上 下
27 / 49
第三章

7.ラトト村

しおりを挟む
「あれっ!」

 ラトト村の入り口に辺りに着いた時、ハンターが驚いた声を上げた。

 ハンターがそろそろだと言ってから直ぐに、地面にある道が森の中に立ち消えていたのだ。

「んー、これは結界だね」

 見事に結界が張られている。入り口が見えない。森しかない。

 最初のエルフ村の様に結界で村が隠されている。

「こりゃーかなりの緊急事態だな」

「たぶん、獣人の子供が怪我させられたのが原因じゃない?」

「そうだな。どうしようかな」

 ハンターは消えた道の先を見て立ち止まった。

「昼間だし、見張りがいるでしょ。気付くんじゃない?」

「そうだな、じゃあ、もう少し近づいて様子を見るか」

 そうして、道が消えている森の場所まで歩いて行くと、あんのじょう森が消えて道が続いた。

 道の奥から、男の人がひとり出て来る。ミルクティーみたいな髪色をしたひょろっとした人だ。

「ハンター久しぶりだな」

「ヤト!帰っていたのか?」

 ハンターが、出て来た男の人に走って近づく。

「ああ、別の獣人の村が襲われただろう?急いで帰ったんだ」

「なるほど。でも、村で獣人の子供が怪我をさせられたと聞いたが?」

「そうなんだ。弓で射られてな。危なかった」

「何だと!?弓で?」

「抗議しに皆が行ったらしいんだが、獣人ならば避けられるだろうと思ったと、しゃあしゃあと言ったらしい。小さい子供を何だと思っているのか、しかも味をしめたのか昨日も来たんだ。だから直ぐに結界を張った」

