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第二章:旅立

第29話:打倒

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「魔法の杖……か」

 【閃刃の護帝】は刀の形をしていたが、此方は明らかに魔法を扱う杖。

「それに……いけるか?」

 【閃姫】の天醒で装主のレベルは約+10の拡大が成されるが、相手【閃姫】によって上がる基礎能力値が変動をする。

 【閃刃の護帝】のシーナの場合は主に俊敏だけど、ユートが感じたクリスとの天醒で上がったのは……

(精神力と魔力!)

 正しく魔法特化型である【閃姫】だった。

 そして意識をしたら彼女のスキルが解る。

 【魔導】は本人の魔法のランクを一つアップさせ、本来ならまだ使えない筈の魔法も扱える様に。

 【魔闘】は魔力を自動的に身体に纏わせ、近接格闘が出来る様になるらしい。

 【練魔】は魔力のチャージが可能なスキルであり、同じ魔法でも一般の魔術師が使うより威力が高い。

 【魔極】は魔法を極める為のもので、大器晩成型の魔法系スキルの様だ。

 本来の資質から外れている属性系統も、修業により修得していける可能性を秘めたスキル。

(【魔導】と【練魔】……スキル・アクティブ!)

 パッシブなスキルではなくアクティブに扱うもの、【魔導】によりランクの高い魔法を扱えるし、【練魔】で威力補正が可能とあっては使わない理由も無い。

(【魔導の覇者】からも、確かなバックアップも充分にある……)

