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第一章:天醒
第12話:奴隷
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奴隷の半鉱人な少女のセリナを買い、更に必要な物も全て買い終えると、行きは二人であった道程を今は三人で進んだ。
セリナはおずおずといった感じで付いてきてたが、何かを話すでもなく脚を動かす作業をしている。
まあ、奴隷として男に買われた女の子なのだから、“色々と”考えてしまうのは仕方がない。
年齢が年齢なのだけど、実はユートの身長は年齢の平均より高く、一一歳ながら下手をしたら成人に見えてしまうレベル。
況してや、セリナは随分と可愛らしい容姿だから、ユートではなく“ようじょしぎゃくしゅみ”な変態とかだったなら、帰り着いた瞬間には大事なナニかが喪われていたろうし。
ある意味でラッキーだったりするが、当然の事ながらセリナには判らない。
「あ、あの……」
「何かな?」
「わ、私は何をすれば宜しいのでしょうか?」
「何をって言われてもな。君をどうしても買わないといけないって、焦燥感の侭に買っちゃったからね」
ユートも明確な目的とかがあった訳ではなかった。
一目見て『気になって』『手に入れなければ』と焦りを感じ、だから精霊結晶の【火焔石】を一個とはいえ放出して買っただけ。
可愛いとは思うけれど、だからといって夜の閨係をさせるとか、朝の処理係をヤらせるとか全く考えてはいなかった。
まあ、一二歳にすら達していないユートが考える事でも無いだろうが……
「取り敢えず、僕専属って形のメイドさんでもして貰おうかな?」
「メイド……ですか?」
「そもそも、セリナが何を出来るのかすら知らない。仕事を割り振るには困ってしまうんだ。帰ったらさ、セリナの能力とか知りたいけど教えて貰える?」
「そ、れは……はい、判りました御主人様」
まあ、可愛い女の子から『御主人様』呼びも悪くないとは思ったものだった。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
家に帰り着くとユリアナが迎えてくれたと同時に、首輪を嵌めた少女を見遣りガチャンと食器を落とす。
「ユ、ユートが奴隷を? 嗚呼……性に目覚めてしまったのね!」
「違うから!」
ユートは取り敢えず説明をしておく。
「一目惚れ? それで誰かに買われてしまう前に買った……と?」
「どうしてそうなる!?」
まあ、状況だけ切り取ってみれば確かに一目惚れした相手が奴隷だったから、金に飽かせて買い取ったと思われるだろう。
奴隷であるからには主人には逆らえないし、面倒な部分を省いてヤる事をヤれるとも考えられる。
そもそも、ユートの説明の『どうしても気になったから、買わないといけないと焦燥感を感じたから』なんてのは、正にそんな誤解を助長するだけだった。
「じゃあ、その娘とはそういう事をしないの?」
「う゛……絶対とは言い切れないのが悲しい男の性だけどさ、少なくとも今現在の年齢でそれは無いよ」
「ふーん、まあそうよね」
納得するユリアナだが、既に従姉に御手々で致されていたりする。
「それで、この娘はいったいどうするの? 解放なんてさせられないのよ?」
「判ってるよ」
奴隷解放というそれ自体は可能だ。
主人──この場合であればユートが手ずから首輪を外して、隸属解除をしてやればそれで済む。
ユリアナの『させられない』とは、こんな小さな娘を解放しても生活が出来ないという意味だ。
奴隷の主人の義務。
最低限の衣食住の保証、但し奴隷は謂わば人足代わりであり、買ったお金こそ支出だから給金の支払いをする必要は無い。
奴隷とは飽く迄も主人のモノであり、ある意味ではヒト扱いをされないから。
勿論、奴隷をどう扱うかは主人の裁量によるが……
母親にからかわれて顔を真っ赤にしながら、ユートはソレイユとセリナを連れて部屋に戻った。
セリナは、初めての主人の部屋をキョロキョロしながら見回している。
「えっと、私は結局何をすれば良いんでしょうか?」
