魔術師の妻は夫に会えない

２章 破れた日記

？月？日 晴れ

今日もウィルブローズ様はどこかへお出かけした……はず。前みたいに変身して、こそこそと身をひそめてなければ。
ま、何でもいいわ。今日の目当てはマリさんだったから。
目を覚ましてすぐ食堂に走ったら、ちょうど暖炉の火を起こしてるところだった。邪魔が入る前に、急いで聞いたの。

──今日は１月18日？
「いいえ」

──ウィルブローズ様は他人の記憶を消すことができる？
「はい」

そのあと続けて、ウィルブローズ様は私の記憶を消したの？って聞こうとしたところで、ラウルさんが飛んできたのよね。
例えじゃなくて、文字通り飛んできた。何気なく外を見たら、ふわ～って空から舞い降りて、窓から食堂に入ってきたのよ。
一瞬、思考が置き去りにされたわ……。

それはいいのよ。いや、よくないけど。とにかく今は私の記憶よ。
ひとまず、ウィルブローズ様は他人の記憶を消せるってことがわかった。で、ラウルさんが止めに入ったってことは、私のを消したと考えてよさそうね。
何日分消したんだろう……破れた日記の枚数から考えると、４日くらいかな。

それもまあ置いといて。今重要なのは、どんな記憶を消したかよ！ 
それをどうやって調べよう……って悩んでたら、早速手がかりっぽいものを見つけちゃった。
洗濯屋さんから帰ってきたマリさんが、「一昨日お召しになったワンピースのポケットに入っていました」って、メモをくれたの。
だけど、意味がわからないのよね。

グレース。
スカーレット。
ジェフローラ。
エリザ……。

女の人の名前がずらり。私の字で。一昨日の私、どうしてこんなの書いたのかしら。
誰かに聞きたいけど、うかつに動いて、また記憶を消されちゃたまんないわ。

……仕方ない。こうなったら、しばらく大人しくするしかないか。あからさまに屋敷を嗅ぎ回らないで、みんなの手伝いでもしながら、探りを入れるチャンスをうかがうの。

というわけで、明日は手伝えることがないか、みんなに聞いてみよう。
今日嬉しかったことは、読み進めてる推理シリーズの３巻目を、ラウルさんから受け取ったことかな。ウィルブローズ様が預けておいてくれたんだって。
ああ、楽しみ。今日は１巻を読み終えたから、早く２巻を読まなくちゃ。
ウィルブローズ様が直接渡してくれたら、もっと嬉しかったんだけどね。