上 下
5 / 46

祭神交代の宴会?

しおりを挟む
「おや、おまえらどうしたんじゃ? なにかあったのか?」

「はっ、山の神様、この猫が入り込んでいたようで」

二匹は参道の脇に下がり、頭を下げた。

「おぉ、すまんすまん。言い忘れておった。この子は新しい山の神の神使じゃ」

「あーっどうしたのきり? なにこの犬とライオンは!!! シッシッ、うちのきりになにするのっ!」

二匹の獣に睨まれ硬直しているきりを、私は抱きかかえて飛び退いた。

「わーん! ゆかりさぁん、怖かったよう」

「大丈夫だよ、もう大丈夫」

「ぐすっぐすっ」

「おぉ、おぬしら、久方ぶりだの。ちゃんと仕事しとるか?」

私と山の神が社に降り立った時、社殿の前できりが襲われそうになっているのが見えて、私は慌てて助け上げたが、聞いたことの無い女性の声に振り返る。

山の神の隣にはいつの間にか妖艶な美女が立っていた。

その服装は、ボディラインが美しい白ロングのラップワンピース。

胸元はハリウッド女優のようにバックリと切り下げられ、白くなめらかなデコルテの下に放り出されそうになっている巨乳が眩しい。

お尻まで隠した銀髪は緩くウェーブが掛かっていて光り輝いて見える。

こんな山里なのに白いパンプスまで履いて、いや、山だからヒールはやめたのかも。

意外と理性あるな。

どっちにしろ高級キャバ嬢にしか見えない。

「す、すごいゴージャス」

(あーこの人、山神様だよね。やっぱり人型になれるんだ。女子だったのね)

なんとなく大きな生き物って雌であることが多いという勝手な認識を持っていた私は、こうなることを予想していた。

(そりゃ、一升瓶二本ぐらいで宴会だって喜ぶはず無いと思ったけどね)

「当たり前じゃ。この姿は少ない酒でも酔いが回ってお得なんじゃ」

「あ、すみません。山神様のお姿に少々驚いてしまって」

山の神が一歩前に出て獣たちに向かう。

「獅子よ、狛犬よ、儂は引退じゃ。

今後はこちらの佐藤ゆかり殿が山の神として山神様の鎮守を勤めてくれる。

幾久しくお守りせよ」

二匹の獣はモヤに包まれ、次の瞬間、人間の姿に変わっていた。

獅子は大きな身体、筋肉が黒スーツを張り裂けんほどに盛り上げ、まさにライオンが服を着ているような姿。

狛犬は黒いパンツスーツが、完璧ボディのシルエットを引き立たせる長身女性。

整った美貌に目つきが鋭い女性SPのようだ。

二人とも野性的な魅力と理知的な眼力を兼ね備えた凜々しい若者達であった。

「ははっ!」

「ははっ」

私たちに向かって二人は片膝を突きこうべを垂れる。

“佐藤ゆかり、叙位じよい従五位下じゆごいのげを与える”

頭に荘厳な声が響く。

「わっ! なんですかこの声?」

思金おもいかね様の高天原通達じゃ。これでおぬしは儂と同じ神階を賜りこのやしろあるじとなった」

ヒルメの言っていた位階が与えられ、私の中に山神との繋がりができたことを感じる。

「えっ? さっきのが引き継ぎだったんですか?」

「そんなもんじゃ。しかし、そんなものが重い」

「あ、はい。肝に銘じておきます」

引き継ぎの儀とかなにかちゃんとした儀式をして神が入れ替わるものかと思っていたけれど、日本の神様だもんね。そりゃアバウトだ。

「そしてこの二人は……」

「あ、言わなくてもわかります。ボディガードみたいなものですよね。
どうかよろしくお願いいたします」

「獅子と申します。これからも山の神様をお守りします」

「狛犬と申します。獅子共々よろしくお願いいたします」

二人のガードは私に向かって頭を下げた。うん。とっても気持ちがいい。

「この者達は儂と一緒に遙かな昔より、この小さな神域と御山を護ってくれた。
ありがとうよ」

「おかしらぁ! もったいないお言葉を!!