「別に今すぐには取り立てて用事は無いよ。一応だけど君の仕事はメイドさんみたいなものを中心にとは言ったよ。だけどさっきも話した様にセリナに出来る事が判らないと、そもそもの話が仕事も振れない」
「ああ……はい……」
何故か目が彷徨う。
「じゃあ、私から質問」
「え、その?」
「シータ姉は貴族だから、色々と詳しい。だから取り敢えず質問に答えて」
「き、貴族!?」
ドワーフは種族が違うから一定以上、霊人族の貴族にはへつらわないのだが、彼女はハーフ。
半分は霊人族だから貴族に対する認識が、純血種の鉱人族とは違っていた。
まあ尤も、鉱人族にも似た制度はあるのだけど。
「貴女、レベルは?」
「は、8です」
「へぇ、一般人だと大抵が5か6なんだけど。しかも大人で……ね。貴女くらいの年齢でそれなら戦闘経験があるんだね」
「は、はい……」
戦闘経験ならユートにもあるが、この小さな少女にもそれがあるらしい。
尚、本当に何もしなかった場合はだいたいが3程度のもので、魔物は一番弱いフォレストラビット程度でも斃し難い。
「私も勿論、あるよ」
「え? そうなんだ」
「魔法の習得とか、どうしてもレベルが低い侭じゃあ難しいからね」
サリュートの186に比べれば団栗の背比べだが、それでもレベルというのは重要視されている。
(益々ゲームっぽいけど、よく考えてみたらあれ自体がこの世界を元にしているのかも……な)
レベルにスキルなど明らかにゲームだが、この世界のあれやこれやは【夢幻王】などのインフィニット・シリーズと同じ。
卵が先か鶏が先かは知らないが、同じ名前の世界や王国が在ってまさか無関係とは云わないだろう。
(だとすれば、ステータスとか普通に見れないのか? まあ、無理だったけど)
一応は試した、ゲーム中でのステータス・ウインドウを開く術を。
そして駄目だった。
やはりゲームとは違うという事らしい。
とはいえ、これだけ同一のものがあるなら方法が違うだけで、それが不可能とも思えなかった。
ちゃんとレベルの概念、スキルの概念が存在しているからには。
「そういえばさ、ユートのレベルは幾つ?」
「知らない。そもそもの話がレベルって何処で調べるのかも判らないんだけど」
「ああ、そっからか~」
そもそも、ゲームチックなレベルなんてのが在る事そのものが吃驚だったし、スキルストーンとてまさか存在するとは思わなかったくらいなのだ。
だけど、レベルは冒険者ランクの目安にされている訳であり、スキルとて誰もが持っているでもないが、確かに口の端に上がるくらいにポピュラーだ。
ユートがプレイしていたゲームの中に、次のレベルまでの経験値を教えてくれる施設なら判る。
王城や教会だ。
何でそんな事が判るんだと思うくらい正確に言い当てるし、或いは王様や神父様には現在レベルが見えていたのか? などと益体も無い事を考えたものだ。
「調べて貰える場所か……それは王都のお城や教会」
「ぶふっ!」
「な、何?」
「何でも無いよシータ姉」
まさか本当に城や教会で調べる事が出来るとは? そう考えていたから思わず吹き出したのである。
「後は冒険者ギルドとか、王立学院でも調べて貰えるんだよ。私の場合は魔導具を使って調べたけど」
そう言って取り出したるは小さな虫眼鏡っぽい物、確かに魔力が感じられる辺り魔導具らしい。
「これで視ればレベルが判るんだよ。まあ、数回も使えば壊れちゃうけど」
「へぇ」
試しにユートは魔力を流してソレイユを視てみた。
ソレイユの頭上に【LV:12】とある。
「レベルが12?」
「そ、私はレベル12」
成程、確かな性能であったし……何より実際に使ったから魔眼スキル【叡知瞳】がこの魔導具――【鑑定眼】の造り方を逆算する事も出来た。
ユートもソレイユに計ってみて貰った処……
「レベル……16?」
既に駆け出し冒険者並にレベルが上がっていた。
レベルしか見えないとはいえ、それが判るアイテムはそれなりに御高い。
数回限定使い捨ての癖に一個が金貨で八枚。
ポーション類がギリギリとはいえ銀貨で買える中、使い捨てアイテムが金貨を必要とするのは、やっぱり素材による処が大きい。
(精霊結晶じゃあないな。そういえば誰かが【まなこあ】だとか言っていたか。奴隷商のおっちゃんだったっけかな?)