「獣人なら、貴族の人間は何をしてもいいと思ってるのか!」

「自分達より下位種だと思ってるからな。ん?ハンターその子、人間?だよな?」

 ヤトと呼ばれたその人は私の方を見て言った。

「こいつはココ。『緑の巫女姫』って特性を持った人間だ」

「ええっ!巫女姫様なのか!?それ本当か???・・・男の子かと思ったぞ」

「男装してるんだよ」

 いつものよそ行きのニッコリをしてみる。

「何得意げに言ってるんだよ、男装してなくても男にしか見えんだろ」

「ちがうもん。まあ、どっちでもいいけど」

「どっちでもいいのかよ」

「なんだ?仲いいな。どういう知り合いなんだ?本当にあの巫女姫なのか?」

「三賢人と国を回った『緑の巫女姫』なら私だと思う。他にいるなら知らないけど」

「そうか・・・。凄いな。巫女姫にお会いできるなんて」

「別に巫女姫だって知らなくてもいいんだけどね。それと、『巫女姫様』とか崇めたて祀らないでね。ココって呼んで」

「まあ、そういうなよ。何があるか分からないからな、ここでは言っておいた方が動き安い」

 ハンターのいう事もまあ分かるけどね。

「ハンター、お前が連れているって事は、ココ、は、俺達の味方だと思っていいんだな」

「味方だよ。決まってるだろ」

「そうだ、ココ、シオウを出してくれるか?」

「あ、そうそう、ホラ、私の大事なシオウ」

 ローブをめくるとシオウが顔だけだした。

「ニャーン」

「綺麗でしょ?うちの子。シオウです。よろしく」

「えっ!、この獣人種族は豹族か!?あの生き残りか?」

「ああ、生き残りだ。そう言えばそういう話をココとはしたことがないなあ。シオウは豹族だ。希少種で戦闘に優れている美しい種族だ」

「まあ、なんでもいいんだけどね。シオウはシオウだから」

「お前はそういうと思ってたよ。獣人の村は、同じ種族だけの村もあれば、混合の村もある。最近襲われたのが豹族の村だ」

「他に生き残りは?何かわかったのか?」

 ヤトって呼ばれた人の顔が真剣な表情になる。

「ん、まあ、村で話そう。土産もあるんだ」

「わかった。俺の家に来てくれ。ココも家に泊まってくれ。俺一人だから遠慮はいらない」

「ありがとう。助かるよ。あ、それと子供の怪我の薬、必要ならあるから言ってね。一応、無免許薬師だから」

「薬、本当か?それは頼みたい。毒矢だったらしく、獣人でも治りが悪い」

「「毒!?」」

「そうだ。質の悪い奴らなんだ。本当にどうにかしてやりたいよ」

「ふーん。そりゃあ、もう絶対仕置きが必要だね。それと、毒の浄化は得意だから。薬に魔力を混ぜれば毒消し効果が上がる。後で作るから、子供に届けてあげて」

「わかった。俺の家はあの三軒目の家だ。来てくれ」

 村人達は家の中に入っているらしく、誰も出ていなかった。

 ハンターの家の中は、何の飾り気もないシンプルな所だった。必要最低限の物は置いてある感じ。

「ココはこっちの部屋を使ってくれ。ハンターはその隣の部屋だ。荷物を置いたら向こうの台所でお茶にしよう」

「うん、ありがとう。あ、先にお土産出して置く。ハンター、何処に出そうか?」

「ああ、そうか。ヤト、土産は居間に置いていいか?」

「ああ、じゃあ頼む。いつもすまないな」

 先にリュックから出して、ハンターと二人で積み上げたお土産にヤトは驚きまくっていた。

「なんとまあ、マジックバッグだったのか。凄い物を持っているな」

「うん、エルフの村で貰ったの」

「なるほどな。そんな物を渡す位だ。ココはエルフにとってだったんだな」

「長老がくれたの。大切に使ってる」

「そうか・・・」

 私は部屋の戸を開けると中に入った。ベッドと文机と椅子が置いてある。丁度良い位の大きさの部屋だった。

 後で、薬を作ろう。

「にゃーん」

「シオウ、下に降りる?」

 シオウは床にトンと降りるとクンクンあちこち嗅ぎまわり、クン活してる。

「にゃーん」

「よしよし、気に入った?獣人の村だから安心だね」

 シオウと台所に歩いて行った。

 丁度、ヤトがお茶を淹れてくれていた。ハンターはもうお茶を飲んでいる。

「あー、うめえな。ふはー」

「ああ、椅子に適当にかけてくれ」

「はーい」

 ハンターの横に座る。

 丸テーブルの上には、お土産で沢山買って来た、『ほとぎ』が器の中に出されていた。

「せっかくだから、土産を出させてもらったよ」

「いただきまーす」

 自分の口に頬張り、『ほとぎ』を手に乗せて、シオウの口元に出すと、ボリボリ食べている。

「にゃーん」

「おいしいね」

 獣人の村はやっぱりシオウにも落ち着く様だった。

 

 



しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

元侯爵令嬢は冷遇を満喫する

cyaru
恋愛
第三王子の不貞による婚約解消で王様に拝み倒され、渋々嫁いだ侯爵令嬢のエレイン。 しかし教会で結婚式を挙げた後、夫の口から開口一番に出た言葉は 「王命だから君を娶っただけだ。愛してもらえるとは思わないでくれ」 夫となったパトリックの側には長年の恋人であるリリシア。 自分もだけど、向こうだってわたくしの事は見たくも無いはず!っと早々の別居宣言。 お互いで交わす契約書にほっとするパトリックとエレイン。ほくそ笑む愛人リリシア。 本宅からは屋根すら見えない別邸に引きこもりお1人様生活を満喫する予定が・・。 ※専門用語は出来るだけ注釈をつけますが、作者が専門用語だと思ってない専門用語がある場合があります ※作者都合のご都合主義です。 ※リアルで似たようなものが出てくると思いますが気のせいです。 ※架空のお話です。現実世界の話ではありません。 ※爵位や言葉使いなど現実世界、他の作者さんの作品とは異なります(似てるモノ、同じものもあります) ※誤字脱字結構多い作者です(ごめんなさい)コメント欄より教えて頂けると非常に助かります。

記憶がないので離縁します。今更謝られても困りますからね。

せいめ
恋愛
 メイドにいじめられ、頭をぶつけた私は、前世の記憶を思い出す。前世では兄2人と取っ組み合いの喧嘩をするくらい気の強かった私が、メイドにいじめられているなんて…。どれ、やり返してやるか!まずは邸の使用人を教育しよう。その後は、顔も知らない旦那様と離婚して、平民として自由に生きていこう。  頭をぶつけて現世記憶を失ったけど、前世の記憶で逞しく生きて行く、侯爵夫人のお話。   ご都合主義です。誤字脱字お許しください。

完結 そんなにその方が大切ならば身を引きます、さようなら。

音爽(ネソウ)
恋愛
相思相愛で結ばれたクリステルとジョルジュ。 だが、新婚初夜は泥酔してお預けに、その後も余所余所しい態度で一向に寝室に現れない。不審に思った彼女は眠れない日々を送る。 そして、ある晩に玄関ドアが開く音に気が付いた。使われていない離れに彼は通っていたのだ。 そこには匿われていた美少年が棲んでいて……

多産を見込まれて嫁いだ辺境伯家でしたが旦那様が閨に来ません。どうしたらいいのでしょう?

