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10.最終話

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 翌年の半ば、聖女様がお亡くなりになった。直ぐに神託が降り、次の聖女には私が選ばれたと大神官様からお話しがあった。

 その後、聖女となったけれど、私の生活はそれ程変わらない。

 それまでと同じように神殿で暮らしている。

 精霊や人々に祈りや感謝を送る。

 そして大神官様を目で追う日々。

 気付いた大神官様が笑って下さる。

 そんな、日常のささやかな幸せが、愛おしい。



 国王陛下と王太子殿下は、あの後、精神を病まれたままだったというお話を伺った。。

 幻覚を見られ、時折意味不明な事を仰る為に治療院へ入られたが、状態は良くならなかったらしい。

 普通ならば、王族が望めば聖女の力で治療を行う事になるのだが、精霊の怒りを受けた者を聖女は治療しない、と大神官様が依頼をして来られた国の宰相に言われたそうだ。

 それでお二人は、治療院でそのまま病気療養に専念される事となった。

 国王陛下には、側妃様にまだお小さい王子様がお一人いらっしゃるので、そちらに後見を付けて皇太子殿下としてお育てすると伺った。

 皇太子妃だった方は実家に子供を連れて戻られたらしい。

 王家側では燻る火種は多く残っているけれど、それは、それでかまわぬと大神官様は仰る。

 大神官様は、国を腐らす王族など別に居なくても良い。とも仰られていた。

 どうなってもかまわないのだと、その様な醜いものを見たくなくて神官になったのだと仰られる。

 ただ、やり直すチャンスはあるのだから、試して見れば良い。それを邪魔するつもりもないと言われる。

  

 この国は、精霊の加護により守られているけれど、精霊は気まぐれだ。

 人の汚れた欲望を押し付けていれば、見放されるのだと大神官様は国の人達に説いていらっしゃる。

 本当にその通りだと思うのだ。

「フィリーチェがもっと人の世界を見ていたいのなら、私が此処にいて望みを叶えよう。だがそなたを傷つけようとする者が出れば、次はここを去り、精霊の国に行こう」

「一緒に行って下さるのですか?」

「私はフィリーチェといると、人の世でも空虚で汚れた世界の虚しさばかりを感じなくて済む。私の様な空(から)の心を持つ者でもそなたの慈愛で満たされる。無欲で美しい者とは、どこまでも美しいのだ」

 と、そう仰った。

 私も母に似ているらしく、大神官様の仰ることがよく理解できない。

 けれども、私の幸せは大神官様のお傍に居る事で、この一つが叶えられた今、他に望みはないのだ。

 あとは感謝をささげるだけ。

 それが、この世界の祝福になっているのだと仰った。

 ―――――お前がこの世界に祝福を送る間、一緒にこの世界にいよう・・・






   ※      ※      ※






 この世界に生きる動物の中で、人が一番醜く欲深い生き物だ。

 欲とは、何かを欲する心で、その先には際限がない。

 その行き着く先には滅亡が待っていても、自分はそうならないと思うのが人の愚かさなのだ。


 欲のない人間がこの世界で生きて行くには精霊の加護が必要になる。

 そういった加護を持つ者を利用しようとするのもまた欲望の強い人間だった。

 いずれ人の世から切り離し、精霊は精霊だけの世界で完結するだろう。


 
 だが、しばしの間(ま)聖女の慈しみを与えたもう。


 


 

 
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