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第五章

ゆるく、甘い、毒

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 「おかえりなさい、シャドラ、アレンがおまちかねよ」

 「ただいま、ミルフィー」


 シャドラ様は玄関まで迎えに出た妻を抱きしめキスをして、にっこり笑ってアレン様を見た。


 「アレン、家に来るのは久しぶりだな」

 「兄上、お邪魔しています」

 「お邪魔だなんて、お前の育った家じゃないか」

 エルメノス・シャドラ・ハッサ宰相はアレン様とは顔だけ見るとそんなに似たイメージはないけれど、体格がそっくりだった。アレン様と同じで長身の大男だ。

 髪はウエーブのある腰までの艶やかな金髪を後ろで一括りにし、銀縁のメガネをかけている。その瞳はアレン様とおなじ紫の瞳だった。

 ミルフィー様はアッシュブロンドにハチミツ色の瞳をしていて、とてもやさしそうな方だ。


 「まずは、兄上、彼女がエミリアンだ」

 唐突に前に押し出され、シャドラ様の前に出た私は小柄なので彼を見上げるのが首が首があ、と言った具合だ。

 「やあエミリアン初めまして、私がアレンの兄のシャドラだ」
 手を出され、私はそのまま彼の手を両手で握り治癒魔法の力を彼に通した。ブワッと言う音がしたような気がした。

 「…エミリアンです、よろしくおねがいします」

 「い、今のは何だ?」

 シャドラ様は驚いてアレン様に聞く。


 「兄上はエミリアンが強力な治癒魔法を使うことをご存じですよね。…そのおかげで私は今無事でいるのですが、彼女の治癒魔法はある種の呪いを解くカギだと思われます。今のは兄上にかかっていた少なくない呪縛を解いたのです」


 「呪縛だと?誰がそんなものを私にかけたと言うのだ…」


 「ベルダ産のバーバラを媒体にして、ある人物が呪縛をかけています。それは弱い呪縛ですが、バーバラを摂取する事により、身体にどんどん呪いが沈殿していくのです、より深く、強力になって行きます」

 「…これは、まさか、あの方なのか?そんな…」

 シャドラ様にかかったバーバラの呪縛を解いたので、クリーンなオツムでシャドラ様が考えればすぐに導きだせる答えだ。なにせ、切れ者だし…

 おそらく、あの方の呪術師としての力は弱く、役に立たないレベルではあるが使い方次第だったと言うわけだ。
『バーバラ』を媒体として使えばまずゼノディクスの王族から、貴族から身近な者から、ベルダの王族に対して猜疑心を持たないようにする呪縛だ。


 但し、縛ることが出来るのはロアンジュ殿下一人で、彼女が今の所、外での発言権を持たないのが良かった。


 バーバラを欲しがる貴族は多い。それを逆手にとってのやり方だ。

 だが、バーバラはベルダで生産量は少ない。だからこその付加価値なのだから…そこがまず救いだった。


 エミリアンとアレン、そしてシャドラは今後の計画を立てた。


 バーバラの呪縛からの解放、まずは、皇太子だ。

 そこからはじめないと次へ進めない。皇太子殿下はロアンジュ殿下を大切に扱っている。

 ロアンジュ殿下の傍にいて、一番近くに居る今の呪縛が効いた状態では何を言っても無駄だろう。


 そして、貴族、王城に努める主だった者達の呪縛からの解放。

 そして、ロアンジュ殿下の隔離。



 「皇太子の呪縛を解く場は私が用意しよう」

 「ベルダ王国の事は事実を調べた上で、皇太子殿下にはご自分で見て、考えて、結論を出して頂く」


 この呪縛が解かれれば、弱く浅い呪縛でもバーバラを使って拡散している今、その全てが戻って来るのは彼女の身体になる。ただでは済まない。

 「では後は、ベルダの紅茶園の破壊ですね」

 「バーバラはベルダの王族が育てるお茶だ、精霊の干渉を受け特別な環境で育てられると聞いたが、それ自体が精霊を呪縛の力を使い縛っているのかもしれない」


 「ベルダ王国がゼノディクスの友好国となり、第一王女のロアンジュ様が皇太子殿下のお妃様になられた経緯はどういうものだったのですか?」

 私は気になっていた事を聞いてみた。

 「…それも近年になるが、突然金脈が見つかり見向きもされなかった小国が豊かになった。それに加えて『バーバラ』を国の外交に使い始めた、そこから入り込んで来たな。献上品をゼノディクスに送り、その使者が第一王女だった」

 「…それ、もう狙ってやってますね、つまりその筋書きを書いた人物が黒幕…」

 何処から何処までが本当で嘘なのか、これはベルダを調べないと分からない。

 「まず、バーバラの呪縛を解く特効薬を作らなければならない、エミリアン私に協力してくれないか?


 「はい、喜んで」

 エミリアンはにっこり笑って差し出されたアレンの手を握った。

 まずは魔術師塔の中の者達に試しに広域の治癒魔法をかけ試す事から始める。

 こういう時、カルド・リケはよく働く。さすが、魔法師団長、その動きには無駄がない。頭さえ据えておけば有能な人っているんだな…とエミリアンは思ってしまった。


 治癒魔法のデータの分析、ベルダのバーバラの毒を解毒する鍵となる。

 その合間を縫って王城に向かい、アレンと王城中を周り地道に治癒魔法を施す。

その行動はロアンジュ殿下にばれないように行った。宰相であるシャドラ様の協力があれば、皇太子殿下の動きすら封じれる。

現国王陛下は良く言えば国民思いの穏やかで優しい心根の慕われる方だが、国の政策や外交に関しても、ハッサ宰相に丸投げの役立たずで、所謂、国の象徴としての御旗印と言った役どころだ。

 ハッサ家が第二の王族と言われる辺りも国民や貴族からの皮肉もあるのかもしれない。


 「私のギフトは結界能力だ。ただ、その能力は広域に効かせる物で、例えば私の屋敷の周りに結界石を置き特に強力な結界を張る、という事は可能だ。実際にそのようにしている。だがエミリアン一人だけに張ると言う事はなかなか難しい、上手くその能力を使い、エミリアンの治癒魔法を組み合わせ、国中のバーバラの浄化を行いたいと思っている」





 
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