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第一章
3.竜王城(サンテロッサ)での生活
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竜人と獣人には番という性(さが)があるが、人やエルフ、ドワーフには無い。つまり、シロアナには、竜人のような番に対する縛りがないという事になる。成人しても、番に惹かれるという現象は起らないのである。
おばば様はそれを考えて、ハルマンに色々番について説いていた。
「良いか、ハルマン、そなたシロアナに対して大変な無礼を行っているが、そなたとて時期がくれば番に夢中になるのだ。その時、シロアナがそなたの事を嫌っていればそなたが何を言っても受け入れなどしないぞ」
「フン、あんな人族に夢中になるなど、気味の悪い事を言うのは止めて下さい。魔法も使えない人の形をした屑ではないですか、あのような者のどこに惹かれると言うのか、全く馬鹿げている」
と、言う様にまったく反省の色もない。
ジルドをシロアナは美しいと評したが、ハルマンはもっとその上を行く、輝くばかりの美しさを持った竜人だ。
絹糸のような黄金の腰まである長い直毛を後ろで緩く宝石の散りばめられた特別な髪留めで留め、蒼天の空の様な美しい蒼の瞳に、全ての顔のパーツもそれぞれがこれでもかと完璧に整ったバランスの良い黄金比率と言ったすばらしい配置による竜人随一と言っても過言でない麗しい容姿をしている。
口からどんなに毒を吐こうが、とても美しいのだ。もっとも、シロアナはハルマンの顔さえ見ていない。美しい髪の毛が腰の辺りでちらついていても、恐ろしさにやられて全く見えていない。それよりも、竜人の気にやられてしまっていたとも言える。
ハルマン以外の竜人は皆、竜人の気を抑えていたが、ハルマンは駄々洩れだった。
魔力を持つ者は、大体において自分の身を魔力で守っている。
シロアナの様な、何も持っていない者など傍には居ないし、そのようにいちいち気遣いしてまで、近くに居たくも無いというのが本音だ。
大してシロアナにとっては、ハルマンは怖くて恐ろしい竜人の代表格だとしか言いようがない。殺されかけたのだからそれも当然の事だ。
シロアナは艶の無い、パサパサの金茶の肩までのくせ毛に、茶色の瞳、そばかすに低い鼻をした一度見ても直ぐに忘れてしまう程の普通の顔だったが、しいて言えば逆に低い鼻とそばかすと小さい顔がチャームポイントだろうか。
全部小づくりで、ちまっとしているのだ。
そして、当たり前の事だが、ハルマンにとっては、シロアナは道端の雑草以下の屑なのであった。その全てになんの価値も見いだせない。
だが、それは彼女が成人する前までの話だ。
竜人にとって、番とはそういう者なのである。
時期がくれば、どんな麗しい容姿の者よりも番は好ましい者に変わり、その後一生、命よりも大切なモノになるのだ。
そして、その恐ろしさを身をもって経験しなければ、到底理解し得ない、頑なで、自分本位の竜人がハルマンだった。
まあ、そうなった時は時で、どのように番に媚びるのか興味も沸くと言う話だ。
今日は、シロアナはサンディと一緒にジルドとルピアの住む屋敷に遊びに行く予定である。
メレニーが付いて来てくれるので安心だ。
ジルドとルピアの家はバックス伯爵家で、母は昔ハルマンの乳母をしていたが、今は家に居るそうだ。
父親は近衛騎士の第一騎士団の団長をしているそうだ。
屋敷はサンテロッサから馬車で30分程の所に屋敷がある。
ルピアは詩集や恋愛小説が好きで、色々な歌の本のコレクションもあると言っていた。
彼女の趣味のハーブ園もあって、彼女は身体が弱い事もあって薬草の事にも趣味で勉強しているのだそうだ。
