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第三章

5.ダメなのは自分だった件

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「まったく、困ったもんだ、あの領主の息子が領主になったらこの街は一体どうなるのかと思うよ。この間は、わざわざ獣人村の近くまで行って馬を走らせ、獣人の子供が飛び出てきたって追い回して怪我をさせたらしいんだ」

「えっ本当に?」

「本当だとも、獣人が抗議して大騒ぎになったらしい。城を獣化した獣人が取り巻いたって話だ。あの領主の息子はこの街の人間にだって同じような事をする位だ。相手が獣人だからと見下しているのさ。胸糞悪い話だ。わしらは別に獣人達とは何の諍いも起きた事がないからな、それよりも領主の息子の事で昔から困ってるのさ」

 俺が獣人だとは知らないおじさんはそう言った。獣人は耳と尾を隠せば人と見訳がつかないのだ。

 人と獣人はお互いの住む場所を不可侵領域としてなるべく関わり合いを持たない様にしている。その歪な関係性はこの国の王族達が作ったものだ。長い年月を経て、とりあえず落ち着いているそれをわざわざ壊すような事をするのは信じられない。

 いくら数が少なくとも、獣人と人が戦えば、数が多くとも人間の被害は大きい。それ程に身体能力が違うのだ。

 そんな事があって、宿に帰るとすっかり気分が下降していた。

「あれー、ハンターどうしたの?なんか元気ないね」

「にゃーん」

「シオウ、街はどうだった?」

 ココの明るい声がこういう時にはありがたい。

「にゃおーん」

「それがな、この領地の領主の息子が街の中を馬で走り回ってたんだ。まあ、いつもの事なんだが」

「なに、それってバカなの?領民が怪我したりしても平気なんだ!」

「そんな事考えられる奴はしないって。バカだから出来るのさ。それでその店のオヤジから聞いたんだが、そのバカ息子が獣人の子供を怪我させた事件があったらしくてな・・・」

 街で聞いた話をココにすると、めちゃくちゃ怒っていた。

「うーん、許せない。まだ何かするようだったら、激しく躾ける必要があるなっ」

「無理だって、しょせん、貴族だ」

「だからって、泣き寝入りはできないよ」

「そりゃそうだが、逆に獣人を痛めつける口実にされてしまう。今までの歴史がそうなんだ」

「腹立つなあ・・・」

 その後、ココは珍しく考えこんでしまった。

「ま、俺とシオウは湯で身体を洗って来るよ。石鹸、置いてあるの使うぞ」

「うん。いいよ。シオウをしっかり洗ってあげてね」

「わかってるって」



      ※      ※      ※



 ずっと、ずっと思って居た事がある。

 この国に召喚されて、三賢人と一緒に浄化の旅に出て、そして、とてもこの国の王様に腹が立った。

 自分の事しか考えていない王様ってどうよ。

 何とかしたくても、自分の力では何も出来ない。人の力を借りて生きている。そんな状態だ。

 そして、三賢人・・・。腹は立つけど、こいつら能力高い。

 城の奴らと違って、案外まともだ。一応、何が正しくて、そうでないのかは分かっているのだ。

 それなのに、なんでなにもしないの?


 これは、ずっと七年間浄化して国を回る中で思ってた事だ。

 三賢人はとても強い。国を相手に戦う力はあるのだ。

 でも戦わない。国の事を思えば正しい事を選んで進むことはできるはずなのに・・・。

 でも、これは私にはあいつらに言えない言葉だった。

 自分の面倒見れない人間に、人は守れないからだ。あいつらに面倒見て貰っている私には言えない。

 そして、自分はこの世界から戻りたいと願っている。

 こんな世界は見捨てて早く帰りたい。

 中途半端な気持ちで、『この世界の為に戦おう』なんて言えるわけない。

 そして、今また召喚され、同じように思いながら・・・。


 『戦う力があるのに、戦わない』って、自分の事じゃん。

 そこに気付いたんだった。

 もう一度、あの国に行く事があったら、こうしよう。そんな思いは日に日に膨らんで、毎日鍛錬した。もしも向こうに行った時に、こちらでやり残した事のないように、やりたい事をやった。

 もしまた、ベリン国に行ったら・・・。

 それはもう決めていた事じゃないかと思った。

 私って、バカ。

 『緑の姫巫女の力』を出し惜しみしてる場合じゃなかったよ。



 

 





 

 
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