こちらこそ長きにわたりお勤めごくろうさんっしたぁぁ」

でかい図体の獅子が半泣きで額を地面にこすりつけている。

「獅子よ、社長と呼べと言っておるに。社長、いままでお疲れ様でございました。また大変お世話になりました」

(おやしろの長で社長かな? こいつら変にシャバ慣れしてるな。親分って言わなかっただけでもマシだけど。

しかし、こんな辺鄙なところにある神社にこんな強そうな守護者がいるってのは意外だね、おっと聞かれた? かな)

私の思考に山の神は反応しない。

どうやら正式に叙位されたことで私の神威が上がったということなのだろう。

「えっえええっ!」

きりの驚いた声に目を向けると、巫女姿の若い女性が立っていた。

「きり? きりなの?」

「わたし、わたし、なんか人の姿に……」

茶髪のボブカットが似合う、若さとかわいらしさを具現化した巫女姿に、私はもだえた。

「きりぃぃぃぃ! 可愛いよぉぉ。人の姿もこんなに可愛いんだねぇぇ。ほらほら、ママと呼んで」

私はきりを抱きしめ、いつものように頬ずりぐりぐり。

「ゆかりさぁ~ん!」

「正式な社主やしろぬしとなった神の神使じゃ。仕事をするときにはその姿が便利なこともあるじゃろうて。

儂の時は神務員じむいん入れてくれと言っても、とうとう誰も寄越してはくれなかったがの。

まぁ参拝者も少ないから、書き物や掃除は儂がやって足りたが……」

なんとも憐れな山の神であった。

それから三柱みはしらの神達で送別会兼歓迎会が始まった。

酌めども尽きぬたった二本の大吟醸をきりのお酌で好きなだけ呑めるのは幸せだった。
山神は山の神の湯飲み茶碗にお酒をどばどば注いでいる。

あの時買ったクリームパンとさきイカがあったらなぁと思いつつ、宴会は私の短い生い立ちや山神と山の神の悠久なる昔話を肴に明け方まで続いたのであった。

山の神が不意に立ち上がった。

「それではの」

片手を上げて簡単に言うと、その姿はかき消すように消えてしまった。

「酒が奉納されたら呼ぶのじゃぞ」

そう言い残して山神もあっけなく帰って行った。

一升瓶は元のまま『奉納』の熨斗紙のしがみが巻かれ、祭壇の端に置かれた姿に戻っていた。

きっといま呑んだら酒では無くなっているのだろう。

きりは猫の姿に戻り丸くなって眠っている。

そっと抱き寄せて、空いている場所に横になる。

いつも一緒に寝ていたきりの姿のままだ。

「とりあえず一眠りしたら住みやすいように改造したいな……」

私は眠りに落ちた。
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

集団転移した商社マン ネットスキルでスローライフしたいです!

七転び早起き
ファンタジー
「望む3つのスキルを付与してあげる」 その天使の言葉は善意からなのか? 異世界に転移する人達は何を選び、何を求めるのか? そして主人公が○○○が欲しくて望んだスキルの1つがネットスキル。 ただし、その扱いが難しいものだった。 転移者の仲間達、そして新たに出会った仲間達と異世界を駆け巡る物語です。 基本は面白くですが、シリアスも顔を覗かせます。猫ミミ、孤児院、幼女など定番物が登場します。 ○○○「これは私とのラブストーリーなの!」 主人公「いや、それは違うな」

