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マーガレット・アンクール辺境伯令嬢の場合

10 私の婚約事情―婿としての教育

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婚約者のガルディ・ローディングが当家を訪れ、一目見た感想は『甘やかされた生粋の貴族』だった。

初めて数言話した感想は『話が合わない』これに尽きた。

だが、これは完全な政略結婚。
そんな事は言っていられない。
どちらかが歩み寄らなければならない。

もちろん、それは年上の私に求められた。

………………無理!!

顔が整っているのは認める、でもそれだけ。

闊達かったつ?何それ。

「俺は度量が広く、小さい事にこだわらないのさ」という本人の口癖を難しく言っただけの自称だよね?

彼の様な性格は、わがまま放題自分勝手と言うのよ!

姉や母から愛されているというのは、ダメな子程可愛いの典型じゃないのかしら?
それとも、身内の欲目か猫可愛がりされたのか。

来訪一日目の我が家の彼の総評は『貴族教育とは?』だった。

普通デビュタント前に終わらせるべき貴族としての振る舞いが、全く出来ていなかったのだ。


それでも、当家に迎え入れる人材。
二日目から婿がねとしての教育が始まった。

一時間後、泣いて喚いてぶっ倒れて終了。
体力、剣の腕、乗馬共に不合格。
まさか、馬に乗ろうとして落ちるとは思わなかった。
確かに当家の馬は、軍馬として最高級であり気高く大きい。

私も小さい時馬にからかわれた事はあるが、愛情を持って接すればすぐに打ち解けた。
うちの馬は賢いのだ。

その馬を前にして「俺は乗馬が得意だ」と自信満々に言い、調教師の言葉も聞かず無理やり手網を引っ張った。
馬の体勢も自分の体勢も馬具も考慮に入れず、乗ろうとして滑り落ちたのだ。

ガルディは、自分がどれだけの上級者だと思っていたのだろう。


三日目、ガルディは部屋から出てこなかった。
落ちた時に出来た傷が痛むという理由だ。

落ちてすぐに医師に見せたが、止まっていた馬からの落下。
多少の打撲と擦り傷だけだった筈なのだが。
再度医師を呼んだが、ガルディが部屋の扉を開けることはなかった。


四日目、今日は簡単な座学だけだと説得すると、午後から渋々部屋を出てきた。
二時間後、「こんなもの知るか!」と叫び部屋に駆け込み、立てこもったが。

忙しい父が、せっかく今の我が領地の事を話してくれたのに。
難しい話ではなく、十歳前後の領民の子供にするような話。

それでも最新の領地の話だ。
私は、父の話を夢中になって聞いていたかった。

隣でガルディが退屈がり、態度が悪くなる度に注意が飛んで中断となるが、彼を庇わなかった。

「何故、俺を庇わない」

最初小さく問われた言葉は、注意が増える度大きくなった。

「当家の婿がねとして、立派になって欲しいから」

父の話が難しければ、庇ったかもしれたい。
しかし、ガルディの態度は分からないのではなく、最初から興味が無い感じがヒシヒシと伝わった。

だから最初真剣に言った言葉も、何回も繰り返すとおざなりになっていく。

ガルディにとって、相手にこの様な態度を取られる事が今までなかったのかもしれない。

叫んで勉強部屋を出て行った彼を見て、私達親子はため息をついた。



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