手によって開かされている脚を、躍起になって閉じようとする。

「プラチナっ、みんなに、聞こえるっ」

「大丈夫です。鍵はかけてありますし、防音です」

 言いながら、プラチナは革手袋の中指の先を噛んで、片手だけ外す。
 普段見えていない場所だからか、彫刻のように整った素肌の拳に、何だかラドラムは鼓動が速くなるのを意識した。

「で、でもっ……んっ」

 反論は、薄い唇に塞がれる。柔らかい唇が優しく摺り合わされ、上唇、下唇、と食まれてその心地良さに思わずぼうっと、ゼロ距離のプラチナの人工眼球を見詰めていると、不意に後孔に異物感が滑り込んできた。
 ぬめる愛液にまみれて弛緩しきっていたそこは、容易く二本の指の侵入を許す。締め付けは、後からやってきた。

「あ……はっ、苦し……」

 その言葉に、息の浅くなるラドラムの唇を啄みながら、プラチナは空いている方の手でラドラム自身を緩急を付けて扱き上げる。
 そこはまだ若い欲望に身を焦がし、イってもなお萎えずに硬度を保っていた。
 ラドラムは、革手袋の編み目の一つ一つに鮮明に感じ、イレギュラーで抽象画のようなその悦に耐える。

「んぁっ・あ・や……っ」

 締め付けの緩んだ胎内で、プラチナの指が蠢いた。第二関節まで挿れて曲げると、腹側にある男性子宮の入り口を探す。

「アッ!」

 途端にラドラムの腰が跳ねた。
 硬くなった男性子宮の入り口、すなわち前立腺を緩く突きながら二本の指で繊細な筋肉を拡げると、我慢出来ないようにラドラムの腰が揺れる。

「ンャッ・は・アァンッ」

 半開きの唇からは、ひっきりなしに喘ぎが漏れる。
 身体の両側に投げ出された両手は、掌が白くなるほどキツく握り締められていた。 
 やがて、蕾が綻ぶようにして、閉じられていた後孔が花開き出す。
 プラチナが指を抜くと、喪失感に小さな悲鳴が上がって、ピンク色にポッカリと媚肉がヒクついていた。

 プラチナは着衣のまま、ズボンのジッパーだけを下ろし、下着をつけていないそこから、猛った雄を取り出す。
 その動きに、つられるようにラドラムも視線を下ろすと、驚くほど太くて長い灼熱が目に入った。

「挿れます……ラドラム」

「や、そんなおっきいの、入らなっ」

「大丈夫です。充分に慣らしましたから」

 プラチナ自身がラドラムの後孔に宛がわれ、ゆっくりと押し入ってくる。瞳を閉じ眉根を寄せるラドラムに、プラチナがまた顔中に口付けた。
 全部は収まりきらず、竿に手を添えて前立腺をゴリュゴリュと突くと、ラドラムがキスの雨から逃れて仰け反り、意味をなさない呻きを漏らす。

 だがプラチナは、快感に飛びそうになるラドラムの理性を引き留めた。
 ただセックスがしたい訳ではない。『ラドラム』を愛したいのだ。
 プラチナは一度動きを止め、彼を髪一筋も乱さぬ口調で呼んだ。

「ラドラム。私が誰だか、分かりますか」

「んぁ、や、もっと……」

 止まってしまった甘い責め苦に、ラドラムが自ら腰を動かそうとする。
 だがプラチナはその腰骨を掴んで押し留め、もう一度言った。

「呼んでください。私の名を」

 するとラドラムは、硬く閉じていたフォレストグリーンの瞳を薄っすら開けて、確かにプラチナと目を合わせた。

「プラ……チナっ・あっ・んぁっ・ア!」

「これはご褒美です。ラドラム」

 言い終わると同時に、プラチナが動きを再開させる。
 胎内に受ける甘い衝撃は、本来の雄の快感ではなく、イきたくてもイけない、もどかしい受難だった。

「ア・ぁんっ・はっ……も・駄目・イく、イか・せっ」

「分かりました。初めてですから、優しくします」

 プラチナは痛いほど勃ち上がっているラドラムに革手袋の指をかけ、捻るように手首を使いながら、緩くキツく扱き上げる。
 同時に、胎内のイイ場所も激しく突いた。
 ガクガクと、ラドラムの顎が揺さぶられて上下する。

「ハ・んっ・イイっ・イくっ! イく――……っ!!」

 腕が無意識に上がって、プラチナの黒ずくめの背中に爪を立てた。

「愛しています、ラドラム」

「ンッ・俺・もっ。愛、してる……っ」

 ラドラムが勢いよく、引き締まった腹筋の上に愛液を撒き散らす。プラチナを受け入れている柔肉のリングが、キツく締まり上がって収縮した。
 電気信号が確かに快感中枢を刺激して、その上に、ラドラムから雄を引き抜いたプラチナも、一瞬遅れて人工精液を放つ。
 二人分の白濁が、混ざり合った。
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