クラス転移で手に入れた『天性』がガチャだった件~落ちこぼれな俺がみんなまとめて最強にします~

双葉 鳴|◉〻◉)
ファンタジー
阿久津雄介とそのクラスメイトは、最弱国家グルストンに勇者として召喚された。 ──天性なる能力を授けられ、世界を支配するドラグネス皇国の考案した遊戯、勇者大戦なる競技の強化選手として抜擢されていく。 しかし雄介の手に入れた能力はガチャ。 他にも戦力とは程遠い能力を授かるものと共に補欠として扱われた。 日々成長していくレギュラー入りしたクラスメイト達。 置いていかれる環境に、自分達もなんとかしようと立ち上がる雄介達。何もできない、なんの役にも立たないと思われた力で雄介達はほんの僅かな手応えを感じていた。 それから少しづつ、自分たちの力を高める為に冒険者の真似事をしていくことに。 目指すはクラスメイトの背中。 ゆくゆくはレギュラー入りと思っていたが…… その矢先にドラグネス皇国からの手先が現れる。 ドラゴン。グルストン王国には生息してない最強の種族が群を率いてやってきた。 雄介達は王命により、ドラゴン達の足止め役を引き受けることになる。 「別に足止めじゃなく倒しちゃってもいいんですよね?」 「できるものならな(可哀想に、恐怖から幻想が見えているんだろうな)」 使えない天性、大人の一般平均値を下回る能力値を持つ補欠組は、世界の支配者であるドラグネス皇国の尖兵をうまく蹴散らすことができるのか? ┏━━━━━━━━━┓ ┃書籍1〜3巻発売中 ┃ ┗━━━━━━━━━┛ ========================================== 【2021.09.05】 ・本編完結(第一部完) 【2023.02.14追記】 ・新しく第二部を準備中です。もう少しお待ちください。 (書籍三巻の続き〜)を予定しています。 【2023.02.15追記】 ・SSはEXTRAからお引越し、書籍用のSS没案集です。 ・追加で増えるかも? ・書籍用の登場人物表を追記しました。 【2023.02.16追記】 ・書籍における雄介の能力変更をおまけに追記しました。 【2023.03.01〜】 ・五章公開 【2023.04.01〜】 ・WEB版の大雑把なあらすじ公開(書籍版とは異なります) ==========================================

『異世界庭付き一戸建て』を相続した仲良し兄妹は今までの不幸にサヨナラしてスローライフを満喫できる、はず?

釈 余白(しやく)
ファンタジー
HOT 1位!ファンタジー 3位! ありがとうございます!  父親が不慮の事故で死亡したことで最後の肉親を失い残された高校生の小村雷人(こむら らいと)と小学生の真琴(まこと)の兄妹が聞かされたのは、父が家を担保に金を借りていたという絶望の事実だった。慣れ親しんだ自宅から早々の退去が必要となった二人は家の中で金目の物を探す。  その結果見つかったのは、僅かな現金に空の預金通帳といくつかの宝飾品、そして家の権利書と見知らぬ文字で書かれた書類くらいだった。謎の書類には祖父のサインが記されていたが内容は読めず、頼みの綱は挟まれていた弁護士の名刺だけだ。  最後の希望とも言える名刺の電話番号へ連絡した二人は、やってきた弁護士から契約書の内容を聞かされ唖然とする。それは祖父が遺産として残した『異世界トラス』にある土地と建物を孫へ渡すというものだった。もちろん現地へ行かなければ遺産は受け取れないが。兄妹には他に頼れるものがなく、思い切って異世界へと赴き新生活をスタートさせるのだった。 その他、多数投稿しています! https://www.alphapolis.co.jp/author/detail/398438394

異世界でフローライフを 〜誤って召喚されたんだけど!〜

はくまい
ファンタジー
ひょんなことから異世界へと転生した少女、江西奏は、全く知らない場所で目が覚めた。 目の前には小さなお家と、周囲には森が広がっている。 家の中には一通の手紙。そこにはこの世界を救ってほしいということが書かれていた。 この世界は十人の魔女によって支配されていて、奏は最後に召喚されたのだが、宛先に奏の名前ではなく、別の人の名前が書かれていて……。 「人違いじゃないかー!」 ……奏の叫びももう神には届かない。 家の外、柵の向こう側では聞いたこともないような獣の叫ぶ声も響く世界。 戻る手だてもないまま、奏はこの家の中で使えそうなものを探していく。 植物に愛された奏の異世界新生活が、始まろうとしていた。

劣悪だと言われたハズレ加護の『空間魔法』を、便利だと思っているのは僕だけなのだろうか?

