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17 クラーラと帳簿

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 私はロンバード男爵が管理している鉱山の帳簿を写した物を持って客間をノックした。

「クラーラ、終わったのかい。入っておいで」

 ヘインズ子爵から返事があり、私は客間に入った。
 二人を見て、出て行った時とあまりに雰囲気が違うのでつい聞いていた。

「お二人でどの様なお話をされていたのです?」
「ん?勿論クラーラの事だよ」

 悪戯っぽく笑いながらバート様が仰るので、私は揶揄われた時思い、ぷいっと横を向いた。
 それを見たヘインズ子爵も肩を震わせていた。

「お二人とも失礼ですわ」

 二人が謝ってくれたので、私は席について帳簿の話を始めた。

「ヘインズ子爵、この帳簿はここ数か月の物で間違いないですか?」
「あぁ、間違いない」
「ここなのですが……」

 それから私は一生懸命に数字の差異やただの計算違いではありえない事を伝えた。
 それと、王都のタウンハウスの使途不明金やこれまで疑問に思っていた事もぶつけた。

「クラーラ、タウンハウスの帳簿はナディオに任せている筈だよ。君には教えるのはいいが、手を貸さない様に言っていたよね」
「ごめんなさい。最初は教えていたのです。でも、ナディオ様が癇癪を起こしてしまって『クラーラが出来るなら俺がやる必要がない』と……」

 徐々に声が小さくなっていく私に優しい声がかけられた。

「どうやらナディオにはタウンハウスはまだ早かったようだね。夜会デビューを機に住まわせていたが必要なさそうだ」
「ヘインズ子爵、ナディオから取り上げる時はクラーラ嬢に被害がいかない様にして下さい」
「勿論だ。クラーラをこれ以上傷つけるつもりはない」

 二人とも私の事を思って言ってくれているのはわかっている。
 それでも養父になる人から与えられたタウンハウスを取り上げられるというのが、貴族としてどの様な評価なのか想像がつく私は止めてしまう。

「ヘインズ子爵、その判断はまだ下さないでほしいです。もう少し様子を見て貰えませんか」

 自分でも愚かな事だとわかっている。
 わかっていても今はタウンハウスでしかナディオ様を見る機会がない。
 馬鹿な私だと思う。それなら使途不明金の事など黙っていたらいいのだから。
 色々な気持ちが渦巻き、感情が上手く整理できない私は呆れられているだろう。

「クラーラがそうしたいのならもう少し様子を見よう」
「クラーラ嬢は優しいな」

 溜息混じりの声でしたが、言葉をかけてくれた。
 私はナディオ様に会えなくなるのも辛いけれど、この二人に見捨てられるのも辛いのだと思った。



 
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