 それぞれの武具は色々な機能を持つ。

 【閃刃の護帝】は風を操る機能、【魔導の覇者】は天醒した【閃姫】から魔法の知識を繋げる機能だ。

 今のユートには一時的にではあるが、クリスの持つ魔法の知識を引き出せるだけの拡張領域がある。

 仮令、クリス自身が忘れていたとしても関係無く、クリスには出来ない事があったとしても……だ。

「氷精来たりて!」

《正しい選択ですね》

 この世界はゲームに近いルールが存在しているのが周知された訳で、ゲーム――【幻想界】や【英雄譚】や【夢幻王】にあるルールで戦える。

 まあ、一般的なRPGにお馴染みとも云えるけど、兎に角それが適用されるのならやり易い。

《フォレストベア。いえ、ベア系の魔物は誕生した際に火への耐性を獲得したのでしょう、火にはそれなりの耐性を持っています》

 それ故にか氷の耐性が、火耐性に比例して低くなる傾向があるみたいだ。

 つまり、完全火耐性持ちなら氷魔法が致命的。

「我が手に集い集い集い集い集い、鉄よりも鋼よりも硬く固く堅く凝縮せよ!」

《……は?》

 【魔導】のスキルのお陰で本来より、確かに高位の魔法が使えるのは判る。

 ユートは習い始めたばかりであり、扱える魔法など数もランクも高が知れている筈だ。

 とはいっても、これでもクリスは自分の契約武具の【魔導の覇者】の特性を、はっきり理解して勉強をしてきた身。

 シーナも一応は契約武具の特性くらい識ってたが、クリスの理解には程遠かったと云える。

 だが然し、そんなクリスの理解を嘲笑うかの如く、ユートはクリスの解らない呪文詠唱をした。

 呪文詠唱は精霊への嘆願であり発注書代わり。

 こうして欲しいですと、精霊へ口頭での説明だ。

 更に魔法陣による術式を発動、これは精霊に対して設計図を渡す行為。

 イメージされた魔法を、魔法陣で術式化したものを基に、精霊がその精霊力を貸し与えてくれるのだ。

 そして精神力というか、謂わばMPに相当するモノが代金となり、それで初めて力として顕現をする。

 魔法とは即ち工賃仕事、発注者が精霊という労働者に賃金を与える代わりに、仕事をして貰うという。

 当たり前だが今現在での魔法というのは、遥か昔に先人が編み出した技術。

 とはいえ霊人族だけではなく、妖人族など精霊に詳しいヒト族からも技術提供は受けていた。

 一から構築してきた歴史があるからには、クリスの識らない魔法が存在していてもおかしくはない。

 だが然し、ユートが魔法の初心者であるからには、既存の魔法を使うのが道理であろう。

「『其は全てを叩き伏せる戦神の槌と成れ』!」

 魔法陣は形成されない。

 やはり始めて構築をする魔法らしく、設計図の術式となる筈の魔法陣が出ないのであろう。

「【戦神之氷槌アイス・ウォーハンマー】!」

 その手には確かに氷により造られた氷槌が握られ、ユートはそれを振り翳して駆け出した。

「【緒方逸真流鉄縋術】……【巌徹】!」

 空中で一回転とか不安定な体勢ながら、確りとした動きで氷槌を振り回す。

「はぁぁあああっ!」

 ガンッ! とけたたましい轟低音を響かせながら、フォレストベアのド頭へと一撃を喰らわせ、地上に降りた瞬間に勢いを利用して今度は上に振り上げた。

 ドゴンッ! と顎を打つ一撃がフォレストベアへと極った瞬間である。

 最早、悲鳴すら無く仰向けに倒れるフォレストベアは動かず、それは絶命しているのだと皆が理解した。

「うおおおっ!」

「やったぞ!」

「スゲー!」

 逃げ遅れていたからか、隠れて見ていた連中が出てきて歓声を上げる。

《火耐性持ちだから氷耐性が低い、斬耐性があるから打耐性が低い。確かに今の魔法ならどちらもクリアをしていますが……》

 クリスとしてはやはり、見た事も聞いた事も無かった魔法に興味が惹く。

 氷属性魔法に+打属性の武器、これを両立する様な魔法は少なくともこの世界には存在しない。

 それ以前に魔法とは放つ事を前提に組まれていて、あんな武器を造るみたいなものが無かった。

 何より驚いたのは剣と目されたユートが、槌を平然と使っていた事であろう。

(成程、これが“性懲りもなく”彼を召喚する理由……という訳ですか)

 本来、武器は振れば良いというものではない。

 正しく振るわなければ、きちんと敵にダメージを与えないからだ。

 ゲームではスキルや補正でカバーされてはいるが、此処は飽く迄も現実なのだから流石にそんな補正みたいなのは無く、スキルが有れば御の字となる。

 スキルなら補正が普通に付くからだ。

(自己申告によればユートさんに【槌】スキルは無い筈ですし、補正が無いにしては明らかにクリティカル要素を満たしていました)