奴隷商に精霊結晶の一つ……【火焔石】を渡した時に言っていた魔核と呼ばれてる物、どうもそれこそが鍵となるアイテムらしい。
「それで、セリナ。貴女の持つスキルは?」
「そ、それは……」
先程から何処か躊躇いを感じていたが、どうも彼女はスキルについて話したくなかった様だ。
だが奴隷の身で話さないなど許されない為、セリナはゆっくり口を開いた。
「【鍛冶】と【彫金】……スキル……です」
【鍛冶】スキルと【彫金】スキル。
どちらも鉱人族であれば持っている筈。
「え、両方を?」
「……はい」
俯くセリナ。
「シータ姉、それってどういう事?」
「普通はどちらかしか手に入らないのよ」
「どちらかしか?」
「妖人族が居るでしょ?」
「ああ、居るね」
「彼の種族も【弓術】と【狙撃術】ってスキルが出るんだけど、やっぱり片方しか顕れないわ」
「か、片方……」
ユートもシーナも両方を手に入れている。
「私達ドワーフは男の人が【鍛冶】スキルを、女の子が【彫金】スキルを得るのが通常です。でも私は二つを得た上にハーフ。それが村でスキルを得られなかった人達には鼻についたらしくて、村を追い出される形で放浪しました」
彫金で食を繋いでいたのだが、騙されてお金も失って奴隷商に売られた。
スキルを告げたく無かった理由はこれだ。
戦闘経験も追放後に魔物と戦って得たのだろう。
どんなあれかは兎も角、ユートからすれば【鍛冶】スキル持ちを自分のモノに出来たのはラッキー。
「じゃあ、僕の使う装備品も造って貰えるかな?」
「……つまり、私は御主人様の懐を潤すのですね」
「はい?」
意味が解らないと首を傾げるユートに……
「奴隷のモノは主のモノ、主のモノも主のモノだからかな?」
「「ジャイアニズム?」」
ユートとシーナは吃驚したものだった。
「じゃいあにずむが何かは知らないけど、セリナが何かを造ればそれは主人であるユートが取り上げても構わない……と言うよりは、取り上げないといけない」
「取り上げるのが義務?」
「そう、だって奴隷は主人から与えられた物以外は、持っちゃダメなんだから」
「それって……」
「今、セリナが着ている服は奴隷用の服。丈夫なだけの安い代物で奴隷の代金に入ってる。つまり、セリナの服はユートが買い与えたに等しい。だけどこれから取り上げて、裸で生活するのを強要も出来るわ」
「うぇ?」
セリナを見遣れば真っ赤になっており、ソレイユの言葉が正しいと理解する。
「まぁ、滅多にそんな莫迦は居ないんだけどね」
(あ、やっぱり莫迦な行為だったんだ)
ユートは安堵した。
「取り敢えず、工房を用意するよ」
「はい、判りました」
どれだけ否定しようと、奴隷の貞操も生命も主人の意の侭、好きに出来てしまうのが理解出来た。
仮にユートがセリナを求めれば、心では嫌がっていても応じるしかない。
でも解放も不可能だろうし仮令、解放してお金を幾らか渡しても後が続かなければ結局は元の木阿弥で、しかも今度の主人は悪辣な奴かも知れない訳で……
それに何より、セリナを欲した心が落ち着いた理由は彼女を手に入れたから、つまりは解放奴隷としたら再び焦燥感に苛まれる。
だから解放しない。
だから『セリナ』は自分のモノだと納得させた。
「そういえば、セリナが使う武器はどんなのを?」
「長柄の斧か鎚です」
ユートの質問に答えたがそこら辺、鉱人族としてのイメージの通り。
「じゃあ、実戦経験もあるみたいだからパーティを組んでも大丈夫かな?」
「それは……はい」
しかも戦力にさえなる、ユートは本当に一石二鳥というか、美味しい奴隷を手に入れたのである。
セリナはおずおずといった感じで付いてきてたが、何かを話すでもなく脚を動かす作業をしている。
まあ、奴隷として男に買われた女の子なのだから、“色々と”考えてしまうのは仕方がない。
