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第39話 体温
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ぬけるような青空の元、僕と政臣さん、充樹と笹川さんの祝言(しゅうげん)が行われていた。
四人とも、五つ紋付き羽織袴を着ている。政臣さんと笹川さんが黒、僕と充樹が白だった。
雅楽の音色が響く中、神主さんと巫女さんに導かれて、神社の濡れ縁を進む。後ろには、先代、政臣さんのご両親と続く。
神前の間に入り、神主さんが祓詞(はらいことば)で身の穢れを清め、祝詞(のりと)を唱えて神に二組の結婚を報告し、幸せが永遠に続くよう祈る。
三々九度(さんさんくど)の盃(はい)を交わし、その後の誓詞奏上(せいしそうじょう)が、難関だった。
「わたくしどもは今日をよき日と選び、神の大前で結婚式を挙げました。今後は信頼と愛情とをもって、助け合い励まし合って、よい家庭を築いてゆきたいと存じます。何とぞ、幾久しくお守りください」
政臣さんは行動は大胆なのに、慣れない神前なのもあってこういう儀式は苦手らしく、練習では「幾久しく」を何回も噛んでしまい、しきりに緊張してた。
でも本番では、何とか噛まずに言えた。良かった。
後は巫女さんの舞を見たりなんかして、ほっと人心地ついて微笑み合った。
「政臣」
式が終わって控え室に戻る道すがら、藤堂さんが声をかけてくる。
「はい。珠樹。充樹と二人で、父さんに着いていけ」
「はい」
僕と充樹は不思議顔を見合わせたけど、政臣さんの表情が晴れやかだったから、黙って言に従った。
黒い礼服を着た藤堂さんの後ろを着いていくと、池が見える濡れ縁の奥の間に、藤堂さんが声をかけた。
「充樹さんと珠樹さんを、連れて参りました。わしは、失礼します。さ、入りなさい」
僕と充樹を促して、藤堂さんは去っていった。
「お入りなさい」
戸惑っていると、穏やかな女性の声が招いた。
「失礼致します」
僕たちは部屋に入って、並んで座った。池の水面(みなも)にうつる葉桜に視線を落とし、横顔を見せていた女性は、すいと視線を僕たちに向けた。
「……充樹。珠樹」
一人一人の目を見て、女性は言った。僕たちをちゃんと見分けてる。
女性の頬を、つうと涙が伝った。
「大きくなって……」
僕たちは、お作法も忘れて、わっと女性に抱き付いた。
「母様……!」
「ごめんなさい。あの人に、逆らえなかったの。幼い貴方たちを残して、私は皇城を追い出されて……ごめんなさい、ごめんなさい」
両腕に僕たちを抱き締めて、母様はしきりに謝った。
「母様、謝らないでください。会えただけで、珠樹は幸せです!」
「母様、母様……会いたかったです、ひっく……」
泣き虫の充樹は、顔をぐしゃぐしゃにして、ただ母様に縋ってる。
「二人とも、幸せになってね。愛した人と、暖かい家庭を作って」
だから少し身を離して、充樹の分も、僕は笑顔で寿ぐ。
「はい。充樹も珠樹も、本当に愛した人と結ばれました。幸せです。母様とも会えるなんて、今日は人生で一番よき日です」
「珠樹。貴方……立派になって。辛かった分、うんと幸せになるのよ」
「はい。全ては運命の巡り合わせです。過去がなければ、わたくしが政臣さんと出会う事も、叶いませんでした。人生に何一つ、恥じる事も悔いる事もありません」
「そう……そうね。本当に立派になって……貴方たちは、母様の誇りです」
母様はそう言って、もう一度僕たちを抱き締めた。
長い事、僕たちはただ黙って、会えなかった十四年分の体温を分け合っていた。
四人とも、五つ紋付き羽織袴を着ている。政臣さんと笹川さんが黒、僕と充樹が白だった。
雅楽の音色が響く中、神主さんと巫女さんに導かれて、神社の濡れ縁を進む。後ろには、先代、政臣さんのご両親と続く。
神前の間に入り、神主さんが祓詞(はらいことば)で身の穢れを清め、祝詞(のりと)を唱えて神に二組の結婚を報告し、幸せが永遠に続くよう祈る。
三々九度(さんさんくど)の盃(はい)を交わし、その後の誓詞奏上(せいしそうじょう)が、難関だった。
「わたくしどもは今日をよき日と選び、神の大前で結婚式を挙げました。今後は信頼と愛情とをもって、助け合い励まし合って、よい家庭を築いてゆきたいと存じます。何とぞ、幾久しくお守りください」
政臣さんは行動は大胆なのに、慣れない神前なのもあってこういう儀式は苦手らしく、練習では「幾久しく」を何回も噛んでしまい、しきりに緊張してた。
でも本番では、何とか噛まずに言えた。良かった。
後は巫女さんの舞を見たりなんかして、ほっと人心地ついて微笑み合った。
「政臣」
式が終わって控え室に戻る道すがら、藤堂さんが声をかけてくる。
「はい。珠樹。充樹と二人で、父さんに着いていけ」
「はい」
僕と充樹は不思議顔を見合わせたけど、政臣さんの表情が晴れやかだったから、黙って言に従った。
黒い礼服を着た藤堂さんの後ろを着いていくと、池が見える濡れ縁の奥の間に、藤堂さんが声をかけた。
「充樹さんと珠樹さんを、連れて参りました。わしは、失礼します。さ、入りなさい」
僕と充樹を促して、藤堂さんは去っていった。
「お入りなさい」
戸惑っていると、穏やかな女性の声が招いた。
「失礼致します」
僕たちは部屋に入って、並んで座った。池の水面(みなも)にうつる葉桜に視線を落とし、横顔を見せていた女性は、すいと視線を僕たちに向けた。
「……充樹。珠樹」
一人一人の目を見て、女性は言った。僕たちをちゃんと見分けてる。
女性の頬を、つうと涙が伝った。
「大きくなって……」
僕たちは、お作法も忘れて、わっと女性に抱き付いた。
「母様……!」
「ごめんなさい。あの人に、逆らえなかったの。幼い貴方たちを残して、私は皇城を追い出されて……ごめんなさい、ごめんなさい」
両腕に僕たちを抱き締めて、母様はしきりに謝った。
「母様、謝らないでください。会えただけで、珠樹は幸せです!」
「母様、母様……会いたかったです、ひっく……」
泣き虫の充樹は、顔をぐしゃぐしゃにして、ただ母様に縋ってる。
「二人とも、幸せになってね。愛した人と、暖かい家庭を作って」
だから少し身を離して、充樹の分も、僕は笑顔で寿ぐ。
「はい。充樹も珠樹も、本当に愛した人と結ばれました。幸せです。母様とも会えるなんて、今日は人生で一番よき日です」
「珠樹。貴方……立派になって。辛かった分、うんと幸せになるのよ」
「はい。全ては運命の巡り合わせです。過去がなければ、わたくしが政臣さんと出会う事も、叶いませんでした。人生に何一つ、恥じる事も悔いる事もありません」
「そう……そうね。本当に立派になって……貴方たちは、母様の誇りです」
母様はそう言って、もう一度僕たちを抱き締めた。
長い事、僕たちはただ黙って、会えなかった十四年分の体温を分け合っていた。
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