友だちは君の声だけ

山河 枝

文字の大きさ
上 下
33 / 47

33 1つ目の用事

しおりを挟む
「用事って……?」
 
 ユウマくんは、うしろへ1歩さがった。不安そうに眉をひそめて、首を傾けている。そうすると、長めの黒髪が細い肩に乗った。

「1つ目はね、謝りたかったの。昨日、『ユウマくんの家に行く』って言ったのに、行けなくてゴメン」
「それは……ううん。ぼくもゴメン」

 どうしてユウマくんが謝るんだろう。今度は私が首をかしげると、ユウマくんはますます背中を丸めて言った。

「メイさんに、うそを教えちゃった」
「うそ?」
「もう知ってるかもしれないけど……ぼく、電話で、『アパートはカムギ駅の近くだ』って言ったでしょ。でも本当は、ナカムギ駅だったんだ。メイさんが電話を切ったあと、心配になって確かめに行ったら、間違いに気づいて……」

 それから慌てて私に知らせようとしたけれど、電話をかけてもかけても出なかった──そう言ってユウマくんはうなだれた。

「本当にゴメンね、メイさん。普段、電車に乗ることがないからうっかりしちゃって……」
「そ、そんな……私こそ、電話をかけてくれたのに、出なくてゴメンね」

 昨日、「どうせケンカになる」と決めつけずに電話に出ていたら、もっと早くここへ来ることができたのだ。しかも、何度も知らせようとしてくれたのに、無視したなんて。
 申し訳なくて、ぺこぺこと頭を下げると、ユウマくんはあたふたと手を振った。

「違うよ! はじめから、ぼくが駅の名前を確認すればよかったんだ。メイさん、道に迷ったんじゃない?」
「……ううん、大丈夫だった」

 ちょっと考えてから、うそをついた。
 4時間もさまよった、と言ったら、ユウマくんはショックで泣き出してしまいそうだ。今でさえ、心配そうに眉を下げて、両手を握りしめているのに。
 それに、4年生にもなって迷子になるなんて、恥ずかしい。

 だけどすぐに、うそをつくんじゃなかった、と焦る羽目になった。

「じゃあ、どうして昨日、ぼくの家へ来なかったの?」
「えっ。えっと……えーっと……」

 つぶやきながら頭をひねって、新しいうそを考えたけれど、どうにもごまかせそうにない。諦めて、少しだけ本当のことを白状した。

「実は……黙って家を出たんだけど、途中でお父さんとお母さんに見つかって、連れ戻されちゃったんだ」
「そ、そうだったんだ。なのに、わざわざ今日も来てくれたんだね」
「それは……ユウマくんに、言わなきゃいけないことがあるから」
「ぼくに?」

 さあ、用事の2つ目だ。昨日、連れ戻されてから起きたことを言わなくちゃ。
 言わなくちゃいけないのだけれど……ユウマくんの顔を見ていられなくて、私はうつむいて口を開いた。

「お父さんたちに、『どこへ行くつもりだったのか』とか、『何をするつもりだったのか』とか、いろいろ聞かれて……私、ユウマくんのこと、しゃべっちゃった」
「え……な、何て言ってた?」
「『ジソウに伝えよう』って。それで、お父さんが……ジソウっていうところに電話した」

 かたく目をつむり、Tシャツの裾をぎゅうっとつかんだ。ユウマくんの反応が怖かった。
 少しして、頭の上から、ユウマくんの困ったような声が降ってきた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

月夜のさや

蓮恭
ミステリー
 いじめられっ子で喘息持ちの妹の療養の為、父の実家がある田舎へと引っ越した主人公「天野桐人(あまのきりと)」。  夏休み前に引っ越してきた桐人は、ある夜父親と喧嘩をして家出をする。向かう先は近くにある祖母の家。  近道をしようと林の中を通った際に転んでしまった桐人を助けてくれたのは、髪の長い綺麗な顔をした女の子だった。  夏休み中、何度もその女の子に会う為に夜になると林を見張る桐人は、一度だけ女の子と話す機会が持てたのだった。話してみればお互いが孤独な子どもなのだと分かり、親近感を持った桐人は女の子に名前を尋ねた。  彼女の名前は「さや」。  夏休み明けに早速転校生として村の学校で紹介された桐人。さやをクラスで見つけて話しかけるが、桐人に対してまるで初対面のように接する。     さやには『さや』と『紗陽』二つの人格があるのだと気づく桐人。日によって性格も、桐人に対する態度も全く変わるのだった。  その後に起こる事件と、村のおかしな神事……。  さやと紗陽、二人の秘密とは……? ※ こちらは【イヤミス】ジャンルの要素があります。どんでん返し好きな方へ。 「小説家になろう」にも掲載中。  