年齢が年齢なのだけど、実はユートの身長は年齢の平均より高く、一一歳ながら下手をしたら成人に見えてしまうレベル。
況してや、セリナは随分と可愛らしい容姿だから、ユートではなく“ようじょしぎゃくしゅみ”な変態とかだったなら、帰り着いた瞬間には大事なナニかが喪われていたろうし。
ある意味でラッキーだったりするが、当然の事ながらセリナには判らない。
「あ、あの……」
「何かな?」
「わ、私は何をすれば宜しいのでしょうか?」
「何をって言われてもな。君をどうしても買わないといけないって、焦燥感の侭に買っちゃったからね」
ユートも明確な目的とかがあった訳ではなかった。
一目見て『気になって』『手に入れなければ』と焦りを感じ、だから精霊結晶の【火焔石】を一個とはいえ放出して買っただけ。
可愛いとは思うけれど、だからといって夜の閨係をさせるとか、朝の処理係をヤらせるとか全く考えてはいなかった。
まあ、一二歳にすら達していないユートが考える事でも無いだろうが……
「取り敢えず、僕専属って形のメイドさんでもして貰おうかな?」
「メイド……ですか?」
「そもそも、セリナが何を出来るのかすら知らない。仕事を割り振るには困ってしまうんだ。帰ったらさ、セリナの能力とか知りたいけど教えて貰える?」
「そ、れは……はい、判りました御主人様」
まあ、可愛い女の子から『御主人様』呼びも悪くないとは思ったものだった。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
家に帰り着くとユリアナが迎えてくれたと同時に、首輪を嵌めた少女を見遣りガチャンと食器を落とす。
「ユ、ユートが奴隷を? 嗚呼……性に目覚めてしまったのね!」
「違うから!」
ユートは取り敢えず説明をしておく。
「一目惚れ? それで誰かに買われてしまう前に買った……と?」
「どうしてそうなる!?」
まあ、状況だけ切り取ってみれば確かに一目惚れした相手が奴隷だったから、金に飽かせて買い取ったと思われるだろう。
奴隷であるからには主人には逆らえないし、面倒な部分を省いてヤる事をヤれるとも考えられる。
そもそも、ユートの説明の『どうしても気になったから、買わないといけないと焦燥感を感じたから』なんてのは、正にそんな誤解を助長するだけだった。
「じゃあ、その娘とはそういう事をしないの?」
「う゛……絶対とは言い切れないのが悲しい男の性だけどさ、少なくとも今現在の年齢でそれは無いよ」
「ふーん、まあそうよね」
納得するユリアナだが、既に従姉に御手々で致されていたりする。
「それで、この娘はいったいどうするの? 解放なんてさせられないのよ?」
「判ってるよ」
奴隷解放というそれ自体は可能だ。
主人──この場合であればユートが手ずから首輪を外して、隸属解除をしてやればそれで済む。
ユリアナの『させられない』とは、こんな小さな娘を解放しても生活が出来ないという意味だ。
奴隷の主人の義務。
最低限の衣食住の保証、但し奴隷は謂わば人足代わりであり、買ったお金こそ支出だから給金の支払いをする必要は無い。
奴隷とは飽く迄も主人のモノであり、ある意味ではヒト扱いをされないから。
勿論、奴隷をどう扱うかは主人の裁量によるが……
母親にからかわれて顔を真っ赤にしながら、ユートはソレイユとセリナを連れて部屋に戻った。
セリナは、初めての主人の部屋をキョロキョロしながら見回している。
「えっと、私は結局何をすれば良いんでしょうか?」
「別に今すぐには取り立てて用事は無いよ。一応だけど君の仕事はメイドさんみたいなものを中心にとは言ったよ。だけどさっきも話した様にセリナに出来る事が判らないと、そもそもの話が仕事も振れない」
「ああ……はい……」
何故か目が彷徨う。
「じゃあ、私から質問」
「え、その?」
「シータ姉は貴族だから、色々と詳しい。だから取り敢えず質問に答えて」
