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第二章

記憶喪失ですわ

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「アミーそろそろ昼休憩にしな!ほらこれランチだよ!」

私はキルジーさんに大きな声で呼ばれレストランの厨房で食器を洗っていた手を止めた。

「あ、もうそんな時間。ありがとうございます」

タオルで手を拭きながら厨房に居るキルジーさんとダンさんにペコリとお辞儀をしてからランチのお皿を受け取った。

「アミーはもう少し多めに食べた方がいい。ガリガリじゃないかい。はい。これも食べな!」

ランチのお皿とは別に切られた果物も持たされる。

「こ、こんなに食べれません......」

「キルジーさんがいい出したらきかないから。残してもいいからとりあえず食べてみな」

ダンさんに言われて私は小さく頷く。
厨房の隅に座りランチを食べ始めた。

私、アミーは記憶喪失だ。
自分が何者かも年齢も名前も分からない。家族が居たのかも知らない。ただ分かるのは私がとても醜い事だけだ。
毎日顔を洗う時に鏡を覗くのが恐ろしくてたまらない。
自分の顔なのに。
こんな化け物の様な顔でよく今まで生きてきたものだと思う。

あと少し不思議な事に私は子供だ。多分体つきから考えて10歳か11歳?ぐらいだろうか?それなのに考え方が大人なのだ。おかしい。体と心がアンバランス過ぎる。
とりあえず子供の振りはしているが私は何者なのだろうか?

気がついた時、私は1人でこのロックデンガー島の森の中に立っていた。
記憶が無いので最初はこの島の住民かと思って町に行ってみたが皆んな私を見て怯え、逃げる。

何故だと思い町中にある噴水の水に顔を映してみるとそこには化け物が映っていた。自分でも怖い。ならば他の人ならもっと怖いだろうと思い山の中に逃げた。

山の中に廃墟がありそこを片付けて住むようになった。冬じゃなくて良かったと思う。冬なら寒さで死んでいただろう。

それから何回か町に行ったみたが私を知る人は居ないようだった。
私はどうやらこの島の住民ではないらしい。

いざ住み始めて分かったのだが私は何も出来ない。家事全般に。
魔力が使えないかやってみたが火も起こせない。仕方がないので山中にあるそのまま食べられる食材を探して取ってきた。主に木の実や果物のような物だ。水は近くに川が流れている。

山で食べ物が見つからなかった時は町まで行くのだ。
すると私の見目が化け物だから子供達が物をぶつけてくる。
化け物のうえに髪の毛もボサボサになり服も今着ている1着しかないから汚いしボロボロなので気持ち悪さが倍増している。

なのであっちに行けよ!って気持ちが分かる。ま、こちらはぶつけられるのを期待して行っているので気持ち的には大丈夫。少し痛いけど。

何故ぶつけられるのを期待しているのかというと......。ぶつけてくる物は石の時もあるし草の時もある。でも時々だがカビたパンの時があるのだ!

そのパンはカビた部分だけ上手く切り取れれば残りが食べれる。
勿体無い!
硬いけどそんなの気にしていられない。
そうやって私は生きながらえてきた。

でも時々思う。何の為に生きているのだろう?家族も知り合いも友達も居ない1人だけで。話す相手は小鳥や虫だけ。
どんどん痩せて醜くボロボロになっていく自分。
死んだって誰も悲しんでくれない。
私が死んでしまっても誰にも知られないだろう。ならば、死んでしまおうかな。
死んでしまえばお腹も空かないし人から化け物呼ばわりされない。

......でも、何故か死んではいけない様な気がする。分からないけれど。

死のうかなと思っては死んではいけないと思う毎日を過ごす様になったある日、私はキルジーさんと出会った。

廃墟に住み始めてから3ヶ月ぐらい経った頃、その日も食べる物が山で調達出来ず町に行っていた。
いつもの様に色々な物をぶつけられ歩いていると大きな石が飛んできた。
その石は私のオデコを直撃し皮膚が切れて血が流れる。

でもそんな事は構っていられない。
パンは?パンは無いの?
必死に這いつくばってパンを探していたら大きな声が聞こえた。

「あんた達!何してるんだい?こんな小さな子に石なんか投げて!そんな酷いことをする様な子供はこの島にはいらないよ!!」

「だ、だ、だってコイツ、気持ち悪いし!」

毎回私に物をぶつけてくるグループのリーダーらしい男の子が叫ぶ。

「何だい!その理由は!この子がお前さんに何かしたとかじゃないんだろう?世の中には色々な人間が居るんだよ。気持ち悪いって?自分の物差しだけで測るんじゃないよ。私はその子は全然気持ち悪くないけどね!」

そう言いながらキルジーさんは這いつくばっていた私の両腕を優しく掴んで立ち上がらせた。

あの男の子達の集団は逃げてしまったようだ。
キルジーさんと目が合う。
私は反射的に顔を両手で隠していた。

「お前さん、名前は?あたしはキルジーって言うんだ」

「......分かりません」

「この島の子かい?家は何処だい?送っててやるよ?」

そう私に訊ねながら血が流れているオデコにタオルをそっと押し当ててくれた。

「分からない。気がついたら森の中で立ってました。家は山の中の廃墟に1人で住んでます」

一瞬驚いた顔をキルジーさんはしたけど直ぐに普通に戻った。

「そうかい。お前さんも親に捨てられたかねぇ。この島はよく子供が捨てられるんだよ。島の外からわざわざ船でね。でも大体が3歳とか4歳ぐらいの子なんだけどお前さんは7歳か8歳ぐらいかね?」

ああ、そうなんだ。やっぱりだ。
私は捨てられたんだ。
そりゃそうだ。こんな化け物。
この歳まで育ててくれた事に逆に感謝しないといけないのかもしれない。

「悪いね。はっきり言っちまってさ。あたしは思った事を言っちまうタイプなんだよ。それでお前さんは這いつくばって何を探してたんだい?」

「パンを......カビたパンを時々ぶつけられていたのでそれを拾って食べてました。今日は山で何も食料が獲れなかったのでカビたパン目当てでぶつけられにきてました」

下を向いてボソボソと説明する。

少し間があってキルジーさんが私に言った。

「お前さん山の中にずっと居るだけなんだろう?する事無かったらさ、あたしのレストラン手伝ってくれないかね?皿洗いが居なくて困ってるんだよ。きちんとお給料も払うしレストランの上があたしの家なんだ。部屋が余ってるからそこに住めばいい。3食付きだ。いい条件だろう?」

それが私とキルジーさんとの出会いだった。





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