色々なハーブも分けてくれると言う話だったので、とても楽しみにしているのだ。
馬車の中ではサンディはシロアナの膝の上で丸くなっていた。
「まあ、サンディの可愛らしいこと」
メレニーや他の侍女達にもサンディは大人気なのだ。
サンディは今生まれて七か月位だそうでまだ大きくなるとの事だった。
よく人間の様に二足歩行するのだが、最近はシロアナと手を繋いで歩く事が多い。
小さい子と一緒にいるみたいですごくほっこりするのだ。
歩くのに疲れたら、シロアナの足にしがみついて、そのままくっついて行く事もある。
その場合、足を引きずる事になるが…
屋敷に着くと、ルピアが直ぐに出迎えてくれた。
ルピアの母のバックス伯爵夫人も挨拶してくれた。
ルピアとジルドはお母さん似なのだと言う事がわかった。
髪や瞳の色が同じで、面差しもよく似ている。
「シロアナ様、こちらにいらして下さいな、サンディもいらっしゃい」
ルピアの声で庭に降りると、そこは様々なハーブと美しい花が咲き乱れる場所だった。
「サンディはここにある薬草などは食べたらダメよ、毒になるモノもありますよ」
やさしくルピアがサンディに話しかける。
「きゅい」
サンディはちゃんとルピアの言葉に返事をした。
サンディは言葉を理解する能力が高い。
「サンディおいで」
シロアナとサンディはルピアの後ろをついて二人で手を繋いで歩く。
もったりと歩くサンディとチョコチョコ歩くシロアナがとても可愛くて絵になるとルピアは思った。
可愛い絵本にしたら良いかもしれない。
ルピアは絵を描くのも好きだった。
そんな優しい時間はすぐに過ぎて行った。
午後のお茶の時間は庭の東屋でお茶にした。様々な乾菓子と焼き菓子が並べられ、紅茶と一緒に頂いた。
サンディのオヤツ用に用意されたダンモロコシをサンディは目を細めてボリボリと手に持ち、椅子に座ってお行儀よく頂いている。
「サンディは本当にお利口で可愛いわ、私もお兄様にデグーチアをお願いしようかしら」
「そうね、ルピア様もお友達としてデグーチアに一人来てもらったらきっともっと楽しいよ」
「そうですわね、お願いしてみますわ」
その後、ルピアお勧めのハーブの鉢の詰め合わせを木箱に入れてもらい、一緒に来ていたメレニーが御者に渡してくれた。馬車の荷台に積んでくれるらしい。
バックス伯爵家の図書室にはルピア専用の書棚があり、そこにある様々なコレクションを見せてもらった。
「ねえ、シロアナ様、こちらも、そちらもとても読みやすいので読んで見てください」
「まあ、ルピア様ありがとう、とても楽しみ」
シロアナは今、読み書きを習っている。
だから、興味のある本を読むのはとても勉強になるので嬉しい。
あと、歌の本も借りた。この間ルピアが歌ってくれた歌の歌詞を覚えたかったのだ。
その後は、その歌の本を見ながら、ルピアの部屋で二人で大合唱になった。
二人の美しい歌声が屋敷に響き、それを聞いた使用人達も笑顔で聞き惚れた。
「お嬢様があのように楽しそうになさって、お二人とても仲がよろしくて良いですわね」
バックス伯爵家の使用人達もとても好意的でシロアナも居心地が良かった。
一緒に来ていたメレニーは、このままもっとシロアナが竜人の事を好きになってくれたら良いなと思ていた。
「ルピア様とても楽しかったです。ありがとう、ハーブをお庭に植えるのが楽しみ」
「また、お城にも遊びに伺いますわね、今日は来てくださってありがとう」
「こちらこそ、とても楽しかった、ルピア様ありがとう」
門の前で馬車に乗り、帰り際もルピアが送りに出てくれていて、手を振って別れた。
「メレニー一緒に来てくれてありがとう、とても楽しかった、サンディもありがとう」
馬車の中でもシロアナはニコニコ笑って機嫌が良かった。
疲れたのかサンディはシロアナの膝の上で丸くなって寝ている。