「き、貴族!?」
ドワーフは種族が違うから一定以上、霊人族の貴族にはへつらわないのだが、彼女はハーフ。
半分は霊人族だから貴族に対する認識が、純血種の鉱人族とは違っていた。
まあ尤も、鉱人族にも似た制度はあるのだけど。
「貴女、レベルは?」
「は、8です」
「へぇ、一般人だと大抵が5か6なんだけど。しかも大人で……ね。貴女くらいの年齢でそれなら戦闘経験があるんだね」
「は、はい……」
戦闘経験ならユートにもあるが、この小さな少女にもそれがあるらしい。
尚、本当に何もしなかった場合はだいたいが3程度のもので、魔物は一番弱いフォレストラビット程度でも斃し難い。
「私も勿論、あるよ」
「え? そうなんだ」
「魔法の習得とか、どうしてもレベルが低い侭じゃあ難しいからね」
サリュートの186に比べれば団栗の背比べだが、それでもレベルというのは重要視されている。
(益々ゲームっぽいけど、よく考えてみたらあれ自体がこの世界を元にしているのかも……な)
レベルにスキルなど明らかにゲームだが、この世界のあれやこれやは【夢幻王】などのインフィニット・シリーズと同じ。
卵が先か鶏が先かは知らないが、同じ名前の世界や王国が在ってまさか無関係とは云わないだろう。
(だとすれば、ステータスとか普通に見れないのか? まあ、無理だったけど)
一応は試した、ゲーム中でのステータス・ウインドウを開く術を。
そして駄目だった。
やはりゲームとは違うという事らしい。
とはいえ、これだけ同一のものがあるなら方法が違うだけで、それが不可能とも思えなかった。
ちゃんとレベルの概念、スキルの概念が存在しているからには。
「そういえばさ、ユートのレベルは幾つ?」
「知らない。そもそもの話がレベルって何処で調べるのかも判らないんだけど」
「ああ、そっからか~」
そもそも、ゲームチックなレベルなんてのが在る事そのものが吃驚だったし、スキルストーンとてまさか存在するとは思わなかったくらいなのだ。
だけど、レベルは冒険者ランクの目安にされている訳であり、スキルとて誰もが持っているでもないが、確かに口の端に上がるくらいにポピュラーだ。
ユートがプレイしていたゲームの中に、次のレベルまでの経験値を教えてくれる施設なら判る。
王城や教会だ。
何でそんな事が判るんだと思うくらい正確に言い当てるし、或いは王様や神父様には現在レベルが見えていたのか? などと益体も無い事を考えたものだ。
「調べて貰える場所か……それは王都のお城や教会」
「ぶふっ!」
「な、何?」
「何でも無いよシータ姉」
まさか本当に城や教会で調べる事が出来るとは? そう考えていたから思わず吹き出したのである。
「後は冒険者ギルドとか、王立学院でも調べて貰えるんだよ。私の場合は魔導具を使って調べたけど」
そう言って取り出したるは小さな虫眼鏡っぽい物、確かに魔力が感じられる辺り魔導具らしい。
「これで視ればレベルが判るんだよ。まあ、数回も使えば壊れちゃうけど」
「へぇ」
試しにユートは魔力を流してソレイユを視てみた。
ソレイユの頭上に【LV:12】とある。
「レベルが12?」
「そ、私はレベル12」
成程、確かな性能であったし……何より実際に使ったから魔眼スキル【叡知瞳】がこの魔導具――【鑑定眼】の造り方を逆算する事も出来た。
ユートもソレイユに計ってみて貰った処……
「レベル……16?」
既に駆け出し冒険者並にレベルが上がっていた。
レベルしか見えないとはいえ、それが判るアイテムはそれなりに御高い。
数回限定使い捨ての癖に一個が金貨で八枚。
ポーション類がギリギリとはいえ銀貨で買える中、使い捨てアイテムが金貨を必要とするのは、やっぱり素材による処が大きい。
(精霊結晶じゃあないな。そういえば誰かが【まなこあ】だとか言っていたか。奴隷商のおっちゃんだったっけかな?)
