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第一章

お兄様しばらくの間お別れですわ

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10歳になったお兄様は聖騎士専用の学園に入学する事になりました。
5年間聖騎士になる為に学び、剣術を訓練し、その子に適性があるのかを判断するのです。全国各地からエリートの子供達が集まってきます。

適性が認められた子だけその後3年間聖力や魔法などの訓練に入ります。そして18歳になって試験に合格出来たら聖騎士になれるのです。

聖騎士学園は完全な寮生活で親の死目以外余程の事がないかぎり実家へは帰省できないのですわ。15歳になった年だけ一度帰省できますの。

そんな厳しい学園にお兄様は行く事になりましたわ。私の自慢のお兄様。受験もトップクラスで通過です。
見目も恐ろしいほど良く、頭も最高に良く、運動神経もあり、魔力も強くて性格もお優しい完璧なお兄様。ですが、変態ですの。

そんなお兄様の職業は聖騎士以外にはないですよね?変態ですけれど。

お父様とお兄様、親子で聖騎士。前の人生でもそうでしたわ。本当にカッコ良くていつも自慢でした。今世ではお兄様は変態になってしまいましたけれど。

「い~や~だぁぁぁぁぁ!行きたくない!アイラと離れたくなぁぁぁいぃぃぃ!!僕がいない間にアイラが誰かに食べられたらどーするんだよぉぉ!アイラの1番最初は僕なんだよぉぉぉぉ!」

ガン泣きしながらお父様に訴えていますわ。では、何故試験を受けたのでしょうか?何故白紙でテストを出さなかったのでしょう?そこがお兄様のヌケてるところですわね?

「誰もアイラを食べたりしないよ。ルネ?アイラの何の1番最初がお前なのだ?」

お父様の声が2段ぐらい低くなりましたわ。怖いです。

「え?え?そんな事、お父様なら分かってるじゃないですか!男なら!」

お兄様、あっぱれでございます。よくお父様を前にしてそう言えましたわね?

「......紳士になって戻っておいで」

お父様が短く呟きました。

その夜です。
アクアとマリルが一晩私のお部屋にお泊まりするのですって。

「アイラ様。大丈夫でございますよ?私がおりますから何も心配ございません」

「俺様が居るんだ。何も心配ないぞ?」

そうなのですね。
お兄様でしょうか?明日、お兄様は聖騎士学園に行くので今夜が実家で過ごす最後の夜ですわね。

「お兄様は来ると思います?」

「来ますね」

「来るに決まってるだろ?」

2人が即答ですわ。
とりあえず頼もしい2人が居るので安心して眠るとしますわ。

はい。真夜中です。
何となく体に重さを感じて目が覚めましたわ。

う⁉︎綺麗なお兄様のドアップですわ!これはどういった状況ですの?

「アイラ。お父様は僕たちを引き離そうとしているよ。運命の相手なのに酷いよね?」

状況が少し分かってきましたわ。
まずお兄様は私の上に馬乗りになっています。お兄様の魔力で私の体は動かないようですわ。そしてマリルは眠らされて床に転がっています。
アクアは?私のお部屋の前にいた騎士は?

「ん?あの悪魔を探してるの?これに入れちゃったよ?あいつ本当に邪魔なうえにアイラを狙ってるから本当は殺したかったけどさ。あ、部屋の前にいた騎士?今の状況に気がついてないと思うよ?僕の部屋から直接こっちに飛んだしこの部屋には誰も入れない様に呪文もかけたから」

そう言ってお兄様が丸い玉を見せてきましたわ。これ、最上級の聖騎士様が扱える悪魔封じの玉ですわ!前の人生でお父様が取り扱っていました!

今世ではお兄様が10歳にして扱えるぐらい魔力がおありで?流石ですわね。

「殺したらアイラに嫌われちゃうって思って。だから閉じ込めた」

「お兄様、凄いのですね。もうその様なお力が!」

お兄様は私の髪の毛をゆっくり撫でながら細く微笑みました。

「アイラを襲う為に一生懸命に訓練したんだよ?誰にも邪魔されないようにどうしたらいいのか研究して必要な魔力だけ頑張ったんだ」

私を襲う為に頑張ったらこんなに強くなったと。その努力はもっと違う事に活かして欲しいですわね。

「まぁ。お兄様の原動力は私なのですわね?光栄ですわ。でも私たちは兄妹ですので色々とちょっと無理ですわ」

「僕たちは兄妹じゃない!」

はっ?それは爆弾発言ですわ⁉︎

「アイラはお父様とお母様の......」

え?え?それ以上は言ってはいけませんわ!

「本当の子......」

ブッチ。私の中で何かが切れましたわ。

「おい。変態兄貴。それ以上言ったらブッ殺すぞ?あ?」

あの麗しいお2人の子供ではないと言おうとしましたわね?私のアイデンティティはあのお2人の子供だという事が絶対条件で成り立ってますの。崩さないで下さいまし?

私はキョトンとしているお兄様からアクアが入っている玉を奪い取り床に投げつけました。え?体を動かせれなかったのではって?いくらお兄様の魔力が強くても私には敵いませんのよ?

床に投げつけられた玉は白い煙を出して割れました。中からアクアがひょこっと出てきましたわ。

「アクア!お前は私と出会った時も捕まっていたがこんなガキにも捕まるなんて油断しすぎだぁぁぁ!アホが!」

私ってキレるとこうなりますのね。新たな発見ですわ!

「あはは!悪りぃーな!また助けてもらったなぁ。しかし相変わらず力強ぇーな!キレたお前も大好きだ!」

どさくさに紛れて告白しないで頂きたいわ!もう!

「あっ?何で?アイラは動けないようにしたはずなのに......」

私よ、落ち着け。落ち着くのですよ?お兄様と冷静に話しましょうね?

「お前の力なんぞ私の前では赤子のようなものだ。悔しかったら聖騎士になって強くなって帰ってこい」

あちゃーですわ。冷静にはなれませんでしたわ。もう何だか言い方が上からですし。

「アイラ......。命令系のアイラはなんて素敵なんだ!僕に暴言を吐いたアイラも最高だった!聖騎士になって強くなったら僕にいろんな事させてくれるんだね?分かった!頑張ってくるから待ってて!」

鼻息らくお兄様がうっとりしながら叫びました。

いえ。決してその様な意味ではありませんの。ですがお兄様が聖騎士になる為に頑張れるのならそういう事にしておきましょう。多分聖騎士になったお兄様より私の力の方が上なので何かしてきたらねじ伏せれますものね。

この騒ぎに気がついたお父様とお母様が血相を変えてお部屋に入ってきましたわ。私、ブチ切れた時にお兄様がこのお部屋にかけた呪文を解除しておきましたの。ふふふ。
お兄様はお父様に首根っこを掴まれ引きずられていきました。

次の日、お兄様は爽やかにお屋敷を出て行きました。ルース様もそうでしたが私と離れる殿方は皆、爽やかに去っていきますのね。

お兄様はもう変態を克服するのは無理だと推測いたします。ならばとことん変態を極めて欲しいものですわ。

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