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25 クラーラの王太子の夜会

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 バンデルン侯爵領の特産と技術を集めたドレスはとても手触りの良い品で軽かった。
 リリーが綺麗に着飾ってくれた私を見て、お兄様は大袈裟に褒める。
 嬉しいけれど、私に甘いお兄様の言葉なので話半分に聞いていた。
 王城で開かれる今回の夜会はとても格式がある。
 開場時間の少し前に到着した私達は、個別の招待状を確認されて大広間に通された。

「やあ、ハンス。随分ゆっくりな登場だな」

 いち早く私達を見つけたバート様が声をかけてくれた。

「まあな、バートもお疲れ様。マーナの相手は疲れただろう」
「はは、あいつはいつもの事だよ。従妹として振り回されるのは慣れてるさ」

 そこでバート様は私を軽く上から下まで見て、とても満足そうに笑った。

「クラーラ嬢、とても素敵だね。是非私とファーストダンスを踊りましょう」

 とてもキザな仕草で誘われた。

「ファーストダンスはパートナーとだろう。ここでのパートナーは俺だからな」
「ハンスは婚約者と踊ればいいだろう?マーナもその方が喜ぶ」

 そしてサラリとお兄様から手を掠め取られ、私はバート様と会場入口から中央に向かって歩き始めた。

「あの、バート様。私最初はお兄様と踊りますわ」
「それは残念」

 私には婚約者のナディオ様がいる。
 ナディオ様も招待状を持っているのだから、他人と踊っているのを見かけたら叱責されるだろう。
 そっと会場を見渡してもまだナディオ様は見当たらない。

「広いですものね、この会場」
「あぁ、参加者も多いよ。将来この国を盛り立てていく貴族達が集まっているからな」

 小さく呟いた言葉をバート様が拾ってくれた。
 お兄様は知人に捕まり話をしている。
 チラチラこちらを見ないで、お知り合いと親睦を深めて下さい。

「クラーラ嬢、お久しぶりね」

 可愛らしい声が横から聞こえた。

「マーナ様、今回はありがとうございます」
「たいした事はしていないわ。ハンスは今どこに?」
「この後ろの方でお知り合いとお話中です」
「そう、では挨拶してくるわね」

 離れていったマーナ様はすぐにお兄様を連れて戻って来た。
 合流した後すぐに開演時間になったのか、王太子が登場し挨拶が終わった。


 これから楽しい時間が始まるという時、見知った声が会場の外から聞こえてきた。

「俺は招待状を持っているのだぞ。ここを通せ」
「そうよ、王太子のパーティなのよ。とても着飾って来たのだから」

 分厚い扉が閉じた大広間の入口で、余程うるさく喚き立てているのだろう。
 男女の声と制止する声が漏れていた。



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