奴隷商に精霊結晶の一つ……【火焔石】を渡した時に言っていた魔核と呼ばれてる物、どうもそれこそが鍵となるアイテムらしい。
「それで、セリナ。貴女の持つスキルは?」
「そ、それは……」
先程から何処か躊躇いを感じていたが、どうも彼女はスキルについて話したくなかった様だ。
だが奴隷の身で話さないなど許されない為、セリナはゆっくり口を開いた。
「【鍛冶】と【彫金】……スキル……です」
【鍛冶】スキルと【彫金】スキル。
どちらも鉱人族であれば持っている筈。
「え、両方を?」
「……はい」
俯くセリナ。
「シータ姉、それってどういう事?」
「普通はどちらかしか手に入らないのよ」
「どちらかしか?」
「妖人族が居るでしょ?」
「ああ、居るね」
「彼の種族も【弓術】と【狙撃術】ってスキルが出るんだけど、やっぱり片方しか顕れないわ」
「か、片方……」
ユートもシーナも両方を手に入れている。
「私達ドワーフは男の人が【鍛冶】スキルを、女の子が【彫金】スキルを得るのが通常です。でも私は二つを得た上にハーフ。それが村でスキルを得られなかった人達には鼻についたらしくて、村を追い出される形で放浪しました」
彫金で食を繋いでいたのだが、騙されてお金も失って奴隷商に売られた。
スキルを告げたく無かった理由はこれだ。
戦闘経験も追放後に魔物と戦って得たのだろう。
どんなあれかは兎も角、ユートからすれば【鍛冶】スキル持ちを自分のモノに出来たのはラッキー。
「じゃあ、僕の使う装備品も造って貰えるかな?」
「……つまり、私は御主人様の懐を潤すのですね」
「はい?」
意味が解らないと首を傾げるユートに……
「奴隷のモノは主のモノ、主のモノも主のモノだからかな?」
「「ジャイアニズム?」」
ユートとシーナは吃驚したものだった。
「じゃいあにずむが何かは知らないけど、セリナが何かを造ればそれは主人であるユートが取り上げても構わない……と言うよりは、取り上げないといけない」
「取り上げるのが義務?」
「そう、だって奴隷は主人から与えられた物以外は、持っちゃダメなんだから」
「それって……」
「今、セリナが着ている服は奴隷用の服。丈夫なだけの安い代物で奴隷の代金に入ってる。つまり、セリナの服はユートが買い与えたに等しい。だけどこれから取り上げて、裸で生活するのを強要も出来るわ」
「うぇ?」
セリナを見遣れば真っ赤になっており、ソレイユの言葉が正しいと理解する。
「まぁ、滅多にそんな莫迦は居ないんだけどね」
(あ、やっぱり莫迦な行為だったんだ)
ユートは安堵した。
「取り敢えず、工房を用意するよ」
「はい、判りました」
どれだけ否定しようと、奴隷の貞操も生命も主人の意の侭、好きに出来てしまうのが理解出来た。
仮にユートがセリナを求めれば、心では嫌がっていても応じるしかない。
でも解放も不可能だろうし仮令、解放してお金を幾らか渡しても後が続かなければ結局は元の木阿弥で、しかも今度の主人は悪辣な奴かも知れない訳で……
それに何より、セリナを欲した心が落ち着いた理由は彼女を手に入れたから、つまりは解放奴隷としたら再び焦燥感に苛まれる。
だから解放しない。
だから『セリナ』は自分のモノだと納得させた。
「そういえば、セリナが使う武器はどんなのを?」
「長柄の斧か鎚です」
ユートの質問に答えたがそこら辺、鉱人族としてのイメージの通り。
「じゃあ、実戦経験もあるみたいだからパーティを組んでも大丈夫かな?」
「それは……はい」
しかも戦力にさえなる、ユートは本当に一石二鳥というか、美味しい奴隷を手に入れたのである。
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