サンテロッサの城門を通ると城の跳ね橋が上がって戻って行くのを見てシロアナの気分が少し降下してしまった。
閉じ込められているような気になるのだ。
そっとため息をつく。
『明日もあの人に会わずに済みますように』
シロアナの目下の願いはそれに尽きた。
おばば様はそれを考えて、ハルマンに色々番について説いていた。
「良いか、ハルマン、そなたシロアナに対して大変な無礼を行っているが、そなたとて時期がくれば番に夢中になるのだ。その時、シロアナがそなたの事を嫌っていればそなたが何を言っても受け入れなどしないぞ」
「フン、あんな人族に夢中になるなど、気味の悪い事を言うのは止めて下さい。魔法も使えない人の形をした屑ではないですか、あのような者のどこに惹かれると言うのか、全く馬鹿げている」
と、言う様にまったく反省の色もない。
ジルドをシロアナは美しいと評したが、ハルマンはもっとその上を行く、輝くばかりの美しさを持った竜人だ。
絹糸のような黄金の腰まである長い直毛を後ろで緩く宝石の散りばめられた特別な髪留めで留め、蒼天の空の様な美しい蒼の瞳に、全ての顔のパーツもそれぞれがこれでもかと完璧に整ったバランスの良い黄金比率と言ったすばらしい配置による竜人随一と言っても過言でない麗しい容姿をしている。
口からどんなに毒を吐こうが、とても美しいのだ。もっとも、シロアナはハルマンの顔さえ見ていない。美しい髪の毛が腰の辺りでちらついていても、恐ろしさにやられて全く見えていない。それよりも、竜人の気にやられてしまっていたとも言える。
ハルマン以外の竜人は皆、竜人の気を抑えていたが、ハルマンは駄々洩れだった。
魔力を持つ者は、大体において自分の身を魔力で守っている。
シロアナの様な、何も持っていない者など傍には居ないし、そのようにいちいち気遣いしてまで、近くに居たくも無いというのが本音だ。
大してシロアナにとっては、ハルマンは怖くて恐ろしい竜人の代表格だとしか言いようがない。殺されかけたのだからそれも当然の事だ。
シロアナは艶の無い、パサパサの金茶の肩までのくせ毛に、茶色の瞳、そばかすに低い鼻をした一度見ても直ぐに忘れてしまう程の普通の顔だったが、しいて言えば逆に低い鼻とそばかすと小さい顔がチャームポイントだろうか。
全部小づくりで、ちまっとしているのだ。
そして、当たり前の事だが、ハルマンにとっては、シロアナは道端の雑草以下の屑なのであった。その全てになんの価値も見いだせない。
だが、それは彼女が成人する前までの話だ。
竜人にとって、番とはそういう者なのである。
時期がくれば、どんな麗しい容姿の者よりも番は好ましい者に変わり、その後一生、命よりも大切なモノになるのだ。
そして、その恐ろしさを身をもって経験しなければ、到底理解し得ない、頑なで、自分本位の竜人がハルマンだった。
まあ、そうなった時は時で、どのように番に媚びるのか興味も沸くと言う話だ。
今日は、シロアナはサンディと一緒にジルドとルピアの住む屋敷に遊びに行く予定である。
メレニーが付いて来てくれるので安心だ。
ジルドとルピアの家はバックス伯爵家で、母は昔ハルマンの乳母をしていたが、今は家に居るそうだ。
父親は近衛騎士の第一騎士団の団長をしているそうだ。
屋敷はサンテロッサから馬車で30分程の所に屋敷がある。
ルピアは詩集や恋愛小説が好きで、色々な歌の本のコレクションもあると言っていた。
彼女の趣味のハーブ園もあって、彼女は身体が弱い事もあって薬草の事にも趣味で勉強しているのだそうだ。
色々なハーブも分けてくれると言う話だったので、とても楽しみにしているのだ。
馬車の中ではサンディはシロアナの膝の上で丸くなっていた。
「まあ、サンディの可愛らしいこと」
メレニーや他の侍女達にもサンディは大人気なのだ。
サンディは今生まれて七か月位だそうでまだ大きくなるとの事だった。