あとさん♪
恋愛
「俺の愛は、期待しないでくれ」 結婚式当日の晩、つまり初夜に、旦那様は私にそう言いました。 それはそれは苦渋に満ち満ちたお顔で。そして呆然とする私を残して、部屋を出て行った旦那様は、私が寝た後に私の上に伸し掛かって来まして。 不器用な年上旦那さまと割と飄々とした年下妻のじれじれラブ(を、目指しました) ※序盤、主人公が大切にされていない表現が続きます。ご気分を害された場合、速やかにブラウザバックして下さい。ご自分のメンタルはご自分で守って下さい。 ※小説家になろうにも掲載しております

【完結】誰にも相手にされない壁の華、イケメン騎士にお持ち帰りされる。

三園 七詩
恋愛
独身の貴族が集められる、今で言う婚活パーティーそこに地味で地位も下のソフィアも参加することに…しかし誰にも話しかけらない壁の華とかしたソフィア。 それなのに気がつけば裸でベッドに寝ていた…隣にはイケメン騎士でパーティーの花形の男性が隣にいる。 頭を抱えるソフィアはその前の出来事を思い出した。 短編恋愛になってます。

断る――――前にもそう言ったはずだ

鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」  結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。  周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。  けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。  他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。 (わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)  そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。  ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。  そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?

ぽっちゃりな私は妹に婚約者を取られましたが、嫁ぎ先での溺愛がとまりません~冷酷な伯爵様とは誰のこと?~

柊木 ひなき
恋愛
「メリーナ、お前との婚約を破棄する!」夜会の最中に婚約者の第一王子から婚約破棄を告げられ、妹からは馬鹿にされ、貴族達の笑い者になった。 その時、思い出したのだ。(私の前世、美容部員だった!)この体型、ドレス、確かにやばい!  この世界の美の基準は、スリム体型が前提。まずはダイエットを……え、もう次の結婚? お相手は、超絶美形の伯爵様!? からの溺愛!? なんで!? ※シリアス展開もわりとあります。

【完結】公女が死んだ、その後のこと

杜野秋人
恋愛
【第17回恋愛小説大賞 奨励賞受賞しました!】 「お母様……」 冷たく薄暗く、不潔で不快な地下の罪人牢で、彼女は独り、亡き母に語りかける。その掌の中には、ひと粒の小さな白い錠剤。 古ぼけた簡易寝台に座り、彼女はそのままゆっくりと、覚悟を決めたように横たわる。 「言いつけを、守ります」 最期にそう呟いて、彼女は震える手で錠剤を口に含み、そのまま飲み下した。 こうして、第二王子ボアネルジェスの婚約者でありカストリア公爵家の次期女公爵でもある公女オフィーリアは、獄中にて自ら命を断った。 そして彼女の死後、その影響はマケダニア王国の王宮内外の至るところで噴出した。 「ええい、公務が回らん!オフィーリアは何をやっている!?」 「殿下は何を仰せか!すでに公女は儚くなられたでしょうが!」 「くっ……、な、ならば蘇生させ」 「あれから何日経つとお思いで!?お気は確かか!」 「何故だ!何故この私が裁かれねばならん!」 「そうよ!お父様も私も何も悪くないわ!悪いのは全部お義姉さまよ!」 「…………申し開きがあるのなら、今ここではなく取り調べと裁判の場で存分に申すがよいわ。⸺連れて行け」 「まっ、待て!話を」 「嫌ぁ〜!」 「今さら何しに戻ってきたかね先々代様。わしらはもう、公女さま以外にお仕えする気も従う気もないんじゃがな?」 「なっ……貴様!領主たる儂の言うことが聞けんと」 「領主だったのは亡くなった女公さまとその娘の公女さまじゃ。あの方らはあんたと違って、わしら領民を第一に考えて下さった。あんたと違ってな!」 「くっ……!」 「なっ、譲位せよだと!?」 「本国の決定にございます。これ以上の混迷は連邦友邦にまで悪影響を与えかねないと。⸺潔く観念なさいませ。さあ、ご署名を」 「おのれ、謀りおったか!」 「…………父上が悪いのですよ。あの時止めてさえいれば、彼女は死なずに済んだのに」 ◆人が亡くなる描写、及びベッドシーンがあるのでR15で。生々しい表現は避けています。 ◆公女が亡くなってからが本番。なので最初の方、恋愛要素はほぼありません。最後はちゃんとジャンル:恋愛です。 ◆ドアマットヒロインを書こうとしたはずが。どうしてこうなった? ◆作中の演出として自死のシーンがありますが、決して推奨し助長するものではありません。早まっちゃう前に然るべき窓口に一言相談を。 ◆作者の作品は特に断りなき場合、基本的に同一の世界観に基づいています。が、他作品とリンクする予定は特にありません。本作単品でお楽しみ頂けます。 ◆この作品は小説家になろうでも公開します。 ◆24/2/17、HOTランキング女性向け1位!?1位は初ですありがとうございます!

処理中です...