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第四章

2.贅沢な時間

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 温泉の街を後にした。六人で連れ立って歩くのはなんだか不思議だ。

 御一行様的なかんじが笑える。私は、はちポジションかな。間違っても姫じゃない。

 ハンターとヤトが一番前、次が私、後ろがアスランテとムーラン。

 シオウはその間を好き勝手に前後に動き回る。

 小さい身体なのに、シオウの動きは目まぐるしく、すごい運動量だ。

 確かに、子猫のシオウは、好き勝手に動き回っていたなと思う。

 でも人の身体でもかわんねーな。

 頭にはキャスケットっぽい子供用の帽子を被せているので耳は隠れてる。尾は服の中で、ぱっと見ものすごく愛くるしい普通の子供にしか見えない。危ない・・・これは危ないぞ。

「シオウはめっちゃかわいいから、攫われないようにしないとダメ!」

「ん、そちたら、かみちゅく、ぼく」

「うん、あとは、股間に頭突きしたらオケ」

「え~、やでちよ」

 アメトリンの大きな瞳に吸い込まれそうだ。宝玉。ギョクだ!。

「もしもの時の攻撃だから、覚えておいて損はないのだ」

「ココ、子供に下品な事を教えないで下さい」

 ふんぞり返っていう私に、指摘が入った。

「でもムーラン、可愛い子供は攫われるんだから、ちゃんと教えておかなきゃダメだとおもう」

「でも、貴女より、シオウの方がよほどすばしこいと思いますけどね」

「もーっ」

 シオウはまだ片言でしか話せないんだけど、これがまたかわいい。

 可愛いだらけだ。

 そんで、アスランテは無言でニコニコしてこっちを見ている。

「この先は魔物が多い山になるので気を付けてください」

 ヤトがそう言った。

「魔物ってどんな魔物?」

「下級ゴーレムとか多いな。泥団子投げて来るんだ」

「じゃあ、あまり危険はないのかな。美味しいとか、良い材料が手に入るとかじゃないのは、要らないんだけど」

「いや、いるいらないの問題じゃないから」

 そこにハンターがツッコミを入れる。

「それにしたって、もう、街道とかじゃなくて、これは獣道だよ」

 二人並んでは歩けないので、一人ずつ路を歩く。登山道ともいうかもしれない。

「でで、きたでちゅ」

 タタタッと小さいシオウは横をすり抜け私の傍に走って寄って来た。向こうを指さしてそう言った。

 少し先はぽっかりと開いた広場の様になっていて、そこで待ち伏せしていたのだ。

「うおっ。投げて来た」

 膝下位の小さい泥で出来た土偶みたいなのが、10匹?位出て来て、次々に泥を投げて寄越す。

「ぎゃっ」

 さっと避けたハンターとヤトの陰にいた私は、どんくさくも顔で泥を受けた。

 泥がべしゃりとへばりついた。

「ココ!」

 すぐさまアスランテに横抱きにされ、一目散に何処かに連れて行かれる。

「あばばばばばば」

 舌噛む、舌!

 アスランテは皆を完全無視して、何処かへ駆け下って行く。

「アスランテ!」

 ムーランの叫ぶ声が聞こえたが、知らんぷりの様だ。

 私はというと、泥で目が開けられないので、アスランテに抱っこされたまま、大人しくしていた。

 すると、ザーザーというせせらぎの音が聞こえた。

 ゆっくりと下に座る様に降ろされた。

「お顔を洗いましょう。少し手を下に伸ばすと、川の水が流れていますよ」

 言われるように、手を伸ばすと指先に冷たい水が触れた。

 しゃがんで、両手で水を掬い、ゆっくりと顔を洗う。何度も洗いザリザリとした泥を洗い流した。

 これってっ泥パック?

「ペッペッ」

 やだやだ、口の中にも入ってたよ。

「大丈夫ですか?」

 やわらかい布が顔に触れる。

「アスランテ、ありがとう!」

「いえ」

 アスランテってホント、紳士。所でここはどこでしょう?

「それより、大切なココを守れず申し訳ありません。次からは私が前を歩きます」

「ううん、違うよ、悪いのはハンターとヤトだよ。避けやがって・・・」

「いいえ、貴女がどんくっさいのですよ。常に危険を考えて行動しなければいけません」

 出たっ。突然ムーランの声がする。

 ぞろぞろと皆が河原に降りて来た。

「アスランテ、貴方、ココの事しか考えていませんね」

「当然だ」

 ちっとも悪びれないアスランテだった。

 アスランテが連れて来てくれた河原は休む場所が作れる、良い感じの広い場所だった。

「ちびゴーレムはやっつけて来たぞ。魔石も取れたしなかなかいい仕事出来たな」

「ああ、しかし、泥が付いてしまった。洗い流そう」

 そういうハンターとヤトは服にに少し泥がついていた。手にも泥が付いている。

「天気もいいし、洗濯とか、釣りとかしよっか」

「いいな、釣ってくれ。俺、焼く窯を用意するから。それに昼食に良い時間帯だ」

 ハンターがいい提案をしてくれた。

「わかったー」

 人数多いから、多目に釣ろう。前に詰め込んどいた肉もたくさんあるし、バーベキューパーティーだぞ。

 肉焼き用の鉄板もある。リュックから調味料やら皿やら一通り出してから、オサーンの釣り竿を取り出して釣りを始めた。

 アスランテは横に付いてくれて、釣れた魚は次々締めて、ハンター達に渡していく。

 サクラマスに似た、少し大きめの食べ応えありそうな川魚だった。

 ムーランは上着を脱いで腰まくりをして、川の中のセリを摘んでいる。

 それぞれが持っていた物を持ち寄って、かなり豪勢な昼食となった。

 肉の焼ける匂いや、魚の焼ける匂いに、シオウは喜んで走り回っている。

「シオウ、気を付けないと、川石に足を取られて転げるよ。うおっ」

 はい、気を付けるのは私でした―。

 さっと伸ばされたアスランテの腕で転げずに済んだ。

 こういう時って、川の流れの音とか、緑の香りとか、急に強く感じる。

「ありがとー」

「いいえ」

 いつもアイスブルーの瞳が優しいのだ。

 前は、自分に余裕が無かったから、アスランテがどんな風に見ているなんて知らなかったよ。


「うおー、肉汁したたってる。うめーっ」←ハンター

「ほんと、旨いわ。堪えられん」←ヤト

「うみゃーん」←シオウ

「・・・」

「美味しいですね」

「ん、まいうーっ」

 分厚いステーキに舌鼓を打ち。串に刺した焼き魚は、熱々を頭から丸かじり(若干三名)。

 セリはさっと、焼いて出た肉の脂で炒めて塩を振ってある。めっちゃいい香り。

 青空の下、なんて贅沢でやさしい時間だろう。

 
「ご馳走様でした―」

「ゴチショサマレシタ―」

 シオウも幸せそうに笑った。

 



 

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