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第二章

3.楽しい放浪生活

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 それから私は、五つの選択肢から一つを選び、シオウを連れて次の街へと旅した。

 その街を選んだ理由は、大きな街なら人の出入りが多く目立たないし、その街からはまた次の選択肢がもっと増えるからだ。そこまでは三倍速の速度で3日程だった。

 今は季節も暖かく野宿には問題は無いけど、いつも安心して眠る場所を探すのは手間がかかる。

 だから、そのうちマイ・テントが欲しいなあ。

 エルフのリュックは底無しで、長い棒でも入れる事がで来た。凄いなんてもんじゃない。不思議過ぎて何度も出し入れした。シオウも不思議そうに眺めていた。ねえ不思議だよね。

 釣竿が入れられるのだ。それを知ってからは、具合の良さそうな枝を見つけると、リュックに突っ込んでおく様になった。今度は釣り針と糸を手に入れよう。のんびりと釣りをして河原でシオウと焼き魚を食べたいと思っている。
 

 精霊さんとはまだ会えていないけど、今はシオウがいる。

 シオウは、私の孤独感だとかそういうものを取り払ってくれた。

 そりゃあ私にだって淋しいって気持ちはある。あるんだけど、抑え込んでた。慣れてるっていうのかな?

 そういうのは、今まで育った過程に関係するけど、両親揃っていたって、兄弟がいたからって、テレビで見る様な仲の良い温かい家族だとは限らない。

 私はそうだった。両親の愛情だとか、そういうものとは縁遠かった。

 そういうのは諦めると、急に楽になる。

 他の事に目を向けて、どうせ同じ時間を過ごすなら、自分が笑って過ごせるようにした方が幸せだ。

 そういう境地までもって行くまでが地獄だったけど、遠い昔の話だ。

 中学からは下宿に一人暮らしだった。家族で暮らしていても孤独で居るより、自分で選んで独りの方が遥かに楽だ。

 明るいオタクは七年の異世界暮らしを経て、元の世界に戻り、色んな経験をしてまた異世界に戻った。

 戻って思うのは、あの時泣いて分かれた精霊さんに会いたいという事だけ。

 だけど今度はまたひとつこの世界に大切な者がふえちゃった。シオウだ。


 紫黄水晶の美しい瞳にはいつも私を映してくれた。足元を擦って歩き、肩に飛び乗る。

「にゃーん」

 いつも、いつもシオウの瞳には私が映っていて、そのあけすけの親愛の情は、私の心のトゲトゲを取り除いてくれる。

 二人の間に言葉がなくても、シオウが私を大好きでいてくれて、私もシオウが大好きなのになんの疑いも無い。

 大好き、大好き。両想いだ。人生初。両想い。

 ああ、でも精霊さんも大好きだった。そうすると人生で二番目の両想い。なんじゃそれ。

 精霊さんも私を好きでいてくれたのだと勝手に思っている。

 どっちも比べようが無い程大切だ。この世界ではもう大切なものが二つも出来ている。どうしよう。



 シオウの身体の傷が癒えて体力が戻ってから、川で丁寧に洗った。旅の途中で仕入れた石鹸を使って洗うと、シオウは美しい毛皮を持っていた。ヒョウ柄みたいな感じだ。でもとても小さいので相変わらず街中では懐に入れて連れていた。

 この世界の獣の事は全く知らないので、どういう種類だとかそんなのも分からないけど、一番かわいくて、一番賢くて、一番大切な、世界でたった一人の私のシオウ。

 踏まれたり、攫われたりしたら大変だ。うちの子大事。過保護でもいい。

 行く先々で見つけた薬草をリュックに入れる。薬はどこでもよく売れた。ちょっとした傷薬や、腹痛を治す薬。痛み止め。そんな物でも欲しがる人は沢山いた。

 ギルドで買い取ってもらうのがいいんだろうけど、そんな事しなくても、泊まった宿屋で薬を持っていると言えば。必ず売ってくれと言われるので、そこで売った。

 立ち寄った街や村で薬の値段はリサーチ済みなので、吹っかけるような事はせず。一般的な料金で売った。

 材料はタダなのだから、とても良い儲けになる。タダってほんと、魅力的な言葉だ。


 そんな放浪の旅の最中、背の低いオサーンと友達になった。

 ついに、釣り針と糸を使い川で釣りをすることにしたのだ。

 川で出会ったオサーンだ。

 オサーンとはおっさんの略式名称だが、絵にかいた様なドワーフのオサーンだった。

「坊主、エルフの知り合いか?」

「えっ、エルフの知り合いはいるよ」

「そのローブ、エルフの衣じゃな。お前さん専用の魔印がつけられとるな。見た所人間のように見えるが、珍しい事もあったもんだの。わしゃあドワーフのポルフ。お前さんは?」

「名前はココ。ポルフおじさんいっぱい魚を釣ってるね。ちょっと釣りの仕方を教えてくれない?」

「そりゃかまわんがね。お前さん、不思議な力をもっているようだの。緑が喜んでおるわ」

「・・・おじさん、そんな事もわかるの?」

「まあな」

 ドワーフのおじさんの釣りはとても巧だった。まず、釣り糸を投げ入れる様がすごい。

 ひゅんひゅんひゅんひゅんと左右に∞マークを描いて振り回し、狙った所に針を落とす。

 凄いテクだ。師匠と呼ばせて貰おう。

 川釣りも海釣りも経験のない私は、釣り竿の説明、ルアーや餌の話など、基本的な事を教わった。

 ついでにオサーンの釣っていた魚をそこで焼いて食べた。私にはまだ魚を釣る事は難しかったのだ。

「シオウ熱いよ、気を付けて」

 シオウは小さいのに、魚を頭からバリバリ骨ごと食べていた。

 持っていた塩を振って、焼けた皮にざくりと噛みつくと中から蒸気が魚の香りと一緒にぶわっと出て来る。

 ホクホクの白身は口の中で広がり、何とも言えない旨味が広がった。

「うまっ!すごい旨い」

「そうじゃろ、そうじゃろ。存分に食べな」

 色んな事を教えてくれたポルフおじさんは、夕方近くになると腰を上げた。

「そんじゃあな、俺は帰る」

「おじさん、色々教えてくれてありがとう。魚も沢山食べさせてくれてありがとう!」

「おう、元気でな、気を付けて行きな」

「うん」

「ここで今晩は寝るのか?」

「そうするつもり」

「そうか、この釣り竿をお前にやろう」

 おじさんは何故か自分の使ってた釣り竿を私の方に投げて寄越す。

「うっわ、おじさん投げないでよ」

 慌てて、釣り竿を掴む。

「あれ?」

 さっきまでそこにいた筈のおじさんがもう居なかった。

「どゆこと?」

 シオウと顔を見合わせる。

「にゃーん」

 そんな馬鹿な事がと、思いつつ、先ほどまで魚を焼いていた、残り火の燻る石の炉を見つめた。

 




 

 
 
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