 流石にゲームではないのだから、確率でクリティカルが出たり出なかったりはしないもので、会心の一撃は飽く迄も会心と云えるだけの一撃を加えて出す。

 ド頭へのクリーンヒットは間違いなく、致命の一撃クリティカルヒットと呼ばれる攻撃。

 ああも見事に極ったら、いっそ清々しいくらいだ。

「よし、上手く即死してくれたみたいだ!」

《即死……確かに弱点属性の二重掛け+会心の一撃、仮にHPが満タンだったとしても斃せるかもですね》

 会心のド頭へ一撃ともなれば、生物学的に生きているのは難しいだろうし。

「じゃあ、早速やろうか」

《へ?》

「これが見たくてこんなのと戦ったんだろうに」

 ユートはズボッと両手をフォレストベアに突き込んでから、【練氣】スキルの補助を受けながら氣を収束させていき、体内の魔素を掌握してしまう。

 バチバチとスパークする体内で、まるで固める様に魔素を押さえ込む。

 結果、魔素が大分薄くなったフォレストベアが消滅してしまい、ユートの掌の内には魔核マナ・コアが残っていた。

 そもそも、魔物の死によって魔素が霧散するからこそ消滅する訳で、そこにきて魔素をがっつりと抜けば早くに消滅するのは必定。

《っ! これが……》

 クリスが目を見開く。

 これこそ、魔物が簡単にはドロップしない魔核を得るユートの手段だった。

《凄い……ですね……》

 氣という魔力と反発する力で敢えてスパークさせ、手の内で無理矢理に抑え込むという荒業。

《ですが、氣が一般的とは云えないヴィオーラでこれを使えるのはユートさん、貴方だけですね》

「そうかも。少なくとも、修練させるにも年単位での時間は掛かるよ。そもそも僕だって、【錬術】を身に付けるのは大変だったし」

 身に付けても中途半端にしか扱えなかった。

 故にこそ、天才の領域にあった妹の白亜に通じない程度の仕上がり。

《あ、スケさん》

 スケさんがシーナを伴って近付いてくる。

「此方はフォレストベアが三頭出ましたが、問題無く屠っておきました」

「え、三頭?」

「どうやら他にもまだ仲間が居たらしいですね」

 スケさんが遅かったのはそれらを仕留めていた為、レベル的には余裕とはいえ大したものである。

「あの……」

 くたびれた初老の男が、スケさんに話し掛けた。

「貴方は?」

「この馬車の持ち主でしてドランと申します」

「そうですか。それで如何様な御用件でしょうか?」

「いえ、フォレストベアから助けて頂いた御礼をと思いまして」

「謝意は受け取りました」

「大した額ではありませんが御受け取りを」

 差し出された白く小さな袋からは、チャリチャリと小さな金属音が響く。

「私は冒険者ではなく騎士です。謝意は兎も角として謝礼は受け取りません」

「よ、宜しいのですか?」

「民を護るのが騎士の務めであり、その為のお金なら国より戴いております」

「は、はぁ……」

 騎士とて人間だから食わねばならない、お金は必須で給金は国から得ている。

 その給金は税金から出ており、税金は基本的に民が支払っているものだ。

 それは正しく当たり前な説明に過ぎない筈なのに、ドランは納得していない。

「若しや、以前に謝礼金を請求でもされましたか?」

「そ、それは……」

「少しOHANASHIが必要みたいですね」

「え゛?」

 何故かドランは背筋を伸ばして震え始めるものの、気にせずスケさんは肩を掴んで連れて行った。

《不正の臭いがしますね。これは私の出番があるのかも知れません》

 クリスは娯楽小説である【魔法王女クリスト・ティア】の主人公、ティアラ姫の謂わばモデルだ。

 やってる事は前の中納言に近いもので、悪党を取り締まっていたりする。

 まだレベルが低いクリスに出来るものか? という疑問には意味が無いのだ。

 そもそも武力実行の要はスケさんとカクさん。

 レベル80越えであり、其処らの冒険者や騎士など歯牙にも掛けない。

 この世界の貴族は騎士を国から支給されて雇うのが一般的で、反乱をさせない為にも一定以上のレベルの騎士は渡さない。

 クリスは王女だからこそ高レベル騎士を二人も私兵の如く連れているだけで、子爵家程度ならレベル20か其処らの騎士程度。

 では、有事の際にはどうすれば良いのか?

 冒険者を雇うのである。

 領内にランクC以上たる冒険者を持っていたなら、大抵の有事には対応が可能となるからだ。

 故にランクAを越えて、更にはSに成り得る冒険者を抱えたい。

 ランクAに勲爵士の位を与え、抱えるのは領地貴族のステイタスとなる。

 尚、通常の貴族家からは勲爵士処か準男爵でさえ、領地など与えられない。

 それが可能なのは基本的に王族が、王領の一部を与えた場合となる。

 ユートの父のサリュートが正にそれだ。

《さて、天醒を解除してしまいましょう》

「あ、ちょっと待って貰っても構わないかな?」

《? 魔物も居なくなりましたから天醒を続ける意味はありませんよ?》

「ちょっとやりたい事があるんだよ」

《は、はぁ……? それなら構いませんが》

 この状態でやれる事に、クリスは特に当てがある訳ではなく、首を傾げるしかなかったと云う。


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