はらくろ
ファンタジー
海と交易で栄えた国を支える貴族家のひとつに、 強くて聡明な父と、優しくて活動的な母の間に生まれ育った少年がいた。 母親似に育った賢く可愛らしい少年は優秀で、将来が楽しみだと言われていたが、 その少年に、突然の困難が立ちはだかる。 理由は、貴族の跡取りとしては公言できないほどの、劣悪な加護を洗礼で授かってしまったから。 一生外へ出られないかもしれない幽閉のような生活を続けるよりも、少年は屋敷を出て行く選択をする。 それでも持ち前の強く非常識なほどの魔力の多さと、負けず嫌いな性格でその困難を乗り越えていく。 そんな少年の物語。

全能で楽しく公爵家!!

山椒
ファンタジー
平凡な人生であることを自負し、それを受け入れていた二十四歳の男性が交通事故で若くして死んでしまった。 未練はあれど死を受け入れた男性は、転生できるのであれば二度目の人生も平凡でモブキャラのような人生を送りたいと思ったところ、魔神によって全能の力を与えられてしまう! 転生した先は望んだ地位とは程遠い公爵家の長男、アーサー・ランスロットとして生まれてしまった。 スローライフをしようにも公爵家でできるかどうかも怪しいが、のんびりと全能の力を発揮していく転生者の物語。 ※少しだけ設定を変えているため、書き直し、設定を加えているリメイク版になっています。 ※リメイク前まで投稿しているところまで書き直せたので、二章はかなりの速度で投稿していきます。

異世界で魔法が使えるなんて幻想だった!〜街を追われたので馬車を改造して車中泊します!〜え、魔力持ってるじゃんて?違います、電力です!

あるちゃいる
ファンタジー
 山菜を採りに山へ入ると運悪く猪に遭遇し、慌てて逃げると崖から落ちて意識を失った。  気が付いたら山だった場所は平坦な森で、落ちたはずの崖も無かった。  不思議に思ったが、理由はすぐに判明した。  どうやら農作業中の外国人に助けられたようだ。  その外国人は背中に背負子と鍬を背負っていたからきっと近所の農家の人なのだろう。意外と流暢な日本語を話す。が、言葉の意味はあまり理解してないらしく、『県道は何処か?』と聞いても首を傾げていた。  『道は何処にありますか?』と言ったら、漸く理解したのか案内してくれるというので着いていく。  が、行けども行けどもどんどん森は深くなり、不審に思い始めた頃に少し開けた場所に出た。  そこは農具でも置いてる場所なのかボロ小屋が数軒建っていて、外国人さんが大声で叫ぶと、人が十数人ゾロゾロと小屋から出てきて、俺の周りを囲む。  そして何故か縄で手足を縛られて大八車に転がされ……。   ⚠️超絶不定期更新⚠️

伝説の霊獣達が住まう【生存率0%】の無人島に捨てられた少年はサバイバルを経ていかにして最強に至ったか

藤原みけ@雑魚将軍2巻発売中
ファンタジー
小さな村で平凡な日々を過ごしていた少年リオル。11歳の誕生日を迎え、両親に祝われながら幸せに眠りに着いた翌日、目を覚ますと全く知らないジャングルに居た。 そこは人類が滅ぼされ、伝説の霊獣達の住まう地獄のような無人島だった。 次々の襲い来る霊獣達にリオルは絶望しどん底に突き落とされるが、生き残るため戦うことを決意する。だが、現実は最弱のネズミの霊獣にすら敗北して……。 サバイバル生活の中、霊獣によって殺されかけたリオルは理解する。 弱ければ、何も得ることはできないと。 生きるためリオルはやがて力を求め始める。 堅実に努力を重ね少しずつ成長していくなか、やがて仲間(もふもふ?)に出会っていく。 地獄のような島でただの少年はいかにして最強へと至ったのか。

処理中です...