よく人間の様に二足歩行するのだが、最近はシロアナと手を繋いで歩く事が多い。
小さい子と一緒にいるみたいですごくほっこりするのだ。
歩くのに疲れたら、シロアナの足にしがみついて、そのままくっついて行く事もある。
その場合、足を引きずる事になるが…
屋敷に着くと、ルピアが直ぐに出迎えてくれた。
ルピアの母のバックス伯爵夫人も挨拶してくれた。
ルピアとジルドはお母さん似なのだと言う事がわかった。
髪や瞳の色が同じで、面差しもよく似ている。
「シロアナ様、こちらにいらして下さいな、サンディもいらっしゃい」
ルピアの声で庭に降りると、そこは様々なハーブと美しい花が咲き乱れる場所だった。
「サンディはここにある薬草などは食べたらダメよ、毒になるモノもありますよ」
やさしくルピアがサンディに話しかける。
「きゅい」
サンディはちゃんとルピアの言葉に返事をした。
サンディは言葉を理解する能力が高い。
「サンディおいで」
シロアナとサンディはルピアの後ろをついて二人で手を繋いで歩く。
もったりと歩くサンディとチョコチョコ歩くシロアナがとても可愛くて絵になるとルピアは思った。
可愛い絵本にしたら良いかもしれない。
ルピアは絵を描くのも好きだった。
そんな優しい時間はすぐに過ぎて行った。
午後のお茶の時間は庭の東屋でお茶にした。様々な乾菓子と焼き菓子が並べられ、紅茶と一緒に頂いた。
サンディのオヤツ用に用意されたダンモロコシをサンディは目を細めてボリボリと手に持ち、椅子に座ってお行儀よく頂いている。
「サンディは本当にお利口で可愛いわ、私もお兄様にデグーチアをお願いしようかしら」
「そうね、ルピア様もお友達としてデグーチアに一人来てもらったらきっともっと楽しいよ」
「そうですわね、お願いしてみますわ」
その後、ルピアお勧めのハーブの鉢の詰め合わせを木箱に入れてもらい、一緒に来ていたメレニーが御者に渡してくれた。馬車の荷台に積んでくれるらしい。
バックス伯爵家の図書室にはルピア専用の書棚があり、そこにある様々なコレクションを見せてもらった。
「ねえ、シロアナ様、こちらも、そちらもとても読みやすいので読んで見てください」
「まあ、ルピア様ありがとう、とても楽しみ」
シロアナは今、読み書きを習っている。
だから、興味のある本を読むのはとても勉強になるので嬉しい。
あと、歌の本も借りた。この間ルピアが歌ってくれた歌の歌詞を覚えたかったのだ。
その後は、その歌の本を見ながら、ルピアの部屋で二人で大合唱になった。
二人の美しい歌声が屋敷に響き、それを聞いた使用人達も笑顔で聞き惚れた。
「お嬢様があのように楽しそうになさって、お二人とても仲がよろしくて良いですわね」
バックス伯爵家の使用人達もとても好意的でシロアナも居心地が良かった。
一緒に来ていたメレニーは、このままもっとシロアナが竜人の事を好きになってくれたら良いなと思ていた。
「ルピア様とても楽しかったです。ありがとう、ハーブをお庭に植えるのが楽しみ」
「また、お城にも遊びに伺いますわね、今日は来てくださってありがとう」
「こちらこそ、とても楽しかった、ルピア様ありがとう」
門の前で馬車に乗り、帰り際もルピアが送りに出てくれていて、手を振って別れた。
「メレニー一緒に来てくれてありがとう、とても楽しかった、サンディもありがとう」
馬車の中でもシロアナはニコニコ笑って機嫌が良かった。
疲れたのかサンディはシロアナの膝の上で丸くなって寝ている。
サンテロッサの城門を通ると城の跳ね橋が上がって戻って行くのを見てシロアナの気分が少し降下してしまった。
閉じ込められているような気になるのだ。
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