JKがいつもしていること

フルーツパフェ
大衆娯楽
平凡な女子高生達の日常を描く日常の叙事詩。 挿絵から御察しの通り、それ以外、言いようがありません。

コチラ、たましい案内所!

入江弥彦
児童書・童話
――手違いで死んじゃいました。 小学五年生の七瀬こよみの死因は、事故でも事件でもなく書類上のミス!? 生き返るには「たましい案内所」略してタマジョとして働くしかないと知ったこよみは、自分を手違いで死に追いやった閻魔見習いクロノとともにタマジョの仕事を始める。 表紙:asami様

時間泥棒【完結】

虹乃ノラン
児童書・童話
平和な僕らの町で、ある日、イエローバスが衝突するという事故が起こった。ライオン公園で撮った覚えのない五人の写真を見つけた千斗たちは、意味ありげに逃げる白猫を追いかけて商店街まで行くと、不思議な空間に迷いこんでしまう。 ■目次 第一章 動かない猫 第二章 ライオン公園のタイムカプセル 第三章 魚海町シーサイド商店街 第四章 黒野時計堂 第五章 短針マシュマロと消えた写真 第六章 スカーフェイスを追って 第七章 天川の行方不明事件 第八章 作戦開始!サイレンを挟み撃て! 第九章 『5…4…3…2…1…‼』 第十章 不法の器の代償 第十一章 ミチルのフラッシュ 第十二章 五人の写真

ナイショの妖精さん

くまの広珠
児童書・童話
★あの頃のトキメキ、ここにあります★ 【アホっ子JS×ヘタレイケメン 小学生の日常とファンタジーが交錯する「胸キュン」ピュアラブストーリー】 「きみの背中には羽がある」 小六の和泉綾(いずみあや)は、幼いころに、見知らぬだれかから言われた言葉を信じている。 「あたしは妖精の子。いつか、こんな生きづらい世界から抜け出して、妖精の世界に帰るんだっ!」 ある日綾は、大っ嫌いなクラスのボス、中条葉児(なかじょうようじ)といっしょに、近所の里山で本物の妖精を目撃して――。 「きのう見たものはわすれろ。オレもわすれる。オレらはきっと、同じ夢でも見たんだ」 「いいよっ! 協力してくれないなら校内放送で『中条葉児は、ベイランドのオバケ屋敷でも怖がるビビリだ!』ってさけんでやる~っ!! 」 「う、うわぁああっ!!  待て、待て、待てぇ~っ !!」 ★ ★ ★ ★ ★ *エブリスタにも投稿しています。 *小学生にも理解できる表現を目指しています。 *砕けた文体を使用しています。肩の力を抜いてご覧ください。暇つぶしにでもなれば。 *この物語はフィクションです。実在の人物、団体、場所とは一切関係ありません。

現実の世界

チルカワ桜那
児童書・童話
時は争いの時代。1人の少女がいた。

今日の夜。学校で

倉木元貴
児童書・童話
主人公・如月大輔は、隣の席になった羽山愛のことが気になっていた。ある日、いつも1人で本を読んでいる彼女に、何の本を読んでいるのか尋ねると「人体の本」と言われる。そんな彼女に夏休みが始まる前日の学校で「体育館裏に来て」と言われ、向かうと、今度は「倉庫横に」と言われる。倉庫横に向かうと「今日の夜。学校で」と誘われ、大輔は親に嘘をついて約束通り夜に学校に向かう。 如月大輔と羽山愛の学校探検が今始まる

処理中です...