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5章 身のうちの悪魔

3月4日 晴れ

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ああ、もう! これで6日目だわ。今朝も悪夢で飛び起きた。
出てくるのはいっつも悪魔、悪魔、悪魔! しかも、日に日に生々しくなってる。もう勘弁してよ!
ウィルブローズ様もいないし……。

早く帰ってこないかなあ。ウィルブローズ様が竜から人間に戻って、ようやくゆっくり過ごせると思ったら、またすぐに軍部から呼び出されるなんて。

しかも、これで3回目。
昨日は、同盟国との会議に出席なさった王子様の護衛。今日はお城に脅迫文が届いたとかで、王様の身辺警護。
これまでそんなことしてなかったのに。どうしてこんなに忙しいの? 

ぐちぐちグチグチ考えながら、今日の昼ごろに街を散歩してたら、アートハル様に会ったわ。ちょうどこのあたりを巡回してたみたい。
「お変わりありませんか」って聞かれたから、「変わりまくりです!」って返した。
「最近、みんなウィルブローズ様をこき使いすぎじゃありませんかね⁉︎」って、ここぞとばかりに文句を言わせてもらった。
そうしたら苦笑いされた。「今までは、いざという時にしかウィルブローズを呼び出しませんでしたから」。

昔のウィルブローズ様は、ちょっと、まあ……アレだったから。王様も軍も、あんまり頼りたくなかったみたい。
それが、最近は人が変わったように穏やかになって、それで気軽に呼びつけてるらしいわ。

中でも、ウィルブローズ様がイヴさんに謝ったことは、とんでもなく衝撃的だったんだって。
自分を陥れようとした相手に頭を下げるなんて、昔なら絶対考えられなかったそうよ。

ウィルブローズ様の印象がよくなったのは嬉しいけど、それで留守がちになるなんて……なんだかなあ。
でも、喜ばないといけないよね。ウィルブローズ様が、仕事場で居心地よく過ごせてるってことだもん。
それに、明日の昼くらいには帰ってくるもの。

明日はクロップさんに頼んで、花束を作ってもらおう。ウィルブローズ様の部屋に飾っておくの。
マリさんに言って、花瓶を出してもらわなくちゃ。
「警護を担当するのは今晩です」って言ってたから、きっと疲れて帰ってくるよね。消化がいいものを用意するように、ミュトスに頼もうかな。

そうだ! 「一旦、お手紙は全部私に預けてください」って、ラウルさんに言っておかなくちゃ。
ウィルブローズ様ってば、どんなに疲れていようが、受け取った手紙はすぐ読もうとするんだもの。まずは休んでもらわないと。

それから、今日の嬉しかったこと……ほぼ毎日同じこと書いてるけど、やっぱりあれかな。例のドロドロを飲まなくてすんだこと。
ウィルブローズ様には帰ってきてほしいけど、あれだけは本っ当に嫌。

お屋敷のみんなも助けてくれないし。それどころか、なんとかして飲ませようとしてくる。
食欲のない時に拒否したら、ラウルさんからミュトスまで集まってきて、「砂糖とミルクを混ぜましょうか」だの「スープに入れてやろうか」だの……。

ウィルブローズ様、自分で飲んでみたことあるのかな? あの液体。今度出されたら口移ししてやろうかしら。
そういえば口はおろか、頬っぺたにもキスしてないわね。明日、帰ってきたらしてみようかなあ。

うーん……今日も悪夢以外は平穏無事な1日だったわ。
ペンドラ先生が見たらなんて言うかな。呆れられるかしら。笑われるかも。「大切だと思うことを書きなさい」って言われてたのに、こうも中身がないなんて。

でも、「何事もなく過ぎる日常こそ大切なんだよ」とも言ってたし、これはこれでいいのよね、うん。
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